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帰路  作者: まるだまる
332/406

329 慰安旅行編7

 一旦、海から上がったあと、アリカから奢ってもらい、パインのアイスを購入。


 俺はブイからフラミンゴの浮き輪までの泳ぎ勝負で負けて、愛と響に奢ることになった。

 手を抜いたつもりはない、帰りは後半でばててしまい、体力勝負で純粋に負けた。


 愛と響にリクエスト通りのイチゴのアイスを渡す。


「明人さんありがとうございます」

「明人君ありがとう」


 アリカが勝ったやつだからな、よく味わってやれよ。

 

 4人でシートのところに戻ると、荷物の番をしてくれていた高槻さん夫妻がいた。

 高槻さんの奥さんずっとこうして荷物番してくれているけど退屈じゃないのかな?

 気になって奥さんに聞いてみると、高槻さんと二人で世間話をしていたらしい。

 こういう時でないとなかなか話せないこともあるそうで、いい時間だったそうだ。

 それならなによりです。


 海の方を見てみると、水上バルーンで遊んでいる立花さんと前島さんがいた。またも変わらず海の上でハムスター状態になっている前島さん。まだ諦めてないのか?

 

「あの二人まだやってたんですか?」


「いや、さっきまでここで奈津美たちに寄ってくる男どもを撃退してた。奈津美たちが泳ぎに行ったからな。いないうちに練習するんだと」

 

 ああ、道理で奈津美さんたちが使っていたビーチボールがここにあるはずだ。


「……それで、例の首尾の方は?」


「うまくいってねえからああやって練習してんだよ。前島にとりあえず二人きりになってこいって行かせたんだけどよ……奈津美のやつに今からみんなで泳ぎに行くからあとでって言われてすごすご帰ってきやがった」


「あらら、それは気の毒ですね。ところで他の人は誰か帰ってきました?」


「美咲が春那の妹と一緒に帰ってきたな。ほら、あそこで千佳と一緒に砂遊びしてるだろ?」


 高槻さんが指で差したところに美咲たちがいた。

 確かに美咲と晃と千佳ちゃんが一緒になって砂のお城を作ろうとしている。

 店長と奥さんがその傍らで千佳ちゃんを撮影しているけれど、店長の顔がとても緩んでいるように見える。

 今が幸せなんだろうな。


「店長って何で別々に暮らしているんですかね? どう見ても仲が良いようにしか見えないんですけど」

「俺もそこまで詳しいことは知らねえんだ。オーナーは知ってるみたいだが。……あいつ自身が言うには、まだ資格がないとか言ってたけどな」


 資格がない……どういう意味なんだろう。


 ✫

 

 アリカと愛、響は美咲たちに合流して、砂のお城作りに参加。

 何か美咲と響が手掛けたところが芸術作品みたいな感じで仕上がっていくんだけど。

 響は何となく分かるけど、美咲って小手先器用なんだな。

 お姉さんにアシスタントとして育てられただけはあるもんだ。


 アリカは砂遊びしてる姿がそのまんま幼い感じに見える。

 アリカと千佳ちゃんのはしゃぎようは、ロりにはたまらない状況かもしれない。

 美咲がたまに獣の目になっているから気をつけろよ。 


 料理以外不器用な愛は自分でも分かっているようで、城を作るのではなく砂を集める係に徹している。

 あれはあれで重労働のような気もするが。


 それから少しして、太一たちが文さんたちと一緒に帰ってきた。


 白鳥に乗って漂ってたら堤防付近まで連れていかれたそうだ。 

 太一が言うには、綾乃と協力して陸に戻ろうとしたらしいが、なかなか進まず帰ってこれなかったらしい。長谷川は長谷川で「私、家に帰ったら宿題終わらせるんだ」と白鳥の上で現実逃避して役に立たなかったようだ。異変に気付いた文さんたちが救援に来てくれて一緒に押して帰ってきたらしい。


「危なくこのままスワン号で旅に出るところだったぞ」

 そう太一は言っていたけれど、それ確実に死ぬから。


 ところで、フラミンゴと白鳥の二つもあると、大きくて邪魔なのでしまっていいか? 


 

 千佳ちゃんに協力していた美咲たちに加えて、俺たち学生メンバー全員で城作りに参加。

 大人たちは皆、疲れ果てて休憩中だ。

 文さんがここでもビールを飲み始めたけれど、本当にアル中になりますよ?


 作り出すと、ついつい真剣になってしまうもので凝りに凝ってくる。

 さっき食べていたアイスの棒が砂を彫るのに役に立つと思わなかった。

 小一時間ほどで外壁もリアルで城塞都市みたいなお城が完成。

 響と美咲が手掛けたところがリアルすぎて既に芸術作品の域に入ってる気がするんですけど。

 みんなで千佳ちゃんと一緒に完成したお城を背景に記念撮影。

 

 これ壊すのもったいないけど、このままにしておくのは駄目だろう。

 すると、周りで見ていた人も何やら記念撮影を始めてしまい、結局そのままにしておくことにした。

 まあ、そのうち誰かが触ったりして壊すだろう。

 どうせなら千佳ちゃんの目が届かないところでお願いしたい。


「お兄ちゃん、千佳がんばったよー」


 両手を上げて喜ぶ千佳ちゃん。一緒に作ったからか俺にも随分と慣れてくれたもんだ。

 そんな頑張った千佳ちゃんにお兄ちゃんがアイスを買ってあげよう。

 さあ、一緒に買いに行こう。はぐれたりこけたりしたら危ないから手をつなごうね。

 千佳ちゃんは手が小さいんだね。転ばないようにお兄ちゃんの手をしっかり持っておくんだぞ。

 俺一人っ子だから、千佳ちゃんは妹みたいな感じに思えて、こうやってできるの嬉しいんだよね。


「アリカちゃん、明人君が千佳ちゃんをどこかに連れて行こうとしてる」

「マジですか!? とうとう目覚めちゃったんですか!?」


 ところでお前ら、俺を変質者扱いするのを止めてもらおうか?



 このあと、みんなで水上バルーンを使って遊んだが、ゆっくり歩く分には何とかなったが、走って移動するとなると立花さん以外まともに走れた人はいなかった。

 春那さんや響、綾乃ですら数歩しか走れないとは……普段ではそう見れないだろうひっくり返った姿にとても親近感がわいた。


 俺もやってみたけれど、加減が難しくてすぐにハムスターになりました。

 前島さんのこと言えねえ。 


 このあと二人で組を作って入ってみた。


 奈津美さんと由美さん、美咲と晃がそれぞれ挑戦したがそれはひどい有様だった。

 ただでさえまともに移動できないのに、相棒のおかげでいきなり変な方向から足を浚われ、二人してひっくり返る。

 晃が中から悲鳴を上げつつ叫んでいた。


「これおかしい! 美咲との絆があれば行けるはずなのに!」


 そういう問題ではないと思います。

 まあでも美咲がひっくり返りながらでも楽しそうにしているのでいいんじゃないですか?


 響と愛、綾乃とアリカも挑戦。

 ああ、可哀想に響が巻き込まれてる。同じ方向に行けばいいのに愛が何故か横に行くものだから、二人揃ってひっくり返ってる。こらこら、中で喧嘩を始めるな。

 綾乃とアリカは協力して歩くことはできたものの、喧嘩していた愛たちが横からぶつかってきたせいで、二人揃ってひっくり返らされた。

 もうそのあとは、お互いにリズムが崩れたのか、歩くことすらままならなくなった。


 長谷川が太一と一緒に挑戦したがって、それに太一が付き合ったのだが、ひっくり返った拍子に長谷川の胸が太一の顔にのしかかり、なかなか羨ましい状況を作っていた。

 バルーンの中で長谷川にぼっこぼこにされる太一を見てすぐに羨ましくなくなったけど。

 相変わらず長谷川は太一に容赦がないらしい。とりあえずグーは止めとけ、グーは。

 二人の姿を見ていた愛がとてもニヤニヤしていたのは言うまでもない。


 俺はというと、何故か春那さんと一緒に挑戦することになった。

 まあ、まだやっていない者同士で余っていたので組んだのだけれど。

 

「明人君よろしく」


 バルーンの中に一緒に入るだけでも緊張するんですけど。 

 もしかして太一みたいにラッキーなことが起きるかもしれない。


 まあ、そうなったらなったで甘んじて受けようじゃないか。

 春那さんの場合は、長谷川みたいに殴ってくることもないだろう。


 バルーンの中を二人で歩きながら海へと向かう。

 接地している間は大丈夫だが、バルーンが浮いた瞬間がひっくり返りやすい。

 慎重に慎重に二人して足を進める。


「これ怖いけど、面白いね」


 春那さんは柔らかい笑顔で言ってくる。

 何だか今日はとても柔らかい感じがする。

 なんというか、普段は何でもできるしっかり者のイメージが大きすぎて堅いイメージがある。

 でも、俺や美咲をからかったりするユーモアもあったりする。

 俺からすると襲ってくる以外は完璧で頼りがいのある女性だ。

 厳しさと優しさと妖艶さを兼ね備えた麗しい美女という殻が今は何だかぼやけて見える。


 水深がある程度を越えたのかバルーンが浮き上がり、足元が不安定になる。

 とりあえず、二人して動きを止めて安定を待つ。


 プカプカと浮かぶバルーンを二人で進行方向を確認しながら一歩ずつ足を進める。

 今のところ二人三脚の要領で前へと進めている。

 これはもしかしてひっくり返らなかった最長記録かもしれない。


「お、お、いい感じだよ明人君」


 春那さんが少しだけ上ずった声をあげる。

 普段の春那さんからは出ない声だった。何だか新鮮だ。

 いつ足元を浚われるか分からないだけにおっかなびっくりな感じ。

    

 不意にうねりを受けてバルーンが傾く。

 バランスを崩した俺が足を横に大きく踏み出してしまい、バルーンは勢いよく横に回転した。

 二人揃って足を浚われてひっくり返る。


「のわあああああああ」

「わああああああああ」


 俺と春那さんの悲鳴がバルーンの中で反響した。

 すぐに回転は収まったけれど、俺は春那さんに押し倒されている形になっていた。

 

「びっくりした。……明人君大丈夫かい?」

「なんとか。すいません、俺がバランス崩したせいで」

「それはいいよ。……でも、これは……もしかしてチャンス?」


 俺を見下ろす春那さんの瞳の奥に、小さな炎が灯ったような気がした。


「……春那さんここでは止めろ。とんでもないことになる」

「そうは言われても、もう火が着きそうなんだけど、衆人環視の中でと考えただけでもゾクゾクして……んんっ!」


 春那さんはぶるっと小さく身震いする。

 おい、もしかしてスイッチが入ったんじゃないだろうな?


「おい、マジで止めろ! この中じゃいつもみたいに誰も止めに入れないんだぞ!」

「……明人君。……その口調は私にとってご褒美なの忘れたのかい?」


 俺の顔をがっちり掴んでくる春那さん。

 やばい完全にスイッチ入ってる!


「誰か助けてええええええええええ!」


 俺の悲鳴がバルーン内に反響した。

 俺の悲鳴が終わる直前、横からバルーンに大きな衝撃が加わり、俺たちは転がされた。

 バルーンにドロップキックしたのは文さん。

 どうやら文さんは春那さんの状態に気が付いてくれたらしい。


「「わああああああ」」

 

 転がされた衝撃でお互い離れて少し距離ができた。

 おかげで助かりました。


 転がされた春那さんがポツリと呟く。


「こ、これはこれで……なかなかの衝撃でいいかもしれない……んんっ!」


 そう言ってまた身をブルッと振るわせた。

 おい、まだこの人スイッチ切れてないよ!?

 この人これさえなければマジで完璧なのに。


 早くなんとかしてええええ!


 このあと、春那さんの性癖を知る美咲、晃、文さんにバルーンごと転がされて回収されるまで、生きた心地がしなかった。


 ちなみにこのあと、美咲、アリカ、響の狩人たちに首から上を残して砂に埋められたんですけど。

 俺、悪いことしてないよね?


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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