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帰路  作者: まるだまる
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323 慰安旅行編1

 夏休みになると、曜日の感覚がおかしくなる。

 学校に行かないというだけで、こんなにもおかしくなるものなのか。

 文さんと春那さんが出勤する格好をしていたので平日だと思い込んでしまった。


 今日は土曜日だが、文さんは非常勤で勤務している病院で働く日らしく、帰宅は七時頃になるらしい。

 春那さんは今日も仕事だ。とはいえ、今日は午前中で仕事としては終わるらしく、午後はオーナーに付き合って釣りに行く予定だそうだ。そういや前もオーナーと一緒に海浜公園で釣りしてたな。

 今日みたいなくそ暑い日でも釣れるのかは疑問だけど。

 六時頃には帰ってこれそうだと言っていた。


 このところ、商品の発送が落ち着いてきたせいか、てんやわん屋で土曜日の仕事は少なくなってきて、今日は店長とかもみんな休みだ。今の状態を考えると運が良かったと言うほかない。

 とはいえ、今の状態ではどこかに出かけることも苦労するし、今日はおとなしく家で安静にして体を癒すことにした。


 昼になり、午前中少しずつ体をほぐしたおかげで、痛みは緩和し我慢できないほどではなくなった。

 完全ではないのでまだ少しだけ不格好な歩き方だけど、朝よりは全然まし。


 美咲も多少動けるようになったものの、ちょっと無理な姿勢をする度に動きが止まって、生まれたての小鹿のようにプルプル震えてる。まだあちこちに相当痛みがあるのだろう。

 

 動きの悪い俺の代わりに、晃が家事を代行してくれた。

 それに甲斐甲斐しく美咲の世話をしてくれるので、俺に負担は全くない。

 こうなると晃がいてくれて良かったと思う。


 役立たずですいません。

 

「晃ちゃんすまないね~。ごほっ、ごほっ」

「それは言わない約束だよ、美咲」


 何か変な乗りが発生しているが、ここで突っ込んだら負けな気がするのであえてスルーしよう。

 こらこら、二人して期待した目でこっち見るな。

 さあこい、こっちは準備万端だ、いつでも来いみたいな目をするな。

 俺は絶対に突っ込まないぞ。


 そんなお約束な二人はさておき、ルーを膝の上に抱きながら、ソファーに座ってカレンダーをじっと見る。   

 今後の大きなイベントとしては、てんやわん屋の慰安旅行。

 次の金曜日の午前中に移動して金曜、土曜と宿泊し、日曜日の夕方頃に向こうを出る予定だ。

 

 なにやら店長らがコソコソとしているところがあるけれど、おそらく前島さんに関する計画だと想像できる。昨日の晩も、俺が事務所に行ったら高槻さんと慰安旅行のプランを確認してたし。

 

 俺も海に泳ぎに行くのは久しぶりだ……あれ?……そういえば俺、海パンあったっけ?

 そういえば海に行ったのも随分前だし、プールとか行ったのも高校に入る前だった気がする。

 いや、そうだ。俺、高校に入ってから学校指定の水着以外着たことないぞ。

 まだ昔使ってたのが家にあったとしてもサイズ的に着れないだろう。

 何かがとんでもないことになる気がする。


「明人君、何か表情が色々変わってるんだけど、どうしたの?」

「……今、気が付いた。俺、海パン持ってない。海に行っても着るもんがない」

「……裸族は捕まるよ?」

「え、こいつそういう趣味もあるの? 美咲近づいたら駄目、感染したら大変」


 おい、何でそうなるんだ。


 とりあえず体が満足に動けるようだったら、明日にでも買いに行こう。

 そう考えると一応旅行なわけだし、ある程度持っていくものも考えとかないといけない。

 足りないものがあったらついでに買うことにしよう。


 晃みたいなキャリーバッグを一つぐらい持っていてもいいだろう。

 ああいうの持ってないから持ってみたいってのもある。

 いかにも旅行者って感じがするし。


 秋には京都へ四泊五日の修学旅行もある。どれぐらい入るのか今のうちに見ておくといいかもしれない。修学旅行ではわざわざ買わなくても希望者にレンタルしてくれるって話だけれど、私物でも構わないそうなので、修学旅行に備えて大きいのを買っておくのも手だ。


 一応、晃に持参してきた物でどれぐらいの日数分が入る物なのか聞いておこう。


「晃さん、今回持ってきたキャリーバッグでどれくらいの日数分の荷物が入るの? 前のよりかなり大きいでしょ」


 目の前で洗濯物を畳む晃に聞いてみる。 


「ああ、あれ? いや、そういうの考えてなかったからね。あれの中身スカスカだったし。そもそも、あの大きさにしたのも美咲を詰められそう…………聞かなかったことにして」


 ここにも犯罪予備軍がいた。

 俺の周りはどうしてこんなのばっかりなんだ?

 もしかして、本気で美咲を詰めて持って帰るつもりだったんじゃないだろうな。


「晃ちゃんたら、またそんな冗談言って」


 美咲は軽く笑ってるけど、この人は真剣に美咲を拉致する方法を考えたと思うよ? 

 とりあえず、晃に聞いても当てにならないことが判明したので晃に聞くのは諦めよう。

 美咲はキャリーバッグを持ってないし、高校の修学旅行ではキャリーバッグを借りたらしいが、荷物は晃が詰め込んで準備してくれたらしいので容量とかは分からないらしい。


 ここにも晃の影があるのか……美咲を甘やかして育てた主犯は貴様だな。


 以前、美咲がこの家に居候していたときも、足りなければアパートまで取りに行けばいいと思ったそうなので、持ってきた荷物は適当に詰め込んだらしい。それじゃあ参考にできない。


 何かしらの目安が欲しい。携帯で検索してみても、三日から五日分とか曖昧な書き方が多い。

 俺自身、親と一緒に旅行とか、田舎に帰省したこともないから全然分からん。

 親と行ったのって、大抵日帰りだったからなー。

 

 修業式の日、川上が田舎に行く話をしていたけれど、柳瀬らと同じように俺にも田舎と呼べるものがない。

 俺の祖父と祖母は父親側、母親側の両方とも俺が幼いときに亡くなっている。

 しかも記憶なんて、なんとなくそんな人がいたような気がする程度だ。

 罰当たりなことを言っているかもしれないが、事実なのだからしょうがない。

 

 元々うちは親戚との付き合いも疎遠で、俺は親戚とか従兄弟いとことかの存在を知らない。

 父親の故郷も母親の故郷も葬儀で行ったことがあるそうだが、それも俺はあんまり覚えていない。

 覚えてる事といえば、どこかに連れていかれたら黒い服を着た人がたくさんいたってレベルだ。

 多分、あれが葬儀だったのだろう。時期的には保育園の頃だと思う。

 俺は小学校低学年辺りまでの記憶が特に曖昧だ。その頃くらいにアリカたちと会ったはずなんだけど、それも全く覚えてなかった。俺の記憶量というのは存外少ないのかもしれない。

 それはそれで寂しい気がするけれど。


 他に聞くにしても、アリカは三学期に修学旅行だって言ってたし……いや、あいつの場合小柄だからそもそも大きいものはいらないか。ワンサイズ小さいものでいけそうな気がする。下着とかも嵩張らないだろうし。


 あいつ、そもそもブラとかしてんのか?

 あんだけツルペタだったらいらないよな?

 今時、小学生でもブラつける子がいるって聞くけど、あいつはそういうこともなかっただろう。

 あれ、なんか急に寒気がしてきた。風邪かな。


 まあ、そんな他愛のないことはともかくとして、聞きやすいのはアリカなので聞いてみることにしよう。

 自分の部屋に戻ってさっそくアリカに電話してみる。


『もしもし、どうしたの?』

「ちょい相談。今、電話大丈夫か?」

『うん、大丈夫なんだけど長いのは無理』

「どした?」

『愛が動けなくなってんのよ。昨日ので全身筋肉痛らしくて今も横になってる。おかげでママが大変だったわ』


 愛もなのか……。


「……お前は大丈夫だったのか?」

『え? うん。愛は運動不足なのよ。たかがあれくらいで情けない』

 すいません。

『本格的なのは午後の数時間しかしてないのに――ほんとに情けない』

 すいません、すいません。

『若いくせにもっと体を鍛えないと駄目よねー』

 すいません、すいません、すいません!

『――って、実はあたしも朝起きた時は筋肉痛あったんだけどね。今はかなりマシだけど』

「きさまあああっ! そこになおれ、俺に土下座しろ!」

『ちょっと、何で急に怒ってんのよ!? それに何であたしがあんたに土下座しないといけないのよ!』

「あ、すまん。ちょっと色々あって混乱したんだ。忘れてくれ」

『……意味分かんないんだけど? んで、何の用?』

「ああ、それなんだけどさ――――」


 ざっくり説明するとアリカから簡単なアドバイスを貰う。

『そんなのは実際に用意してみたらいい』だった。

 なるほど、個人差があるので自分が必要だと思うものを用意してみて、容量的に問題ないか見ればいいわけか。今、持っている鞄に入り切れば問題ないし、キャリーバッグを選ぶ目安にもなるだろう。


 よし、実際にやってみよう。


『……ところでさ、あんたまさかとは思うんだけど……今日あたしの悪口言ってなかった? 何かちょっと前に急にそんな気がしたのよね』

「……そんなこと言う訳ないじゃないですか。被害妄想は止めましょう」

『何で急に敬語なの? 胡散臭いわね』

「いや、まだちょっと混乱してるかもしれない。急に電話して悪かったな、サンキュー」

『……まあいいわ、じゃあね』


 あぶねえ――あいつの勘がいいの忘れてた。

 多分、俺がツルペタとか思ってたのを察知したのかもしれない。

 近くにいなくても察知できるのか。恐ろしい勘だ。

 

 とりあえず、アリカのアドバイスに従って用意してみることにしよう。 


 今回は二泊三日。海で遊んだり、バーベキューをしたりするので予備を含めて着替えは四日分。

 下着はもう一枚ずつくらいあっても嵩張らないので大丈夫だろう。

 

 ん、待てよ? 別荘に洗濯機も乾燥機もあるって言ってたな。

 じゃあ、別に四日分もなくていいか。その日のうちに洗っておけばいい訳だし。


 ……少し減らそう。


 風呂道具とか、タオルとかも別荘にあるからいらないって言ってたし……。

 歯ブラシは旅行用のを新しく買おう。コンビニとかで売ってるので十分だろう。

 移動中の遊び道具はトランプとかあればいいかな。いや、八島だからそんなに時間がかかるわけでもないし途中で昼飯も寄るとか言ってたし、別になくても大丈夫か。向こうで使うってなったら、現地調達でも問題ない。ぽつぽつとコンビニもあったし、そこでも売ってる物だ。


 あとは海パンとかサンダルか。これは買ってからでないと分からんな。


 ――――あれ?


 意外と荷物って少なくない?

 何かこの時点で終了感があるんだけど。


 いや、俺が気づいていないだけで何かあるはずだ。

 二泊三日とはいえ旅行なんだぞ。

 漫画とかドラマとかでも、それなりに荷物を持っていってるじゃないか。

 こんなに荷物が少ないはずがない。

 

 ああ、やっぱり忘れてた。

 携帯の充電器。大事なアイテムだ。

 てか、こんなもん全然容量嵩張らないし!


 ……俺の想像力が乏しいのか?

 今、持ってる鞄に全部詰め込んでみてもスカスカなんだが……。 

 仮に、ここに海パンとかサンダルとかが入っても絶対余裕がある。

 

 ………………。


 ……結論。


 キャリーバックいらない。

 修学旅行も俺にはレンタルで十分だ。

  

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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