322 サバイバルゲーム編7
|ω`)あれ、サバゲー部編が予定より1話多かったぞ? まあいいか。
善戦。その言葉がよく似合う戦いだったと思う。
制限時間いっぱいまで戦えたのだから。
てんやわん屋チーム+αは、負けたのにまるで勝ったような騒ぎだった。
俺たちは生き残ったアリカを胴上げした。
「怖いって。ちょっ、誰よ!? 今ついでにお尻触ったでしょ!」
俺は頭の部分を持っているし、太一は足元だ。
中腹に美咲と副会長がいるけれど、疑ってかかるべきは変態の方だろう。
「いや、マジであなたたちどこぞのチームよりまともな連携してるわよ。正直、初心者と思えないわ」
「後ろに木崎君たちが見えた時、流石に人数見て肝が冷えました。先に見つけてなかったら危なかったかも」
牧瀬と西本からとても面白かったと絶賛された。
まさかここまでいい勝負になるとは思っていなかったらしい。
喜ぶ俺たちを見て、牧瀬と西本がニヤッとひと笑いする。
「「ねえ、もう一回やらない?」」
ああ、こいつら本当にサバイバルゲームが好きなんだな。
✫
四時になり、俺たちは部員に見送られ、当初の予定よりも一時間遅れでバスに乗車した。
部員たちはこのあと反省会して片付けて、響のじいさんちへお礼を言いに訪ねるらしい。
響とアリカ、愛は部員たちと一緒にじいさんちへ行くようだ。轟さんが迎えに来るのだから問題ないだろう。部員たちはついでに、あの温泉のような風呂も借りるつもりのようだ。ちゃっかりしてやがる。
まあ、じいさん的にも孫と若い女の子たちに囲まれるのだから嬉しいことだろう。
もう本当にクタクタだ。結局あのあと、追加で二戦勝負した。
一度も勝利することはできなかったけれど、全滅する負けは一度もなかった。
必ず誰かが最後まで生き残っていたのだ。
二戦目で愛が大金星を取った。
まったくの偶然だったとはいえ、何と西本を討ち取ったのだ。
攻められていた時に、力が入った愛が引き金を引いてしまい、誰もいない空間に撃ち込んだとき、そこからタイミングよく強襲しようとした西本が飛び出してきていたのだった。流石の西本も避けきれず、久しぶりのヒット申告だったようだ。これは勝てるかと思えたが、強敵の片翼、牧瀬を討ち取ることができず時間切れで負けた。この戦いで俺は会長とともに生き残ることに成功した。
三戦目では柏木さんと晃が生き残り、この戦いでは双翼の二人を撃ち落とすことはできなかったが、向こうも攻めきれなかったことが今後の反省点になると喜んでいたので結果オーライだろう。
家に帰ったら、バイトに行かなくちゃならない。
美咲と交代でシャワーを浴びてからでも何とか間に合うだろう。
アリカみたいに今日は休みにしてもらっていた方が良かったかもしれないと少し後悔。
流石に疲れたので文さんにお願いして迎えだけでも来てもらおう。
✫
翌日、目覚まし時計のアラームで目覚めた俺は全身が筋肉痛になっていることに気付く。
夢中になってやっていたので、相当無理していたらしい。
昨日は相当疲れたのか、ベッドに入ってからすぐ寝てしまったようだ。
アリカからのメールもなかったので、あいつも同じだったのかもしれない。
痛む体をおして、隣の部屋に向かいドアをノックする。
すると、既に着替え終えていた晃が出てきた。
「明人君おはよう。どうしたの? 不格好な動きしてるけど」
「おはようございます。体中が痛いんです。どうやら筋肉痛みたいです」
「何を情けないこと言ってるの? 日頃から運動してない証拠だよ、それ」
どうやら晃は全然平気らしい。くそ、負けたみたいで非常に悔しい。
「美咲を起こしますね」
「ああ、はいはい。私先に洗顔済ませてくるから。どうせ起こすのに時間かかるでしょ? あ、今日はそれほどでもないかな?」
晃も前に泊まりに来たときで随分と慣れたみたいだな。
まあ、その方が俺にとってもいいのだけれど。
晃と入れ替わりで部屋に入る。
「お?」
卵がない。これはラッキーだ。道理で晃がそれほどでもないと言ったわけだ。
流石に美咲も余力がないほど疲れていたのか、今までにないくらい寝相がいい。
布団がめくれ上がることもなく、まっすぐにあお向けになって寝ていた。
「おい、美咲。朝だぞ、起きろ」
軽く揺すると、今日は素直に目を開けた。
だが目を開けただけで起き上がらない。
…………これってもしかして。
「……おはよう明人君」
「……うん。おはよう」
「……どうしよう? まったく体が動かせないんだけど」
やはり俺の予想は当たり、美咲も全身筋肉痛になっているらしい。
まあ、俺もなってるし、俺より運動してない美咲がならないこともないか。
とはいえ、朝食は皆揃って食べるのが我が家のルール。
起こして連れて行かねば。
布団を捲り上げ、美咲の体を表に出す。
「全然駄目か?」
「……うん。全然力が入らないの」
「んじゃあ、ゆっくり抱き起してやるから痛くても少し我慢しろよ?」
「うん。あ、ここで言うのありだよね? 優しくしてね?」
思いっきり急激に起こそうかな。流石に可哀想か。
美咲の頭の下に手を差し入れて、手は持ち上げて俺の頭に絡ませる。
体を添えながらゆっくりと抱き起こす。
美咲は少し痛いようで顔を歪ませるが、我慢しているようだ。
何とか上半身を起こすことに成功したが、美咲は俺に抱き着いたままだ。
「……もうこれ以上無理。抱っこして連れてって」
俺も体中痛いんですけど?
ずきずきと痛む体に無理をさせて美咲を抱き上げる。
美咲は俺の首に腕を回したままでいわゆるお姫様抱っこだ。
いつもの俺ならそうでもないだろうが、今日のコンディション的にきつい。
一歩進むたびに足にも激痛が走る。これは階段で無理がある。一緒に転落する可能性大だ。
マジでどうしよう……。
通路に出たところで、晃が戻ってきた。
「……君、何してんの?」
晃は俺が美咲をお姫様抱っこしてるのを見て不機嫌そうに言った。
「晃さん、美咲も俺と同じで全身筋肉痛で動けないんだ。だから抱っこしてここまで連れてきたんだけど、多分、俺もこのまま階段を降りるのは無理だ。美咲を頼める?」
「……ああ、そういうことか。いいよ。君も無理しないで私が代わろう。これでも力は強い方だからね」
俺の説明に納得してくれた晃は俺から美咲を受け取る。
軽々と美咲をお姫様抱っこで抱える晃。
「美咲、最近痩せた? 何か軽いんだけど?」
晃がそういうと、美咲は何だか機嫌のよさそうな顔になった。
「分かる? 今、ベストな体重なの」
「そっかあ、美咲も頑張ってるんだね」
そんな会話をしながら階段を下りていく。
俺はその会話を聞きながらついて行く。
筋肉って確か重いんだよなと考えながら、この筋肉痛が体重増加につながり、数日内に「また太った」と美咲の悲鳴を聞くことになるだろうなあと思いつつ。
✫
いつものように揃って朝食。
文さんと春那さんは、晃にお姫様抱っこされて現れた美咲を見て「何してんの?」と笑って出迎えた。
やはりハグがないと寂しいらしく、流石に今日は美咲からハグができないので、椅子に座らせてもらった美咲が文さんと春那さんからハグをしてもらっていた。俺は抱き起こしたときのでクリア済みらしい。
「二人とももう少し運動した方がいい」
春那さんからそんな苦言を貰った。
美咲とバイトが終わったあと歩いて帰ってきてるので、地力は落ちていないと思っていた。
やはり、自分の筋肉というのは嘘をつかないらしい。申し訳ないです。
春那さんから夏休みの間だけでも一緒に走らないかいと誘われた。
起床時間の早い春那さんは俺たちが寝ている間に、少しランニングしているそうな。
全然知らなかった。この間ストレッチしているところを見たのはその後だったようだ。
今回のサバイバルゲーム参加で運動不足を痛感した俺はその誘いに乗ることにした。
走る距離は関係ないようで、10分走ったところでUターンして帰ってくるやり方らしい。
往復20分くらいかけて無理しないようにゆっくり走ってるそうだ。
「最初に比べると距離は伸びたね。3kmは走ってるかも」
春那さん曰く走る目的は健康維持と美容のためらしい。知らぬところで努力家だった。
「健全な肉体に健全な精神は宿るんだよ」
と、文さんと美咲に視線を投げかけながら言ったが、文さんと美咲は顔を背けていた。
どうやら一緒に住み始めたころに誘ったが拒否されたらしい。
朝食後、美咲は着替えるために晃にまたお姫様抱っこで運ばれていく。
抱き上げる時に服をここに持ってくればいいでしょうと言おうとしたところで、晃が余計なこと言うなみたいな目で見てきたので黙っておくことにした。
晃的に美咲を介護したいのだろう。
美咲を着替えさせてリビングに戻ってきたときに晃の顔がものすごく緩んでいたけれど、そんな晃を見て春那さんが頭の痛そうな顔をしていた。
体の痛みに俺と美咲は置物と化した。特に美咲は完全なオブジェクト状態だ。
そして、そんな俺たちの姿は春那さんの悪戯心を刺激したらしい。
「ああ、明人君そんな痛々しい姿になって可哀想に」
そう言って、俺を後ろから抱きしめてきたのである。
いつもならとっとと逃げるのだが、今日は痛みのせいで動きが緩慢だ。
思うように逃げられず、春那さんの最強武器であるふくよかな双丘がぐいぐいと背中に当たる。
「ふふ、可愛いね」
それを目の前で見た美咲はいつもみたいに春那さんの悪戯を止めようとしたが、オブジェクトと化した状態でちょっと動いただけでプルプルと震えてる。おい、無理すんな。
いや、すんげえいい匂いがするなぁとか、双丘が背中に当たってむちゃくちゃ気持ちがいいからとか、せっかくの貴重な時間を邪魔されたくないとか、そんなんじゃないんだ。
美咲のことを心配してなんだ。そこは理解して欲しい。
「これはもしかして、今日はチャンスなのか?」
言うに事欠いてそんな恐ろしい発言まで出てきた。
これはまずい。今の状態で春那さんのスイッチが入ったらかなりやばい。
わずかながらに春那さんの体温も上がってきている気がする
春那さんが抱き着きながら正面に回ってくる。
俺の首へと両腕を回しながら、俺の顔をじーっと見詰めてくる。
あ、やばい。少しずつ目がとろんとなっていくのが分かる。スイッチが入る直前だ。
「はい、そこまで!」
出かける準備を終えた文さんが現れて、春那さんにクッションを投げつける。
ぼふんと春那さんの頭にクッションは直撃し、春那さんは我に返ったようだ。
あぶねえ、助かった。
美咲は美咲で何とかしようと、最初にいた位置から二歩ほど進んだ位置でプルプルしていた。
ごめんな。何とかしようと必死で頑張ってくれたんだよな。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
※修正しました。土曜日でバイトがない日だと気が付きました。