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帰路  作者: まるだまる
324/406

321 サバイバルゲーム編6

 先行するアリカ率いるBチームを追いかけるように慎重に索敵しながら前へ進む。

 周りにいる綾乃と太一を見る。綾乃と太一から頷きのサイン。俺も同じく頷く。

 

 林の中に木材で組まれた障害物に身を隠すように前へ移動。さらにそこでも索敵開始。

 アリカチームを見てみると、こっちにシグナルを送っている。

 どうやら敵を見つけたらしい。指の方向を見ると40mほど離れたところに人影が見えた。


 銃の有効射程距離は30m。まだ遠い。今撃っても敵に場所を教えるようなものだ。

 俺らみたいな初心者が狙って当てられる距離は体感で20m以下でないと厳しい。


 少しずつ前へ移動しているようだ。敵は少なくとも4人はいる。

 まだ攻撃は仕掛けてくる気配はない。距離を詰めてくるつもりなのだろう。

 それならこっちも距離を詰めて開戦してやろう。

 

 他にも敵が潜んでいないか索敵を忘れないようにしながら前へ移動。

 移動して障害物に身を隠したところで建物の方から射撃音が聞こえてきた。

 

 パパパパパ! 

 パパパ!


 パパパパパパ!

 パパパパ!


 向こうは開戦したらしい。

 厄介なのは西本と牧瀬だ。


 タイマン勝負や二対一の勝負ならあいつらに勝てない。

 それを踏まえた対策が三人組だ。

 数で押せばあいつらとてヒットできる。


 俺の予感では林のある北側ゾーンに牧瀬はいても西本はいない。

 あいつは制限された戦いを好む。見ていてそう思った。

 逆境やハンデを覆してこそ楽しいと思うのだろう。


 その点を考えると林の中は自由に動けすぎる。

 故に西本がこっちに来るような気がしないのだ。


 副会長の提案した作戦では俺たちB、Cチームの勝負如何で勝敗は決するだろうということ。

 いわばA、Dチームは西本を引き付ける囮なのである。


 俺たちがここを突破し、背後から強襲。東西から挟撃して西本を囲み倒す作戦だ。

 そんな役割を俺たちに与えた。そのためにもここを早く突破する必要がある。 


 少し距離を置いたところで相手を警戒しているアリカたちが何やら頭を集めてる。

 副会長がやたらとアリカに近づいているのは気のせいだということにしておこう。

 話し合いが終わったのか、愛が大きく何度も頷いている。


 アリカが小さくこっちに向かって手を振る。

 どうやら先に攻撃を仕掛けるつもりらしい。


 アリカが一人潜伏していたところから、少し先にある障害物目掛けて駆け出す。

 愛と副会長は銃を構えたまま、敵の動きを見張りつつけん制。

  

 次に愛と副会長が俺らに向かって手を振った。

 そのあと自分を指差したことから、どうやらアリカに続くらしい。

 よし、俺らで敵を見張りつつけん制して、移動しやすいようにしよう。

 

 俺たちは頷いたあと銃を構え、愛たちに合図を送る。

 愛と副会長はアリカほど俊敏性はないがどたどたと駆け出した。

 

 右側に潜んでいた敵が、移動する愛たちに銃を向けようとした。

 それに気づいた太一がすぐさま敵のいる方向へと射撃。

 太一の援護射撃で相手は射撃ができず、愛たちは無事に目標地点に到達。


 だが、居場所が完全にばれてしまった。

 

 右側と建物方向からの警戒をしつつ、俺たちもより視界が広くとれる場所へと移動。

 この位置ならばアリカたちも見えるし、敵の潜んでいる位置も見える。

 

 痺れを切らした部員の一人が突撃してくる。

 これは囮か? 

 太一と綾乃が弾幕を放ち、敵の進行を妨害。

 その隙にアリカたちも銃を構え追撃。

 ほぼ横一斉の射撃に敵は突撃を断念。

 

 よし、今度はこっちの出番だ。

 アリカの合図を待ち、俺らも前線へと移動だ。

 愛と副会長が俺たちの援護で相手のいる場所へ射撃開始。

 それと同時にアリカが合図。俺たちも移動開始。


 アリカたちの数m隣にある障害物へと移動に成功した。

 

 綾乃に合図を送り、特攻にも備えてもらう。

 綾乃は頷くと、息を整え低い姿勢で身構える。


 隣にいるアリカも同じ姿勢だ。

 

 ターゲットは右側に潜むさっき突撃しようとしてきた奴。

 右と左の左右から挟撃して狙う。

 他に潜んでいる奴が手を出せないように俺たちで弾幕を張って阻止。

 副会長が合図役を担う。

 副会長の上げた手が小さく倒れる。


「GO!」


 綾乃の背中を軽く叩き、合図を送る。そのまま俺も射撃体勢に移行し射撃開始。

 綾乃が駆け出すと同時にアリカも駆け出す。


 飛び出した二人を敵も察知したが、俺たちの弾幕に援護できない。


 パパパパパパ!

 アクション映画ばりに転がりながら撃ち込んだアリカと綾乃の射撃は相手に直撃した。


「ヒット! ヒット!」


 手を上げて出てくる部員。そのままエリア外へと移動する。

 

 アリカと綾乃は、倒した直後もさっさと身を隠せる障害物に身を寄せる。

 一人倒したからといって、このエリアでの戦闘は終わっておらず、油断してその場にいるとやられてしまう。油断はしていないという表れだろう。 

 

 敵は少なくともあと3人。もしかしたら伏兵がいるかもしれない。

 アリカと綾乃がいるところは敵から近い。

 あそこまで防衛ラインを上げる必要がある。

 

 副会長に合図を送り、俺たちも前線へ移動を希望する。

 副会長と愛が頷き、銃を構える。

 副会長の合図で俺たちも飛び出し、綾乃に合流。

 途中、銃撃はされたものの見当違いの方向でヒットされることはなく、おそらく単なる威嚇だったのだろう。

 俺たちも援護して愛と副会長の移動に協力。これにも射撃は加えられたが何とか無事に移動できた。 


 ほんの少しの間睨み合いが続く中、相手が先に動いた。


 援護射撃が始まり、素早い動きで走り寄ってくる影。

 肩の腕章。熊の絵が描かれた腕章は牧瀬だ。


 牧瀬がこっちにいたか。

 

 太一と協力して牧瀬の進行方向に弾幕を張る。

 牧瀬は横っ飛びしながらアリカたちに向かって射撃。


「ヒット! ヒットですわ!」


 端にいた副会長が牧瀬の射撃にやられた。

 副会長と牧瀬との射線はかなり狭かったはずなのに当てやがった。

 俺たちのチームで牧瀬を追撃するが当たらず、身を隠される。


「皆様、頑張ってくださいまし。ご武運を」


 そう言って副会長は戦線を離脱した。 

 くそ、振り出しどころか、相手が相手だけにやばいな。


 そんな俺の焦りをあざ笑うかのように敵の猛撃が始まった。

 交代交代で弾幕が飛び交い身動きが取れない。

 アリカたちも同じ状況だ。

 

 こうしている間にも牧瀬が動いているかもしれない。

 

 不意に敵の弾幕が止んだ。

 何だと思っていると建物の方向から長谷川が両手を上げて歩いてくる。


「ヒットです。すいません。ヒットです」


 長谷川は邪魔したと思ったのか、頭をペコペコさせながら足早に移動。

 どうやら、向こうでやられてエリア外へ移動中らしい。

 向こうの状況を聞きたいが、死人に口なし聞くこともできない。


「千葉ちゃん頑張ってね」


 去り際に太一への声援を残し長谷川は退場した。

 俺とアリカはこの時間を利用してシグナルで意思疎通を図っていた。

 どこまで理解し合えたか分からないが、アリカを信じてみよう。

 俺は太一と綾乃に行動を指示。アリカも愛に何かを指示していた。

 

 アリカに視線を送ると、向こうも俺をじっと見ている。

 何故かお互い同時に頷いた。

 

 牧瀬に一対一は無謀。二対一でも勝率は上がるがやや不利。

 では、三対一ならどうだ?

 綾乃、アリカ、俺のトリプルアタックだ。

 

 愛と太一の援護射撃開始を合図に同時に俺たちは駆け出した。

 右からアリカ、左から俺、そして低く飛び出した綾乃が地面すれすれから狙う。

 一歩早かった俺の視界に牧瀬の腕章が映る。まだ動いていなかった。

 牧瀬は素早く反応し俺に銃口を向けようとする。

 だが、もう遅い。俺は引き金を引きつつ、筒先を安定させるように肘と筒先をしっかり握った。


 パパパパ!


 牧瀬の反応速度は予想を上回る。

 即座に横っ飛びして俺の射線上から姿を移動し弾を避け切る。

 マジかよ!? この距離で避けれるのかこいつ!


 パパパパパパ!


 さらに別方向からの射撃。撃ったのはアリカだ。しっかりと銃を構え引き金を引いている。

 だが、牧瀬はそれすらも見切ったのか、華麗に避けながら俺へと銃口を向けようとする。

 

 パパパパパパパパ!


 そして――


「ヒット! ヒット! ヒット~!」


 俺へと銃口を向けることはできたが、引き金を引くことは叶わず。

 低い位置からの綾乃の追撃にとうとう牧瀬は撃たれた。

 牧瀬は悔しそうに頭を抱えたが、すぐに立ち上がる。


「まさか三枚の特攻とはね。おみそれしたわ」


 そう言って退場していった。  


 すぐさま、俺たちは元いた場所へと戻り状況確認。

 敵の残りは二人、どうやらこっちは少ない人数の配置だったらしい。

 そうなると、会長たちのところは数上でも劣勢に立たされている可能性がある。

 しかも、西本もいるのだ。これは急いだほうがいいか。


 愛が向こうで予備マガジンを慌てて装着していた。援護射撃で弾を使い過ぎたか。

 太一も銃を軽く振る。どうやら弾数が残り乏しいようだ。

 俺も軽く振ってみるが、もう残り少ないだろう。

 早々に予備マガジンの出番が来るはずだ。

 念のため、今のうちに予備マガジンに変更しておく。

 

 肝心な時に弾切れなんてしたくないからな。


 準備を終えたあと、俺と太一、愛がアリカと綾乃の特攻を援護射撃。

 隠れていた残りの二人を数で押し切り撃破することができた。


 俺たちは進軍し、相手のフラッグ陣地へとたどり着く。

 ここからUターンして相手を挟撃するのが本来の作戦。

 慎重に建物へと進軍を開始する。

 

 建物エリアでは今も発射音が響き、戦闘が継続中のようだ。

 俺と太一、綾乃は敵を索敵にかかる。

 二人が右側の建物内に潜んでいるのは見えた。

 残りはどこに潜んでいるか、俺たちの位置からは見えない。

 アリカたちからも見えないようだ。



 味方はどうだろうか。

 見ると、3人が遮蔽物とテーブルを利用して一塊になって防戦している。

 誰だ? 誰が生き残っているんだ?

 

 ひょこっと顔を出して、すぐに引っ込める動き。

 間違いない。今のは美咲の動きだ。

 まだ生き残ってたか。ということは一緒にいるのは晃と響か。


 どうやら会長と柏木さんはすでにやられたらしく姿は見えない。

 会長たちがやられたあと美咲たちは籠城戦に持ち込んだようで、敵も攻めあぐねているようだ。

 残りの時間を考えると俺たちが数の上で有利か? 現時点で8人残っている。

 こっちの敵が丸々残っていても引き分けだ。


 残り時間を考えて、確実に数を減らす方が有利だと考えた。  

 俺とアリカはシグナルを送り合い、まずは見えている敵の駆逐にかかることにした。

 敵の様子を窺いながら前進開始。


 だが、そんな俺たちの動きはすでに察知されていた。

 

 猟犬――西本に。


 どこに潜んでいたのか、いきなり俺たちの目の前に西本が飛び込んできた。

 とっさに俺は路地裏へと飛び込み回避できたが、あっけなく綾乃と太一がやられた。

 発射音はたった2発しか聞こえなかった。一撃必殺かよ。

 愛とアリカからの援護射撃で西本はその場を去っていったが、あっという間の出来事に呆然とした。


 太一と綾乃が戦線離脱する中、俺は西本の行方を捜した。

 あいつ、どこに隠れやがった。

 アリカたちにシグナルを送ってみたけれど、アリカたちも見失ったらしい。

 やばい。これは一気に逆転される可能性がある。


 もう数的優位性は危ういものになった。

 美咲たちが一生懸命防戦しているのに無駄にしたくない。


 俺は周囲を警戒しつつ、アリカたちに合流。

 不思議なもので、アタッカー、タクティカル、ディフェンダーの3人が残ってる。

 これは頑張ればまだなんとかなるかもしれない。


 最大の敵は、やはり猟犬西本。

 あいつの位置さえ掴めれば何とかできそうな気がする。


 相手を全滅するのはもう無理かもしれない。

 せめて、数を減らし頑張った証としたい。

 

 美咲たちも徐々に包囲網を縮められつつある。

 やられるのも時間の問題かもしれない。


 俺たちは西本を警戒しつつ背中を預け合う。

 

「なあ、俺にいい考えがあるんだけど乗らねえか?」

「もうこうなったらやけよ。とりあえず言ってみなさい」

「愛は明人さんについていきます」


 もう残り時間も少ない。西本に怯えていては勝つことはできないだろう。

 ならば、俺たちが選ぶ道は――。


「行くぞ!」


 俺とアリカ、愛は敵の二人が隠れている場所目掛けてダッシュをかける。

 それに気づいた美咲たちが援護射撃。

 俺とアリカ、愛は銃を撃ちながら敵へと突撃。


「「ヒット! ヒット!」」


 誰の弾が当たったか分からないが、敵二人をヒット。


「ひっと! ひっとです!」


 一人少し遅れていた愛が、敵にやられた。

 俺とアリカは撃たれた愛をそのままに、敵が隠れていた屋内へと体を滑り込ませ遮蔽物に身を隠す。

 どうやら愛を撃ったのは西本のようだ。路地裏へと消える姿が目に入った。

 

 今の時点でうちのチームの生き残りは五人。わずか数分で西本に三人もやられた。

 流石、猟犬の名を持つだけはある。まさしく撃墜王(エース)だ、あいつは。


 俺とアリカは肩を寄せ合い警戒しながら息を整える。

 美咲たちへの攻撃方向から見るに二か所からの攻撃。

 敵は少なくとも西本を含めて三人いる。

 それぞれ攻撃個所に二人ずついたとしても五人。

 俺たちと同数。このまま時間切れを狙うのも有りか。

 

「……なあ、アリカ」

「……何?」

「このまま引き分け狙いって、どう思う?」

「何か釈然としないわね。どうせなら勝ちたいし」

「……だよなあ。せっかくここまで生き残ったんだから決着つけたいよな」

「聞く前から明人はそのつもりでしょ? で、どっち狙う?」

「話終わる前から答えくれんのかよ。いいぜ相棒。まずは右側からだ。俺が西本にやられても気にせず狙え」

「わかったわ。あんたもあたしがやられても敵を狙うのよ」

「わかった。じゃあ、お互い頑張ろうかね」

 

 俺とアリカは飛び出して、美咲たちを攻撃している敵目指して駆け寄る。

 俺の視界の隅でもう一人飛び出す影が見えた。

 西本だ。アリカは完全に気が付いていない。

 俺は体を向けることなく銃口を西本に向け引き金を引く。

 西本の不意を打つことができたようで、動きが止まる。

 その間にアリカがそのまま敵の攻撃拠点に攻め入り、無事二人を撃破した。

 それを見届けた瞬間、背中に複数の衝撃が走る。ああ、ちくしょうやられた。


「ヒット、ヒット、ヒット!」


 俺は両手を上げて宣言した。

 

 引き分けだと思っていたら、美咲たちも西本らに強襲されやられた。

 向こうも似たようなことを考えていたのか、残り時間わずかで美咲たちを強襲したのだ。

 同数なら西本がいる分、向こうが有利。


 あっけなくやられた美咲たち、ヒット申告と同時に遠くからホイッスルの音。

 どうやら時間切れのようだ。


 生き残ったのは結局アリカだけで、俺たちのチームは負けた。 

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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