320 サバイバルゲーム編5
はっきり言って西本を舐めすぎてた。
「お前、凄すぎ」
「いやぁ、そんなに言われると照れますねぇ」
まさか、1人で12人中8人も倒すなんて思わなかった。
経験不足な俺たちだって、ただやられたわけじゃない。
必死に反撃もした。二人掛かりで反撃もした。
にも、関わらず西本を倒すことはできなかった。
何というか当たらない。
見ていてゾンビ行為をしていないことははっきり分かる。
一粒一粒見えてるんじゃないかというくらい避けるのが上手い。
こっちが動きを先読みして照準しても撃つ瞬間にはもう方向変換してる。
あっという間に詰め寄られて、命中率も半端なくこっちは大抵一発でやられる。
西本と対峙して生き残ったのは副会長だけ。残りは全部やられた。
副会長の場合は突っ込んできた西本にびびって隠れたので無事だったようだ。
そのあとすぐに別の部員にやられたそうだが。
牧瀬も本来のポジションであるアタッカーとして凄い活躍だった。
開始早々にアリカ、会長、長谷川をタイマン勝負で各個撃破。
牧瀬は破竹の勢いで攻め、西本には及ばないものの半数の6人を撃破。
ディフェンダーだった美咲と晃が意外としぶとく抵抗をして、牧瀬の足止めに成功。
その後、牧瀬は必死の攻めを見せたが攻めきれず、防衛ラインを下げてきた相手に数で押し切られ結局やられた。
「うーん。やっぱり西本か。チーム人数が多ければいけると思ったんだけど」
牧瀬がちょっと残念そうな顔しながら言った。
どうやら、西本は一人規格外らしく、この世界では「猟犬」という二つ名まで持ってるらしい。
バトルロワイヤルという自分以外全てが敵というゲームがあるそうなのだが、西本はそのゲームで無敗のチャンピオンなのだそうだ。
対戦人数を聞いてみたが最大で1対60だと言っていた……恐ろしいやつだ。
「いやー、無敗って言っても、まだ3回しか参加してませんよ? それに大抵ですね。勝手に脱落していくことが多いんですよ。弾切れとか撃たれたから避けたら後ろの人に当たっちゃったとかで」
何でそんなに避けられるのか聞いてみた。
「当たったら痛いじゃないですか。痛いの嫌いなんです」
西本のほんわかした癒しの笑顔付きの回答に同じ部員ですら沈黙した。
………………答えになってない。
「普段はドジなくせに、銃を持ってる時だけドジしないのよ、この子」
「皆に言われます~」
西本よ、笑ってる場合じゃないと思うんだけど?
「でも、まあ今日来てくれたみんなが思ってた以上に乗りが良くていい動きなのは幸運だわ。あと2回くらい今のチームでやってみて長めの休憩入れたあと、人を入れ替えて大会方式もやってみましょう」
何でも夏休み後半に大会があるらしく、清和高校サバイバルゲーム部は二つのゲームにエントリーする。
一つはフラッグ戦、もう一つは殲滅戦にエントリーするそうだ。
殲滅戦の勝利条件は時間内に敵の全滅、もしくは終了時に生存数が相手より多いこと。
「次は美女高に勝ってあいつの鼻をぎゃふんとへし折ってやる」
美女高って、美王女子高のことだよな。
あそこにもサバゲー部あるんだ?
「GWの大会の時、準決勝で美女高に負けたんですよ。部長のご友人が向こうで部長してて、随分と馬鹿にされたらしくて、部長はまだ根に持ってます」
マガジンの装着を指導してくれた荒川が教えてくれた。
「あいつら、金に物言わせていい装備とか立派な練習場持ってるのよ。こっちが先輩たちの寄贈品とか部品交換とかでやりくりしてる上に、場所探しで大変な思いをしてんのに」
どうやら妬みもあるらしい。
「でも、場所についてはこれで同格。装備はしょうがないけど、この練習場で腕を磨くわ!」
「この間みたいに景品があれば、また里香りんと参加してみたいですねー」
西本がまたほわほわしながら和やかに言った。
西本と牧瀬はたまに民間の大会にソロでエントリーしているらしい。
先ほど聞いたバトルロワイヤルとかに参加したようだ。
景品がある大会で優勝したりMVPに選ばれたりすると銃や装備品などがもらえるらしい。
その他にも大会参加者でビンゴ大会なども催され、一粒で二度おいしいこともあるそうな。
西本は優勝して景品で銃を手に入れ、牧瀬はビンゴ大会でBB弾を大量に貰ってきたそうである。
「私も西本と一緒に出たいけど……未成年が参加できるああいう企画はそうそうないし……ただでさえ、未成年は白い目で見られるから……」
牧瀬は少しばかり消極的な口ぶりだが、嫌な思い出があるのかもしれない。
「おかげで我が部に新しいアサルトライフルが入りましたしね。でも西本先輩、あれ本当に部に寄贈しちゃうんですか?」
「ただで貰ったものだから寄贈するよ。大事に使ってね」
屈託のない笑みで西本は言った。
✫
何度かフラッグ戦をして休憩しているところで、牧瀬と西本が何やら相談を始めた。
話が終わったようで、俺たちに集合をかける。
「えとね、今、考えたんだけど。予想以上にあなたたちの連携がいいのよね。守りも堅いし、攻めも援護もできてるから」
何か褒められて嬉しいぞ。
俺以外も嬉しそうな顔してる。
「うちの部とそっちのメンバーで殲滅戦の練習試合させてもらえないかな?」
その言葉を聞いて、俺は皆に顔を向けて聞いてみた。
「向こうさんは俺たちの腕を買ってくれたらしいがやってみるか?」
反対する者などおらず、その目に闘志を抱くものさえいる。
いい顔だ。
牧瀬に振り返り断言する。
「喜んで引き受けるぜ。やるからには手は抜くなよ」
こうして、清高サバゲー部VSてんやわん屋+αチームの戦いが決まった。
お互い分かれてミーティング。会長に仕切るようお願いした。
「殲滅戦だと相手を潰してなんぼになる。だが相手は経験者だ。そう簡単にやれないだろう。それで華から作戦を説明してもらおう。華、説明」
「はい。これはわたくしからの提案ですが三人一組で行動するのが隙が少なくていいでしょう。二人一組だと縦横の索敵は有効ですが斜めは少し弱いですわ。これは皆さんも経験したから分かると思います。三方向への索敵、そこからの攻撃防衛の選択を考えると攻撃、援護、防御といった組み合わせがいいと思いますの」
アタッカータイプは響、綾乃、アリカ、会長。
タクティカルタイプは晃、俺、副会長、長谷川。
ディフェンダータイプは美咲、太一、愛、柏木さん。
メンバーで話し合った結果、それぞれこのポジションが適していると分類された。
「では、明人君は私と一緒で問題ないわね」
「愛も問題ないですね」
そう言って、二人して俺の腕をがっしりと掴む。
ぴくっと反応したアリカと美咲が何か言いたげだ。
「ちょいまった。今回はそういうのなしで考えさせてもらう。実際やってる時にそういうの考える余裕ないくらい夢中にやってただろ?」
会長の一声に響も愛も黙り込む。
まあ、確かに正論だ。
Aチーム、響、晃、美咲。
Bチーム、綾乃、俺、太一。
Cチーム、アリカ、副会長、愛。
Dチーム、会長、長谷川、柏木さん。
このチームでそれぞれ撃破を狙うことになった。
あくまで勝つことを目標としたチーム編成といえる。
次に進行ルート。
北側の林ルートは障害物や遮蔽物が多いが、それさえ気にしなければ視界は広く動きは自由だ。
ここにBとCの2チームを配備し進行することになった。
小回りの利くアリカと綾乃を有効利用する作戦だ。
チームA、Dは建物を利用して防御を軸に相手を削る作戦。
美咲と柏木さんの防戦弾幕に期待した作戦と言える。
実際、美咲を相手にしたときに攻め入るのは苦労した。
柏木さんも相手方からそんな意見が多かった。
いわゆる堅い守りというやつなのだろう。
それぞれの特性を活かしたチーム編成に、何故か始まる前からワクワクする自分がいる。
「いつになく楽しそうね?」
横からアリカが聞いてきた。
「何だろな。何かよく分かんないけど、結果がどうなろうが構わないくらいワクワクしてるわ」
「実はあたしも。こんなに面白いとも思わなかったし。誘ってくれてありがとね」
「言ったろ? どうせなら皆と一緒に思い出にしたいって」
「そうね。――あ! それ聞いて思い出した。みんな、ちょっと集まって!」
アリカはみんなを集めると、相手のところに行き全員を連れてくる。
「記念撮影を全然してない。みんなで写真撮影しようよ」
チーム「熊」、チーム「犬」がそれぞれ決め合ったポージングで撮影。
入れ替わり組んだチームでも撮影し、今度はペアを組んだりしたものでの撮影に移行。
それぞれ携帯で撮り合ったりしているが、スカルフェイスを被った西本の横にチョークで「誰だ?」と書かれた板を一緒に撮影とか、匍匐前進するアリカとか、みんな悪乗りしすぎだろ。
一通り撮り終ったところで、てんやわん屋+αチームでの撮影。
チームリーダに抜擢された会長を中心にみんな会長とおなじ腕組ポーズで撮影。
つい顔が緩んだけれど、自然な笑顔でいられたと思う。
撮影大会が終わり、いよいよ戦闘フィールドへ移動。
俺たちは自陣のフラッグの前に集合している。
どうやら相手も同じようだ。
「いいか? 相手が経験者だからってびびんな。徹底的に抵抗してやるのを忘れんなよ?」
「オーケーリーダー、敵を殲滅するっすよ」
「おう、太一いい心がけだ。他の皆も頼むよ! では、行くぞ! いっちょへこますぞ!」
おおおおおおっ!
会長の気合にみんなが一斉に声と手を上げる。
清高サバゲー部VSてんやわん屋+αチームの戦いの始まりだ。
さあ、俺らのチーム力を相手に見せつけてやろう。
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