319 サバイバルゲーム編4
一度集まりみんなで早目の昼食を食べたあと、ゲームフィールドとなる廃屋へと向かう。
缶飯とかいうの初めて食べたけど意外と美味かった。
俺が食べたのは鶏飯だったけど、ドライカレーも美味そうだったな
キャンプ場の敷地外にあるらしく、少し歩く必要があった。
キャンプ場から林道へ入り、暫く獣道のようなところを進んでいくと公道に出る。
公道の周りは畑ばっかりで、廃屋どころか民家らしきものも見えない。
その畑の脇道を突っ切っていくとまた林道に差し掛かる。
この林道の奥に目的地の廃屋があるらしい。
人里からも離れているので、ここら辺りなら思いっきりプレイができるだろう。
サバイバルゲームは場所の問題が多いようで、なかなか好条件がないらしい。
地主や管理してる会社に理解されず使用許可を貰えないことも多々あるという。
少しばかり傾斜のある林道を上っていくと、錆び付いた金網に囲まれた場所に着いた。
入り口にかけられた南京錠を外し、中に入ってみると開けた場所に古い平屋の建物が並んでいた。
光景を見て会長が感想を漏らす。
「へえ、思ってたよりも雰囲気ある。何かの工房だったのかな?」
等間隔で並ぶ同じ作りのさびれた複数の建物。悪くても昭和後期の建物といったところか。
元は住居ではないようで、会長の言っていた工房というのが合っているかもしれない。
建物が建ち並ぶ中を進んでいくと、屋内の中にも雑草が生えているところもあった。
よくよく見ると古タイヤを何個も積み重ねて置いてあったりと、やや不自然なものもある。
建物と比べるとまだ新しい感じの椅子やテーブルとか黄色や赤で塗られた派手なドラム缶が置いてあったりと、あとから付け加えたような構造物や遮蔽物も散見された。
この区画は長いこと野ざらしにされていたものらしく、部員たちがこの場所を地主から借りたあと、ここでゲームができるように環境整備したそうだ。
最初は管理が杜撰で放置していたとしか思えない有様だったらしい。
窓は破れ扉も雨風で相当痛んでいたので、部員たちはみんなで協力して壊れた窓や扉を取り外し、落ちているガラスの破片や木片などを拾い、ゲーム中に怪我しそうなものは除去。色々な障害物や遮蔽物をあとから付け加え、雑草はゲームをする上で邪魔になるものだけ排除。皆が安全にゲームができるように入念にチェックを入れたらしい。壁や屋根の上、マンホールの蓋なんかも調査したようだ。
「ここがやっと手に入れた私たちの本拠地。聖域よ」
牧瀬はまるで秘密基地を完成させた子供のように両手を広げて嬉しそうに言った。
そんな牧瀬に響が言った。
「これだけ喜んでもらえたなら紹介して正解だったのかしら?」
「いや、もうあんたには感謝しかないよ」
どうやら響が牧瀬に地主を紹介したらしい。
東条コーポレーションも今でこそ手広くやっているが、元々は土建業だから地主に知り合いでもいたのだろうか。
「よくこんなところの地主と知り合いだったな?」
「この辺一帯は数年前からおじいさまの私有地なのよ。明人君を連れて行ったあの家もこの近くよ」
言われてみれば、確かにキャンプ場方面へ車は向かっていた気がする。
「いつも部活をしてる場所が使えなくなったって西本さんから相談されたの。それでおじい様に相談したら、ここは放置してる場所だから使ってもいいって言ってくれたの」
「しかも廃材で良ければ使えって、障害物になりそうな物持ってきてくれたり、私らと一緒に除去作業とか補強とか手伝ってくれたり、しょっちゅう様子を見に来てくれてたしね。元が棟梁だったからか、私らに助言とかもしてくれたし、おかげで早く終わったわ」
あのじいさん、実は若い娘に囲まれたかったんじゃないだろうか?
「怪しいわね……。おじい様から何か要求されなかった?」
「別に?」
牧瀬的には場所を提供してくれた上に援助まであったのだから感謝してもし足りないのだろうけれど。
「マジで翁じいちゃま最高」
「翁じいちゃまって、それ言葉を重ねてないか?」
「翁はおじい様の名前なのよ。ところで、何であなたがそう呼んでいるのか、孫の私としては非常に気になるのだけれど、もし祖父がおいたしてるなら一族の不始末をつけなくちゃいけないの」
「翁じいちゃまがそう呼んでほしいって言うから。あ、そうそう。合宿でここを使いますって報告したら、お風呂を借りたいときは遠慮せずにいつでもうちの温泉に入りに来いって言ってくれたのよ。キャンプ場だとシャワーしかないからさ。至れり尽くせりだわ」
「……あのおじい様がタダでそこまでするとは思えないんだけど」
「マジで何も要求されてないわよ? せめてものお礼と思って、手伝ってくれた時に交代で翁じいちゃまの肩もみとかはしたけど」
「……それね。間違いないわ、若い女の子たちに囲まれて肩を揉まれたのが相当嬉しかったんだわ。実の娘と孫にはされたことがないもの」
響、色々言いたいことがあるんだけどいいかな?
孫の同級生相手に鼻の下伸ばしたエロ爺は懲らしめてやろう。
それと、少なくともお前はじいさんの実の孫なんだから肩くらい揉んでやれよ。
✫
他の建物に比べると一回り幅広で少しばかり小綺麗な建物に移動。
事務所跡だったのかここだけ造りが違う。
中には木製のベンチが置いてあり、可愛い字で「デッドゾーン」と書いてある。
撃たれた後、ゲームが終わるまでここで待機する場所のようだ。
どうやらこの建物内は水も使えるらしくトイレも使えるようだ。
ちゃんと男女別の上にそれぞれに個室が複数あるのも助かる。
綺麗に掃除されていて使う分には問題ない。
荷物を置いた後、ゲームフィールドへ移動して場内ルールの確認。
建物を囲む金網沿いには小道があり、撃たれた後はこの小道へ移動してデッドゾーンまで移動する。
そこを歩いてるときの戦闘行為は禁止。
この小道の内側すべてがゲームフィールドで身を隠すなら何を使ってもいいとのこと。
フィールド中央に行くと、西側東側にそれぞれ旗が立っている。
今回のフラッグ戦で俺たちが相手から奪取するものだ。
あれを抜いた時点で勝敗が決する。
直線距離にして100mあるかないか、建物と建物の距離と幅は最大で10mといったところ。
双方が障害物や遮蔽物を駆使して近づきあの旗を狙う。
中央通路を使えば最短距離で旗を狙えそうだが、そうはさせてもらえないだろう。
北側にある雑木林のエリアも木材で組み込まれた障害物や遮蔽物があって直線で進むのは難しそうだ。
南側は開けた場所になっているが、遮蔽物がないので逆に格好の的になりそう。
場内の案内が終わったところで、いよいよフラッグ戦の開始。
東側に牧瀬率いるチーム「熊」、西側には西本率いるチーム「犬」が配置。
「さて、それじゃあ開始するけど、みんな装備は万全かしら? 制限時間は15分、頑張りましょう」
牧瀬はそう言ったあと、ホイッスルを鳴らす。
ゲーム開始の合図だ。
綾乃と響は南北に分かれて、部員に教わりながら建物に体を隠しつつ前進し始める。
俺は牧瀬と一緒に響の後ろ側を、相手のアタッカーの動きを見ながら進んだ。
どこから来るんだ? 全然姿が見えないぞ。
響らが2つ目の建物へと移動。
相手チームの誰がアタッカーか分からないが、旗の近くに太一がいるのは視認できた。
太一がディフェンダーか。太一は旗の近くの障害物から顔だけ出してこっちの様子を窺っている。
パパパ!
前方から発射音。
どうやら綾乃が狙われたらしいが、ヒット申告がないので当たらなかったようだ。
今のどこから撃った? まだ距離はかなりある気がするぞ。
牧瀬が俺の肩を叩き、軽く手を上げる。
支援に行かないのか? 様子を見ろということらしい。
パパパパパパ!
パパ! パパ!
前衛では反撃を開始し撃ちあいが始まっている。
パパパ!
パパ!
パパパパパパ!
そっと建物の陰から顔を出して様子を見ると、「犬」チームが遮蔽物を利用して銃を構えている姿を発見。3つも先の建物の陰からだ。綾乃側の進行を食い止めようとしているみたいに見える。
うん? 綾乃がこっちを見ているな。
何か教わったハンドシグナルじゃなくて、謎のボディランゲージをしている。
指を交互に立てたり下ろしたりしてるけど……援護射撃をして欲しいのか?
当たってなかったらごめんだな。俺が頷くと、綾乃が低く身を構えた。
俺はセレクターをオートに切り替えて、建物の陰から飛び出す。
狙いは3つ先にいる奴だ。俺は引き金を引きながらそのまま反対側の建物へと走り抜ける。
俺が撃ち始めたタイミングに合わせて綾乃が前へと飛び出す。
俺が狙った相手は俺の射撃に合わせてすぐ頭をひょいっと引っ込める。
あれ、今の動き……俺は何度も見たことあるような気がする。
ヒットはなし。どうやら相手の引っ込む方が早かったようだ。
前へと飛び出した綾乃は一つ前の建物の陰に素早く身を隠す。
綾乃についていた部員はほんの少し出遅れ、別の角度から撃たれてヒット申告で退場。
なんだ? もう手前の建物まで来てやがるじゃないか!?
どうやら、俺が狙った相手は援護部隊だったようだ。
本当のアタッカーは鳴りを潜めて接近する作戦だったようだ。
このままじゃ綾乃が危ない。
すぐさま、撃った相手に反撃の連射。くそ、隠れられた。当たらないもんだな。
俺が撃っている間に牧瀬が俺の下へ移動。
「いいわよ。そうやって相手の動きを封じましょう。一人やられたのは不運だけど、あの敵をこっちは潰しちゃいましょう」
「どうすればいい?」
「私たちを囮に3方向から狙うのよ」
響と部員が何やら相談している。何かする気のようだ。
綾乃が陰から敵のいる位置へ威嚇射撃。その隙に響らは前へ進む。
同時に俺と牧瀬は綾乃が元いた場所へ移動。俺もセミオートに切り替え相手を射撃。
「フリーズ!」
響の声が聞こえた。
どうやら相手の裏へ回り込むことに成功したらしい。
「うわー、やられたー」
相手は晃だった。
晃とその付き添いの部員が両手を上げながらエリア外へと移動していく。
さっき俺が狙ったやつがその様子を覗き見してる。
さっきの引っ込んだときの動作といい、俺はこの動きをする奴をよく知っている。
ほぼ間違いなく美咲のような気がしてきた。
俺たちが援護しつつ、前進していると、突然、後方から連射の発射音が聞こえてきた。
ババババババババババババババババババババ!
ババババババババババババ!
「ヒット、ヒット! あああああ、駄目だったあ!」
「ひっと、ひっと! うわーん、相討ちしちゃったー」
アリカの叫び声。嘘、何であいつフラッグの間近くまで来てんの?
どうやら柏木さんが気づいて、愛と共同で仕留めたらしい。
だが残念なことに愛と付き添いの部員もやられた。
「西本らしい作戦ね……。完全ノーマークを一枚入れてきた。でもこれで相手のアタッカーはいないはず」
そう牧瀬が言った途端、それは大きな思い違いであることを知った。
「「――ヒット!」」
まさかの響らの声だった。
見ると綾乃も囲まれていて両手を上げている。
フリーズされたらしい。
「…………やられた。基本で来ると思ったのに。……まさかの8-2-2だ」
牧瀬がぼそっと呟き、その声が終わると同時にホイッスルが鳴った。
柏木さんを撃破した会長の手によって、チーム「犬」フラッグ奪取による勝利という結果で一戦目が終わった。
休憩と称した一戦目の振り返り。
俺たちチーム「熊」がアタッカー、タクティカル、ディフェンダーを4-4-4の構成で挑んだのに対し、
チーム「犬」は8ー2ー2と攻撃特化で組んできたのである。
相手の作戦を聞いたところ、会長とアリカは極力戦闘しないでフラッグ狙い。
晃と長谷川は積極的に戦闘。美咲がタクティカルとして皆を援護し、太一が最終を守る。
「どうせなら攻めた方が慣れると思ってー、これで里香りんとの通算23勝5敗11引き分けだね」
いつものほわほわとした顔で西本は言った。
「ああ、西本に言われると余計にくやしいっ!」
ちなみに2戦目も負けました。
お読みいただきましてありがとうございます。
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