318 サバイバルゲーム編3
適当にくじで決めると戦力に偏りがあっても困る。
かといって、それぞれの思惑でモチベーションも変わるだろう。
会長らにも集まってもらって、それぞれの主張を聞いた上でチーム分けを行った。
最終的にせっかくやるんだからとゲームバランスは守りつつ。
牧瀬率いるチーム「熊」に俺、響、愛、綾乃、柏木、副会長。
西本率いるチーム「犬」に美咲、晃、アリカ、会長、太一、長谷川。
俺たちのチーム名が「熊」と聞いて、アリカが羨ましそうにしてたけれど放っておこう。
響が俺たちの中でずば抜けているので、不器用な愛と体力のない副会長のセットをこちらで受け取る。
特に文句がないようなのでこれで決着した。
副会長の南さんは頭脳は優秀だが、体育はそれほど得意ではないらしい。
「華は何て言うんだろう。要領がいいというか……記録を残す時に限っていい成績残すんだよね」
「あら嫌だわ。普段の体育も頑張ってはいるのよ? 記録を残すのにはコツがありますの。たとえば長い距離を走るときは、早い人のぷりぷり動くお尻を見ながら走るとか……気が付いたら終わってますわ」
よし、俺と副会長を別チームにしてくれ。
この変態をマジで狙いたい。
南さんの言葉を聞いて、アリカが一歩距離を取る。
お前も言い寄られた口だもんな。怖いよな。
ゲームをする前に、念のため響に部員たちと視線を合わせてもらう。
牧瀬が固まることは分かっているが、他の部員がどれくらい固まるのがいるか見ておくことにした。
どうやら部員の中で固まるのは牧瀬以外いないようでほっとする。
てか、最初に気付くべきだったけど、男がいないのなんでなの?
敵の太一が固まった場合や味方の綾乃が響の視線で固まった場合は、無効扱いしてもらえることで合意。
実際に太一と綾乃、ついでに巻き込まれた牧瀬の固まってる状況を見てもらったら、部員たちは納得してくれた。固まったらヒットも言えないからな。
ゲームを止めたらつまらないから、お互い気を付けてもらおう。
それよりも誰か響を抑えとけ。
あいつ、牧瀬が固まったのをいいことにまた悪戯する気だぞ。
この後、それぞれ迷彩服や装備品を一式借りて試着。
アリカは長い髪が邪魔にならないようにと、愛に髪をまとめてもらっている。
こういう場面を見ると姉妹が逆転してるように見える。
「香ちゃんこんな感じでいい?」
「うん。大丈夫かな」
髪の毛をまとめるとなんだか妙に小顔になった気がする。
何かアリカがさらに小さくなった感じがして、ちょっと可愛らしい。
女子がサイズ合わせをしている間に俺と太一は小さなテントで着替え。
通気性がいいのか生地は厚い感じなのに、それほど暑く感じない。
これなら多少近い距離で撃たれても痛みは少ないんじゃないだろうか。
用意してくれた中にフェイスマスクも置いてあった。
ハーフタイプのメッシュでこの季節にはちょうどいい。
部員たちはいろんな種類のフルフェイスをかぶっていたけれど、ああいうのは趣味が出そうな気がする。
俺たちが着替え終わって外に出ると、サイズ合わせの終わった女子メンバーが着替えるために大きめのテントにずらずらと一斉に入っていった。
ほんの少しして、響に首根っこを掴まれた南さんがテントから追い出された。
しれっと混じっていたらしい。あの変態は油断も隙もあったもんじゃないな。
しばらくして、安全性が高まったはずのテントからアリカの悲鳴が聞こえてきたけれど、これはいつものことだから気にしないでおこう。女子の着替えが終わってテントから出てきたとき、晃がショックを受けたような顔で出てきた。まあ、中で何が起きたかは想像できるけれど、これも気にしないでおこう。。
女子たちは迷彩ハットにゴーグル、首に襟巻、俺たちと同じフェイスマスク。
弾を防ぐのに用意してくれたらしいが、牧瀬たちが色々気遣ってくれたみたいだ。
皆同じ格好なので背丈の低いアリカ以外、遠目に見て見分けがつきにくい。
「太一、どれが私か分かるかー?」
会長の声がして、同じような身長の三人が俺たちに近づいてくる。
会長以外は誰と誰だ? てか、どれが会長かも分からない。
その三人は太一を囲むと、三人は太一を中心に周りを回り始めた。
ピタッと動きを止めたあと、太一の前に並びだす。
太一は即座に一番右端にいた人を指差す。
「何で分かった?」
「一番、胸が小さいっす」
「ここかっ!?」
会長は胸を両手で押さえてその場に崩れ落ちた。
何をやってんだか。ちなみに他の二人は美咲と響だった。
お前らも会長と一緒になって悪乗りするなよ。
ちょっと面白かったけど。
昼飯の時間までチームごとに分かれてミーティング、作戦会議だ。
フラッグ戦は攻守の駆け引きが重要で、いかに多くの人数を前に出せるか、また前に出てくる相手の人数をいかに少なくできるかにかかっている。
プレイヤーにはそれぞれポジションが与えられる。いわゆる戦略的なものだ。
大規模な場合、基本構成としてアタッカー、タクティカル、ディフェンダー、スナイパー、コマンダーがあるらしい。今回は俺たちが初心者なのでスナイパーとコマンダーなしの模擬戦だ。
アタッカーは敵陣地に突っ込む攻撃部隊。
タクティカルは仲間のサポートや囮役をしたりする援護部隊。
ディフェンダーはフラッグを守り、守備を任務とする防衛部隊。
「第1戦目はこれで行くわよ。最初、私と西本はタクティカルでサポートしかしないから安心して。お互い2戦目から正規のポジションで行くことにしてるの」
初戦のチーム構成が牧瀬から示された。
アタッカーに響と綾乃、タクティカルに俺と副会長、ディフェンダーに柏木さんと愛が選抜された。
まずは平均的なチーム構成でゲームに慣れてもらうのが目的らしい。
部員が俺たちに一人ずつ付いてくれるらしい。二人一組で行動するようだ。
牧瀬が俺のサポートに付いてくれる。
俺も知らない相手より牧瀬が付いてくれた方が話しかけやすい。
「今回は無線なしでやるから、サインを覚えてもらうわ」
「……うっ、愛はこれ以上覚えきれないです」
「あなたたちにも分かるものを使うから大丈夫よ。手を上げたら「待て」、こうやって手を下ろした方向に「進め」、自分を指したときは自分が攻める、もしくは囮になるって意思表示。答える時はイエスなら頷いて、ノーなら顔を横に振る」
牧瀬が部員と模範演技を見せる。確かにシンプルで分かりやすい。
「それなら愛でも覚えてられそうです」
「じゃあ、試しにそこの林で軽くやってみましょうか?」
俺たちは実際の装備を着けて林の中に入る。
「アタッカーは左右へそれぞれ展開して、お互いの位置を確認しながら前へ進む。自分が進む前に必ず逆サイドからの「進め」の合図を待つ。味方の進行方向に敵がいないか見て問題なければ合図を出して進めるってのが常套手段よ」
なるほど反対サイドから見れば広い視野で見れるという訳か。
「仮に敵が待ち構えていた場合でも、前に進めてあげるのがサポート役のタクティカルの出番。弾幕で相手を動けないようにしてその間に味方が前に進むってやり方。一度見せるわね」
牧瀬が部員に指示してアタッカー役二人、敵役一人、タクティカル役一人を配置に付ける。
アタッカー役の進行方向に敵役が銃を構えていて前に進みにくい。
タクティカル役が敵役へ銃を構えたところに弾を撃ち込む。
敵役は当たらないように木の陰に身を潜め、その隙をついてアタッカー役は前進した。
「こんな感じよ。次は囮の場合ね」
また牧瀬はそれぞれに指示を出す。
アタッカー役の片方が敵役に足止めされている。タクティカル役が距離を取ってわざと姿を見せながら前進しようとする姿を見せる。敵役は手前にいるのと囮のどちらも警戒する羽目になり、隙をついたもう一人のアタッカーに狙撃された。
すげえ。ちゃんとした連携ができてる。
「今の敵役の動きがディフェンスなんだけど、基本、敵を近づけさせない。つまり弾幕で足止めするのが目的。だから距離を縮められる前の索敵が大事よ。アタッカーとタクティカルがどういう連携で来るか予想しながら出鼻をくじく。もう駆け引きの世界よ。特に初心者は囮に惑わされやすいのと、弾切れで手も足も出せなくなるパターンが多いから、気を付けてね。じゃあ、軽く練習してみましょう」
やってみると難しい。部員が敵役をやってくれたが慣れているだけあって、前に行かせてくれない。
俺も何とか響と綾乃が前進できるようにサポートしようとするが、位置取りが上手くいかず援護射撃も意味を成してない。いい位置取りをしようとして移動を始めたところで逆サイドの敵に狙撃されあっけなくやられた。
「今みたいに味方がやられると、相手の防衛ラインが上がってくるわ。そうすると今度はこっちが攻め込まれる番だからアタッカーはいかに時間を稼ぐかを考えて。最悪引き分け狙いもありだから」
なるほど、攻め切れなかったら守り切るか。
制限時間があるゲームなので勝ちはなくても、負けもないという考え方らしい。
「ひっと! ひっと!」
入れ代わり立ち代わりで練習を続けていると愛がやられた。
「……あれ? あの~、撃たれた後はどうすればいいんでしたっけ?」
「間違って撃たれないように、両手を上げながらエリア外に出ればいいわ。そういう人がフィールドを移動中は、間違って撃たないようにしてね。もし途中で相手と遭遇したときは「ヒットです」って宣言しながら移動すれば大丈夫よ。ちなみに両手を上げて死んだふりも、死んだ後に敵の位置情報とかを味方に伝えたりするのはマナー違反よ。死人に口なしってね。たまにいるから困るけど」
「分かりました。降参すればいいわけですね」
何か微妙に違う気がするけど、大体合ってるからいいか。
そんな愛に響が近よって聞いてきた。
「愛さん、敵に発砲することなく降参させるときの言い方覚えてる?」
「……ぷりーずですよね?」
「……フリーズよ」
「あ、それです」
プリーズでも何となく合ってる気がするのは俺の気のせいか?
お読みいただきましてありがとうございます。
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