317 サバイバルゲーム編2
他の部員が休憩している間に牧瀬と西本にそれぞれメンバーを紹介。
それから基本的な順守事項について説明を受けた。
遊びで銃口を人に向けないとか、銃口を覗きこまないとか、そう言ったものだった。
基本的に危ないことするなってことだな。
次に俺たちが使う道具の取り扱い方を教わる。
「皆さんに使ってもらうのはこれです」
牧瀬と西本が運んできた複数のコンテナの中にライフル銃が綺麗に並んでいる。
とてもよく手入れされているようだ。
何か戦争映画とかでよく見る形のような気がする。
西本は1丁を手に取ると実際に身構えて見せる。
「これはM4というライフルで初心者からベテランまで使えるものです。電動ガンで使い勝手はいいと思います。では、みなさん手袋を着けたらそれぞれ手に持ってみてください」
俺たちはそれぞれ貸してもらった手袋を着けてM4を手にする。
思ってたよりも軽い。3キロないんじゃないか?
西本はそれぞれの部品を指差しながら説明していく。
フレーム、グリップ、バレル、リアサイト、フロントサイト、ハンドガード、フラッシュハイダー、セレクター、マガジン、マガジンキャッチ、トリガー、バッテリースロット。
やべっ、見落とした。フラッシュなんちゃらってどれだ? 分からん。
だが俺以外もそういうやつがいる。
愛が周りをきょろきょろしながら不安がっているのが分かる。
多分、初っ端からおいて行かれたのだろう。
「とりあえず、セレクターとトリガーは覚えてください」
そう言ってもう一度、それぞれの場所を指差しながら教えてくれた。
西本も分かって言ってたな。多分、こういう相手には慣れてるんだろう。
「人によってぴったりくる長さとかありますんで、銃口の反対側、これ銃床部なんですけどストックといって肩に当てて構えるんです。ここで長さも調整できます」
西本が模範を見せて、俺らも自分の体に合わせて調整。
西本が言うには構えた時に肘を安定できる長さが良いらしい。
「……えーと、愛里姉さん?」
「芸人みたいな呼び方やめて?」
アリカ、お前全力で否定しただろ?
「同い年だし、皆にはアリカって呼ばれてるから、西本さんもそうして?」
「はい。では、アリカさんは伸ばさずにそのまま使った方がいいですよ。……サイズ的に」
あ、ちょっとアリカが悔しそうな顔をした。
確かにアリカが持つと銃がより大きく見えるからな。
牧瀬と西本が分かれてみんなの調整を見て回る。
「では、次です。先ほど説明したセレクター。これでセミオートとオートの切り替えができます。オートは連発撃ちのことです。まずはセミオートから実際に見てもらいましょう」
西本は銃を構えると簡易的に用意した缶の的に向かって撃ちだした。
パス、パス、パス、パス!
「セミオートなので、トリガーを引いている間は弾が出ますが少し間隔が開きます。では、オート行きます」
ババババババババババババババババババババ!
連射って意外と凄い音するんだ。
「今ので約0.8秒、20発ほど消費しました。秒間25発、1秒間に25発撃てます。マガジン1本300発なのでオートのままだと12秒で弾切れです。予備までなくなれば、もう囮ぐらいにしかなれないので注意が必要です」
なんかいつもの西本からは信じられないくらいはきはきした感じ。
とても頼りがいのある感じに見える。
「あのー、西本先輩すいません」
「はい。愛ちゃん何でしょう?」
あれ、いつの間に西本は愛のことをそう呼んでたんだ?
今の呼び慣れた感じがしてたぞ。
「愛の知ってる西本先輩はどこに行ったんでしょう?」
失礼極まりない質問だった。
俺もそう思ったけど口にはできなかったぞ。
「嫌だな~、秀虎に何か吹き込まれた?」
「いえ、羽柴君は何も言ってないですけど、西本先輩はいつもほわほわしてるのに、何だか今日は格好いいです」
「…………そ、そっかな~?」
あ、いつもの西本だ。照れてる場合じゃないだろ。
てか、いつもは格好良くないって言われてるの気付け。
それから皆横一列に並んで、空き缶の的を使ったセミオートの射撃練習を開始。
本番同様にゴーグルを装着。何かこれだけで気分が高揚してくる。
開始早々、隣で撃つ愛がいきなり連射でぶっ放したので周りがびっくりする。
撃った張本人もパニックになったのか、トリガーから指を離せばいいのにトリガーを握りしめてしまい、西本と牧瀬が慣れた感じで愛から銃をはぎ取って事は収まる。
しかし、牧瀬と西本の対応の早さに驚いた。ああいうパニックを起こすと、銃口を人に向けかねないので警戒はしていたらしい。流石だな。そういう危険を予知しながら教えてくれてるのか。
愛が間違えたセレクター間違いは、初心者あるある話のひとつらしい。
俺も気を付けておこう。
再度射撃訓練開始。ちゃんと構えているつもりなのに、なかなか的に当たらない。
一人だけ初っ端から当ててたのは響だった。
予想していたとはいえ、こいつのセンスはどうなってるんだろう。
もうコツを掴んだのか、転がり動く空き缶にすら当てていた。
まるで、西部劇のガンマンのように空き缶を右へ左へコントロールしている。
見た感じ他にセンスがいいのは晃と綾乃。
響ほどではないが、転がり動く空き缶にも当てることができている。
愛の隣にいるアリカはたまに「よし!」と声が聞こえるので、そこそこ当たっているようだ。
俺の隣にいる長谷川と愛は発射音がする度に目を瞑ってるので、これじゃあ当たらないだろう。
美咲は一発撃つたびに顔を上げて的を確認。
たまに首を傾げてるので、何故狙ってるのに的に当たらないのか不思議なんだろう。
俺も同じだけど。
西本からアドバイスを受けると、弾が的の近くに集まりだした。
肘を体に密着させて固定するなりして、銃のぶれを抑えた方が安定するらしい。
なるほど、エアーガンでも撃った瞬間に振動があるから筒先がぶれるのか。
的に当たりだすと段々面白くなってきた。
一発で転がり動く空き缶に当てるのは無理だったが、二、三発消費することで何とか当てることに成功。
これ、面白い。思わず夢中になる。
練習をしているうちに食事を終えた部員が一人近づいて来た。
「先輩たちもご飯食べてきてください。私が続きを引き受けますから」
「まあ、荒川なら大丈夫か。じゃあ、すぐに戻るから、マガジン交換教えてあげて。少しの間よろしく」
ショートカットの色の白い荒川という女の子。どうやら一年のようだ。
横にいた愛に知っているかなと思ってちらりと視線を向けてみたら、何故かじっと俺を見つめ返す。
目にハートマークが浮かんでいるように見えるのは気のせいか。
俺のふくらはぎに、ほぼ同時にそれぞれ違う三方向から蹴りが飛んできた。
振り向くと美咲とアリカと響が「あの山ってどれくらいだろうね」と山の反対方向を向いて話してた。
どう考えてもお前らがやったとしか思えないんですけど?
「一年D組の荒川智です。射撃が終わったところで、マガジンの入れ替えを教えますね」
マガジンを交換するにはマガジンキャッチを押すとロックが外れ、あとはマガジンを引き抜くだけ。
そのあとは向きだけ気を付けて新しいマガジンを差せばいいようだ。
やり方自体は簡単だけれど、意外とトラブルも多いそうだ。
マガジンには弾を押し出す仕組みが内蔵されていて、歯車みたいなのが付いている。
マガジンを交換したのに弾が出ない時は、この歯車を回さないといけないらしい。
激しい動きの後にも途中で緩んでしまうこともあるらしく、肝心要の時に撃てなくなることもあるそうだ。
「意外と覚えることあるんだな」
「愛はすでに最初に教えてもらったのが何か覚えてません」
荒川は一人ずつ丁寧に教えて回り、特に愛と長谷川にはじっくり時間をかけて教えていた。
その間に食事を終えた牧瀬と西本が帰ってきた。
「銃の取り扱いはこれくらいで問題ないと思うわ。もし、銃のトラブルがあったら近くにいるうちの部員に言ってね。すぐに対応してくれるから。じゃあ、次はサバイバルゲームの基本的なルールから説明するわね」
戦闘エリアに入る前に必ずゴーグルを着用、ゲーム終了までは外さないこと。
撃たれた場合、自分のどこに当たっても「ヒット!」と大きな声で自己申告すること。
禁止事項の説明。
ゾンビ行為の禁止。撃たれて当たっているのにヒット申告をしないものをゾンビというらしい。
それと相手に対する暴言禁止。
これらはゲームを台無しにする重大なマナー違反になるそうなので守ってほしいそうだ。
あとはレギュレーションのパワーは規定値以下。よく分からないが圧力を変えることで弾の飛距離や威力が変わるらしい。この辺はサバゲー部の方で調整済みなので、俺たちは心配しなくてもいいようだ。
今日の模擬戦についての説明に移る。
サバイバルゲームには色々な種類のゲーム方式がある。
俺たちが最初にやるのはフラッグ戦。
この様子を見て後半のゲーム方式を複雑なものにするか検討するらしい。
まずはお試しというところなのだろう。
フラッグ戦というのはサバイバルゲームで最も基本的なゲームらしい。
フィールド両端に設置された両チームのフラッグを取り合う。
制限時間内にどちらのチームもフラッグが取れなければ引き分け。
勝利条件はフラッグの奪取、もしくは相手チームの全滅。
敗北条件はチームの全滅。敵にフラッグを取られること。
チーム内でアタッカー、ディフェンダーと分かれて攻防するのが多いようだ。
サバゲー部は牧瀬チームと西本チームに分かれる。
部員は全員で12名で6名ずつ。
臨時で参加している俺らは会長らを合わせて12名。
俺らも6名ずつ分かれることになる。
それを聞いたうちの面子は――
「私は美咲と同じチームがいい」
「晃ちゃんの背中を撃つ気がしてならない」
「愛は明人さんと同じで。これは決定事項でお願いします」
「愛さんが一緒なら私も明人君と同じよね?」
「お兄ちゃんとは別のチームにしてください。狙い撃ちしたいので」
「ち、千葉ちゃんは私を見捨てないよね? 敵になっても撃ったりしないよね?」
「お前ら二人とも敵になったら真っ先に狙ってやるよ」
「明人、明人、あたしと勝負しよ! 負けた方がおごるってどう?」
案の定、好き勝手な意見が飛び交った。
「…………お前ら落ち着け?」
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