表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
319/406

316 サバイバルゲーム編1

 翌朝、美咲を実力行使で起こし、恨み言泣き言はハグで癒し、短期決戦に成功する。

 文さんや春那さんにはわざわざ俺らのために朝食の時間を早めてもらってるんだ。

 ここで時間をかけては申し訳ない。


 美咲が「今日は愛がない」と文句を言ったけれど、その分ハグでしっかり補填したので多分大丈夫だろう。


 文さんもさすがにいつもより一時間早い朝食に眠そうだ。

 春那さんはいつも通りで問題なさげ。

 

「春那はショートスリーパーだから羨ましいよね。私は少し睡眠不足だ」


「ショートスリーパーって、睡眠時間が短い人のことですよね?」


 俺の質問に文さんは寝ぼけ眼を擦りながら答える。


「ああ、それ誤解だよ。ただ短いだけじゃそうは言わないんだ。ショートスリーパーっていうのは短い睡眠時間でも健康的な生活を送ることが出来る人のことを言うんだ。ショートスリーパーじゃない人は睡眠時間が短いと体は寝不足になってるんだよ。本人も気づかないくらいに蝕まれてること多い。過労死の原因とも言われてるね」


「へー、ちなみに春那さんって一日どれくらい寝てるんです?」


「私かい? そうだねぇ。長いときで六時間、短いときで二時間くらいかな」


「短かっ! 二時間って眠くないんですか?」


「全然、どのパターンで起きた時も同じ感覚だよ」


「これがショートスリーパーって言われる人たちだよ。本当は一割くらいしかいないんだけどね。徹夜に強いのとはまた違うから。まあ睡眠時間は人それぞれだけど、ちゃんと取ることは大事だね」


「晃ちゃんもそうだよね?」


「うん。姉さんと同じタイプ。お母さんがそうだから遺伝だと思うけど。お父さんは普通だけど」


 寝る時間が少なくて済むなら、たくさんやりたいことやれそうな気がする。

 ちょっと羨ましい。


 朝食が終わり、今日の予定を言い合う。

 春那さんたちはいつも通りの仕事。

 今日は二人とも早めに帰ってこれるようだ。


 俺たちは予定通りのサバイバルゲームの模擬戦に参加。

 昨日は美咲も早めに休んだので、睡眠時間はしっかり取っている。

 俺についてもばっちりだ。


 キャンプ場まではバスがあるので、一度駅のターミナルまで出てそこから乗り換え。

 皆との集合場所もバスターミナルにしてある。

 一応汗もかくことだろうからタオルや替えの下着も持っていく。

 

「水分はまめに摂取するんだよ。あと塩分もね。今日も暑くなりそうだから」


 文さんと春那さんに見送られて家を出る。

 

 近所のバス停から、駅行のバスへ乗車。

 乗車したバスにはぽつぽつと先客がいる。

 中には中学生っぽい子もいるが部活か何かだろうか。

 

 バスターミナルに到着。

 響とアリカ、愛が先に到着していた。どうやら轟さんにまとめて送ってもらったようだ。

 しばらくして、太一と綾乃それから長谷川が合流。


 響が人数を再確認。現時点で9名いる。あとは会長たちだ。



「揃ってるわね」 

「あれ? 響、会長たちは一緒に行かないのか?」

「会長らは合宿そのものに参加してるわ。副会長は嫌がってたけど、柏木先輩が付き添ってるから大丈夫でしょ」


 柏木……ああ、あの南さんにくっついてるマジ百合の人か。

 

「わざわざ付き添うのもご苦労だな。嫌がる副会長をどうやって連れて行ったんだろうな」

「簡単じゃないかしら。副会長と柏木先輩は一緒に暮らしてるから」

「「「え?」」」


 俺以外にアリカと愛が反応した。


「あのお二人はそんな深い関係なんですか!?」

「いえ、柏木先輩のご両親の仕事上、暮らしてるのが副会長の家だからよ。ご両親が南家の執事長とメイド長をされてるの」 

「執事長とかって……あの、南先輩って実はお金持ちですか?」

「東条家が比較にならないくらい格式の高い超お金持ちよ。上には上がいるのよ」


 あの変態が金持ち……あの気品に満ちた感じは培われたものだったのか。

 どうにも納得できないところがあるな。

 もし敵になったら狙い撃ちしてやろう。

 

「ちなみに会長と西本さんは普通のご家庭だから安心して。まあ会長のところはある意味驚くけど」

「どういう意味だ?」

「ご兄弟が多いのよ。男が5人、女が4人。会長は次女で4番目らしいんだけど、下に双子が小学生と中学生に一組ずついるわ。末っ子がまだ幼稚園って言ってたわね。初めて家に行ったときは怒声が飛び交ってて怖かったわ」


 ああ、なんで会長が豹変したら怖いか分かった気がする。

 実体験が豊富だからか。そんだけ兄弟がいたら賑やかどころじゃないだろう。

 毎日騒がしいだろうし、喧嘩もしょっちゅう起きることだろう。

 そんな世界で毎日生きているんだから強くもなるか。

 

「それって家計が大変そうですね……」

「裕福ではないと言っているけれど、貧乏というわけでもなさそうよ。ご両親のやりくりが上手なんでしょうね」

「ちなみに西本は?」


 これ西本も実は何かあるだろ。

 もうそんな気がしてしょうがないんだけど。


「西本さんちは本当にごく普通のサラリーマンでごく普通のご家庭よ? ……ああ、そうだったわ。今日の模擬戦、西本さんには注意してね」

「やっぱり何かあるんじゃねえか!」

「彼女が敵になったらまず勝てないと思った方がいいわ。サバゲー部のエースだから」


 ……あのほんわかした癒し系の西本が……エース?

 癒されてる間に打ち殺されるんだろうか?

 想像したら何かシュールだな。

 

 ✫


 約束の時間前にキャンプ場にたどり着いた。


 キャンプ場らしくバンガローやバーベキューエリアが完備されていた。

 なだらかな平地が続き、途中から深い森があり、さらに奥へと踏み込めば山へと続く。

 キャンプ場の外れには川も流れていて、魚のつかみ取りや釣りなどのイベントが行われることもあるらしい。自然を満喫するには確かに素晴らしい環境だ。


 そのキャンプ場の森林エリアに近いところにサバゲー部は合宿していた。

 バンガローを借りるのではなく組み立て式のテントを使った野外合宿だったようだ。

 小さなテントがいくつも建っていて、なんだかインディアンの集落みたいに見える。

 

 しかし、人の気配が全くしないのは何故だ?

 テントの周りはシーンと静まり返っている。

 周りを見ても誰もいないし、テントの中を覗いてみたら荷物はあるが誰もいない。

 俺たちが来ることは伝えてあるし、そもそも向こうからの依頼だ。


「どこ行ったんだ?」


 と、声を上げたとき森の中から甲高い声が聞こえてきた。


「HurryUp! Hurry! Hurry!」

 

 その声と同時に、森林の茂みから横一列に飛び出してくる。

 フェイスマスクにゴーグル、それと重装備を付けた迷彩装備。


「Stay! RightDown!」


 飛び出してきた群れが一斉に動きを止め、一斉に右へとしゃがみ込む。

 

「Cleep Ahead!」


 匍匐前進(ほふくぜんしん)でまっすぐ前進してくる。


「Standup! Go! Go! Go!!」


 号令に立ち上がり全力疾走で俺たちへと向かってきた。

 すげえ。まるで本物の軍隊みたいだ。

 てか、殺気立ってるのは気のせいでしょうか?

 

「Stay!」

 

 また号令がかかり俺たちの数歩手前で皆動きを止めた。

 はっきり言って響以外、俺も含めて皆ビビってます。


「やあ、木崎君。ちゃんと来てくれたんだねー。ありがとー」


 森林から出てきた重装備で固めた軍服姿の牧瀬がにこやかな顔で近づいてくる。

 今までの号令を掛けていたのは牧瀬だったようだ。

 それよか目の前にいる軍服姿の人たちがハアハアと息遣いが荒くて怖いんですけど。

 一番左の人だけ、息を切らさず周りの様子を窺っている。なんかこの人凄そう。


「みんないいよー。楽にしてー」


 牧瀬が言った途端、半数近くがその場にしゃがみ込んだ。

 中には完全に地面に横たわる人もいた。

 

「ごめんね。朝練してたの。ちょっと日の出前に山登って降りてきたんだよ」


 うわ、鬼畜なことを。

 流石はカテゴリー的に運動部だけはある。

 訓練は相当にきついのだろう。

 牧瀬が言っていたのは冗談ではなかったようだ。


「はーい、暫く休憩ね。それぞれ食事と体の手入れしてー。シャワー浴びたい人は浴びてもいいから」


「姫様、大丈夫ですか?」


 横たわる人に声をかけているのは柏木先輩だった。

 ということは、倒れているのは南さんか。

 マスクを取ることすらできず、ただ横たわっている。


「も、もう無理ですわ。足が言うことききませんの」

「私がおぶっていきます。どうかお任せを」

「雪ちゃんありがとう。流石は私の騎士ですわ。おぶるときに私のお尻を弄ぶことを許可しますわ。優しく広げてくださいまし」


 あの変態にとどめを刺そう。

 何か道具はないかと探してみる。


 迷彩服を着た一人が息を整え終わるといきなり近づいてきて太一を捕まえてヘッドロック。

 ヘッドロックしながら、自分のマスクを外す。


「ようやくきたかお前ら」

「北野さんっすか!? 痛いっす、マジで痛いって」

 

 何でこの人は元気そうなんだろう。

 あ、膝が笑ってる。実はやせ我慢してるぽい。


「あ~、みなさん来てくれたんですね。今日はありがとうございます」


 一番左端にいた一人息を切らさずにいた凄そうな奴がマスクを外す。

 驚いたことにそいつは西本で、笑顔で俺たちに近づいてくる。

 相変わらずほわほわしてるというか癒し系だな。

  

「お前、全然辛そうじゃないな?」

「辛くはないですけど疲れてますよ? でもまあ慣れてますから」


 全然、疲れてるように見えないんですけど。

 ところで、どうしよう。

 すでにうちの面々は戦意を喪失してるんですけど。


 いきなりハードなのを見せられて、これは無理だろうと思ったようだ。

 うちの元気娘のアリカも身体能力が高い綾乃も軽く青ざめている。


 うちのメンバーで能力的に一番高いであろう響ですら、

「これは敷居が高すぎるわね」

 そう言い切った。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ