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帰路  作者: まるだまる
317/406

314 夏休み3

 夏休み最初の週に響とデートが一度あった。

 響と愛がカレンダーに印を付けた日だ。

 七月に一度ずつ、八月に二度ずつが書き込まれている。


 デートと言っても繁華街をぶらついてオープンカフェでお茶しただけだ。

 響の場合、前科があるだけに警戒していたのだが、それよりも性質の悪いことが発生した。

 響の姿が不意に消えたのだ。


 一度目は百貨店のトイレに行ったとき、俺が待っている場所が分からなくなって、動くのは危険と判断した響が()の百貨店で待っていた。これは響の極度の方向音痴を甘く見ていた俺の判断ミスで一緒にトイレに行き、入り口の近くで待ってるべきだった。携帯が便利なアイテムであることに改めて気付かされた。


 二度目は繁華街にある小さな公園で休憩してたら、わずか二秒くらい目を離したすきにいなくなった。子犬を見かけて追いかけて行ったらしい。まさか駅にいるとは思わなかった。響に聞いても子犬を追いかけて気が付いたら駅だったらしい。


 三度目は路上パフォーマンスを見物していたら、隣にいたはずの響が消えていた。あいつは視界から外れると消える性質なのかと疑いたくなった。すぐさま携帯で呼び出すと既に違う区画にいて、そこを動かないように指示。回収に向かうと何故か雑居ビルの二階にいた。


 もうその後は、手を繋ぐなり、腕を組むなりして絶対に手を離さないようにして行動した。

 次回はこのパターンを徹底しようと心に誓った。

 別れ際にアクシデントはあったけど、今日は大満足だったわと響は俺に言った。


 響とデートであったことを美咲に言うと特に怒ることもなく、逆に「大変だったね」と同情してくれた。


 その翌日、太一、長谷川、川上、柳瀬を家に呼んで、俺が提案していた課題のやっつけ会。

 すぐに飽きて色々と脱線するのは、このグループの悪いところではあるが、それはそれで楽しいので俺も参加してしまう。予定よりも時間をかけたが課題のやっつけはそれぞれ当初の目的分くらいは達成した。これで太一らが遊び呆けて後半まで何もやっていなかったとしても、一日二日でリカバリーすることはできるだろう。

 途中、課題に追われていた美咲が少しだけ顔を出したが、長谷川、川上、柳瀬のことをやけに気にしていた気がする。何か気になることでもあったのだろうか。聞いても緊張してただけとしか教えてくれなかった。


 この二日後、俺は愛とデートした。

 愛とのデートはどうしようかとデートのガイドブックを見ながら悩んでいたら、妙に聞き覚えのある映画タイトルが目についた。

 少し前から前評判の高いアニメで上映が始まってからも凄い反響らしい。

 これならいいかもと愛を誘ってみた。愛も気になっていた映画だったようで反応は良かった。

 映画は面白おかしくハラハラドキドキする展開で最後は泣けそうになる、正直良い映画だった。

 デートは映画を見たあとに軽くお茶だけしかしなかったけれど、愛は喜んでくれたみたいだった。

 これは周りの人にぜひ見るように推奨したいとも言っていた。

 

 俺も同じ感想を抱いたので、バイトに入ってから美咲に報告がてら勧めてみる。

 すると映画のタイトルを聞いて美咲の表情が一変した。


「えっ!? あれ見に行ったの? 試験が終わったら一緒に行こうって言ってたやつそれだよ」


 間違えてはならないミスをしたことに気付く。

 道理で聞き覚えがあると思ったはずだった。

 

「ああ、そうか。見ちゃったんだ。私との約束忘れて愛ちゃんと見に行っちゃったんだ?」


 それからというもの美咲の機嫌がずっと悪い。

 謝ってもなかなかいい顔を見せてくれない。

 美咲から聞いていたタイトルを忘れていた俺が完全に悪いのは分かってる。


「ごめん。あれいい映画だったから美咲とも行くから」

「もういいよ。晃ちゃんと一緒に行くから」


 そう言ったあと、口を聞いてくれなくなった。


 今朝起こしたときに機嫌が直ると思っていたのに、ハグしたあとに思い出したようにベアハッグに切り替えられ沈められた。話を聞いた春那さんも文さんも「それは明人君が悪いね」と美咲に同情した。


 確かに俺もそう思います。


 そして今――美咲と一緒に駅まで晃を迎えに来ている。

 美咲も試験が終わり、晴れて昨日から夏休み入りした。

 本来なら美咲は昼からバイトだが、店長に言ってバイト入りを遅らせてもらい、俺と一緒に入る予定にしてある。


 我が家へ居候しにくる晃も今日から長い夏休みになり、その間美咲の部屋で同居する予定である。

 母親が使っていた部屋が空いているので使いますかと提案もしたのだが、晃本人から美咲と別々にするのは止めてくれと懇願された。美咲を病むほど愛する晃にとっては同じ部屋に住む方が至福の時間となるのだろう。


「もうすぐかな?」


 隣にいる美咲に声をかけたが、表情を変えずにちらりと見るだけで何も答えてくれない。

 まだ怒ってるようだ。


 改札口を見ていると、晃が大きなキャリーバックを転がしながらこっちに向かっているのが見えた。

 相変わらずのボーイッシュな格好で、背丈も春那さんと変わらないので俺より少し低いくらい、すらっとした体形で遠目に見たら美少年だ。

 

 晃からも美咲が見えたのだろう。ぱあっと明るい笑顔になり足を速めた。

 改札口から出てきた晃はすぐさま美咲を抱きしめた。

 

「美咲会いたかった……あれ? もしかして機嫌悪い? 悪いよね?」


 美咲の様子がおかしいことをすぐに察知した晃。

 流石、幼馴染を長いことしているだけはある。

 

「どうしたの美咲? 何か嫌なことあったんでしょ? 私に言ってみな。もし明人君絡みだったら私が代わりにぼっこぼこにしてあげるから」


 おい、止めろ。

 てか、いい加減横に俺がいることに気付けよ。

 すると、美咲が晃の体をゆっくりぎゅうと抱きしめる。

 

「晃ちゃんいらっしゃい。ごめんね、ちょっと嫌なことがあってちゃんと反応できなかったの。晃ちゃんと会えて私も嬉しいよ」


 効果覿面だな。晃の顔がすごいだらしなく緩んでる。

 ここで初めて俺と目が合い俺がいることに気が付いたようだ。


「あれ? 何で君までここにいるの?」


「迎えに来たんですよ。俺は荷物持ちのつもりです。まあ、それはともかく、晃さんいらっしゃい」


「……うん。明人君お世話になるよ。よろしくお願いします。あ、美咲と同じ部屋だよね? あのお願いは聞いてもらえるんだよね?」


「安心してください。ちゃんと美咲の部屋ですよ。春那さんも説得済みです。それじゃあ、俺らも夕方からバイトがあるんで早目に家に行きましょうか」


 晃から荷物を受け取り、一緒にバス乗り場へと移動。

 相変わらず晃は美咲にべったりとくっついている。

 美咲もさっきまでの顔と違い、良い表情で返している。

 これで少しは機嫌が戻ればいいのだけれど。


 家に着いた後、晃は荷物を美咲の部屋に置いてすぐにリビングに降りてきた。

 荷物整理は俺たちがバイトに行ってる間にするらしい。


「明日は君が言ってたサバイバルゲームに参加するんでしょ? 私もやったことがないから分かんないんだけど、必要なものってあるの?」


「いや、ゲームに必要なものは向こうが全部用意してくれてます。服とか部活用のがあるらしくて貸してくれます。靴だけはどうしようもないみたいなんで、走りやすい運動靴であればいいそうです。大体の身長や体形は伝えてますし」


「へー、準備がいいんだね。私は普段から運動靴系を履いているから大丈夫か。一応スケジュール聞いとく」


 響から聞いたスケジュールを晃に説明。

 八時にサバゲー部が合宿しているキャンプ場に出向き、銃器の取り扱い方やルール等の基礎教育を受ける。

 それから軽い訓練をして昼食後に模擬戦をする廃屋に移動。

 制限時間ありの模擬戦を数回して撤収、そのあとは部員で反省会するので俺たちは解散の流れだ。

 夕方には終わるのでバイトを休む必要はなくなったが、念のためバイトには遅れて入るようにさせてもらった。

 

「廃屋って危なくないの? 崩れたりとかしない?」


「事前調査はしたみたいですよ。それに廃屋といっても平屋が並んでるだけらしいので、屋根とかは登ったら危ないかもしれないですけどね」


「なんだ、てっきりビルとか廃墟っぽいの想像してた」


 それは俺も同じで廃屋と聞いて、最初はビルとかの廃墟をイメージしていた。

  

 しばらくしてバイトに行く時間になり、晃に留守と文さんの食事を頼み美咲と一緒に家を出る。

 今日は美咲も一緒なので早めに移動だ。

 隣を歩く美咲の表情は普通に見える。随分とおとなしいけど少しは機嫌が戻ったのかな。

 そんな俺の心を察知したのか、美咲は俺へと顔を向けて言う。


「……明人君もう怒ってないから。機嫌が悪く見えてたかもしれないけど、もう朝のベアハッグで流したつもりだから。怒ってるのは明人君にじゃなくて……自分にだから……」


「俺に怒ってるんならともかく何で自分に怒ってんの?」


「いつまでも子供みたいに拗ねて……相手が謝ってるのに聞かないで……嫌な思いさせたはずだもん。こんな自分が嫌になってた」


「いや、今回のことで美咲は全然悪くないって。俺に怒って正解だよ」


「……私、最近怒ってばっかりいる気がする。その……明人君を独占しようとしてる。……彼女でもないのに」


「まあ、ほら、それは俺が女の子にだらしないところが美咲的に許せないからだろ。いわゆる一般論であって、それは俺に対する躾みたいなものだと思ってるから、俺も甘んじてお仕置きされてるわけだし」


「……うん。……そうだよね。……違う。……そうじゃない。違うと思ってたし、明人君のこと弟みたいに考えてたんだけど、これは違う」


 美咲は何を言い出しているんだろう。

 

「私……明人君のこと好きなんだ」


 いつになく真剣な顔で。

 触れたら壊れそうな表情で。

 美咲は俺の目をしっかりと見詰めて言った。  


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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