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帰路  作者: まるだまる
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311 美咲の騎士再来10

 晃とは美咲の情報を共有できるということが分かり和解が成立。

 美咲には今のままだが、晃には年上への敬意を払う意味での敬語にすることにした。

 俺も晃から「明人君」と呼ばれるようになった。


 まだ慣れないせいか、お互いにぎこちなさは残るがそのうち慣れるだろう。

 

 しかし和解したはずの晃は、今日も朝から機嫌が悪くなった。

 今日も起こすことを美咲から拒否られたからって、俺に八つ当たりは止めてほしい。


 今も俺をどうやって殺してやろうみたいな目で睨みつけている。


「これだけはどうしても納得できない!」


 と、晃は美咲の部屋の前で俺と美咲が抱擁しあう姿を見ながら言った。


 そう言われましても。


 だってしょうがないだろ。美咲を起こした後にハグは付きものなんだよ。

 美咲の中では、お互いにハグしあうってのが決定事項なんだよ。


 そう思いながらも俺はいつものように美咲をハグしながら美咲の頭を撫でていた。

 美咲は俺の背中に回した手に更にぎゅうっと力をこめ、ぐりぐりと胸元に額を擦り付けている。

 

 俺に疚しい気持なんかこれっぽっちもないぞ。

 敢えて美咲がノーブラなのを意識せず、いやらしい気持ちにならないよう心掛けているというのに。


 美咲がぎゅっと力を一段込めると力を抜いた。どうやら満足したらしい。

 美咲は俺から離れると晃に向かって行って抱き着いた。


 ほら、単なる順番待ちの問題じゃないか。

 晃にだって美咲はハグしに行くんだ。

 そのにやけた顔は全力で阻止したくなるから止めてもらおうか。

 

 言っておくが、美咲のハグは春那さんにも向かうし、文さんにも向かう。

 俺だけじゃなく家族全員がハグの対象だ。


 晃に殴られて譲った日だって美咲からハグの要求はあった。

 殴られた顔を洗面所で冷やしているときに美咲が来て求められていたのだ。

 俺もいつものことなのでその場で返したけれど。


 あの日の「毎朝、明人君とはハグしてるよ?」と言った美咲の言葉に嘘はない。

 たまたま、晃がその現場を見ていないだけだった。

 

 美咲は起きたあと、台所にいる春那さんに朝の挨拶をした後は決まってハグ。

 テーブルに座る前に文さんにも朝の挨拶をするが、その後も決まってハグ。

 春那さんから聞いていたのか文さんも初日から美咲のハグにしっかりと対応していた。


 美咲にとって、朝の挨拶の後はハグが基本で俺だけが特別というわけではないのだ。


 朝食をとっているときに、そのことを晃に言ってみると、

「君が嘘を言っていないことは分かるけど、やっぱりおかしいんだよ。美咲のお父さんにはしてるところを見たことがない」

 と、そう返した。

 

「いや、それは晃さんが見てなかっただけでしょ?」


「いや、それはあり得ないよ。だって美咲を起こしてから一緒に登校するまでトイレ以外で離れなかったし、トイレだって前で待ってたし、私が美咲を起こしに行くようになったのは小学校6年の時からだから一度でもお父さんとそういうことしてたら流石に見てるよ。伊織さんやお母さんに抱き着いてるのは何度も見てるけど」


 6年生の時から美咲を起こしに行ってたのか。歴史深いな、おい。 


「……私は晃から美咲のハグは習慣だからしてあげてと聞いていたからね。家にいる人には皆にするもんだと思っていたんだけれど」


「私は春那から同じこと聞いたねー」


 一人平和そうに朝ご飯をもぐもぐしている美咲に視線が集中する。


「ん?」


 視線に気づいたが、どうやら話を聞いてなかったらしい。

 てか、口端に米粒ついてるぞ。

 晃が甲斐甲斐しく美咲の口端についた米粒を手で取ってそのまま自分の口に入れる。

 おい晃、今ちょっとにやけただろ。

 そういう変態ぽい行為すると、春那さんの顔が一瞬引きつるから止めろ。

 とりあえず、今はおいておこう。


「美咲って起きたあと皆にハグするよな?」


「うん。するね」


 こくこくと頷きながら即答する美咲。


「晃さんが言ってるんだけど、実家にいた時は美咲のお父さんにハグしたことないの?」


「………………そういえば、したことないかも」


 美咲はじっくりと考えて首を傾げながら答えた。


「ほら、言ったでしょ?」


 と、晃さんは自分が嘘をついていないと誇らしげに言った。


「何で俺にはするのにお父さんにはしなかったんだ?」


「え、だって男だし、お父さんだし」


「おい、それを言ったら俺も男だぞ? てか、お父さんだしって意味が分からない」


 美咲は俺に言われて初めて気が付いたみたいな顔をする。


「……お父さんはお父さんだからハグしないし、明人君は明人君だからハグしていいんだよ」


 まったく意味が分からない。

 

「いやはっは。美咲ちゃんは不思議ちゃんなところがあるねえ。そうだねえ、明人君のお父さんが家に帰ってきたときにはどうだろうね。ハグするのかな?」


 文さんがいきなり変なことを言いだしたが、俺としては断固阻止する。

 晃も俺と同じことを考えてる気がする。

 

「……緊張しちゃってまともに話すことも多分無理。みんな忘れてるかもしれないけど、私極度の人見知りだよ? 女の人ならともかく男の人は特に駄目なんだよ? 明人君のお父様とは一度顔を合わせたことがあるけど、どう話していいかなんて分かんないよ」


「「「「……あー」」」」


 そうだった。俺たちの前にいる美咲と普段の美咲は全く違うんだった。

 そもそも、それがあったんだ。

 一緒にいすぎて普段の美咲の存在を忘れていた。


「つまり、美咲の中で唯一ハグを許す男性は今のところ明人君だけということか。美咲があれだけ懐いてる店長とかにもしないしね」


 そんな春那さんの言葉に晃が声を大にして言った。

 

「やっぱり納得できない!」


 美咲に特別扱いされている俺は喜ぶべきなんだろうか? 

 

 

 朝食が終わったところで、今日の各自の予定を言い合う。

 俺と美咲は昼からバイト。


 それまで俺は教習所に一時間だけ座学を消化しに行く。

 これであと実技が終われば卒業試験へと進められる。

 順調に消化しているので、夏休みすぐにでも免許は取りに行けそうだ。

 そのあとは帰ってきてバイトまで特に予定なし。

 春那さんの家事を手伝うつもりだ。


 美咲は午前中、晃と一緒にゴロゴロするつもりらしい。

 晃が美咲はしょうがないなーと言いながらも嬉しそうだ。

 

 春那さんは今日は一日お休みらしく、家事を済ませたあと文さんと買い物に出かけるらしい。

 その時には俺と美咲はバイトに行っている頃なので、晃も連れていくつもりのようだ。


「今日はお昼も皆揃って食べられそうだね。春那よろしくね」


 文さんも家事手伝おうよ。


 ✫


 教習所で座学を終えて帰ってきた。


 今から干すのであろう洗濯物を運んでいる春那さんとちょうど玄関先で出くわす。


「明人君おかえり。思ったより早かったんだね」


「ただいまです。一時間だけですし、終わってすぐに引き上げたんで。今から干すんですか? 俺、代わりましょうか?」


「ありがとう。これは私がするから、リビングに置いてある終わった洗濯物を畳んで分けておいてくれるかい?」


「分かりました」


 俺と春那さんがそんな話をしていると、俺が帰ってきたことに気付いた美咲たちが降りてきた。


「明人君おかえりー。早かったね」


「ただいま。俺は今から春那さんの手伝いするから構ってやれないぞ」


「えー、しょうがない。晃ちゃん続きをしよう。早く育てないと同じとこ行けないからね」


「晃さん、美咲と何やってたんです?」


「ソシャゲー。何か美咲がはまってるやつ。私も新規で始めたんだけど、さっきまでリセマラとかいうのずっとやってた。やっと良いのが出たからそれ育成中」


 リセマラというのはリセットマラソンの略称。新規でゲームを始めるとチュートリアルを過ぎたあたりに何も消費せずにガチャができるポイントがある。そこで新規からそのポイントまで超強力なキャラが出るまで何度も繰り返すことを言う。俺は途中で飽きて妥協したけれど。それでも動きの速いそこそこ強いキャラなので愛用している。 


「ああ、それ俺もやってます。春那さんの手伝い終わったあとで時間があったら参戦しますよ。美咲のより弱いですけど」


「んー、分かった。それまで美咲といちゃついてる」

 

 何かもうこの人完全に隠すこともしなくなったな。

 まあ、言わなくても知ってたけど。

 


 手を洗ったあと、リビングに行くと美咲たちはソファーでべったりくっつきながらゲーム。

 その前には洗濯物の小山が置いてある。てか、お前らも手伝え。

 長いこと放置すると、皺にもなるし、クロの格好の餌食にもなるので早めに片付けよう。


 俺は洗濯物を畳みながら種分けして、それぞれ個人のものにも分けていく。


「えーと、これは春那さん、これは文さん、これは美咲のだな。あ、これは俺か」


 次々と畳みながら分けていると、晃が声を掛けてきた。 

 

「…………ねえ、ちょっと待って? 君、一体何してるの?」


「見て分かるでしょ。洗濯物畳んで分けてるんですよ」


「今、手に持ってるの下着じゃない」


「そうですが……それが何か?」


 俺の手には美咲のパンツがある。

 レース仕立ての薄めのやつで、美咲のにしてはおとなしいタイプだ。


「ちょっと待って! それおかしいでしょ!」


 何を言ってるんだこの人は?


「何で男の子が女の下着を種分けしてんのよ! どう見てもおかしいでしょ! しかも、何で持ち主まで分かるのよ!」


「そんなのサイズ見たらすぐ分かるじゃないですか? サイズが分かりにくい奇抜なのは美咲ので間違いないし」


 堂々と言う俺を晃は困惑した顔で見てくる。

 そしてそのままその表情を美咲に向けた。


「美咲もおかしいと思わないの?」


「晃ちゃん、明人君には下着がただの布にしか見えてないんだよ。私も最初の頃は気にしてたんだけど、気にする方が馬鹿らしくなるの」

 

「下着なんて脱いだらただの布でしょうが。洗えば綺麗になるんだし」


「え、ってことは、君は下着姿見ても何も思わないの?」


 その問いに手をフリフリして答える。


「身に着けてるときは別」


「意味わかんない!」


 やかましい人だな。


「こんな下着付けてるとか想像したりするんじゃないの?」


「何でそんな想像する必要があるのか分かんないんですけど?」


「美咲、この子普通じゃない! 男子らしくない!」


 酷い言われようだな。


 晃は美咲の顔をちらっと見てから、俺を捕まえて台所へと連れていく。


「今からもの凄くとんでもないこと聞くけど、正直に答えてくれる?」


「何ですか一体?」


「……あの、君、アレしてるの? えと、その自家発電?」


 マジでとんでもないなおい。

 何、逆セクハラなの?

 自分で聞いてきて顔を赤くするなよ。

 こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。


「昨日言ったでしょ。俺も欲はあるって、いくら何でもそういうことは聞かないで下さいよ。そんなの恥ずかしくて言えるわけないでしょうが」


 もう、自分で答え言ってるようなものだし。


「そ、そうだよね。ごめん。いくら何でもそうだよね。おかしなこと聞いたよね。ごめん。どうかしてた」


 何、このお互い気まずい空気。

 せっかく和解したのにこの空気は止めようよ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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