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帰路  作者: まるだまる
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308 美咲の騎士再来7

 美咲の機嫌がまた悪くなった。

 そもそも、皆と一緒に暮らし始めてから美咲が不機嫌になることが増えた気がする。

 いきなりお仕置きしてくることも多々ある。何が原因なのか全くわからない時すらある。


 美咲……もしかしてストレスでも溜まってるのか?


 今まで美咲と一緒に暮らしていた春那さんに聞いてみると。

「明人君自身は分からないか。……まあ、今日のはともかく、普段のは間接的に私のせいなんだけど」

 と、わけのわからない答えが返ってきた。


 その後、春那さんが仕事に出かけ、それから少しして美咲と晃も買い物に出かけた。


 買い物の話も美咲が何を買うつもりなのか知らないが、俺についてきてほしいと言ってきたのが始まりだ。最初は俺と行く予定だったけれど、俺と美咲が一緒に行くことを聞いた晃がやかましく代われと俺に詰め寄ってきたので一緒に行くのを譲った。美咲も久しぶりに幼馴染と二人で出かける方がいいだろうと思ったからだ。

 玄関から美咲たちが出かけるのを見送ったとき、美咲が俺に何か言いたそうな気がした。聞こうとしたところで晃が早く早くとせっついてきて結局聞くことができなかった。

 晃も美咲と出かけることを相当楽しみにしているのだろう。どうせなら帰ってくるころには、美咲の機嫌を直してくれるようにうまく立ち回ってほしい。


 言い訳になるかもしれないが、今回の件も隠すつもりはなかった。

 美咲が口を聞いてくれなかったし、バイトが終わったあとも文さんに迎えに来てもらったから、帰り道で仲直りすることもできなくて結局言えずじまい。

 いきなり聞かされたから機嫌が悪くなったのか……。

 これは俺が悪いのか? 一応ちゃんと先に伝えたってことになると思うんだけど。


 美咲の機嫌は直らないままだったけれど、出かけ先で気が紛れてくれることを祈ろう。

 

 

 とりあえず晃との関係をもうちょっとまともなものにしたい。


 晃が俺に一度だけ見せた。


『…………はい。えと、明人君ありがとうございます。お世話になりますがよろしくお願いします』

 

 あのしおらしい態度が実は晃本来の姿なんじゃないかと思う。

 美咲を好きすぎる晃からすると、美咲の近くにいる俺は邪魔者だ。

 だから俺に対する当たりがきついのも分かってる。

 実際晃は、何かにつけ俺に突っかかってくる。

 そんな晃の態度を春那さんは厳しく叱りつけることもある。

 言ってくれるのは嬉しいが春那さんの怒る姿をあまり見たくないので、俺に対する晃の言動や態度には目を瞑ってほしいとこっそりお願いした。それからは春那さんも度が過ぎなければ何も口を出さず、俺の意志を尊重してくれている。

 

 俺は相手が普通に接してくるなら俺も普通に接する。

 相手の態度が悪いから俺も態度が悪くなっている。これは悪循環だ。

 俺だって二人が築いてきた関係を考えれば、こっちにいる時くらいは晃優先で構わない。

 俺の方が美咲との付き合いは短いんだし、俺の方が年下だ。

 こちらとしても礼儀をわきまえるつもりはあるが、ああも頭ごなしに敵意を向けられると、こっちだけまともな対応をするのは馬鹿らしいしカチンとくる。俺がそれだけ子供なんだってことなんだろうけど。



 アリカの時のように最初は仲が悪くても仲良くなれたいいのにと思う。

 歩み寄るにしても、何かきっかけが欲しいところだ。

 美咲が帰ってくるまでにちょっと考えてみるか。


 ✫


 お昼前に約束通り響と愛の二人が我が家へ訪れた。

 愛と響がお昼を作ってくれて文さんと一緒にいただくまではとても平和だった。


 食事が終わったあと、俺の部屋で夏休みの予定について話をしていた。

 大きな予定としては、てんやわん屋の慰安旅行、それとサバゲーの模擬戦参加だ。

 あとは夏休みに父親が帰ってくるくらいで、その他の日はバイト以外の予定はない。


「……うーん。これだと3回ずつはいけそうですね」


 話を聞いた二人は、俺の7月と8月のカレンダーを見ながら印をつけ始める。

 印の一つは○の中にHと書かれ、もう一つは○の中にAが書かれている。何だこれ? 


「じゃあ、この日とこの日とこの日が私ね」

「はい。では、この日とこの日とこの日が愛ですね」

 

「えと、何の話?」

「明人さんを独り占めにする日です」

「二人で相談した結果、取り合ってデートを潰しあうよりも、お互い利益を確保して同じ数だけデートをしましょうって話になったの」


 俺の意見は?


「……嫌なの?」

「嫌じゃないけど……俺、バイトもあるんだぞ?」

「それを確認したかったのだけれど、明人君は夏休みになったら何時から何時までバイトなの?」

「平日は17時から22時で、日曜日が12時から22時までだな。土曜日が一応休みなんだが、臨時がたまにある。夏休みはもしかしたら平日ももっと早く出るかもしれない」


 店長はどっちでもいいよと言ってくれていて、俺の好きに決めていいらしい。


「……明人君のところってブラック企業なの? 休みがないじゃない」


 平日日曜に関わらず働いたって実感があるの2、3時間なんだけど。

 椅子に座ってるだけのお仕事ですと言っても間違ってない。

 今更ながら、これで給料もらっていいのかと思う。

 裏屋は意外と忙しいから正当な報酬だと思うけど、表屋は貰い過ぎだ。 


「それだと所得とか超えてるんじゃないかしら? ……付け替え?」


 響が何やら変なことを言いだしたが、意味が分からん。


「付け替えの意味は分からんが、俺、税金とか社会保険とかは今でも払ってるぞ?」


「……驚いた。それだと扶養も外れてるのかしら?」 


「そのとおりだ。去年バイトのし過ぎで扶養から外れてるんだよ」


 まさか、バイトでも一定以上の月収があると扶養から外されると思わなかった。

 以前バイトしていた卸会社の田崎さんから教えてもらわなければ、知らないところだった。

 そういえば、そのことを母親に言ったら、ふーんと愛想のない返事だけだったな。

 

 

「この間までは自分で国保に入ってたんだけど、払えないことはないが結構高いんだよ。それを美咲に言ったら店長に相談してくれて、てんやわん屋のに入れてもらえたんだ」


 実は美咲も俺と同じ状態だった。美咲の場合は、すでに経験のある春那さんから教えてもらって手続きしたようだ。バイトでも雇用関係なので、その会社の保険に入れるというのは驚きだったが。

   

「……あのー、愛にはよく分からないんですけど……明人さんは去年どれだけ稼がれたんですか?」


「5月から年末までで140万はあったよ」


「ひゃ、140万!? 半年ちょっとでですか?」


 まあ、高校生のバイトの身では稼いだ方だと思う。


 場所は違えど毎日働いてたし、土日なんてバイトが終わったら次のバイトに移動みたいなこともしてたし、ほとんど休みなんて取らなかった。それも家に帰りたくないって理由があったからだが。

 その甲斐あって去年の夏休みは8月だけで30万を超えた。学校に行かずずっと働いていたら、日本の平均年収くらいは稼げるんじゃないかと思ったくらいだ。

  

 俺の場合、給料をもらっても外食費や雑費以外使い道がないのでほとんど貯金していた。

 元々、高校を出たら家を出るつもりで貯めてた金だ。

 今となってはもう家を出る必要もないので、貯めている金で免許取得後にバイクの購入にあてる予定。      

 誤解のないように言っておくと、俺の生活費は父親がちゃんと毎月送ってきてくれている。

 バイトをしなくても俺が十分に生活できる金額は送ってきてくれている。

 自分で生活できる金を得ているが、親の面目もあるだろうし、せっかく和解したのに角を立てる必要もない。父親が送ってくれた金を俺の生活費として、我が家の家事担当である春那さんに預けてある。


「流石は明人さんです! いつか愛を養ってくださいね。その分愛も心も体も奉仕して返しますので」


 何が流石なのかわからないが、愛が頬を染めながら俺の腕にのの字を書きながら言ってくる。

 ほぼ同時に逆サイドで俺の脇腹に響の手刀が突き刺さってる。痛いです。

  

「愛さん、そんなんじゃ駄目よ。今や女性も社会進出している時代よ。明人君は明人君の道を、私は私の道をそれぞれ歩いて、疲れた心と体は一緒に癒すの。そうね、例えばこことかで絡み合うのがいいわ」


 そう言って、手刀を抜いた響は俺のベッドに行きマットをさする。

 おい、そういうこと言うから愛の指が俺の腕の肉にめり込んできてるんですけど!

 地味に痛いんですけど!


「……なんだったら、愛さんをさっさと帰して試してみる?」


 最近響の言動が過激になりつつある。

 それにこいつの場合、前科があるだけに本気かもしれないから怖い。


「……今日こそ響さんと決着をつけましょうか?」


 手をゆらゆらさせながら、威嚇する愛。

 愛に対し、立ち上がると腕を組んで挑発する響。


「……あら、私に勝てると思っているの? もうあなたのスピードには目が慣れているのよ?」


 

 あのなお前ら、人の家にきてまで暴れるな。



 


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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