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帰路  作者: まるだまる
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289 明るい家族計画4

 日曜日。


 目覚めると顔に何かが乗っていた。毛むくじゃらの感触。触れたところが生温かい。すぴー、と寝息も聞こえる。この大きさからしてルーだ。


 腹の上にも、小さい温かいなにかが乗っている。こっちはクロだろう。

 昨日の夜、俺がリビングに降りるときに何故かついてきて二匹で遊んでいた。俺はソファーに転がって、しばらく遊んでいる二匹を眺めていたが、そのまま寝てしまったようだ。


しかし、こいつらが乗って来たのに気付かない俺も俺だな。

起こすのは可哀想だが我慢してくれ。両手でルーを抱えあげる。こいつ、図太いな。まだ寝てやがる。横に転がしておこう。


 クロはどかせようとしたら、気付いて自分から降りる。

「にゃー」

 と、一鳴きして、俺をじっと見詰めていた。


 俺がソファーから降りると、クロは見計らったようにルーの脇へと移動する。クロはまだ小さいので甘えたいのだろう。


 起き上がり時計を見るとまだ7時前。

 とりあえず朝飯の用意をすることにした。

 冷蔵庫を覗きこみ、食材チェック。卵とベーコンがある。

 ベーコンエッグにするか。あとは冷凍していた残り物で我慢してもらうことにしよう。


 炊飯器セットよし。味噌汁も用意よし。


 料理を準備している間に起きたルーとクロが足元にまとわりついてくる。

 どうやら、朝飯を要求しているのだろう。

 本居先生が用意していた猫用の缶詰を開けてエサ皿に移す。

 エサ皿を床に置いてやると、二匹仲良く並んで顔を突っ込んでハグハグと食べ始めた。

 なんか癒されるな。長年猫を飼いたかったから、ちょっと嬉しい。


 みんなまだ寝てるのかな。美咲が春那さんは早起きだって言ってたけれど。

 美咲を起こすついでに声を掛けてみよう。

 2階に上がり、まず自分の部屋の様子を見る。

 俺のベッドの上に掛け布団の卵がいた。美咲はどこでも布団にくるまる習性があるらしい。

 まあ、柵もついてるしベッドの上から落ちることはないだろう。


 卵に近づき、布団を掴む。引っぺがすとゴロンと美咲が転がり出る。相変わらず枕を抱いて幸せそうな顔をしている。布団がないことを察知した美咲は手をあちらこちらへと這わせ布団を探っている。

 そういえば、布団を剥がして放置しておけば、美咲は勝手に起きてくると春那さんは言ってたな。

 このまま放置して先に春那さんたちに声を掛けるか。

 

 隣の部屋へ移動してドアをノック。


「おはようございます。本居先生、春那さん起きてますか?」


「ああ、起きてるよ。ちょっと待ってね。文先輩がまだなんだ」


 春那さんの返事がした。


「――うわっ!?」

 

 春那さんの驚く声とドタンと倒れ込むような音がした。


「ちょっと、文先輩!?」


 春那さんの悲鳴めいた声に部屋を開けると、本居先生に絡みつかれた春那さんの姿があった。

 がっちりと両腕ごと本居先生に抱きしめられ、足もカニ挟みされていた。


「ああ、明人君。文先輩をどけてくれ。起こそうとしたら抱きつかれた」


「……ルーたん」


 寝ぼけてる。こんなでかいルーがいるわけないだろう。

 しかし、これはすごい。

 何がすごいかって、ホールドされた腕の上に春那さんの胸が持ち上げられていつもより大きく見える。

 胸の谷間も何かすごいことになってるし。そのまま、ぽろんと出そうだ。いや、出てくれないかな。 


「明人君。そう私の胸をじろじろと見るのもいいんだけど、先に助けてくれないかい? 見たいなら後で見せてあげるから」


 おっと危ない。思わず夢中になって見てしまってた。

 俺は春那さんに近寄り、抱きしめている本居先生の腕を解こうとする。

 解こうとするが、春那さんの胸がその腕に乗っかっていて邪魔で近づけない。

 

「明人君、気にしないでいいから」


 俺が遠慮しているのに気付いた春那さんが言う。

 春那さんの一言で意を決して、本居先生の腕を解きにかかる。

 手の甲に春那さんの弾力ある胸がぷにょぷにょと当たる。

 

 やばい。やばいよこれ。


 俺の意識が本居先生の腕を解くことよりも手の甲に移る。

 気のせいか、春那さんも顔を赤らめている気がするんだけど。

 思ったよりもしっかりと抱きしめてる。力任せにやったらまずいよな。


 あ、そうだよ。


 本居先生を起こせばいいんだ。なんでこんな簡単なことに気が付かないんだ。

 俺は本居先生の背中側に回り、肩を叩きながら起こす。


「本居先生。朝ですよ。起きてください」


「んや?」


 本居先生は寝ぼけ眼で俺の顔を見つめ、その次に周りに視線を移していく。


「あー、そっか。明人君ちに泊まったんだったー。……ルーたんとクロちゃんは?」


「リビングにいますよ。餌もあげました」


「ありがとう。……で、何で私は春那を抱きしめてるのかな?」

  

 俺が聞きたいよ。


 ようやく春那さんは解放される。

 解放されると同時に春那さんが俺に襲い掛かった。


 ――あれ?


 何で俺は春那さんに押し倒されてるんだ?

 春那さんは頬を赤く染め、はあはあと息遣いも荒い。

 この顔って確か前にも見た気がする。


「明人君が悪いんだよ。身動きできない私にあんなことするから――朝っぱらから興奮したじゃないか。私はマゾなんだから」


 そういうカミングアウトはいらん。

 てか、何でそんなに目がとろんとしてるんですか!

 

「わー、ちょっと待て。本居先生が横にいるんですよ!」


「もう、じんじん疼いちゃって聞く耳持たない。いただきまーす」


 俺の唇目掛けて、顔を近づける春那さん。

 駄目だ。避けきれない――と、思った瞬間、俺と春那さんの間に枕が放り込まれた。

 枕越しに春那さんが顔を埋めたのが分かる。

 あぶねえ。マジでする気だったみたいだ。


「はーい。そこまでー。春那も変わってないわねー。ある意味安心したわー」


 枕を投げ込んだ本居先生が言った。


「ああっ、文先輩邪魔しないでください。この疼きどうしてくれるんですか!」


「それくらい自分で処理しなさーい」


 本居先生に言われた春那さんはむくっと起き上がると、何だか物足りない表情をする。

 春那さんはもじもじとしたまま、

 

「……その気になったから……トイレでいってくる」


 と、部屋から出ていった。 

 今、変な言葉が出てたけど、気のせいにしておこう。

 

「ところで、明人君は襲いに来たの?」


「飯の準備できたから起こしに来たんです。春那さんは起きてて先生を起こそうとして、そしたら先生が春那さんに抱きついたんですよ」


「あー、そうだったのかー。そうかそうか。何で春那が欲情したか合点がいった。私が抱きついたせいで動けなくなって、そこに明人君の刺激が入ったってところかな? 美咲ちゃんは?」


「布団引っぺがして放置してます。それで起きるはずなんですけど」


「昨日の夜、隣からキャーキャー声が聞こえてたから、あまり寝てないかも」


 美咲は何をしてたんだ。

 じゃあ、もう一度様子を見に行くか。 

 

「下に食事用意してるんでどうぞ。俺は美咲を起こしてから行きますんで」


「はーい。さてさて、ルーたんとクロちゃんは元気かなー?」


 本居先生は下へと向かい、俺はまた自分の部屋へと移動する。


 ――何故だ。またベッドの上に卵ができている。

 剥がした掛け布団は床の上に置いておいた。

 それを探し当てて回収したというのか。

 美咲め、相変わらず予想を上回る動きをしやがる。

 

 もう一度、布団を掴み引っぺがす。

 ゴロンと転がり出る美咲の目はちゃんと開いていたが、何故か顔が怒ってる。

 あれ、起きてんじゃん。てか、何でそんなに怒った顔してるんだ?


「おはよう。起きてるなら布団から出ろよ」


「……なんで放置したの? 前みたいに何で優しく起こしてくれなかったの? なんで、すぐに春ちゃんのところに行くの?」


 うわ、めんどくせえ。


「そうか、そうか。明人君はやっぱり春ちゃんのことが好きなんだ。私なんかより、春ちゃんの方が大事なんだ。春ちゃん寝起きいいし、美人だし、スタイルもいいし、完璧だもんね。こんな社会不適合者よりずっといいよね」


 美咲は言いながら、段々と暗くなっていく。

 更にめんどくさくなってきた。


「あー、放置したのは前に春那さんから美咲の起こし方を聞いたからだ。布団剥がしたら勝手に起きてくるって聞いてたから放置した」


「……やだ。前みたいに起こしてくれないとやだ」


 何を子供みたいなこと言ってるんだこの人は。

 仕方ないなあ。


「あー、はいはい。分かりました。一緒に住み始めたら前みたいに起こすことにするよ」


「絶対?」


「あー、約束する」


「じゃあ、許す。はい」


 美咲は笑みを浮かべると、両手を広げた。

 また、朝っぱらからハグしろってか。

 断わったら断ったで、また面倒なんだよな。

 とはいえ、俺からのハグは遠慮させてもらいたい。


「もういいや。ほら」


 俺はいつものように諦めて両腕を広げた。 

 美咲はその姿を見てベッドから飛び降りしがみつく。

 いいかげん美咲が抱きついてくるのに慣れてきている自分が怖い。


「忘れてた。明人君おはよー。……ねえ、明人君」


 あれ? 急に低音の声になったのは何故だ?

 この声って黒美咲だよな。


「春ちゃんの匂いがすっごいするんだけど?」

 

 ぎりぎりと俺を抱きしめる腕に力が込められていく。

 ああ、もうこれは駄目だな。

 まさか朝っぱらからされるとは思ってなかったが、もう逃げられない。

 しかし、これだけは言わせてもらおう。


「さっき春那さんに襲われそうになったが、本居先生に助けてもらった」


「言えばいいってものじゃなあああああああああああああああい!」


「ぐああああああああっ!」


 二日連続でベアハッグは止めていただきたかった。

 俺の腰、砕け散るかもしれない。


 ☆


「ほんとにもう、明人君もどうせ鼻の下伸ばしてたんでしょ」


 俺をベアハッグで沈めておいて、まだ気が済まないのか、

 ぶつぶつと文句を言い続ける美咲だった。


 まあ、俺が回復するまで部屋で待っていてくれたのだけれど。

 二人して下に降りようとすると、下から春那さんがふらふらとしながら昇ってきた。

 気のせいか、顔が上気して脱力している感じがする。


「あれ、春ちゃんおはよう。どうしたの?」


「……ああ、うん。おはよう美咲。いや、ちょっと着替えてから行くから」


「いつも着替えないのにどうしたの?」


「いや、服じゃない」


 これは俺が聞いちゃいけない会話のような気がしてきた。

 美咲は何だかわかっていない様子だ。


「変なの。先に行っとくよ? あ、そうだ。春ちゃんまた明人君を襲いかけたって?」


「あれは明人君が悪い。私の胸を弄ぶから火が着いたんじゃないか」


 あれ、何で俺に飛び火するの?

 気のせいかな。美咲の背中に風神様が姿を見せてるんだけど。


「……明人君、さっきそんな話してなかったよね?」


 美咲は素早く俺の背中へと回り込み、首へと腕を回した。

 愛の瞬歩ばりに素早い動きで、あっという間にお仕置き準備完了状態になった。 


「……なあ、美咲。俺から一つだけ言わしてもらっていいか?」


「……念のため、聞いてあげることにするね。はい、どうぞ」


「胸は揉んでいない!」


「言えばいいってもんじゃないって、言ったばっかりでしょうがああああああああ!」


「うきゅー」


 俺の言い方も間違ってたかもしれないな。

 こういうの今度から毎日続くのか?

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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