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帰路  作者: まるだまる
288/406

285 試写会5

 太一宅へと美咲と共にお邪魔する。


 玄関に太一と綾乃の母である涼子さんが姿を見せた。

 40代とは思えない若々しさにどうやって維持しているのか不思議なところだ。


「二人ともいらっしゃい。今日は綾乃がお世話になりました。そんなところにいつまでもいないで、すぐに上がって、上がって」


 俺と美咲は涼子さんに頭を下げると、にこやかに話す涼子さんにリビングへと通された。


 リビングに置かれたテーブルに美咲と並んで座る。

 俺の正面に太一が座り、美咲の正面には綾乃が座った。

 横に座った美咲は「何だか少し緊張する」と俺に耳打ち。

 

 美咲は人の家に上がるたびに緊張しているような気がする。

 響の家に行った時も、俺の家に来たときもそうだった。

 勝手が違うので当たり前なのだろうけれど、普段緊張した面持ちをあまり見せない美咲なだけにちょっと新鮮だ。 


 席を外していた涼子さんがお茶菓子を用意して持ってきてくれた。

 そのまま綾乃の横に座り、美咲と俺の様子を見て微笑む。


「ところで、美咲さんと明人君はお付き合いされているのかしら?」


 と、いきなりとんでもないことを言い出した。


 綾乃は目を見開いて俺と美咲を交互に見る。

 太一はやれやれと言った顔で呆れた顔をする。

 美咲は、かあっと耳まで赤くなった。


「いや、俺たち付き合ってませんから。ただのバイトの先輩後輩ですから」


「私の見たところそれだけじゃないように見えるんだけど?」


 涼子さんは笑みを崩さずに言う。


 俺と美咲って周りから見てそう見えるのか?

 川上や柳瀬もそんなこと言ってたし、そういえば愛も美咲のことがどうのこうの言ってたような気もする。

 とはいえ、誤解はちゃんと解消すべき。

  

「いや、確かに美咲さんとは仲良くしてもらってますけど。一緒にいる時間が長いって言うか、色々手間がかかるって言うか、えと、そうそう仮に言ったら家族みたいな――」


 家族という言葉を出した途端、脳裏に両親の離婚話が浮かび、言葉に詰まる。

 今頃、離婚は成立しているだろう。俺の本当の家族はバラバラだ。

 父親とは和解できたけれど、単身赴任中で遠くに住んでいる。

 母親は家を出たあと、一度も会っていない。

 まともに家族関係のない俺が、そんな俺が美咲を家族みたいだなんて言っていいのか。


 涼子さんの眉が少し上がる。

 やばい。今の態度は不審に思われたか。

 

「――面倒くさい姉みたいなもんです」


「明人君はしっかりした弟君ですー」


 何故か俺に同調する美咲も顔を赤らめたまま言い、テーブルの下で拳をぎゅっと固め振っていた。

 今、誰にもばれないようにガッツポーズしてなかった?

 どうせ美咲のことだから、姉と弟の関係の完成だとか喜んでるのだろう。

 何となくだけど美咲がそんなことを考えているような気がする。


「お似合いだなと思ったんだけど、違うのね」


「俺はまだ誰とも付き合ってませんから」


「そうよねー。美咲さんと付き合ってないんだったらアリカちゃんとかとデート行くわよね。おかしいと思ってたの。美咲さんと付き合っていながら、他の子とデートに行くなんてって思ってたから」


 太一に視線を飛ばすとさっと視線を避けた。

 こいつが情報源に違いない。どこまで言ってるんだろう。

 

「まあ、デートって言っても一緒に遊びに行っただけですから。今日みたいなもんですよ」


「綾乃から明人君が美咲さんをすぐに誘ったって聞いたから、てっきりそうだと思い込んでたわ」


「母さん、詮索はそれくらいで。俺の話聞いてくれる? 今日さ、午前中ちょっとだけアリカちゃんとも会ったんだよ。バイトがあるからって、途中で帰ったけど」


 太一から澤工の生徒会との対談について話を聞かされた。


 最初の出迎えではアリカもいたらしく、少しの間だけ対応していたようだ。

 アリカを見た南さんは病気が出て、北野さんが何度かしばき倒したらしい。

 お願いだから、他校に行ったときくらいはおとなしくしていて欲しい。


「アリカちゃんって愛想振りまかないんだよ。話聞けば生徒に人気あるのに、あれもったいないって思った」

 

 どうやら、ちびっこさがみなのマスコット的な存在として可愛がられているらしい。

 部活に来ていた澤工3年の女子がアリカを見つけた途端、捕まえて高い高いしているのを太一は目撃したという。

 アリカ本人は嫌そうな顔をしていたらしいが、力で解決はしなかったようだ。


 なんだよ。俺には力で解決しようとするのに、先輩にはしないのか。

 俺も高い高いすればよかった。俺の父性を満足させろ。

 今度、アイアンクロー覚悟で挑戦してみようか。


「男の反応はどうだった?」


「アリカちゃんと向こうの生徒会から聞いて想像してたのとちょっと違ったな。確かに、女王として君臨はしてるみたいなんだけど……力とか恐怖で支配というより人気者……実はほとんどがアリカちゃんを愛でてるみたいな」


 横で美咲がうんうんと頷く。

 まあ、病的にアリカを愛でてる一人でもあるから気持ちがわかるのだろう。


「体育会系ばりに先輩後輩はきっちりしているし、上からは可愛がられて、下からは姉御的な感じで敬われてる。そんな印象を受けたな。アリカちゃんが帰ってから向こうの会長さんが言ってたけど、生徒会に引き込みたいって理由も分かるよ。たーだ……ちょっと愛想がね。足りない。媚びを売れとは言わないけど、もうちょっと気を許してもいいんじゃないかなって気はしたな」


 よくもまあ一日やそこらでここまで分析できるものだ。

 しかし、生徒会に引き込みたいという話は前回の話し合いでは出なかった。

 アリカ自身には聞かれたくないといったところか。

 

「頭よし、運動よし、人柄よし、それで可愛い顔してるだろ。欠点らしい欠点はあのちびっこさで、でもそれが逆に最大のメリットにもなってる感じ」


「ほめちぎりだな。本人聞いたら悶え苦しむぞ」


「それだけにもったいねえと思ったんだよ。みんなに聞いたらなんか壁を感じるというか、距離を取ってる感じがするんだと。まあ、みんな上辺だけじゃなくて腹の底から仲良くしたいだけなんだけどな。聞いてて響を思い出したよ」 


 うーん。アリカも響と同類か。

 類は友を呼ぶというが、ここまで似なくてもいいだろ。

 ここ最近の響の行動や態度から、響という完璧人間に囚われず怯むことなく接してくる相手を好むのが分かった。


 挑戦者という位置づけならば大熊ゆかりがいる。

 だが、そんな大熊も普段響に接することはせず、響もそういう一線を引いている。


 好むのはアリカや愛のような存在だろう。

 アリカや愛と絡んでいるときの響は楽しげだからこれは間違いないと思う。

 

 

「カテゴライズすると明人もこの分類だな」


「俺も?」


「お前もすぐに人と距離を取る癖がある。まあ、最近はそれほど目立たなくなったけど。去年の今頃は露骨だったからな」

 

 当たっているだけに返す言葉もない。

 去年の今頃と言えば、バイトに明け暮れて会話していたのはやたらと絡んでくる太一だけだった。

 その太一にすら不愛想な態度を取っていたのだから。


「もう、お兄ちゃん。そんな言い方したら駄目でしょ! すいません明人さん」


「いや、本当のことだから」


「過ぎた話を出した俺が悪かった。ところで綾乃これ何入ってんの?」


 綾乃に叱られたからか太一は綾乃の横に置いてあった袋に手を伸ばす。

 

「今日の収穫。あ、お兄ちゃんにお礼言い忘れてた。ありがとう、おかげで欲しかったのちゃんと買えた」


 兄妹とはいえちゃんと礼儀は通す。当たり前のことだができてない人も多い。

 自然と出るところは基本この二人は正しい育てられ方してるのだと思う。


 綾乃から試写会の報告を聞いた太一は綾乃が買ってきた設定資料をパラパラと捲り目を通す。


「これ俺が読んだことがないやつじゃね?」


「お兄ちゃんが趣味に合わないとか言って、一巻も読まずに返してきたやつだよ。ちゃんと読んだら、お兄ちゃんも気に入るやつだから絶対おすすめだってあれだけ言ったのに」


「そんなこと言ってたっけ?」


「言った。明人さんなんてちゃんと今回のために一巻読んでから一緒に行ってくれたんだよ。お兄ちゃんも見習いなさい」

 

 綾乃は口を尖らせて、太一の太ももをバシバシと殴りつける。それほど痛みはないのか、太一は平然と設定資料を捲り続ける。その手が何度か止まる。毎回、ブラックの絵が写っているところで止まっている。ブラックの露出が高いせいもあるだろうけれど、太一は巨乳好きだし、特に胸の谷間辺りが気になるのだろう。俺も男だから分かるが、俺なら逆にそういうページはさっさと次に捲ってしまう。それは俺が見栄っ張りなせいもあるからだろう。


 設定資料に目を通す太一に横から綾乃が自分が見た状況を添えて説明。

 兄妹のやり取りを見ていて緊張が解けたのか美咲も説明に参戦する。

 多分、美咲も言いたくてうずうずしていたのだろう。それを皮切りに美咲は饒舌に語り始める。綾乃がさらに加担して話の勢いを付けるものだからますます止まらない。


「二人の話聞いてると、行かなかったのはもったいない感じだな」


「そのとおりだよ、お兄ちゃん」


「太一君惜しかったね。おかげで私は見に行くことができたんだけど」


「まあ、美咲さんが喜んだんならそれでいいや。綾乃も面白かったみたいだし」


「綾乃は特にどんなシーンが気に入ったの?」


 涼子さんが聞くと綾乃は眼鏡の位置を直して、


「全部なんだけど――あ、一つだけお披露目したいのが、えっと」


 綾乃はそのままソファに転がると、ひじ掛けを掴み足を跳ね上げ、そのまま新体操のように足を広げてひじ掛けの上で手を軸にくるりと回転。手の力だけで跳ね上げてソファの後ろに身体を潜ませる。


 試写会にあったブラックが狙撃されたときに回避した瞬間のワンシーンだ。


「このシーン、私でもできると思った」


 ソファの裏からひょこっと顔を出して言う綾乃。


「うわあっ! すごい、ブラックにそっくりだった」

   

 美咲はパチパチと拍手を送る。

 映像見ただけなのに再現できるのか。

 

「綾乃ちゃん、前から思ってたけど身体能力高いんだね」


「部活で鍛えてますし、部長ですから」

 

 たしか、漫画研究会だったよね。

 身体を鍛える部活とは違うと思うんだけど?

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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