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帰路  作者: まるだまる
281/406

裏・帰路(藤原美咲)

帰路の特別篇。美咲視点です。

明人の家に居候してた時のお話です。

 明人君の家にお世話になって早くも一週間が経過した。


 相変わらず優しい明人君は寝坊助な私を毎朝起こしに来てくれる。

 私が確実に起きるまで諦めず起こしてくれる。


 私の布団を剥いたあと放置するだけの春ちゃんとはえらい違いだ。

 冬に放置は死にそうになるから止めてほしい。


 もし明人君みたいな弟がいたなら私はブラコンになっていたと思う。

 やはり、このうちにいる間は、密かに明人君を弟という設定にしておこう。

 いいこと? お姉ちゃんが認めないと彼女なんて作らせませんからね。

 

 お姉ちゃんは弟君にハグしたいのです。

 猫みたいにごろごろじゃれ合いたいのです。


 と、いっても明人君は照れ屋さんだから簡単にハグさせてくれない。

 今日あたり狙ってみるか。姉と弟の禁断の愛ごっこしよう。 


 妄想は膨らむけれど、実際の明人君はそんなネタには絶対乗ってくれない。

 紳士なのは認めるけど、ちょっとくらいは私の妄想に付き合ってほしい。 

 

 しかしながら、明人君よ。


 私は君に少しだけ不満を覚えています。

 君がとっても私のことを大事にしてくれてるのは態度で分かります。

 でも君は私のことを本当に女として見ていないんじゃないか?


 同じ屋根の下で暮らしてるっていうのに、バイトの時と全然変わらない。

 少しは私のこと女と意識しろって言いたい。

 

 春ちゃんは明人君も男だから襲ってくるかもしれないぞとか、言ってたけど。

 ないから。そんな気配が明人君には微塵もないから。

 

 一応、これでもピチピチの女子大生だよ?

 今時ピチピチって言わないか。

 そういや、最近お腹のあたりにぜい肉がついてきたような……

 

 これも明人君のせいだ。


 晩御飯は少しでいいのに、晩ご飯を一緒に食べようって私を誘うからだ。

 美咲も食べるだろって、あんないい笑顔で言われたら断りにくい。

 しかも、帰りがけにスーパーとかで私が我慢してるときに限って、何でスイーツ買うの?

 嫌がらせだ。


 違うか。自分に負けたんだった。

 

 しかし、明人君がアリカちゃんとのデートから帰ってくるまで何をしよう。

 明人君は、家で私と晩御飯を一緒に食べるって言ってたけど……。

 デートだから晩御飯も食べてくると思ってたのに。


『美咲の方が先に帰ってくるよね。美咲一人でご飯なんて味気ないだろ。晩御飯は一緒に食べよう。アリカを送って買い物して帰ってくる。そんなに遅くならないからさ。俺が帰ってくるまでおとなしく待っててよ』


 そんなこと言われたらおとなしく待ってるしかないじゃない。


 料理は絶対作ったら駄目とか言ってたし……こんなことならバイトが終わったあと本屋さんに寄り道すればよかった。とりあえず洗濯物を片付けて、その後は携帯アプリでもして暇をつぶすことにしよう。


 最近始めた携帯アプリ。私のお気に入りだ。地味にコツコツ育てているアクションゲームだけれど、私のキャラ達はまだ弱い。持ちキャラも未だに大当たりキャラといえるものを持っていない。


 元々クイズアプリをやっていた私だけれど。くじ運が悪いのか、いいキャラに恵まれなかった。けれど、この家にお世話になってすぐに貯めていたクリスタルでガチャをしてみたら私好みの女の子キャラが当たった。しかも大当たりキャラ。初めて大当たりキャラ引いた嬉しさのあまり、お風呂に入っていた明人君にまで報告しに行ったくらいだ。むちゃくちゃ怒られたけど。

 あの嬉しさが忘れられない。このアクションゲームでも10連ガチャがしたくて、ジュエルの入手クエスト消化を開始する。今やっている限定ガチャでは私のお気に入りのキャラが大当たりキャラとして登場している。


 これはぜひ当てたい。この家にいる間ならなんだか当たるような気がする。


 今回ばかりは課金しようかと悩んだけれど、課金は絶対にしないと心に決めていた。一度やったら最後。課金に歯止めが効かなくなるような気がするからだ。私のように心が弱い人間は最初から課金しないことが大事だと思う。 


 とりあえず、明人君が帰ってくるまで頑張ってみよう。

 ゲームをしてると途中でたまにダウンロードの長い時がある。

 この間が少し考え事する時間になったりする。


 明人君とアリカちゃん今ごろ何してるのだろう。

 

 明人君から聞いた話だと、お昼を一緒に食べてそのあとは夕方くらいまで繁華街とかぶらつくとか言ってたけれど。もう6時だけど今頃どの辺りにいるんだろう。帰ってる最中かな。

 待てよ。あの可愛いアリカちゃんと行動して明人君がアリカちゃんの魅力にメロメロにされてたらどうしよう。明人君が狼になって可愛いアリカちゃんを押し倒してるかもしれない。

 駄目です。お姉ちゃんはそんなこと許しません。アリカちゃんはお姉ちゃんのものです。


 とりあえず、明人君が帰って来たら一回は首を絞めたい。

 今日の行動をとりあえず全部白状するまでは猶予を与えてあげよう。


「ん、今、取ったばかりなのにプレゼンボックスに数が増えてる?」


 携帯の画面に目を戻すと、端にあるプレゼントボックスに数字が浮かんでいる。

 プレゼントボックスを開けてみると、不具合のお詫びで運営から15個のジュエルが配布されていた。


「あれ、あと2回クエストしたら10連できちゃう?」


 しかし、私の弱いキャラでは残っているクエストに挑戦してもクリアは厳しい。

 あと数日で限定ガチャも終わってしまう。これは何とかしてクリアしないと。

 

 がむしゃらにクエストアタック。

 

 何度も何度も挑戦するも画面に浮かぶのは「ミッション・フェイル」の文字。

 携帯も熱くなってきている。こんなに長い時間やるのは久しぶりだ。


 指を滑らせ、中ボスの攻撃を回避。弱い攻撃を何度か当てて必殺技で大ダメージ。

 雑魚を倒し、罠や仕掛けを乗り越えて、苦労してボスステージまでたどり着く。けれども4人いたキャラの内、2人はすでに死亡。残るキャラ2人もHPは半分、MPはわずかに残っている程度。ここまで苦労してラスボスまで来たんだもの、なんとかクリアしたい。


 コンティニューはジュエルを消費するのでしたくない。

 

 どうやら神様は私の頑張りに答えてくれたらしい。

 最後の最後で必殺技が使えるまでMPが回復した。必殺技でラスボスを倒しきることができた。


「よし、あとクエストもう1回クリアすればガチャれる」


 と、気合を入れなおしたときに玄関からチャイムが鳴った。


「え、明人君。もう帰ってきた!?」


 私は慌てて玄関に行って明人君を迎え入れる準備をする。

 おのれ。あと一回でガチャができるのに。どうしてくれる。


 まあ、それはあとで頑張るとして、それよりも聞かねばならないことがある。


「ただいま」

「おかえり」



 何で人の顔見た途端、そそくさと家に上がろうとするかな?

 何かを誤魔化そうとしているな。 

 とりあえず、逃がさないように明人君の両肩を鷲掴む。


「さてと、お話聞きましょうか?」

「な、なんのでしょう?」


 あれー?

 明人君の顔が引きつってるなあ。

 どうやらこれは、後ろめたいことでもあるのかな?

 逃がさないよ。掴んだ手にさらに力を加える。


「隠し事したら分かってるよね?」


 さっさとお姉ちゃんに話して楽になりなさい。

 

 ☆

 

 どうやら明人君はアリカちゃんとのデートが楽しかったらしい。

 あんな可愛い子とデートなら当たり前だ。

 お姉ちゃんの許しなく交際は認めませんからね。

 

 明人君が料理を作っている間にジュエル入手クエストの続きをする。

 ああ、もうイライラする。ゲームもなかなかクリアできない。

 

「ん、あれ? このクエストはトラップ当たってもいいのか……」


 さっきまで苦労していたのはトラップに当たらないクエストだったので同じ条件だと思っていたけれど、このクエストにその条件は入っていなかった。これは何とかなるかも。


 クエストを再スタートさせ、無茶な突撃はせず各個撃破。宝箱を回収しつつ、万が一の被ダメージに備えて設置されている回復アイテムも破壊せずに保存。行ったり来たりを繰り返し、ようやくラスボスのステージへ。


「うわ。初めて見るやつだ。強そう。どんな攻撃してくるだろ」


「美咲。もうすぐ飯できるぞ」


「うん。もうちょっとで終わるから」


 今はそれどころじゃないの。指先に神経を集中だ。

 指の操作次第でクリアがかかってる。

 クリアすれば10連ガチャが待っている。

 

 ボスステージにはラスボス以外にも数匹雑魚がいる。私にとってはそれも雑魚じゃない。


 最悪だ。このラスボス遠距離攻撃持ってる。

 やばい、やばい、やばい、やばい。


 何とか避けつつ、必殺技。MPがなくなったら即座に距離を取ってキャラチェンジ。またラスボスに近づいて必殺技。雑魚を巻き込み雑魚は処理できた。3人目、4人目と同様にキャラチェンジ。もうMPが残っているのは、最後の弓キャラだけだ。この子は弱いからすぐ死にやすいのに。ラスボスが急激に近づく。必殺技を使う。あれ、今ダメージが大きかった。

 もしかして、弓キャラがラスボスに有効な特攻を持ってる?

 ボスが怒った感じで走ってくる。やばい、当たったら多分即死だ。


 逃げろ、逃げろ。


 この弓キャラもあと1回は必殺技が打てる。ラスボスとはほんの少し距離がある。

 ここで根性の必殺技だ。お願い当たって。

 画面がスローモーションになってラスボスが倒れた。 


「美咲。飯できたぞー」


「やったあああああああ!」


「さっきまで機嫌悪かったのに何でそんなに喜んでんの。そんなに腹が減ってたのか?」


 明人君ってたまに勘違いしてる時があるよね。

 でも、まあ、今は気分がいいので許します。


「ご飯、ご飯。今日はなーにかなー?」


「サバの塩焼きと大根の味噌汁。あとはスーパーの惣菜。筑前煮を買ってきた」


「何だか今日はワ・フーだね」


「なんでそんなにテンション高いの?」


 気にしないでいいよ。いただきまーす


 ☆ 


 さて、春ちゃんからの電話も終わったし、いよいよガチャリますか。


 ところで、さっきから明人君が悔しそうに打ちひしがれているけど、どうしたんだろう。 明人君は春ちゃんが絡むとよくああいう姿を見せる。そんなにあのおっぱいが好きなのか。確かにすごいけど。実物を生で見たらさらにおったまげるよ。あの大きさで垂れてないって、どうなのよって。


 何か自分が惨めな気になってきたから止めよう。


 とりあえず、深呼吸。


 このボタンを押すまでの期待感が半端ない。

 全部外れたときのショックもまた大きい。まあ、私の場合はそれがデフォルトなのだけれど。


 今回はどうしても当てたい。これが最後のチャンスだろう。

 期限を考えると、これを逃したら単発もできない。

 

 期待をこめてプッシュ。


 一人目から金色のローブがいきなり登場。これは星3以上確定キャラだ。2人目も金、3人目も金、4人目も金。最終的に8体の金と紫色が3体。今までの最高記録だ。今までなら3体金がいればいい方だった。あれ、一人多くない? まあ得したと思えばいいや。そして中身のキャラが登場するシーンに移る。ドキドキ感が半端ない。


「うわ、いきなり超極レア来た! でも、あの子じゃない……」


 二人目は星3キャラ。すでに持ってる。ダブった。

 ああ、もう待てない。画面をタッチしていきなりスキップさせて結果を見る。

 

 星4の超極レアキャラが4人いて、その中に私が切望していたあの女の子キャラがいた。

 私は喜びのあまり、明人君に見せようと振り返ると、さっきまで打ちひしがれていたはずの明人君が床に腰を落としソファーに背もたれて寝息をすうすうと立てて眠っていた。


「あれ、明人君疲れちゃったのかな。うわー、ぜひ見てもらいたかったのに」


 私は手に入れたキャラの子を早速お気に入りに登録。ちゃんと育ててあげるからね。携帯に頬ずりする。


「さて、寝てる明人君をどうやって起こそうか」


 姉プレイで優しく起こすか。それとも、まだお仕置きしてないから起こすと同時に落とすか。どちらも捨てがたい……。うん、ここはせっかくだから姉プレイにしよう。

 そーっと近づき、明人君の顔を覗き込む。……弟設定なら明人君って言うのも変か。 


「……明人。こんなところで寝たら風邪ひくよ?」


 これ駄目だ。恥ずかしすぎて耐えられない。顔が熱くなる。やっぱ呼び捨ては無理だな。

 それにしても明人君、前に愛ちゃんが来たときもそうだったけど一度寝ると起きないよね。

 なんだか悪戯したくなる。前は顔に落書きしたけど、今回はお風呂入ったあとだし可哀想だよね。

 

 ふと気付いた。今なら明人君にハグし放題じゃない? 起きたら起きたで問題ないし、起こそうとしたって言えばいいんだし。我ながらいい考えだ。うん、ここは姉プレイを継続しつつのハグし放題と洒落込もう。


 明人君、覚悟しろ。うへへへへへ。


 そーっと、そーっと明人君を起こさないように慎重に明人君に抱きついてみる。

 本当に起きない子だな。


 今のうちに明人君成分をたっぷりチャージさせてもらおう。お風呂上りだからか明人君からボディソープの香りがする。この匂い好きだなー。もうちょっと近くで嗅がせてください。

 明人君を抱き寄せて首元に鼻を近づける。


 引っ張り過ぎたのか。明人君の身体が私に向かって倒れてくる。

 私も体勢がよくなかった。支えるにも力が足りない、それどころか一緒になって倒れてる。

 せめて明人君が床にぶつからないようにしないと。

 

 明人君の頭を何とか抱え込む。そのまま床にポテンと倒れ込んだ。

 私は完全にひっくり返ってしまっていた。


 私の目の数センチ前に明人君の瞑った目がある。とても近い。

 鼻もお互いの鼻が当たってる。 


 これはどうなっているんだろう?

 そして私の唇に当たっているのはなんなんだろう?  

 私の唇に触れているものが動いた。

 私は気づく。これは明人君の唇なのだと。


 明人君の口が小さく動き私は口を吸われた。

 いや、明人君は寝てる。起きたわけじゃない。

 今のはきっと呼吸だ。落ちつけ。落ちつけ美咲。


 手が宙を彷徨う。


 どうしていいか分からないし、こんな状態で明人君が起きたら困る。

 私はそーっと、そーっと明人君が起きないように身をよじりながら身体をずらし明人君の頭を支え、繋がった唇を解き離す。

 

「……明人君とキスしちゃった……」


 どどどどどどどどどどどどどどど、どうしよう!

 これがばれたら明人君に絶対怒られる。

 そもそも私が悪戯しようとしてハグしたことが原因だ。


 いや、これは事故だ。わざとじゃない。それに明人君は寝てて気が付いていない。隠そう。これは明人君に絶対、内緒にしよう。そうと決めたら少しだけ気が楽になった。


 もしかして、明人君て誰かとキスしたことあるのかな。私は今のが初めてのキスだったけど、明人君もそうだったらいいな。

      

 未だ起きない明人君の寝顔を見つめる。

 

「……私のファーストキス返せ……」

 

 つんと明人君のほっぺたを軽く突いた。明人君は少しだけ嫌そうな顔をした。 

 指を離すと少しだけ顔が緩む。


 明人君、可愛いところもあるよね。

 私は明人君の顔に自分の顔を近づけた。


「…………これも事故だからね」


 ☆


「あれ? もしかして、俺寝てた?」

「う、うん。で、デートで疲れたんじゃない」

「あー、ゲーセンでダンスゲームやったからかなー。結構激しかったから」

「そ、そうなんだ。今度、私もやってみたいな。そのゲーム」


 落ち着け。落ち着け美咲。


「じゃあ、今度みんなで行ってみる? アリカも愛ちゃん連れていきたいとか言ってたし」

「そ、そうだね。みんなで行こうね!」

「……美咲? なんでこっちに顔向けないの」


 ごめん。今は顔を見る余裕がない。

 自分を落ち着かせるのに必死なの。


「な、なんでもないよ」

「また、何かしたのか?」


 明人君が急に私の目の前へと顔を覗きこんだ。

 今の心境でこの距離は――――


「き、近親相姦は駄目なんだからああああああああああ!」


 私は何故かそう叫んでリビングを飛び出した。

 どうして私はこうなんだろう。


 絶対、明人君におかしい奴だって思われてるに違いない。

 あ、明人君に超極レアキャラが当たったのも見せてない。

 私、一体何やってるんだろ。


 二度・・も事故起こしちゃうし、やっぱり私は駄目だ。

 明人君、明日も起こしに来てくれるといいな。 

 

 

 寝る前の挨拶もちゃんと言わなくてごめんね。

 伝わるといいな。おやすみなさい、明人君。


 

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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