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帰路  作者: まるだまる
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27 看板娘と密約2

「突っ立ってないで、明人君も座りなよ」

 美咲さんが自分の横にある空いた椅子を、ポンポンと叩きながらいった。

 言葉にしたがってレジに入り、椅子に座る。

 ここから見えるのは客のいない店内で、寂しいものだった。

「……相変わらずの閑古鳥ですね」

「今はいないけど、今日はアウトドアグッズとか結構売れたよ」

「あー、ゴールデンウィーク近いからですかね?」

「かもねー。明人君は家族でお出かけしないの?」

「うちは忙しいんで、ゴールデンウィークどこも行けないんですよ」

 俺は笑顔で嘘をついた。

 去年の俺なら、戸惑っていただろうが、この一年で家族の話題を振られても、ごまかしの対応ができるようになった。

 正月に父親の姿を見たが、それから一度も家には戻っていない。

 ゴールデンウィークに帰ってくるかどうかも不明だ。

 帰ってきても、俺の生活に変化が起きることはないが、それならばいっそ、帰ってこないほうがましだと思う。


「美咲さんは今回帰らないって言ってたけど、こっちに用事あるんですか?」

「三月に一度帰ったのよ。私の家パスタ屋をやってて、ゴールデンウィークとか関係ないし」

「パスタ屋ですか? パスタ食べ放題ですね」

 俺はパスタが好きなので、羨ましそうに言うと、

「明人君、それは大きな勘違いだわ。メニュー開発の時、毎日パスタ食べさせられるのよ? しかも、微妙に違う似たような味を毎日……。私、トラウマになってて普段パスタ食べたいと思わないの」

 うんざりした表情で美咲さんは言った。

 俺も毎日パスタを食べさせられたら、飽きて見るのも嫌になると思う。

「……それは分かるような気がします」

「姉も私と似たようなこと言ってたわ」


「そういや、昨日アリカに絡んでた時も姉しかいないとか言ってましたけど、お姉さんいるんですね。歳は離れてるんですか?」 

 俺がお姉さんの話を振ると美咲さんの体がびくっと揺れた。


「……姉は四歳上よ」

 触れてはいけない話題だったのか、美咲さんの顔が引きつっている。

「……私が今回帰らない本当の理由は、姉のせいなのよ」

「お姉さんとは仲が悪いんですか?」

「ううん。むしろ仲はいいほうよ」

 仲がいいのに、お姉さんのせいで帰りたくないとは、なんでだろう?

「ええ? それじゃ、なんで?」

「姉が…………腐ってるからよ」

 美咲さんは話すことをためらうように言った。

「腐ってる?」

「BLって分かる? 姉はそれの本を作ってるの。腐女子道まっしぐらな人なの。」

 BLってボーイズラブの略だよな。

 たしか男同士の性行為もあったりして、好きな人には、たまらない世界らしい。 実物は読んだこともないし、気持ち悪さが先行して見ようとも思わない。

「作ってるって作家さんですか?」

「うん。姉は小説作家をやってるの。一応ちゃんとした出版社のお世話になってるわ。その他に趣味で同人誌作ってるんだけど、その世界では、かなりの有名人で信者もいるらしいわ。何度、その道に勧誘されそうになったか」

「BLって、ガチでホモの話ですよね?」

「それ、姉の前で言うと殺されるわよ?」

 真剣な表情で美咲さんは言った。

「ええ? 中身はそうなんでしょ?」

「あの人たちには違うのよ。愛のある世界なのよ。私達の理解を超えているわ。日曜日に電話したら、また修羅場に入っているらしくて、帰ったら確実に強制連行の上、最後まで手伝わされる。あの地獄に自ら飛び込むなんて耐えられない……」

 顔を青ざめながら言い、美咲さんは、ぶるぶると身を震わせていた。

 修羅場とか地獄ってどんな環境なんだ?

 美咲さんが、それほど恐れているとは……。 

「普段の姉は、優しくてのんびりしてて、家事全般もできるから、どこに出しても恥ずかしくない姉なのよ。だけど病気が出ると……。ドラマを一緒に見てたら、若い男の子が二人出て来るシーンとかで『右の子が受けね』とか真顔で言い出すのよ! いくら姉でも怖いものは怖いわよ! 特に友達と一緒に製作してる時なんか……鬼や悪魔のほうが、ましだと思うくらい怖いのよ! しかも今回は、仕事じゃなくて趣味のほうの修羅場だから余計に嫌!」

 美咲さんは、たまっていた鬱憤をぶつけるかのようにまくし立て、ぜえぜえと息を吐く。

 昨日アリカを襲っていたことを思うと、美咲さんもお姉さんの事が言えないくらい変な性癖があるじゃないかと言いたくなった。

 身の危険を感じるので、その事は黙っておこう。

「それで今回は帰らないんですね」

「こういうときの姉には近寄りたくないの」

 美咲さんは腕を組み、ため息を漏らしつつ呟いた。

「お姉さんって、美咲さんに似ているんですか?」

「顔は似てるわね。……でも姉は体つきが春ちゃんと同類だから……」

 悔しそうにちらりと自分の胸元をみていう。

「えーと、胸がでかいと?」

「うん。姉は私よりスタイルいいもん。明人君も胸おっきい方がいいでしょ?」

 美咲さんは、俺の顔色を伺いながら聞いてきた。

 返しづらい質問はやめてほしい。

「そりゃ、男なんで全く気にしないってのは嘘になりますけど。それだけじゃないですから。男が全部巨乳好きというのは妄信ですよ」

 男が胸の話をするのは少し抵抗があったが、正直な感想を述べると美咲さんは安心したような顔で「そっか」と呟いた。

 美咲さんのスタイルは全然悪く見えないから、正直な感想としてはこれでいいだろう。

「ちなみに明人君、幼女に手を出すのは犯罪だよ?」

「俺にそんな趣味はねえ!」

 あなたもお姉さんと一緒です。ある意味怖いよ。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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