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帰路  作者: まるだまる
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255 アリカとデート4

 少しばかり街をぶらつき、5時を回る。

 そろそろアリカを送っていこう。夕食は家族とした方がいいだろう。

 それに美咲がそろそろ家に帰っているはずだ。


「愛ちゃんに言われたんだけどさ。家まで送ってきてほしいって」

「明人が遠回りになるのに、あの馬鹿」

「いや、気にしないでいいよ。帰りに買い物もして帰るし」


 市の西方面へと向かうバスに乗り込み移動開始。


「明人、今日は楽しかったよ。明人は楽しかった?」

「ああ、俺も楽しかったよ。ダンスゲームまたやりたいな」

「うん。あたしもあれまたやってみたい。次はクリアしたいよね」

「だな。また今度行こうぜ」

「うん。今度は愛もいいかな?」

「全然、構わないぞ? 大勢いた方が賑やかでいいじゃん」

「あの子の場合はクリアできなさそうだけど。愛ったらさ、やたらとメールしてきてたのよね。明人の映像寄こせだの、写メを送れだのって、しなかったけど」


 愛らしいと言えば愛らしい。


 他愛もない話をしているうちに、俺がバイトをしていたファミレスであるアミーズの看板が見えてくる。

 アミーズ前のバス停で俺たちは降車。ここから歩いて5分ほどでアリカの家に到着だ。

 しばらく歩き進んでいると、アリカの姿を見た通りすがりのおばさんが声をかけてきた。 


「香ちゃん、こんにちは。今日は可愛い格好してるわね。もしかして彼? デートだったの? 」


 アリカの格好を褒めたあと、にんまりと笑って俺を見る。一応、会釈でご挨拶。

 いわゆるご近所の話好きおばさんって感じだな。


「高杉さん、こんにちは。で、デートてほどじゃないですよ。ちょっと一緒に遊びに行ってただけで」

「香ちゃん。それを世間一般じゃデートっていうのよ。香ちゃんも大きくなったのね」


 いや、高杉さん。アリカは小さいです。

 分かっているけど心の中で突っ込む。  


「す、すいません。失礼します。明人いこ」

 アリカは恥ずかしいようで、道を進めようと急かす。

「あらまあ、名前で呼び合う仲なのね。――明人君か、何だか懐かしい名前だわ。もしかして木崎って言ったりして」

「「え?」」


 高杉さんの独り言が耳に入り足が止まる。

 アリカもどうやら聞こえたようだ。

 何でそこまで言い当てる。例え話にしたって奇遇すぎる。

 

「すいません。あの、今、木崎って言いました?」

「え、そう言ったけど……もしかして、本当に木崎明人君?」

「はい、木崎明人です。俺のこと知ってるんですか?」


 高杉さんのことは俺自身の記憶に無い。

 何でこの人は俺のことを知ってるんだ?


「あらあら、まあまあ、何て偶然なんでしょう。覚えてないかしら。そうよねえ、もう10年、いやもっとたつかしら。あなたが6歳くらいの時の話だもの」


 高杉さんはなんだか嬉しそうに言う。


「すいません。俺、覚えてなくて。できれば教えてもらっていいですか?」

「今は規制が厳しくなってやっていないんだけど、当時、子供の預かり所をしていたの。明人君はその中の一人だったのよ」

「そうだったんですか。すいません。覚えてくれていたのに、当の俺が忘れてしまっていて」

「いえいえ。あなたの場合ちょっと特殊だったから覚えていたの」

「特殊?」

「言っていいのかどうかと思うけど、延長の常連さんだったから」


 少しばかり言いにくそうに高杉さんは言った。


「延長の常連って、どういう意味ですか?」

「うちがやっていたところは、公務員とか時間がはっきりしている人向けだったの。延長も一応してたけど、明人君のところは毎回で……。失礼ですが、お母さまも少し気の強い方だったので……」


 今の話を聞くと母親が相当無理を言ったのだろう。


「迷惑かけてたのならすいません」

「いえいえ、明人君はいい子だったから手間はかからなかったわ。そういえば、香ちゃんとも遊んでいたの覚えている?」

「俺とこいつがですか!?」

「あたしが明人と遊んでたって、それ本当ですか?」

「本当よ。明人君ね、お母さんが迎えに来るのを公園でよく待ってたの。明人君がうちの預り所から別のところに移るちょっと前かしら。そのくらいの時に何度か香ちゃんと愛ちゃんと一緒に遊んでるのを見かけたことがあるわ」  

 

 高杉さんはとても嬉しそうに言った。 


「あなたたち縁があるのね。じゃあね。お幸せに」


 高杉さんは会釈を一つすると道を進めた。 


 俺の中で一つの話と今の話が糸を結ぶ。


 いつだったか、俺が美咲とアリカに恋愛感情ってどういうものだと聞いたとき、アリカから聞いた話。

 その時の話って、アリカにとっては切ない初恋話で確かちょうどその頃の話だった。

 今の話を聞く限り時系列的に状況が一致していて、つまり、それって、俺がアリカの初恋の相手?

 

 もし、そうであるならば、お互いが知らず知らずのうちに再会していたことになる。


 アリカはポカーンとした顔で俺の顔を見つめてる。

 アリカ自身も気が付いたのだろうか。

 勘がいいアリカのことだ、きっと気が付いているだろう。

 俺は今、どんな表情をしているのだろう。

 

 二人残された路地で、俺とアリカはお互いの顔を見たまんま固まっていた。

  

「……明人」

「……アリカ」


 お互いの目を見つめ合う。

 阿吽の呼吸か、偶然か。


「「できすぎ!!」」

 

 互いの口から同時に出たのはこの言葉だった。


「あり得ない。あの子があんただなんてあり得ない。絶対間違ってる!」  

「いやいやいや、俺だって言いたい。俺は昔から女の子に声をかけたりできないタイプだったし、女の子と一緒に遊ぶなんてあり得ない。仮に預けられてたのが本当だったとしても、そこまではあり得ない!」

「そうよね。高杉さんの勘違いよね。そうよ、そうに決まってるわよ!」

「そうだ、そうだ。そうに違いない!」


 何故か二人して興奮して話から目を逸らそうとしていた。

 もし、本当に俺の話であったとしても、俺自身に記憶がないことだ。

 俺としてはアリカの切ない初恋話を汚したくなかった。

 俺みたいなやつが初恋の相手だなんて、いい話が台無しだ。


「……明人。いこっか?」

 息を整えたアリカが帽子をかぶりなおして言った。

「……ああ、そうしよう」


 二人無言のまま、アリカの家へと道を進める。

 そして、アリカの家が見えてきた。

 車が駐車していないところを見ると両親は不在のようだ。


 門の前でアリカが立ち止まる。


「……ねえ、明人」

「うん?」

「さっきの話がもし本当だとしたら、あたしたち再会したってことだよね?」

「……そうなるかな」

「前はあの時に戻って「ありがとう。またいつか」って言いたかったけど……」


 アリカは俯いて自分の腕をそっと抱きかかえる。


「今は「ありがとう。また、よろしく」でいいよね?」


 アリカは顔を上げると、にっこり笑って言った。

 その笑顔は、俺が見てきたアリカの中で最も可愛く見えた笑顔だった。


「ああ、こちらこそよろしくだ。まあ、さっきの話が本当だったらの話だけどな」

「勘違いしないでよね。あくまで本当だったらの話なんだからね!」


 これが俺とアリカの初恋話への決着だった。

 

 ☆


 愛里家のドアの前。

 ピンポーンとアリカがチャイムを鳴らす。

「愛~。帰ってきたわよ~」

 インターフォンからガチャンと音がして、今度はドア越しにドタドタと走る音が聞こえる。

 ガチャガチャと複数の鍵を開ける音がして、扉が開くと同時に愛が飛び出してくる。


「明人さん、ようこそ、いらっしゃいませ~!」


 アリカに目もくれず、真っ先に俺に抱きつこうと向かってくる愛だった。

 横から手が伸びて来て愛の頭をがっちりと抑えるアリカ。

 片手で愛の勢いを消せるのか。すげえ力だな。 


「……あんたのお姉ちゃんが帰ってきたっていうのに、挨拶もなしに明人優先って、おかしくない?」

「か、香ちゃんお帰り。ほ、ほら、香ちゃんは家に入ってからたっぷりできるし、明人さん成分は今を逃すと週明けまで補充できないし、ね?」

   

 アリカだけじゃなく、俺にも成分があったのか。


「ご近所さんの目もあるから、ここでそういうことしない。分かった?」

「……はい」

 アリカの迫力にみるみる愛の勢いが消えていく。

 しゅんとする愛だった。

 アリカは手を放し、愛が俺にぺこりと頭を大きく下げる。

 

「香ちゃんを送っていただきありがとうございました。……あの、明人さん。香ちゃんどうでしたか? ご迷惑かけませんでしたか?」

「全然、楽しかったよ」

「何であたしが迷惑かけるようなことあるのよ? 逆ならあり得るけど」

 

 何で逆ならあり得るんだよ。

 ちょっとカチンと来たぞ。


「可愛くねえな。泣かすぞ?」

「誰が誰を泣かすって? 逆に泣かしてやるわよ」

「お前の弱点は分かってんだぞ? 怖いのとか」

「ちょっ!? それ卑怯でしょ。男らしくない。男なら拳で来なさい」

「女相手に拳でいけるか。お前、自分が女だってこと忘れてるだろ」

「何よ。なんならやってもいいわよ?」

「ちょっとまったー!」


 愛が俺とアリカの間に割り込む。


「愛、邪魔しないで」

 アリカが言うことを無視して、俺へと振り向く。

「明人さん、正直に答えてください」

「な、何を?」

「幼女の毒にやられてませんか?」

「はい?」

「誰が幼女よ、誰が!」

「愛が見る限り、お二人に嫌な空気が流れています」


 愛はまるでワンハンド銃を両手に構えるかのように、俺たちを指差す。

 まあ、今も口喧嘩してたんだけど。嫌な空気と言えば嫌な空気だろう。


「まるで絆を深めたみたいになってるじゃないですか。口喧嘩してるように見えてじゃれあってるように見えます。香ちゃん先に言っとくけど、明人さんは「愛の嫁」なんですからね」


 知らない間に嫁にされていた。


「もちろん、「愛が嫁」でもいいんですけど」


 隙ありとばかりに俺の腕を抱きかかえる愛だった。


「こら、愛。言ったばっかりでしょうが!」

「そんな、そばを「まだ食ってるでしょうが」みたいな言い方しても遅いもんね」   

 

 愛はそんなネタをどこから拾ってくるんだろう?


 愛里姉妹が揃うとぎゃあぎゃあと賑やかになる。

 それは俺にとっても居心地がいい賑やかさで、羨ましいと思えた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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