254 アリカとデート3
たっぷりと休憩したあと、どこへ行くというわけでもなく街をぶらつく。
お互いに気になる店があったら覗いていく。そんな感じだった。
「明人。ここ寄って行こうよ」
途中、アリカが指差したのは、GWの時にカラオケの帰りに寄ったゲームセンターだった。
「ここって、少し古い機種あるよね」
「そういや、そうだな」
「前に来た時に気になってたのがあるの」
アリカに着いていくと、あるゲーム機を指差す。
「これ、やってみたかったのよね」
「ダンスゲームか。俺もやったことないな」
矢印の「↑↓→←」が降ってきて、画面のライン上に来たところでリズムに合わせて同じ矢印を踏むゲーム。
リズム感がないと速攻で終わりそうだ。
左右に同じものがあり、一緒にできるタイプだったので二人して挑戦してみる。
どちらかがクリアすれば、もう1ステージ遊べるようだ。
二人とも初めてなので、まずは初級から始めるのがいいだろう。
リズムによってレベルが違うようで「60♪」から「180♪」と幅広い。
アリカが曲をセレクトして、「リズム100♪」レベルの曲を選ぶ。
「もっと遅い方がいいんじゃないか?」
「自信ないの?」
「やったことないからな」
「いいじゃん。とりあえずやってみるべし」
第1ステージスタート。
軽快なアップテンポのサウンドが鳴り響き、リズムに合わせて矢印が登ってくる。
俺の画面もアリカの画面も同じ矢印の向きが登ってくる。
最初こそステップボタンの位置に慣れがいったものの、曲が進むうちに慣れてきた。
「これ、楽しい」
アリカがリズミカルにステップを踏みながら楽しげに言う。
「うん、面白い。うわっ、ミスった」
踏むのが少し早すぎた。30コンボまでいったのに。
アリカは80コンボまでミスなしだったが、矢印が10連続で降りてきたゾーンでミス。
1ゲーム目は二人ともパーフェクトは無理だったがクリア。
思った以上に体を動かすゲームだった。
「ちょっと速い曲やって見ていい?」
「ああ、いいよ。どうせならクリアはしようぜ」
アリカが次に選んだのは「リズム150♪」の曲。
これも乗りがいい感じの曲で踊りやすそうといえば踊りやすそうだ。
曲が始まり第2ステージスタート。
前半こそ緩やかだったが、途中から急激にアップテンポして矢印が途切れない連鎖状態に突入。
「ちょっ!? これ無理!」
「目と足が追い付かない!」
多分、傍から見たら二人して地団駄踏んでるように見えただろう。
連鎖状態に突入後、ミスの連打にゲームオーバー。
「あー。さすがにこれは慣れが必要だわ」
「足がもつれた」
このあと何度かリベンジを図り連鎖状態のところは超えたものの、一番最後に高速連鎖ゾーンが待ち構えていて最後まで辿りつけなかった。
「くー、悔しい。あと少しなのに」
「さ、さすがに疲れてきたぞ」
「そうね。今日はここまでにしましょう。楽しめたわ」
ゲームはクリアできなかったが、アリカは満足そうに爽やかな笑顔を浮かべる。
店を出ようと移動したとき、アリカがプリントシール機のところで足を止める。
「どうした?」
「あたし、こういうのって家族としかしたことないなーって思って」
「俺もあんまり使ったことないな。中学の時に仲良かったグループで撮ったくらいだ。友達少ないし」
「人のこと言えないけど、あんたも寂しい人生送ってるわね」
ほっとけ。俺の場合は自業自得だ。
高校に入ってからも連絡してきてくれていた友達を切ってしまったのは自分なのだから。
今更、どんな顔して連絡すればいいかも分からない。
それはさておき、アリカが家族としか撮ったことがないのだったら、付き合うのもいいだろう。
「今日の記念にでも撮る? 特大オムライス完食記念」
「どんな記念よ。あたしは大食いですって言ってるようなもんでしょ。人に見せられないじゃない」
「見せなきゃいいじゃねえか」
「あ、そっか。見せなきゃいいんだ」
アリカはぽんと手を叩いて頷いた。
どうやら自分で納得できたようだ。
説明文を見ていると、3枚選んで印刷してくれるようだ。
撮り直しも可能、タッチペンで落書きも可能のようだ。
「えーと、フレーム色々あるね。明人はどれがいい?」
「あんまりごちゃごちゃしてると狭くなるからな」
フレームを選んでいるアリカが悩んでいる。
ギャグ方面に持っていきたいのか、シンプルな方面に持っていきたいのか。
ここはセンスの問われるところだろう。
「これ、可愛い……」
アリカの操作している画面を見ると、ちょっとリアル系の熊2体が並んでいる。
熊の胸元に穴の空いたフレーム、顔をそこに当てはめる感じだろうか。
アリカがそれにするなら付き合うけどさ。結構、熊にこだわるんだな。
「これと、これと……」
一番最初にさっきの熊を選択していた。アリカの中で決定事項らしい。
もう一つはシンプルなフレーム、後で落書きする用かな?
アリカの動きがピタッと止まる。
フレームを見てみるとハートマークの物ばかりが並んでいた。
こういう種類も多いよな。
カップル同士でも友達同士でも選ぶ子は多い。男同士は止めろと言いたいが。
「これ可愛いんだけど、これはちょっと駄目かな……」
「何で? お前の好きなのでいいんだぞ?」
「だって、ハートだとおかしくない? か、カップルみたいだし」
「俺、気にしないぞ?」
単なる写真だし、ふざけた写真なんていくらでもある。
カップルでなきゃハートマークが使えないというのもおかしな話だ。
友達同士なんだから、特に問題ないだろう。
「……明人がいいなら、これにする」
フレームも決まり、いよいよ撮影開始。
まず熊のフレーム。しかし、ここで問題発生。
アリカの背が低いので、穴まで顔が届かない。
「踏み台ないのか?」
「普通ならあるんだけど。この店置いてないみたい。失敗したー」
俺もきょろきょろと周りを探してみたが、踏み台が見当たらない。
「これで撮りたかったのに、残念。変えるね」
「変えなくていいよ。アリカちょっと我慢してくれるか?」
ひょいとアリカを抱えてみる。
軽いなー。このまま持ち上げて高い高いできそうだ。
不意に持ち上げられたアリカは顔を赤面させてあわわと粟食っている。
「ちょ、ちょっと明人」
「これなら撮れるんじゃね? 身体写らないし、アリカはきつくね?」
「きつくないけど、恥ずかしいわよ!」
「ちょっとの我慢だ。位置合わせするぞ。長くなるとさすがにきつい」
熊のフレームに合わせて、お互いの顔の位置を調整。
上下の微調整をして、フレーム内に収まる。
一旦、アリカを降ろして撮影再開。
「アリカいくぞ。押してくれ」
再度、アリカを持ち上げ位置調整。
3・2・1・カシャ――
「おし、いけたな」
「う、うん。早く降ろして?」
アリカは耳まで真っ赤にして言った。
そう言われると、俺の父性が刺激されたのか、何だかこのまま高い高いをしたくなってきた。
少しばかり力を加えて持ち上げようとする。
「高い高いしたらぶっ殺すよ?」
アリカがものすごく冷めた目で見つめてきたので、怖くなってすぐ降ろした。
惜しい。俺の父性が欲求不満になりそうだ。
2枚目は一緒に並んでピースサイン。
3枚目のフレームはでかい金のハートフレームで周りに花が散りばめられている。
これは真ん中寄りに立たないとフレームに入りきらない。
二人して位置調整。アリカの顔の位置が微妙に低い。
さっきと同じようにするにしても、持ち上げてる姿が映ってしまう。
さすがに背後から抱きかかえるのは抵抗がある。下手すれば触ってしまう。
まあ、ツルペタだから触ってしまってもそれが胸だと気付く自信がない。
「今、変なこと考えなかった?」
アリカが眉間にしわを寄せて睨みながら言ってくる。
危ない。相変わらず勘が鋭い奴め。
ともかく位置をうまい具合にするには――ふと、いい考えが浮かぶ。
この作戦なら欲求不満になった俺の父性も満足するに違いない。
「アリカ、おぶされ」
「――ええっ!? くっつくの?」
「それなら俺が位置調整しやすい。嫌なら別の方法考える」
少し悩んでアリカはうんと頷く。
俺はしゃがんで、アリカに背中を向ける。
アリカは俺の体にそっと手を回しもたれかかる。
うん。やっぱり、愛や美咲と違って感触が伝わらない。
残念だ、分かっていたけど、やっぱり残念だ。
「――今、あんた隙だらけなの忘れてないでしょうね?」
「何のことだ?」
画面に映るアリカの目が怪しかった。
危ない。この状態で変なこと考えると危険だ。
父性を満足させるだけに留まろう。
位置調整して、撮影開始。
トクトクとアリカの心臓の音が背中越しに伝わる。
随分と早く感じる。アリカの表情が見えないけれど、今どんな顔してるんだろう。
撮り終わると同時に機械から放り出される。
むごい。俺にも写真見せろ。
落書きもしてないし、俺にもその権利をくれ。
「いいから、あんたはそこで待ってなさい!」
数分後――。
「なあ、俺にも見せてくれよ」
「駄目。絶対、駄目」
アリカは印刷後、すぐさま写真を取り出し確認すると自分の鞄にしまった。
アリカの顔の映りが悪かったという理由で見せてもらえなかった。
そんなの気にしないと言っても頑なに拒否するアリカだった。
俺に見せられないということは、お前……俺の写真に落書きしたな?
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。