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帰路  作者: まるだまる
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252 アリカとデート1

 ――女って怖い。


 服装や髪型がほんの少し変わるだけで印象が変わる。

 思えば、今までの俺はアリカのほんの一部しか見ていなかったことになるだろう。


「明人、お待たせ。待った?」


 約束の時間どおりに待ち合わせ場所に来たアリカを見て、俺は思わず見惚れてしまった。

 そう思えるほどに今日のアリカは印象が違った。 


 ボーダー柄の灰色のワンピースに黒のレギンス。頭には服と揃えたような灰色のキャスケット帽。

 いつもはゴム止めしてツインテールにしている髪も、今日は下ろして赤いリボンで編み込んでいる。

 何だか遊園地に行った時よりも女の子らしい姿で、幼女趣味じゃない俺が見ても普通に可愛いと思えた。


「な、何じっと見てんのよ?」


 アリカが照れ臭そうに顔を逸らして言う。


「いや、その、可愛い格好してるなって」

「こ、これ美咲さんと一緒に買い物に行ったときに買ったやつなの。そ、そっか可愛いんだ。か、買ってよかったわ」


 アリカは耳まで真っ赤になってもじもじとして答えた。


「今日は髪型も違うんだな」

「で、デートなんだから、いつもと一緒じゃ芸がないって愛がしてくれたの。似合ってるかな?」

「ああ、マジでいい感じ」

「そ、そっか。じゃあ、行こっか。最初はショッピングモールだったよね?」 

 

 それから移動を始めて、最初の予定である駅ビルのショッピングモールへと移動。

 予定では、お互いが覗いてみたい店を回っていくことにしてある。

 駅ビルが終われば、次は繁華街方面を同じように巡回し、ある程度腹を空かせた状態にしてから目的地である「ぽっぽこむ」で挑戦に移る予定だ。


 ショッピングモール内のエレベータ前の地図でそれぞれのフロアを確認。

 先ずは上の階から順番に回っていくことにした。

 エレベーター前は少し混雑していて、俺たちは3つあるエレベーターの右側に並ぶ。

 俺たちの前にも後ろにも人が並んでいて、一度に乗り切れるか微妙な人数だ。


 俺たちの待つエレベーターが到着し、順番に乗り込んでいく。

 俺たちが入った時には半分ほど埋まっていて、後からもまだ乗り込んできていた。

 エレベーター内の人口密度は跳ね上がり、このままだとアリカが挟まれかねない。

 俺はアリカの手を引いて互いの位置を入れ替え、壁際へとアリカを移動させる。


「こっちにいろ。潰されるぞ」

「うん。……ありがと」


 アリカが小さくお礼を呟く。ちゃんと聞こえたぞ。

 もう乗るスペースも少ないのに乗り込もうとする客がいる。

 俺の背中にも後ろにいる人からの重圧を感じた。

 俺の前にいるアリカに重圧がかからないように、手を壁に当ててアリカのスペースを確保。

 このスペースを確保すれば、アリカが潰されることはないだろう 

 一応アリカに確認しておこう。


「大丈夫か?」   

「う、うん。大丈夫」

 

 満載となったエレベータは上の階へと移動を始める。

 一つ、また一つと階を進むごとに客が少しずつ降りていく。

 人がエレベーター内を移動する度に背中に重圧がかかる。

 重圧を堪えながらアリカの様子を見る。

 アリカはちらちらと俺を見上げているけれど、目が合うたびにすぐに俯いていた。

 4階に到着すると、エレベーター内の客のほとんどが降りていく。

 残ったのは俺とアリカのほか、4人ほど。

 空間の広くなったところで、俺はアリカの横に並ぶようにして位置を変えた。

 6階に着き、俺らはエレベーターを降りる。

 

 6階はホビー系の店が多く、小さなゲームセンターや本屋、雑貨屋、CDショップなどが並ぶ。

 雑貨屋を覗き見して店内を見て回る。

 アリカがたまに気になる物の前で立ち止まったりする。どうやら熊系がアリカの好みのようだ。

 そういえば、大事にしているとかいうスーさんも熊のぬいぐるみだったっけか。

 裏屋ではつなぎ姿でいて、ほこりまみれになったり、油の着く作業があったりするけれど、こう見るとアリカもやっぱり普通の女の子なんだなと思う。


 雑貨屋でアリカが「熊の手」とかいう肉球型クッションを手にする。 


「可愛いな。買っちゃおうかな……」

「今、買うと荷物になるぞ? どうしてもって言うなら止めないけど」

「……そうだよね。無理して欲しいわけじゃないから止めとく」


 移動して手帳のコーナーに行くと何個か物色して手にする。

 最終的に候補に残った手帳を手に一悩み。


「そろそろ買い替えようかな……」

「お前の手帳って、継ぎ足しできるやつじゃなかったっけ?」

「……そうだった。中身の予備も家にあるんだった」  


 こんな感じでアリカは行く先々で物欲全開に衝動買いしようとする。

 その度に俺はちょっとした意見を言って阻止していく。

 まあ、素直に意見を受け止めて諦めてくれるのが幸いだった。

     

『衝動買いが非常に激しいので無駄遣いしないように見張ってください』

 と、愛から教えられていたことが正しかったことを改めて知る。

 

 雑貨屋の後に本屋へと移動。

 俺が前にバイトしていた繁華街の本屋と違い、店の面積もあって書物の揃いがいい。

 雑誌、小説、コミックとそれぞれのコーナーを回って、お互い興味のある本について教えあう。

 アリカが甘々な恋愛本に興味があることも分かった。

 そういうのに興味がないと思っていたけれど、そこは意外だった。

 俺も恋愛系の本を読めば、恋愛感情というものが分かってくるのだろうか。

 一度試すのもいいかもしれない。

 

 雑誌コーナーでバイク雑誌を見たアリカに俺がバイクの免許をいつから取りに行くのか聞かれた。

 明日の日曜日、午前中に入校式があり、そこから教習はスタートする。

 実技の講習はバイトがあるから次回までお預け、最初の座学2時間を消化する予定だ。

 バイトをしながらの取得計画なのでスパンは長めに計画している。

 目標は夏休みに取得。計画どおりに行けば7月の終わりには取れるはずだ。

 

 コミックコーナーでは少女コミックのところでアリカが眉間にしわを寄せて見上げていた。

 どうやら目当ての本がそこにあるらしいが、確実に背が届かない位置にあるのだろう。

 背の低さは気にしていないと前にアリカは言っていたけれど、不便なこともあるだろう。

 俺も踏み台を探してみたが、近場には見当たらない。

 

「アリカどれだ? 俺が取るよ」

「あ、ありがとう。えと、そこの左から3冊目」

 

 アリカの指定したコミックを取ってアリカに渡す。

 続き物の最新刊で13巻だった。

 アリカはコミックの表裏と見てがっくりとする。


「――ごめん。読んだやつだった」


 アリカは申し訳なさそうに俺へとコミックを手渡す。

 アリカのお願いしてくる仕草がちょっと可愛い。

 何だろう。こういうの父性っていうんだろうか。

 前にも似たような感情を感じた気がする。

 世話をする満足感が心地よい。


 駅ビル内のショッピングモールをなんだかんだで1時間半ほどうろつく。

 思ったよりも時間は消化した。

 繁華街に移動したところで、アリカの様子が少しおかしいことに気が付く。


「アリカどうした? 疲れたか?」

「ううん。ちょっとお腹空いてきた。朝ご飯少なくしてきたし」


 これは思ったよりも、挑戦しに行くのは早い方がいいかもしれない。

 ピークを越えてしまって、逆に食べられなくなることはよくある話だ。 

 お腹が空くと狂暴化するとも愛は言ってたし、遊園地でも目が据わってたのを俺の目で見ている。


「予定切り上げて先に行くか? 飯食った後、またゆっくり回ってもいいし」

「明人はいいの?」

「全然、アリカのコンディション次第だ」

「……じゃあ、行く」


 こうして俺たちは目的の店「ぽっぽこむ」へと向かった。

 ちょうど飯時だったからか、店内はそこそこ混んでいた。

 店に入った時はテーブルの空席が二つあって、俺たちが入った後にすぐに満席になった。

 対面で座りアリカは被っていたキャスケット帽を脱いで、鞄と一緒に自分の隣の空いた席に置く。

 

「アリカ、心の準備はいいか?」

「……うん」


「俺も同じメニューに付き合う。俺も頑張る」

「……うん」


 アリカは直前になって緊張しているのか、抑揚のない声で答える。


「失敗を恐れるな。お前はお前の全力を出せ」

「……OK! いつでもいいわよ」


 気合の入ったアリカの顔に変わる。

 よし、その顔なら勝負できる。

 

 そして俺たちはチャレンジメニューを注文した。

 店員は小さい身体のアリカが頼んだ時には驚いて心配してくれた。

 

 そして、俺たちの目の前に注文した「ぽっぽこむ特大オムライス」が姿を見せる。

 普通のオムライスの5倍。グラムにして2000グラム、2キロだ。

 てんこ盛りされたオムライスは巨大な山そのものだった。

 アリカもその量を目にして眉間にしわが寄る。


 店員が計測用のタイマーを用意してテーブルに置く。

 制限時間は20分。成功すれば無料。失敗すれば一人3000円。

 

「開始してよろしいでしょうか?」


 店員が俺たちの顔を見て聞いてくる。


 アリカはオムライスから視線を外し、まっすぐに俺を見つめる。

 俺はその視線に答えるように、スプーンを握りしめた手をアリカに差し出す。

 アリカも察して同じようにスプーンを握りしめた手を差し出す。

 俺たちは互いの健闘を祈って、拳と拳を軽く突き合わす。

 さあ、それぞれ頑張ろうじゃないか。 


「お願いします!」

「では、チャレンジ開始!」

  

 その声と同時にタイマーのスイッチが入れられた。  


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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