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帰路  作者: まるだまる
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248 女の勘は危険2

 時間に余裕があったので、一旦帰宅して着替えてからてんやわん屋へ移動。


 自宅からバイト先に向かう中、響と愛のことを考える。

 響と愛の争いは日を追うごとに激しいものになっている気がする。

 競り合って互いに引く気はない様だ。


 どちらかが俺にアプローチしてこなければ、基本的に二人の仲は良い。

 二人で話し込んでいることも見られるからだ。

 響は無表情が多いけれど、愛の表情から楽しげに話しているから問題はないだろう。

 

 別れ際に響が「愛さんが来なかったら、してくれたかしら?」と小さく耳打ちした。

 答えることはできなかったけど、響は気にもしていないようだった。

 やましい気持ちでそういう行為はしたくない。

 自分自身の欲望のままにしてしまったら、響の気持ちにつけこんでいることになる。

 それこそ、校内に出回る噂が事実になってしまう。絶対に避けなくちゃいけないことだ。

 ちゃんと付き合うことにしてからだ。


 ☆

  

 てんやわん屋に辿り着く。

 店横の従業員用の出入り口から入ると、カウンターで美咲が枯れていた。

 目は虚ろ、表情は陰鬱で、いつもの華がない。

 まだ、朝のこと引きずっているのか。

 更衣室でエプロンを付けたあと、カウンターへ移動する。


「今、着きました」

「あ~、明人君、お疲れさま……ううっ」  

 

 まだ俺の顔を見ることもできないのか。

 俺から目をそらして、居心地が悪そうだ。


「……あのね。その……朝のこと。忘れてほしいんだけど」


 忘れろと言われても無理がある。俺は被害者側だ。

 忘れたいのはお互い様だが。


 今朝、いつものように美咲を起こしに部屋に行った。

 一緒に暮らし始めてからルーチンワークと化していたので、俺は慣れてきていた。

 思えば、この慣れがよくなかったのかもしれない。

 

 部屋に入ると器用に布団にくるまったまま、壁際まで移動して寝ていた美咲。

 美咲ごと布団をコロコロと転がして敷布団のところまで運ぶ。

 敷布団のところで、美咲が体に巻き付けている掛布団を一気に引っぺがす。


 美咲がコロンと枕と一緒に転がり出るが、まだ寝ぼけていた。

 寝ぼけていると抱きついてくるのがパターンなので身構えておく。

 むくっと起き上がる美咲。まだ、ぼやーっとしている感じだ。

 

「ああ、明人君。おはよー……だいじょぶ。今日は、だいじょぶ」


 今日はちゃんと俺と認識しているようだ。

 ぐらぐらしながら、朝の挨拶をするけれど、その状態ではまだ信用できない。


「ほら、ちゃんと起きる」


 手を差し出すと、美咲はその手を取ろうと両手を伸ばす。


 ここで事件は起きた。


 俺の手をつかみ損ねた美咲が前のめりに倒れそうになる。

 美咲は本能的に何かに捕まろうと手を暴れさせ、近づいた俺の股間を直撃。

 下から突き上げてくる何とも言えない衝撃と痛みに、俺はそのまま倒れた。

 どうしようもない痛みに声すら出ない。 


「……あれ~? 明人君寝ちゃうの? ……じゃあ、私も」


 痛みをこらえてる俺の横に張り付くように美咲は転がる。


「――い、いいから起きろ!」

「……明人君も寝てるもん」

「――俺は寝てんじゃなくて、さっき美咲の手が当たったところが痛いんだ」

「えー、……どこ?」


 具体的に言えるか。

 美咲はむっくり起き上がり寝ぼけ眼のまま、俺が手で抑えているところを見つめる。


「そこにぶつけたんだ……」


 おい、ちょっと待て。美咲何する気だ。

 お前寝ぼけててちゃんと理解してないだろ。

 こら、俺の手をはがそうとするな。そこは駄目だ。


「痛いところなでなでしてあげるねー」


 や、わ、こら、まさぐるな。そんなことされたら――

 

「痛いの痛いの飛んでけー。あれ、硬くなってきた。明人君こんなところに何を入れて――あれ、こんなところ?…………。うっ、うわあああああああああああああああああっ!?」


 美咲はパニックを起こして大声を上げながら、部屋から出ていった。

 くそー。痛みはあるのに何でこっちは反応するんだ。

 俺はこのあとどんな顔して、美咲に顔をあわせたらいいんだ?

 

 そのあと少し落ち着いた美咲が謝ってきたけれど、お互い気まずい状態のままだった。

 学校に行くときは、いつものように見送りはしてくれたけれど、俺と目を合わせてくれなかった。


 ――とまあ、こんなことがあったのだ。

 

「俺も忘れたいよ」

 

 寝ぼけていたとはいえ、股間をまさぐられて、その上反応してしまっただなんて。

    

   

 ☆


 少しばかり気まずい空気が流れている。

 隣の椅子に座る美咲がいつもの美咲じゃない。

 忘れてといった美咲自身が、どうしていいか分からないようで、どよーんとしている。


 こういう時は俺から話を振るに限る。

 響のデートの件も言っておかないといけない。

 また内緒にしたと怒られるのも困る。


「あのさ。この間、響と試験終わったらデートするって話したでしょ?」

「――で?」 


 ぴくっと美咲が反応して、ものすごい不機嫌顔で睨みつけてくる。怖いよ。

 さっきまでどよーんとしてたのはどうしたんだよ。

 意外とあっさり忘れられてるじゃないか。 


「今週は響が無理だから来週の土曜日に決まったんだけどさ」

「明人君が休みかどうかも分からないのに?」

「バイト終わってからでいいって言うからさ」

「……ふーん。どこ行くの?」


 場所は決まっているようだけれど、俺も教えてもらってないから分からない。

 そういうと、美咲はむすっとしたまま、メモを取り出して何かを書き始める。

 また乙女のメモ帳か……。それろくでもないことばっかり書いてるから怖いんだけど。

 美咲が不機嫌顔のままカリカリとメモ帳に書込んでいるのを横からそっと覗く。


『明人君から響ちゃんとのデートの報告あり。GMN計画を実行するときが来た』

「GMN計画って何だよ!?」

「む! また乙女のメモを盗み見したね?」


 それよか、そのGMN計画を教えろ。

 よく分からないけど、本当にありそうで怖いんだけど。

 俺が突っ込みを入れようかとしたところで、裏屋の扉が開き段ボールが現れる。

 正確にはアリカが段ボールを持って現れた。

 大きな段ボールなのでアリカの姿が隠れていた。

 

「美咲さん、お疲れ様です。これ、棚に並べてほしい商品なんですって」


 カウンターにドスンと段ボールを降ろすアリカ。

 アリカを見てる限りだと軽そうに運んでたけれど、今の音からすると結構な重さのようだ。

 まったくふらつきもしてなかったこいつ。


「アリカちゃんお疲れさま」

「やっと価格が決まったみたいです。あとはお願いしますね。ああ、そうだ。明人、今日はお疲れ。ところでさ、向こうで言うの忘れてたんだけど、明人に見せるものがあったの」


 俺の顔を見てにやりと笑う。


 アリカはポケットから小さな紙きれを出して、俺に見せる。

 ――これは順位表か?

 各教科ごとの順位と総合の順位が示されていた。

 科目の下に書いてある数字は全部1の数字で総合の下も1の数字。

 

「嘘!? マジで全部1位取ったのか?」


 アリカから順位表をひったくり、見間違いじゃないかもう一度見てみるが間違いない。

 俺の声にアリカがない胸をそらしてドヤ顔する。


「どーよ。やってやったわよ」

「すげえ、総合で1位だけじゃなくて全科目1位かよ。パーフェクトじゃん」


 胸反らすのはいいけど、やっぱり胸が平だな。

 

「今なんか違うこと考えなかった?」


 アリカがぎろっと睨んでくる。

 おっとあぶねえ。相変わらず勘が鋭いぜ。


「いやー、こんな結果見せられたら恐れ入りましただ。すげえ、すげえ」


 わしゃわしゃとアリカの頭を撫で繰り回す。

 アリカが照れたように微笑む。   


 その時、俺の視界に獣が映った。

 アリカの背後から獣の目をした美咲がアリカに襲い掛かる。


「あ」

「え?」


 俺の声にアリカが不審がったけれど、もう遅かった。

 

「アリカちゃんおめでとう! 私からもたっぷりお祝いしなくちゃね!」

「ぴぎゃああああああああああああ」


 不意を突かれたアリカはなす術もなく美咲に蹂躙された。 

 美咲の手がアリカの色々なところをまさぐる。

 ちょっとはエロく見えてもおかしくないのに、なんでそう見えないんだろう。

 これはこれで不思議だよな。


 可哀想に、アリカも必死で抵抗してるけれど、美咲のスキルが上がっているのか、ことごとくすり抜けられている。

 まあ、美咲にとっていい口実があったしな。

 実際は美咲のことだから順位に関係なく襲っただろうけど。 


 この後は俺がアリカにやられるんだろうな。

 今のうちから覚悟しておこう。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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