246 澤工生徒会+ちびっこ4
鹿島から、女子に対する気遣いとして普段気遣っていることはないか聞かれた。
気遣いと言われても、女子に対して大したことはしていない。
クラスの女子からは未だに距離を取られている身。
声をかけてくるのは校外学習で班が同じになった川上、柳瀬、長谷川くらいだ。まあ、俺から女子に声をかけることも用事がない限りないのだけれど。
これもよくないのかなと、今更ながらに思う。
最近気を遣ったといえば美咲の生理にまつわる話くらいだ。
俺たち男は生理がないから、気にもしていないやつの方が多いだろう。
これは美咲から直接聞いたことだけれど、生理になった時、女の子は色々な症状がでるという。
貧血や腹痛、腰の痛みや肌荒れなんかも起きることがあるそうだ。
みんなそうかといえば個人差もあり、毎回かといえばその時の体調によっても変わるらしい。
重かったり、軽かったりするんだよ、と美咲は教えてくれた。
心配になって大丈夫なのかと聞いてみたら、今回はすこぶる軽いと美咲は答えた。
女の子というのは毎月大変なんだなと感じたのが俺の印象だ。
とはいえ、この場で美咲から聞いた生理の話を出すほど勇気があるわけでもない。一歩間違えれば変態扱いされる恐れもある。
これは太一に話してもらう方がいいだろう。
さっきの冗談はともかく、普段の太一は男女の区別なく気を遣うやつだ。
どういうところに気を遣っているのか俺も聞いてみたいところだ。
太一に視線を向けると、気が付いてくれたようで、コホンと咳を切る。
「これ妹からよく言われることなんだけど。女は感情的な生き物だから、昨日は良くても今日は駄目な時があるらしい。簡単に言うと日によってどころか、時間によって機嫌が違うんだと。それを見極めろって言われる」
んー、分かりにくいな。
「機嫌を取れって言ってるんじゃないんだ。言ったら距離感かな」
「距離感?」
「鹿島さんも機嫌悪い時にお構いなしにガンガン話しかけられたら嫌でしょ?」
「ああ、そうだね」
「相手が機嫌悪いなら、機嫌悪いなりの距離。機嫌がいいなら、機嫌がいいなりの距離で接する感じかな。近寄り過ぎず離れ過ぎずって感じ」
「それ、どうやって分かるの?」
アリカが不思議そうに聞いた。
「目を見たらたいてい分かるよ。目は正直だ」
物は試しに横に座る愛に顔を向けてみる。
愛が即座に反応して、俺の目をじっと見つめる。
気のせいか、愛の目にハートマークが浮かんでいるように見えるんだけど。
さらに気のせいか。目がもっと見てと訴えているようにも見える。
俺に好意を持つ愛ならこうなるか。
次に響に顔を向けてみる。
議事録を書いていた響だったが、俺の視線に気づいて俺に顔を向ける。
相変わらずの無表情だけれど、俺の目をしっかりと見つめ返している。
響の目をよく見ていると何を思ったのか、突然ぱちっとウィンクした。
響のウィンク顔初めてみたけど、今の顔いいな。
川上がカメラで撮ってくれればよかったのに。少し残念だ。
響の場合は相手が固まるのが問題だよな。
女子にもそういう子がいると分かっているだけに難しいだろう。
次にアリカに顔を向けてみる。
そこには怒気をはらんだ目があった。
あれ、アリカさん。何か怒っていませんか?
その顔はバイト先でよく見る顔だ。
特にアイアンクローしてくるときに見せる顔だよね。
俺がアリカの目をじっと見ようとすると、すぐにぷいっとそっぽを向いた。
これはこれで分かりやすいな。しかし、何で急に怒り出してんだよ。
こいつも機嫌がコロコロ変わるタイプだよな。
太一がちらりと俺を見たあと話を続ける。
「困るのが無関心かな。たまにいるんだけど、俺のこと見てるようで見てないんだよ」
あれ? 何だかそう言われると、すげえ自分自身に心当たりがあるんだけど。
多分、俺のこと言っているんだろう。
最初の頃、太一のことやたらと話しかけてくるやつだとしか思わなかったからな。
太一が諦めなかったおかげで今の付き合いがある。
そう考えると、当時の太一には申し訳ないことをしたと思う。
「多分だけど、女子が少ないからやたらと見てるんじゃないの? じっと見られ過ぎたら居心地も悪くなるぜ」
「ああ、なるほど。それは分かる気がします。僕も女子が視界に入ったらつい見てしまうので」
「見るだけじゃなくて、声をかけたらいいと思うぜ。挨拶だけでもいいじゃん。相手が分からないってのは怖いからさ。親睦を深めるっていうの? 親しくなれば不満とかも薄れてくると思う。それとさっき言った距離感かな」
「太一さんが真面目なこと言った」
少しばかり感心して言う愛だった。
太一の場合は有言実行している。
分け隔てなく色々な奴と接しているのを俺は見てきた。
「僕らの方が女子に慣れてないんだが、そういう場合は?」
「そんなに身構えたら、相手だって身構えちゃうぜ? 不格好でもいいから相手のこと聞いてやれよ」
「例えば?」
「例えば、そこのアリカちゃんのこと」
「へ、あたし?」
不意に振られて驚くアリカ。
「鹿島さんは俺がアリカちゃんって呼んでるの気にした?」
「いや、そういえばそうだね」
「アリカちゃんは何でアリカって呼ばれてるの?」
「そりゃあ、バイト先のあだ名だからじゃない。あたしもそう呼んでって言ったし」
「こういうことだよ。相手のちょっとしたことを関心を持ってみるんだよ。んで相手に聞く。相手の言葉で聞く。今のパターンなら鹿島さんがアリカちゃんに何でそう呼ばれてるのって聞けばいい。コミュニケーションはキャッチボールだ。自分の好きなように投げたら駄目だ。相手には受け取りやすい球を渡す。あとは相手の投げやすいようにしてやればいい。投げっぱなしも受け取り拒否もなしだ」
北野さんが感心した顔で発言した太一を見ている。
鹿島も太一の言葉を聞いて自分なりに納得したようだ。
それから小一時間、お互いに行動案を出しあって、それに対する意見や感想を言いあった。
鹿島が最後に「結局、僕らは愛里さんに頼り過ぎてましたね」と反省の言葉を出した。
「頼るのはいいことだと思う。愛里さんもその覚悟はしてるんだし、だから協力していけばいい。君らならできるよ」
北野さんがにっこり笑って言った。
☆
今日の目的である意見交換は無事に終えることができた。
澤工生徒会は今後、女子のために過ごしやすい環境を自ら作っていくつもりのようだ。
うまくいくことを願っておこう。
見送ることになり、正門まで一緒に移動を始める。
「こういう他校との会談もいいね。テーマを決めてまたやりたいよ」
「僕らもいい経験になります。今後も色々と相談に乗ってください」
「私も微力ながら協力させていただきますわ」
俺らの前を歩く北野さんたちは生徒会同士で話が盛り上がっている。
生徒会の活動を間近で見れたのは良かったと思う。
この移動中も愛はアリカにべったりとくっついていた。
本当にアリカのことが大好きなんだな。
「ねえねえ香ちゃん」
「何よ」
「何で王女なの?」
愛の質問にアリカの歩みが止まる。
「ほ、ほら。あたし女子の代表なわけじゃん? あだ名みたいなものよ」
「香ちゃん、愛に嘘言っても通じないよ? その意味で言われてないでしょ」
「う……」
アリカの目が泳いでいる。
違うのか? 他にどんな意味があるんだ?
「……去年、喧嘩売ってきた今の3年生がいて、むかついたから潰してやったんだけど。……何かそれまで学校で一番喧嘩が強かった人だったみたいで……そのあと変に懐かれて舎弟にしてくれとかまで言われて、しつこいからまたぶっ飛ばしたんだけど、それから王女って……」
「お前の方が力で解決してるじゃねえか」
「その二回だけだし! それから手を上げたことなんてないし!」
よく問題にならなかったな。
道理で鹿島がアリカを気にしてたわけだ。
アリカが力のピラミッドで言うなればてっぺんにいるってことか。
おそらく、澤工の男どもはアリカをおそれて派手な動きをしてないのだろう。
そっちの意味での王女ね。なるほどねー。
「駄目だよ~香ちゃん。二度と目も合わせられないくらい、体に恐怖を刻んであげなくちゃ、だから二回も来るんだよ」
普通に言ってる愛が怖いです。
「んで、喧嘩売ってきたって言ってたけど、何かされたのか?」
「ちびって言われたのは許せたけど、小学生はランドセルでも背負ってろって言ったのよ。若かったのね、キレたわ」
「去年の話だろうが、……俺もそのうちやられそうだな」
「大丈夫よ。明人にはちゃんと加減してるし」
してんのかよ。てか、今まで本気じゃないのか。
逆に怖いわ。本気出した時どうなるんだ。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。