245 澤工生徒会+ちびっこ3
澤工生徒会とアリカを連れて校内を案内して回る。まず体育館や特別教室を巡回。
試験が終わってすぐにクラブ活動を始めた部もあるようだ。
ちらほらと部活をしている部もあった。
こうみるとうちの高校は意外と部活動は多い。
野球部やサッカー部、放送部や新聞部といった体育会系、文科系の代表的な部活もあれば、サバゲー部と呼ばれてるサバイバルゲーム部や飛行機部といったあまり見かけない名前の部もある。
サバゲーの部室を覗かせてもらうと、サバゲー部は鍵のかかった棚にきれいに磨かれた銃が並べてあり、射撃訓練用の標的やら防護マスクなども整理整頓されて飾られている。
響が言うには活動はいたって真面目らしい。
「サバゲ部だろ? 真面目にって意味が分からん」
太一が不思議そうに聞いた。
「練習してるところの近くをしょっちゅう清掃ボランティアしてるから地域の人から好評なのよ。実戦練習するときはちゃんと事前に告知もしてるし、地主さんにもお話を通してるし、礼儀正しい部なのよ。この間は地区大会でいいところまで行ったんだけどね。女の子も所属してるのよ。ちなみに西本さんも所属してるわ」
「え、西本ってサバゲ部なの?」
あの、ほんわかした癒し系でどじっこの西本が銃を片手に走り回ってんのか。
全然、そうは見えないんだけど。
「あの子、銃を持つと人が変わるらしいのよ。私は参加してないんだけど、会長と副会長が参加してぼろぼろにされて帰ってきたわ」
「人は見かけによらないもんだな。サバゲーか、俺もちょっとやってみたいな」
俺がそう言うと、アリカが戸棚にある銃を覗き込む。
「あたしもやってみたいな……。うちの高校って部活動少ないのよね。こういう特殊なのはないわ」
「アリカは部活してないのか?」
「一応、研究会に入ってる。部長とあたししかいないけど」
「何の研究会?」
「ロボットよ。予算もちょっとしかないから複雑なのは作れないけどね」
アリカは一貫しているな。自分の夢に向かってまっしぐらか。
「へー。部長はやっぱり男子なのか?」
「同じ学年の女子なんだけど、まともに声を聞いたことがない」
「え、部長なんだろ?」
「だって、全然しゃべんないだもん。黙々といつも何か作ってるし」
「コミュニケーションどうやってんだよ」
「あたしは普通に話すんだけど、相手は筆談とか身振り手ぶりが多いかな。まあ、悪い人じゃないわ」
「か、変わった人だな……」
続いて教職員に挨拶を兼ねて職員室へ。教頭先生や水戸先生が澤工の生徒会役員ににこやかに対応する。
俺は別のものが気になっていた。
俺たちの後ろにいる自分の席に座ってどよーんとした空気をまとった坂本先生だ。
俺たちが職員室に入ってきたのにまるで気付いていない様子だ。
机に上にある紙を見て何やら小さな声でぶつぶつと呟いている。
そっと覗いてみると、補講者リストと書いてある。
何をぶつぶつ言ってるんだろう? 聞き耳を立てて、坂本先生の声に集中する。
「……へ、へへ、へへへ。また合コンに行けやしない。補講なんかやってる暇なんてないっつーの。行き遅れたら誰が責任とってくれるのよ。……こいつらだ。こいつらのせいだ。呪ってやる。呪ってやる……」
聞いてはいけないことを聞いた気がする。
いつだったか夢に見た坂本妖怪を思い出す。
北野さんと太一が青い顔をしているのは、坂本先生の状態に気づいたせいだろう。
それとも声を拾ってしまったのだろうか。二人してぶるぶると小さく震えている。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。今度はこの子たちにどんな話を聞かせてあげようかしら。たった二日で振られた話がいいかしら。それとも逆プロポーズを断られた話がいいかしら。それとも高校の時の親友に彼氏を寝取られた話がいいかしら。それとも……」
やはり北野さんと太一の耳にも聞こえているようで、二人の体の震えが大きくなっている。
もう止めてあげて!
「か、会長。そろそろ次に行きましょう!」
坂本先生の呪言に耐え切れなくなってきた俺は会長に進言した。
「そ、そうだね。きょ、教頭先生、すいませんがあまり時間もないのでこれで失礼します」
「はいはい。いい交流会になることを祈ってますよ」
俺たちは足早に職員室を出た。
出た途端、北野さんと太一は通路の壁に二人そろって両手をついて、頭をがっくり落とす。
「やばい。何か前よりグレードアップしてる」
「マジでやばいっす。ダークオーラが半端ねえ」
「確か坂本先生って来月誕生日だったはず……もう30になるよね……」
「それやばいじゃないですか。絶対、自分で自分を追い込んでますよあの人。あの時間がまたやって来るなんて俺には耐えられないっす!」
「私だって一緒だよ!」
北野さんと太一は恐怖に心が囚われているようだ。
いやまあ、確かに分かるけど。
そもそも、二人がちゃんと勉強してればそういうこともないんだし。
いわゆる自業自得というやつな訳だ。
「あの会長。お取込みのところ申し訳ないですけど、澤工生徒会の人もいるんで」
「あ、ああ。そうだった。じゃあ、次に……ごめん。少しだけ待ってくれる? まだ動悸が収まらないんだ」
相当、拒否反応が出てるのか。大きな精神的ダメージを被っているようだ。
まあ、あんな話を聞かされると思ったら相当苦しいのは分かるけど。
何をされたのか口を閉ざしていた理由が分かった気がする。
☆
教職員への挨拶も終り、生徒会室へ。
部屋の中には川上だけが残っていた。
胸にはカメラをぶら下げ、手帳とペンを手にしていた。
他のメンバーはどこかで待機しているようだ。
「どうもー。清高新聞部の川上でーす。今日の交流会の取材をさせていただきまーす。よろしくお願いしまーす」
妙にテンションの高い川上だった。
「あれ、会長。顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ちょっと嫌なもの見ただけだから。もう大丈夫だから」
なにはともあれ、交流会のメインである意見交換会が始まった。
澤工は共学になってから、女子のための施設は備えられたが不便な状態らしい。
女子更衣室が教室から遠く、そして女子トイレも職員室横か、改装された校舎の2か所だけらしいのだ。
人数的に混むことはなくても、距離があるので煩わしいようだ。
「あたしは不便と思ってないんですけど、女子の半分はそう思ってるんですよ」
アリカは個人の意見を合わせて告げる。
距離があったら、やはり面倒だと思うだろう。
「学校側へは?」
「生徒会からもお願いしてますが、やはり予算の問題がありまして。一応来年には増設してもらう方向でお願いしていますが、1か所増やすのが関の山かと」
「一番の問題は男子の意識よ。心無い言葉で傷ついてあたしのところに泣きついてくる人も多いんだからね」
「愛里さんには申し訳ない。我々も他の生徒には言っているんだが、聞く耳を持たない者も多くてね。男女人口の差が少ない清高ではどんな感じなんですか?」
「うーん。私たちの高校は元々共学だから設備的な問題はないけど、男女間の問題となると個人的なものばかりだね。確認したいのだけれど、澤工は男尊女卑的な感じなの?」
「去年まではそうでしたけど……今は違います。まあ、まだ一部には生き残っている感じはありますが」
「去年まで? 何かあったの?」
「あ、いや大したことじゃないんです。まあ、意識が少し変わったというか……ははは」
ん? 今、鹿島の様子がおかしかったな。
鹿島がアリカの様子をちらりと窺ったような気がしたぞ。
「愛里さん、あ、お姉さんの方ね。君は嫌なこととかあるの?」
「男子が頼りにならない。いやらしいし、騒がしいし、だらしがないし。なよなよしたのも多いし、勘違いした馬鹿も多いし、何かって言ったら力で解決しようとする馬鹿もいるし。澤工に行って後悔したのは男子の行動ですね」
好き放題言ってるな。
「力で解決か……。男ばっかりだと喧嘩とかも多いのかな? うちの高校じゃ殴り合いってのはあまり聞かないんだけど」
「あー、それも去年まではあったんですが……今年に入ってからひどいのは一度もありません」
やっぱり、そうだ。
鹿島の奴なんだかアリカの様子を気にしてる。
俺が鹿島の様子を窺っているとアリカが俺に質問してくる。
「ねえ、明人。こっちでは女子に対してどんな態度取ってるの?」
「え、俺か? 普通だけど……」
「その普通を聞いてるの。もちろん愛とかとは別の人の場合」
これどう答えればいいんだ?
「川上とかにも普通だよな?」
取材でメモを取っている川上に聞いてみる。
「……木崎君はちょっと不愛想だと思う。私はもう慣れたけど」
それ、太一にもよく言われる。
俺としては普通の態度のつもりなんだが、俺ってやっぱり不愛想なのかな。
「……ふーん。太一君は?」
「気にしたことないけど、基本スマイリー。サービス精神とか、奉仕の心とか、全身全霊の愛を込めて接してるつもり」
「くどいから」
俺もアリカに同意だ。冗談にしてもくどいわ。
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