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帰路  作者: まるだまる
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244 澤工生徒会+ちびっこ2

 生徒会室に移動する集団は三年生から奇異な目で見られている。

 いや、違うな。

 これは俺に対する軽蔑とか不快感が込められた負の視線だ。


 それもそのはず俺の右には響がくっつき、左には愛がくっついている。

 その当人たちは未だに舌戦を繰り広げているが、二人に俺の意思は通じないようだ。

 荷物が持ちづらいんですけど。

 

 そして、俺から数歩の距離をおいて太一たちが着いてきている。

 頼むから距離を縮めてくれないか。

 

「千葉ちゃん。本当に木崎君ってモテるのね」

「本人的にはどうなんだかな」

「千葉ちゃんは羨ましくないの?」

「明人を見てるとそういうのあまり思わないな。ボロボロにされてるのよく見るし」


 太一、聞こえてるぞ。

 

 生徒会室に辿り着く。鍵はすでに開いていて、中には北野さんが腕を組んで仁王立ちで待っていた。

 何だか難しい顔をしているけれど、どうしたのだろう。


 生徒会室の時計を見ると集合時間の五分前。

 俺たちが時間に遅れたってわけじゃなさそうだ。

 俺たちに視線を向けているようにも見えないので、響と愛が俺にくっついてる姿のことでもなさそうだ。

 まあ、そもそも会長はこういうことでこんな難しい顔はしないだろう。 


「……あの、会長さん。どうなさったんですか?」


 愛がびくびくしながら聞いた。

 俺の腕を持つ手に力が入いるのが伝わる。

 会長が豹変した姿を知っているだけに、機嫌の悪そうな北野さんに声をかけるのが怖いのだろう。



「……試験がやばい」 


 愛の質問に響張りの無表情で答える会長。


「はい?」

「……補講確定かもしれない」


 え、生徒会役員って、それなりに成績いいんじゃないの?

 勝手にそういうイメージ持ってたけど、違うの?


「な、なにが駄目だったんです?」

「数学……文系だからって捨てすぎた。やばい。坂本先生に呪われる」


 会長の顔が青ざめ、ガタガタと震えだす。

 坂本先生が担当だったのか。太一といい気丈な会長がここまで恐れるって、坂本先生は一体何をしてるんだろう。


「あら、みんなどうしたの?」


 入り口から南さんの声がする。

 ニコニコした南さんと澄ました顔の柏木さんが揃って生徒会室に入ってくる。

  

「会長が……」

「あら、どうせ舞のことだから、試験が駄目だったとか言ってるんでしょ。いつものことだわ」

 付き合いが長いのか、よく理解されているようだ。


「くそ。華に言われると余計にむかつく」

「そういうことは私に勝ってから言いなさい」

「絶対、無理だし!」


 何やら話が見えないんだが。


「響、南さんがやけに偉ぶってるように見えるんだが?」

「南さんが3年の主席だからかしら。入学して一度も譲ってないそうよ」


 ここにも天才がいた。


 響も入学以来ずっと一番だと聞いていたけれど。

 まさか、変態性の高いこの人が3年のトップだったのか。

 ああ、だから会長は南さんに言われると腹が立つんだろうな。

 変態だもんな。頭で負けたと思うとそりゃあ悔しいよな。

  

 くるりと振り返り、西本に視線を向ける。

 あいかわらずぽやぁっと癒しオーラを醸し出してるけど、実はこいつも成績が良かったりするのだろうか。 

 順位表は配られるだけだから、聞かないと分からないんだよな。


「舞。とりあえず切り替えなさいな。みんな揃ってるわよ。あら? 2年B組クラス委員長の長谷川深雪さんまで来てくれたのね。人手が多くなるのは助かるわ」


 

 パッと見で長谷川の名前がすぐ出てきたけれど、長谷川が驚いているのを見る限り、面識があったわけじゃなさそうだ。


「よ、よろしくお願いします。あの、どうして私の名前を?」

「いえ、別にたいしたことじゃありませんわ。私、この学校に所属する女子の皆さんは顔と名前を憶えているだけなので」


 ざっくり半分が女子だと数えても各学年100人ずつ、全学年合わせると300人だぞ。

 それ全部記憶してるのか。しかし、女子だけってのがこの人らしいところだな。

 

「相変わらず気持ち悪い記憶力だな」

「そういう口は私に勝ってから言いなさいと言ってるでしょ」

「くそー。試験時期は華に強気に出られないのが悔しい」


 何はともあれ。全員が揃ったところで打ち合わせ。

 

 俺、太一と愛は生徒会と一緒に校内の案内。俺たちが案内している間に他のメンバーが生徒会室の掃除とセッティング。終わった後は片づけまで手伝うのが今回の依頼された仕事。

 足りない長机とパイプ椅子は今から用具室に行って借りてくることになっている。

 用具室は一階にあり、生徒会室まで運ぶとなると距離もある。これは確かに準備に人手がいる。

 しかし、男手が俺と太一だけというのが、これはちょっと頑張らないといけないか。


 会長から生徒会室のレイアウトが示される。

 長テーブルを二つずつ並べてくっつけた状態。

 

「まあ、こんな感じだな。ところで、えーと、川上さん」

「はい」

「新聞部の部長から、君が取材担当って聞いてるんだけど?」

「初耳なんですけど……と、とりあえず了解しました。後で部室からカメラ持ってきます」


 切替の早い川上だった。

 

「うん、頼むね。佐渡島、頼んでたお茶菓子は?」

「木崎君が持ってくれてますぅ」

「ああ、それだったのか」


 今日来る予定の澤工生徒会役員は生徒会長、会計と書記、それとアリカを入れて4人。

 向こうの副会長は都合がつかなかったらしい。 


「案内役の木崎君らも会には参加してもらうよ。男子がいてくれた方が向こうの気持ちも分かるだろうからさ」

「俺らもですか? どんなこと話したらいいんです?」

「向こうが質問してきたことに自分の思うままに答えてくれたらいいよ」

  

 何だか場違いなような気もするが、質問がないことを祈ろう。


 ☆

   

 まもなくアリカたちが来校する予定時刻。

 生徒会メンバーと俺、太一、愛は正門へと迎えのため移動する。

 正門前からバス停の方向を見ると、こちらに向かって、澤工の制服を着た男子が3人歩いてくる。

 彼らが澤工の生徒会役員なのだろう。アリカの姿が見えないけれど……。


 ――いた。アリカの髪と思しきものが、垣間見える。

 男子の後ろにいたせいか、見えなかっただけのようだ。

 どうやら向こうも俺たちに気づいたようで、先頭の男が小さく頭を下げる。


 澤工生徒会の面々と対面。

 先頭を歩いていた男が深々と頭を下げる。

 俺が持っていた澤工生のイメージと違って、みんな真面目な感じのする男子だった。

 特に先頭の男は爽やかな感じのする好青年といった感じで、いかにももてそうな気配を醸し出している。

 

「今日はお招きありがとうございます。澤工生徒会会長の鹿島光輝かしまこうきです」

「清高生徒会長の北野です。今日はよろしくお願いします」

 

 向こうの丁寧なあいさつに、北野さんも深々と頭を下げて返す。

 北野さんは頭を上げると、少し不思議そうな顔をした。


「あの、愛里さんは?」

「彼女ならここにいますが?」


 鹿島が身をずらすと、そこに少し緊張した顔のアリカの姿が現れ小さく頭を下げる。

 澤工の制服に身を包んだアリカだけれど、気のせいか制服が大きいような。

 身体が大きくなるのを見越してワンサイズ上買ったけど、まだ追いついていない感じ。


「お姉さんだよね?」


 会長はアリカの姿を見て、首を傾げて愛に尋ねる。


「そうですけど?」

「全然イメージと違った。電話だともっと大人っぽいイメージだったから。……ああ、それで幼女の間違いとか言ってたのか」


 会長の言葉にアリカの目つきが一瞬で変わる。

 しかも、何で俺を睨むんだ。

 俺はアリカが幼女だなんて会長に吹き込んでないぞ。

  

「澤工女子代表の愛里香です。妹がお世話になってます」


 取り乱しこそしなかったものの、その笑顔は本当の笑顔じゃないよな。

 含みのある笑顔は止めようよ。何か怖いよ。


「まあまあ、まあまあ。何て愛らしい方なんですか」


 握手しようとした北野さんを押しのけて、南さんがずずいっと前に出て、アリカの手を取って握る。


「私、副会長の南華と申します。私もあなたとお話をたくさんしたいと思っていますの」


 どうやら病気が発動したらしい。

 美咲といいこの人といい、アリカも大変だな。

 南さんに手を握られたアリカは、助けろと目で訴えてきている。


「こら華。いきなりしたら愛里さんびっくりするだろ」

「お持ち帰りしたいわ」


 アリカが目で必死に何とかしろと訴えてくる。

 俺としては面白いから、もう少し見ていたいんだが。 

   

 会長がこれから校内を案内すると説明し移動開始。

 響は男子の相手をすると、固まる危険性があるから俺たちと行動。

 澤工生徒会の相手は、会長、南さん、西本で基本するようだ。

 さすがに他校の生徒を固めるわけにはいかないとの考えかららしい。


 移動開始した途端、愛がアリカにへばりつく。

 何だか随分と甘えている。   


「香ちゃーん」

「歩きにくい、邪魔」


 愛がアリカを後ろから抱きかかえるようにくっついている。

 アリカも文句は言うけれど、振り払う真似はしない。

 随分と慣れた様子だ。

   

「中学時代を思い出すわ」


 響も中学の頃、この光景をよく目にしたらしい。

 

「基本、この子は甘えたでお姉ちゃん子だから」


 見た目だと、妹を鬼可愛がりする姉の姿に見えるんだけど。

 立場は逆なんだよな。不思議な感じだ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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