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帰路  作者: まるだまる
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243 澤工生徒会+ちびっこ1

 美咲との生活は美咲が慣れてきたのか、やたらとハイテンションな日があったり、部屋の隅っこで膝を抱えていたり、乙女のメモ帳見てたと思ったら急に襲ってきたり、人が風呂に浸かってたら携帯ゲームのガチャで大当たりキャラを引いた(可愛い女の子キャラだった)と喜んで見せにきたり、二人で食料品を買い出しに行ったら、籠の中に女の子のデフォルメキャラ人形付きのお菓子をこっそり混入させてたり、まるでてんやわん屋にいるときの延長のようになっていった。


 普段だけでなく、朝も美咲と戦いだった。


 起こしに行く。起きない。無理やり起こす。寝ぼけたまま、甘えて抱きついてくる。

 我に返って落ち込む。励ます。謝ってくる。ルーチンワークだった。

 

 多分、春那さんも毎日似たような状態なのだろう。

 春那さんの苦労を知った気がする。


 嬉しかったのは、俺が学校に行く時間になると美咲が玄関に見送りに来てくれたことだった。

 美咲は受講時間に余裕があるので、俺よりも後に家を出るからだ。


「いってらっしゃい。気を付けてね」


 笑顔で手を振る美咲。

 いってらっしゃい――この一言がやけに嬉しかった。 

 

 ☆

 

 学校ではとうとう試験も始まり、手応えは十分に感じられた。

 試験が終わると同時に太一が机に突っ伏していたけれど、ちゃんと試験勉強したんだろうか。

  

 試験を終えたあとは、愛と響に挟まれながら午前中だけ自習室で翌日の試験勉強。

 試験の手応えはどうだったか愛に聞いてみると、「神が舞い降りました」と謎の言葉を発していた。

 天(補講)に召されないことを祈っておいてあげよう。

 

「そういえば愛さんとのデートがかかってるのよね? そんなご褒美があるなんて愛さんだけずるいわ」


 響が突然言い出した。


「結果を見ないと分からないことだし、それにお前とは試験終わったらデートするんだろ」

「それ、何のお話ですか? 愛は全然聞いていませんでしたけど?」

「あら、言ってなかったかしら。試験が終わったら明人君とデートするの」


 響の余裕のある態度にカチンときたのか愛が頬を引きつらせる。


「ずるいです」

「あら、愛さんは一度デートしたじゃない。平等な機会を得て何が悪いのかしら?」

「……邪魔してやる」


 すごく小さな呪詛が聞こえた。何、今の重い声。愛の声とは思いたくない。

 二人とも、俺をおいて盛り上がるの止めてくれません?

 それよか試験勉強しようよ。

    

 ☆

 

 なんやかんやとやっと中間試験が終わった。


 清和高校では月曜から木曜までの4日間で行われた。

 金曜は自宅学習という名目の試験休みだ。

 アリカの通う澤工では試験休み自体がないらしい。

 高校によって違うといったところなのだろう。

  

 試験が終わると同時に、背中に羽が生えたような気分になる。


 今回は少しばかり自信がある。

 手応えがよかったというか、山勘が当たったというか、苦労したところが少なかったような気がした。

 苦手意識の高い英語に関しては、美咲と店長の予想がずばり的中していた。

 結果は週明けになるが、今回はもしかしたら自己最高得点を更新できるかもしれない。

 

 父親との約束を守るためにも、勉強は継続しておこう。

 

 クラスの奴らも試験が終わると同時に一喜一憂している。

 出来が良かったのか、それとも試験が終わったことが嬉しいのか喜ぶやつ。

 出来が悪かったのか、それともこの先の不安を感じているのか沈んだやつ。

 我が親友太一は、明らかに後者の姿だった。


 机に突っ伏して脱力していた。相当出来が悪かったようだ。

 普段から勉強していないからそうなるんだ。

 ここは慰めるよりも心を鬼にして叱咤激励することにしよう。


「太一。何、沈んでんだよ?」

「数学と物理終わってる……。マジやばい。補講確定かもしれねえ」

「それだけで済んだんなら取り返せるだろ」

「最終日に数学と物理って、最悪な組み合わせじゃねえか。他も余裕があるわけじゃねえし」

「普段からやってないからそうなるんだ。それよか、あの坂本先生だぞ?」


 太一の顔がさーっと青くなっていく。

 普段は陽気で気さくな坂本先生だが、補講中は鬼と化すのは有名な話だ。

 赤点取ったら死んだほうがましだって気になるよ。

 と、授業中によく坂本先生自身が言っているが、あれは真面目な話。

 この太一、すでに一年の時から中間試験では補講常連組である。

 

「やべえ。死にたくなってきた」

「その補講クリアしたら期末は問題なしでいけてんじゃん。それだけ身に着くってことだろ」

「明人は知らねえから言えるんだよ。あの時間がどんだけ怖いか!」

 太一はガタガタと震えながら言った。


「補講って、習ったところもう一回勉強するだけだろ?」

「そんなんだったら誰も怖くねえよ」

「じゃあ、何が怖いんだよ?」

「い、言えねえ。言ったら殺される」


 話が分からねえだろ。一体、お前ら何されてんだよ。

 一年の時も聞いたけれど、決して補講の時に何があったか語らない。

 太一同様に補講を受けた連中もみんな口を閉ざしたままだった。

  

 ☆ 

 

 HRの時間になり、明日が自宅学習であることを自覚するよう念押しされ、それとざっくり来週の予定が伝えられ解散となった。


 今日はこのあと生徒会の手伝いだ。

 澤工生徒会とアリカが我が校にやってくる予定になっている。

 

 荷物を持って太一のところに行くと、川上と柳瀬も俺たちのところに集まってきた。


「集合は生徒会室でいいんだよね?」


 川上が腕時計を見ながら言った。

 俺も自分の時計を見て時間確認。集合予定時刻まで10分ほどある。


「響のところに迎えに行ってから行こうか」

 太一が鞄を肩に担いで言うと、柳瀬が指をピコンと立てる。


「おお、それいいね」

「じゃあ、行くかー」

「千葉ちゃんたちどこ行くの?」


 教室を出ようとした俺たちに声をかけてきたのはクラス委員長の長谷川だった。

 

「千葉ちゃん言うなし。今日は生徒会の手伝いだ」

「何で? あ、東条さん絡みでしょ」


 長谷川はピンと来たような顔で、自信たっぷりそうな顔で言った。

 太一は手で三角を作り長谷川に示す。


「半分正解。あいつの手助けってのも確かにあるんだけど。今日は澤工の友達が生徒会に用事があって来るんだよ」

「へー、わざわざ澤工から来るんだ。結構遠いよね。私も手伝おうか?」


 自分から普通にそういうこと言って出るなんて、長谷川って本当に性格のいい奴だな。

 川上と柳瀬は俺たちに「勝手に連れて来ていいのかな?」と耳打ちしてくる。

 

「大丈夫じゃね? 人手があった方が楽に済むだろうし、会長も助かったって言うと思うぜ」


 ――長谷川深雪が加わった。  

   

「ああっ、待ってください。私も行きます~」

 

 C組の前を通ったところで、西本が慌てて飛び出してくる。

 俺たちの姿を見て、遅れたらまずいと感じたのだろう。


 ――西本音羽が加わった。


「あらぁ~、もう行くのぉ?」


 階段前の通路を通ったとき、俺たちに声をかけてきたのは、手に袋を持った佐渡島実子だった。   

 階下から上がってきたけど、何で下から来たんだこいつ。


「それ何?」

「華さんに頼まれてぇ、部室からお茶菓子持ってきたのぉ」

「茶道同好会って部室あんの?」

「あるよぉ。一応、仮の部室だけどぉ」


 活動の場は与えられてるってところか。

 それにしてもペットボトルとかも入ってるけど重そうだな。  


「荷物、俺が持つよ」

「木崎君、紳士だねぇ」

「柳瀬、次のターゲットは佐渡島さんらしい」

「了解。監視を継続する」


 川上と柳瀬が後ろで何か言ってるが無視しておこう。

 

 ――佐渡島実子が加わった。


 ああ、もうこれ参加する2年全員がこの通路で揃うフラグ立ってるだろ。

 俺がそう思った途端、D組の教室から出てきたのは、今時おかっぱ三つ編みのうえにフレームの大きな眼鏡姿で一見華のない大熊ゆかりの姿だった。


「……」

「……」


 俺たちの姿を見た大熊は、何事もなかったように俺たちを無視して移動しようとする。


「こら、大熊。一人だけ先に行こうとするな」

「……私をハーレムの一員にする気? 女の子そんなにはべらして噂通りの男ね」

「おいこら。今からやること分かってて出てくる言葉じゃねえよな。悪意しか感じないぞ」

「そのとおりよ。善意なんて欠片もないわ」


 あれー、何だかこいつ返し方まで響に似てる。

 

「大熊さん、一緒に行きましょうよぉ。どうせなら揃っていた方がいいじゃないですかぁ」

「……仕方ないわね」


 ――大熊ゆかりが加わった。


「なあ、明人」

「何だよ、太一」

「この状況ってよくない気がするぞ」


 俺もそんな気がしてる。

 大熊に言われたからじゃないけど、俺の後ろには川上、柳瀬、長谷川、西本、佐渡島、大熊が続いている。

 男2人に女が6人。通りすがりの奴も、何だこいつらって目で見てる。

 先に行っといてくれというのも、大熊の手前言えない状況になってしまった。

 自分で大熊を止めといて、今更先に行けとは言いにくい。

 

「まあ、大丈夫だろ」


 自分に言い聞かせるようなセリフを吐きE組に到着。

 教室内にいた響を呼ぶ。


「明人君、迎えに来てくれたのね。嬉しいわ」

 

 教室から出た途端、俺の腕を抱きかかえるようにとる響。

 こらこら、公衆の面前でくっつくのは止めなさい。

 荷物が持ちづらいでしょうが。


「おーい、響。明人だけじゃなくて、俺もいるんだけど?」

「あら、太一君いたの?」

「俺、泣いていいか?」

「千葉ちゃんファイトだよ。明日があるよ」

「さあ、行きましょう」


 響は俺の腕を取ったまま、太一のことなど気にせず言った。

 頑張れ太一。長谷川の言うように明日があるよ。

 

 ――東条響が加わった。


 生徒会室を目指すべく、中央階段へ移動する一行。

 階段を昇ってくる愛の姿が目に入る。

 愛も俺に気づいたようだ。

 少し早足になって昇ってくるが、俺と響の状態を見て動きが止まった。


「……響さん、これは一体どういうことでしょうか? 愛への挑戦と受け止めましたが」

「離れるつもりならさらさらないわよ?」

「分かりました。では……」 


 にっこりと笑って愛は受け止める。

 響と反対側に回り、俺の腕をしっかり抱きしめる愛。


 ――愛里愛が加わった。


「これで対等です」

「あらあら、はしたない。明人君の腕に胸が当たってるわよ」

「響さんも人のこと言えないじゃないですか。それ確実に当ててますよね」

「だって、明人君がどぎまぎしてるから楽しいんだもの」


 わざとだったのか。

 こういう時にS特性出すの止めてくれないか。

 

「柳瀬、記録」

「了解、記録を開始する」


 それは止めてくれ。お前ら拡散するつもりだろう。

       

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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