表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
242/406

241 まったりタイム2

 

 美咲の後に風呂を終え、リビングに戻ると美咲が正座したまま目を閉じている。

 まるで精神統一でもしてるようだ。


 何で急にこういうことしてるんだろう。

 相変わらず行動が読めない。


 俺がリビングに入ると、美咲はぱちりと目を開ける。

 美咲が風呂から出たあとまでは、まだぎこちない感じだったけれど、どうやら普通に戻ったようだ。

 


「おかえり、明人君。勉強するでしょ?」

「あ、ああ。小一時間やったら寝るつもり。道具ここにあるからここでやるよ」

 

 道具といえば、気になるものが一つ。美咲の小さなポーチ。

 昨日もそうだったけれど、風呂に入る前にはリビングになかったもので、風呂から出てきた時にはあった。

 かといって、美咲がポーチを触ることもなく、それぞれの部屋へ戻る時には持って帰ってる。

 何が入ってるんだろう。


「美咲。これ、昨日もあったけど何が入ってるの?」

 鞄を指差して美咲に聞いてみる。

「これ? 化粧水とかだよ。お風呂上りはお肌が乾燥するからちゃんとしなさいって、春ちゃんに言われてるから」

 

 美咲の話では、春那さんと暮らすまで、本格的なスキンケアとかしてなかったらしい。

 まあ、高校生の身だったのだからそうなのかもしれない。

 春那さんと一緒に暮らし始めて、化粧やケアについては教えてもらったようだ。


「高校の時は化粧は規則で禁止されていたし、リップとかくらいしかしなかったの。明人君もやってみる?」

「俺、男だぞ」

「今時の男の子はスキンケアしてる子も多いって、春ちゃん言ってたよ」

 

 ちょっと待ってねと、ポーチを漁りだし液体の入った小さなボトルを並べる。


「これが化粧水で、こっちが美容液。これが乳液。私はクリームは使ってないからじゃあ、ここに座って」


 促されテーブル席に座る。

 美咲は俺の後ろに回って、顔を覗き込む。

 風呂上がりだからか、美咲からいつもよりいい香りを感じる。


「ちょっと髪が邪魔だね。これ使おう」


 俺の頭にタオルバンドを被せて、髪を持ちあげる。 


「最初はこの化粧水を10円玉くらいの量をとって。それをこすらないように顔全体に馴染ませるの。軽く叩くより、押し当てていくイメージかな」

 

 美咲が化粧水を手に乗せてくれたので言われた通り顔に馴染ませていく。

 風呂上がりで火照っているからか、ひんやりして気持ちいい。

 

「こういうのもあるの。効果が高いけど私はたまにしか使わない」

 

 取り出したパッケージに描かれているフェイスマスクには見覚えがある。

 いつぞや春那さんが着けてたやつだ。


「指で触って肌がもちっとしたらOKだよ。潤ったところで美容液を手のひらで乗せて少したってから塗るの」

「何で少しおくの?」

「体温で温めておいた方が肌に馴染むんだって」

「へー、何か色々手順とかあるんだ」

「んで最後は乳液ね。これでもお肌がかさつくときはクリーム加えた方がいいんだって。まだ、私にはいいみたい。若い時からちゃんとケアしとかないと後悔するぞって春ちゃんに脅されたよ」


 美咲に言われた通りにやってみる。

 美咲もこういうの毎日やってるんだ、大変だな。 

 そういや母親もよく顔に何かを塗りたくっているところを見かけたことがあるけど、これだったのか。

 

 終わったところで手入れした肌を軽く触れてみる。

 いつもと違う肌の感触。なにこれ、妙にモチモチしてプルプルしてる。

 気のせいか、肌の弾力が増した気がする。



「これで明人君の女子力が向上したよ」  

 

 美咲は満足げに言ったけれど、そのセリフはどう考えてもおかしいよな?

 

 ☆


 お肌の手入れが終り、俺の女子力が向上したところでリビングで勉強を開始。

 問題集にある模擬試験問題をすることにした。


 美咲は試験問題が終わるまで、自分のことをするようだ。

 視界の隅では、美咲が乙女のメモ帳をぱらぱらとめくって内容を確認中。

 時折、視線を感じ見てみると、俺をじろりと睨んできたり、やけにニヤニヤしてたりしていた。

 もしかして、美咲は俺の集中力を試しているのか?

 そのメモ帳の一部は破り捨てたい記録があるの知ってるから怖いんだけど。


「あ……しまった。……どうしよう」


 ぼそっと、美咲が呟いたのが耳に聞こえた。

 メモ帳を見ていて何かに気づいたようだ。

 

「何かあった?」

「あ……ごめん。邪魔しちゃったね。明人君この近くにコンビニある?」


 一番近いコンビニなら清和南中学校を抜けたところにある。


「自転車で5分くらいのところにあるけど、歩いたら結構あるよ。何かいるなら買ってくるけど」


 すでにパジャマ姿の美咲をわざわざ着替えさせるのも可哀想だ。

 自転車に乗れない美咲が行くとなると歩きになる。一人で行かせるのには不安がある。

 俺がひとっ走りいって買ってくる方が早いだろう。

 

「いいよ。自分で買いに行くから」

「美咲はこの辺の土地勘ないだろ。夜も遅いし俺が行ってくる」

「……でも」

「遠慮しないでいいって。んで、何を買ってくればいいの?」

「――あの、言いにくいんだけど」


 ☆


 コンビニに着いた俺は、まず店内を見まわす。

 店内には男性客3人と女性客が2人いる。 


 店内を巡回し、目的の物がどこにあるか探す。

 目的の物を発見したが、まずは素通り。

 

 雑誌コーナーで適当に本を手にして、周りの状況確認。

 眼鏡をかけた男の店員がレジで退屈そうにしている。

 俺の横にパチンコ雑誌を立ち読みしている男。

 他の客は食べ物コーナーをぐるぐると回っている。

 

 男性客と女性客が一人ずつ買い物を終えて出ていった。

 俺はタイミングを見計らう。

 

 俺の姿は傍から見ると挙動不審かもしれない。

 やたらと人の動きを気にしているからだ。

 

 また一人、女性客が出ていき、男性客がレジで対応中、すぐに出るだろう。

 これで残るは隣にいる男だけだ。


 雑誌に夢中のようだから、今ならば気づかれまい。

 手にした雑誌を棚に戻し、かごを手にして目的の場所へ。


 目標物が美咲から聞いた商品と一致していることを確認。

 素早くかごに入れ、レジへ。

 

 ここでまず誤算が生じた。レジで対応中だった男が何やら店員に説明を受けている。

 ポイントカードの入会手続きをしているらしい。

 今、このタイミングでそんなことしてるんじゃねえ。


「すいません。レジお願いしまーす」


 男の店員が店の奥にいる人に声をかける。

 俺が後ろに並んだからだろう。


 出てきたのは若い女性の店員。

 うわ、最悪だ。


「こちらのレジへどうぞー」

  

 さっさと済ませよう。  


 店員の目が、かごの中の物から俺の顔へと視線が移った。

 一瞬、変な顔したけれど気のせいだと思いたい。

 そして、よりによってその店員はいらぬ気遣いをしてくれた。


「あの、お客様。他にも数種類ありますが、こちらでよかったでしょうか?」

「――これでいいです」


 俺は店員と視線を合わせることもできずに答えた。

 店員は紙袋に商品を入れようとするが、サイズを間違えたらしくやり直す。頼むから早くしてくれ。


 ここでさらに最悪なことに、新たな女性客が店内に入ってきて、俺の後ろを通っていく。

 今、ちらりと俺の顔を見ていったけれど、多分レジの上の商品も見えていただろう。

 見られた。今の絶対見られた。絶対、怪しい男だと思われる。

 

 ようやく、清算を済ませて商品を受け取り店外へ。

 かごに投げ込み、全力疾走に近い形でコンビニを後にする。


 誰にも会わないうちに帰宅せねば、がむしゃらに自転車を漕いでようやく帰宅。

  

「おかえり。遅かったね。もしかして私が言ったのなかった?」

「あったよ。美咲が言ってた羽根付きって、これで合ってるよね?」


 美咲に生理用品の入った紙袋を手渡す。   


「うん、合ってるよ。明日あたり来そうなんだよね」

 

 女には生理これがあったのを俺は完全に忘れていた。

 男が単身で生理用品を買うのは、とても勇気がいることなのだと気づかされた俺だった。 

 あのコンビニもう行きたくないな。


  

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ