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帰路  作者: まるだまる
239/406

238 愛台風襲来3

「飼うって……」


 脳裏に軽く、俺の部屋で愛が床の上をコロコロと猫のように転がる姿が浮かぶ。

 あ、ちょっと見てみたいかも。

 そう思った瞬間、俺の脇腹を深くえぐる手刀があった。


「ぐっ!」


 手刀の主は目の据わった美咲だった。

 この目はマジでやばいので、おとなしくしていよう。

 この状態の美咲には何やっても藪蛇にしかならないだろう。

 何、一発の痛みぐらいならまだ耐えられる。


「な、何で急にそんなこと言い出すの?」

「実はですね。今日出てくるときにパパと喧嘩しまして」

「はい?」

「明人さんの家に行くことがばれて、猛反対されまして」

「はあ……」

「それで喧嘩して愛は家を飛び出したわけです。少なくとも今日は家に帰りたくありません」


 ちょっと待て。そんな大事なことを今の今まで言わなかったのか。

 今頃、お父さん絶対探し回ってるぞ。


「ただとはいいません。愛を飼うと、料理以外にも特典がついてきます」

「例えば?」

「まず、愛がいると家の中が騒がしくなります」


 騒がしくなったら嫌だよ。

 多分、賑やかになるの間違いだろう。

 

「次に、明人さんのお世話ができます。何でしたらそのままお嫁に貰ってくれても構いません。愛はこう見えても家庭的な女です。愛を拾っておくと、きっとあなたに良いことが訪れるでしょう」

 

 何だか後半部分、占い師みたいな言い方になってたな。


「駄目でしょうか?」

「駄目に決まってるだろ。あのさー、愛ちゃんそういう大事なことは来た時に言わないと駄目だよ。お父さんは愛ちゃんを心配して反対したんだから、今日は美咲さんがいるんだから男だけじゃないって説得だってできたんだぜ?」

「パパをお義父さんと呼んでくれるんですか!?」

「そういう意味で言ってないから」


 絶対、お父さんに漢字一文字加えただろ?

 義とかいうの。


「とりあえず、お父さんに電話しな。美咲さん悪いけど、俺だけだと逆効果かもしれないから、説明手伝ってもらっていい?」

「うん、いいよ。早いほうがいいよね」

「嫌です! あの分からず屋の声を聞きたくありません」

 

 ぷくっと頬を膨らませて言う愛。

 うわー、意固地になってるな。


「愛ちゃん、何でそこまで意地を張ってるの?」


 美咲が愛の顔を覗き込みながら聞く。


「だって、せっかく明人さんが招待してくれたのに……」


 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、親と喧嘩してまで来なくても。


「愛ちゃん携帯は?」

「愛のは家の玄関に置いてきました。じーぴーえすとかいうので居場所がばれちゃうので」


 ああ、これやばいかも。

 愛を心配する親は、連絡が取れない状況にきっとイラついていることだろう。 

 俺から電話をかけてもいいが、多少の文句を言われるのは覚悟した方がいいかもしれない。

 家に誘ったのは俺だしな。アリカに余波が行かなければいいが。


 ん? そういえばアリカはこの状況を分かっているのか?

 電話してきた感じだと落ち着いた感じだった。

 あいつは今日10時くらいからバイトに行っているはずだ。

 愛が家を出ていくまでは家にいたはず。

 もしかして、アリカが父親に説明してくれてるのかもしれない。

 

「えっと、愛ちゃん家を出るときアリカいた?」

「学校に用事があるとか言って、いませんでしたけど……香ちゃんが出た直後にパパと喧嘩したので事情は知らないかもです。でも、元はと言えば香ちゃんのせいです。パパの目の前で明人さんの名前を言ったから」


 ぷくっとさらに頬を膨らませる愛だった。

 アリカ的には愛に注意しただけなんだろうけど、タイミングが悪かったな。

 これは一旦アリカに連絡した方がいいな。もうバイトも終わっているはずだ。

 

 またリビングに戻ってきた俺たちは、まずアリカに連絡を取ることにした。

 携帯を見てみるとブラックアウト状態。まさかの電池切れ。

 そういえば、昨日の夜に充電し忘れていた。


 充電ケーブルを繋ぎ、電源を起動。起動画面が落ち着いたと思ったら電話が鳴った。

 相手はアリカ。すっごい嫌な予感がするんだけど。


「もしもし?」

『やっとかかった! ちょっとあんた何やってんのよ? あー、それどころじゃない。まだ愛はあんたの家にいるの? パパがすんごい心配してるんだけど』

 早口にまくしたてるアリカ。

「落ちつけ。今は家か? 俺もついさっき愛ちゃんから話を聞いたばっかりなんだ。俺の家来るのに反対されて喧嘩して飛び出してきたって」

『家に帰ってきてびっくりしたわよ。パパが真っ青な顔で玄関にいたから』

「は?」

『あの子ったら家を出ていくときに、パパの携帯から、家の鍵からバイクの予備鍵まで全部持って行っちゃったらしいのよ』


 追跡防止にそこまでやったのか。

 機転が利く子だな、おい。


「うん。悪いアリカ、お父さんに電話を代わってもらえるかな。まず、心配してるだろうからそこは俺から謝るわ」


 代わったアリカのお父さんから、まず娘の心配をされ、それから軽い説教を受ける。

 途中、美咲が代わってくれてお父さんに説明してくれたおかげで軽い説教で済んだ。

 

 とりあえず、今から愛を送っていくと言うと、先にアリカをこちらに向かわせると言われた。

 どうやらバイクで来るらしい。


 アリカに住所と簡単な道順を教える。

 アリカの家からバイクだとそれほど時間もかからないだろう。


 ☆


 家の前で待っていると一台のバイクが止まる。

 アリカのバイクだった。思ったよりも早く着いたようだ。

 ヘルメットを脱いで、頭を軽く振りアリカが謝ってきた。 


「――ごめんね。愛が迷惑かけたわ」

「いや、まさか喧嘩して家飛び出してきてたとは思わなかった。悪いな、お前もびっくりしただろ」

「うん。マジびっくり。パパったらマジで顔を青ざめてたから人でもはねたのかと思ったわよ。んで愛は?」

「お前が来るって聞いてから、トイレに籠ってる。今、美咲さんが説得中」

「あの馬鹿……」

  

 愛の籠城するトイレへとアリカを案内する。

 どうやら美咲の説得は聞かなかったようだ。

 

「愛、あんた何考えてんの? いいから出てきなさい」

「やだぁ! 香ちゃん怒ってるからやだぁ!」

「……馬鹿ねえ。怒ってないから出てきなさい」

 アリカは柔らかい口調で言った。

「あんたがここに来たがってたのも分かってるし、ちゃんと勉強してたってことも明人から聞いてる。喧嘩して飛び出したのは悪いことだけど、パパが心配してるから。ここは明人の家なのよ。迷惑かけたら駄目。ね、出てきなさい」

「……」


 カチャっと鍵の開く音がして、扉が開く。

 俯き、むすっとした表情の愛が出てきた。 

 アリカは背伸びして、愛の頭を撫でる。

 

「……ホントに――このばかちんが!」


 撫でていた手で、愛の頭をがしっと掴むと、飛び上がってまさかのヘッドバット。

 アリカの頭突きにそのまま膝をつく愛。

 頭を抱えて痛みで声がすぐに出ないようだ。

 女の子のヘッドバットって、初めて見たぞ、おい。


「――か、香ちゃんひどい。怒ってないって言った……の……に……」


 本当に相当痛かったようで、愛は泣きながら言ったが、アリカの顔をみるや尻すぼんだ。

 どうやらアリカの迫力に声が出なくなったらしい。


「怒ってるに決まってるでしょうが! あんたの勝手な行動でどんだけの人が迷惑受けたと思ってるの。あたし以外に迷惑かけたら駄目って、いつも言ってるでしょうが!」

「ご、ごめんなさい」   


 あたし以外――か。

 アリカらしい言い方だった。

 こうみると、アリカはやっぱり姉で、やっぱり愛は妹だった。

 愛に軽く説教したあと、アリカが振り向いて俺と美咲に頭を下げた。


「美咲さん、明人。本当にご迷惑かけました。愛に代わって謝ります。申し訳ないけど鍵を受け取ったら家に戻ってパパと一緒に迎えに来るから、それまで愛を預かっててもらえる?」


 アリカは一旦帰宅し、それから父親と共に車で愛を迎えに来た。

 俺と美咲は父親に謝罪し、愛が勉強を頑張ってたことを伝えた。


 愛の父親から「この子は頭が悪いから、また勉強を見てやってくれ」と言われた。

 それを聞いた愛は「ごめんなさいでした」と父親に大きく頭を下げるのだった。


 愛たちの乗った車を見送り、美咲と二人家の中へ。

 リビングに入った途端、二人して崩れ落ちるようにして膝をつく。


「……疲れた」

「うん。……疲れた。何だか台風みたいな一日だったね」


 愛の言うとおり、愛がいると騒がしくなった一日だった。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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