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帰路  作者: まるだまる
238/406

237 愛台風襲来2

 午後から勉強再開。(顔の落書きは落とした)

 

 二人して俺の顔に悪戯したからか、おかしな絆でも生まれたのか、午前中よりも美咲と愛の仲が深まったように思える。午前中は愛が美咲に質問することもなかったのだが、午後になってからは美咲にも質問するようになっていたからだ。

 美咲も愛には、俺の時と違ってゆっくり教えている。答えを示すのではなく、ちゃんと愛に考えさせて導いている感じだ。スローペースだけれど、愛もちゃんと考えて答えまでだそうと努力していた。


 俺が二人の様子を見ていると美咲が反応した。


「あ、愛ちゃん気を付けて。明人君がいやらしい目で見てるよ」

「愛はその方が嬉しいんですが?」

「……」

 

 うん。まだ少し噛み合ってないようだ。

 これがアリカなら美咲の振りに乗るんだろな。

 美咲も振った言葉を見失って、次の言葉が出なくなったらしい。 


 午後3回目の休憩中、俺の携帯が鳴った。

 発信者を見てみるとアリカ。


「はい。もしもし」

『アリカだけど、どう? 愛の様子』

「真面目にやってるぞ。美咲さんにも教えてもらいながら」

『え? 何で美咲さんがいるの?』


 美咲を家で預かってるからだとは言えないだけに、愛に言ったことと同じ言い訳をしておこう。


「ほら、俺も勉強教えてもらってるだろ。んで、頼んだんだ」

『あー。……愛も残念っていうか、あんたも気が利かないって感じね。心配するだけ無駄だったわ。あまり遅くならないように帰してね。じゃあ』

「ああ、分かった」


 電話を切ると、愛と美咲がひそひそ話をしている。


「ああやって、いつも香ちゃんと電話してるんです。ずるいと思いませんか? 夜遅くに長電話とかしてたりするんですよ」

「ほほぉ? おかしいなあ。私、明人君からそんな話を一度も聞いたことがないけど」


 軽く笑顔がひきつる美咲。やばい。アリカが絡むと美咲はさらにやばい。

 嫌な予感しかしないんだが。


「ちょっと待て。今のはアリカからかかってきたんだぞ。それにすぐに切ったじゃねえか」

「うん。今のはね」


 あ、通じない。これ絶対通じない。もう確信できる。

 ゆらっと立ち上がる美咲。

 何故か一緒に愛まで立ち上がる。

 え、もしかして……愛まで俺にお仕置きなの?

 

 二人してじりじりと俺に近づいてくる。

 怖い。普通に怖い。


「ふふっ。何をおびえてるの?」


 うわー、美咲がここにきて今までにないキャラ出してきた。

 Sか、ドSのキャラなのか。

 どういう対応していいか、全く分からない。


「お仕置きの時間だよ!」

 どっかで聞いたようなフレーズは止めてくれ。

 逃げようとしたが捕まり、後ろから美咲にギリギリと首を絞められる。   

 これは確実に落ちる気がする。

 最大の理由が俺の両手を封じるように、前から俺に抱き着いている愛のせいだ。

 愛のおかげで、手でガードすることも身をよじることさえできない。

 何、この地獄の共演。


「ふふ。ふふ。明人さんの胸ひろーい。あったかーい。前からこの時が一番のちゃんすだって思ってたんですよー。美咲さんに振ってみた甲斐がありました。すりすり」


 愛の言葉を聞いて、すぐに意識が暗転した。


 ――どれぐらいの時間がたったのか。


 またしても、顔に何かがぐりぐりと押し付けられる感触。

 ついさっきと同じ感覚。


「あら、起きちゃった」

「またも残念です」

 

 目の前に美咲と愛の二人の顔がすぐそばにある。

 またもや二人とも手にペンを持っていた。


「……鏡」

「はい、どうぞ!」


 愛が素早く鏡を差し出す。


 眉毛が繋がってるし、ロボットみたいな口線ついてるし、猫髭書いてるし、おでこには漫画で使う怒りマーク書いてるし、お前らホントに好き放題だな。


 このコンビ組むとやばいわ。

 

 2度目の洗顔を済ませ、勉強再開。

 4時を回ったところで、愛が苦しみ始めた。


「も、もう限界です。ちょっと長い休憩をください」


 愛が悲鳴を上げた。休憩しながらの勉強だったけれど、休憩しても蓄積するものがあるらしい。

 

「愛ちゃん頑張ったね。すごいよ。段々こなす量が増えてるよ」


 どうやら美咲のせいらしい。ゆっくり教えているものだと思っていたけれど。

 何のことはない。俺に教えるのと比較したらゆっくりなだけで、愛からしたらハイスピードだったらしい。

 でも、このやり方で愛が覚えていられるのだろうか。愛のノートを見せてもらうと、驚いたもので正解率が上がってる。まだ、ちょっとしたイージーミスはあるけれど、今までよりも確かに上がっていた。

 美咲の教え方が俺よりもうまいのだろう。


「愛ちゃん見てると昔の自分を思い出すよ。私も晃ちゃんに基礎から教わったから」

「……晃ちゃんってどなたですか?」


 ぐてっとテーブルに突っ伏したまま愛が聞いた。

 起きる気力はないようだが、聞く気力は残ってるらしい。


「私の幼馴染。小学生の5年から高校までずっと一緒だったの」

「晃ちゃんってことは、女の方ですか?」

「うん、女の子。でも、男の子よりかっこよかったんだよ。何やらせても一番で」

「そんなすごいかたが近くにいたら、比較されて嫌じゃなかったですか?」

「そんな次元超えてたよ。私の自慢の友達だから」

「なんとなく分かります。私も香ちゃんは自慢の姉ですから」

「晃ちゃんとの思い出話にこんなことがあったの――」


 美咲から聞く晃の話はいい物語で晃が素晴らしい人間だということが伝わる。

 しかし、俺の場合は晃と初対面の印象がすこぶる悪い。

 敵意は向けてくるわ、送ろうとした美咲をかっさらうわ、寸止めとはいえ攻撃もされた。

 そして何より、マジ百合疑惑も残ってる。

 南さんと同じ部類だと思うと、決して美咲に近づけてはいけない気さえもする。


 話に盛り上がる二人に飲み物を用意しよう。

 二人ともココアでいいかな。

 キッチンで牛乳を温めながら、二人の様子を遠目に見る。

 

「愛にはですねー。花音ちゃんというお友達がいるのですが、どうやら誰かに恋をしているようなのです」

「教えてくれないの?」

「さっかー部の誰かってとこまでは分かってるんですが、なかなか尻尾を掴ませてくれません」

「きっと、恥ずかしいんだろうね」

「もう一人のお友達の留美ちゃんはどうやら知ってるようなのですが、愛だけ知らないのは寂しいです」

「もうちょっとしたら、きっと教えてくれるよ」

「そうだといいんですが……」


 こういう姿を見ると、美咲はやっぱり年上で、頼りになりそうな感じがする。

 社会不適合者候補だとはまるで思えない感じだ。

 思えば、俺も例外でなく美咲には色々なことを話してる。

 話しやすいだけじゃない。そう、共感というか、親身になってくれてるのが伝わるんだ。

 だから色々と話してしまうのだろう。それだけじゃないかも知れないけれど。


 ポコポコと、牛乳が小さな気泡を上げて音を立てる。

 そろそろいい感じだ。

 たっぷりのホットミルクを注ぎ、ココアミルクを2つ用意する。

 トレーに乗せて二人の下へ、それぞれの前に置く。

 

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「いえいえ。どうぞ」

 

 二人はココアミルクにふうっと軽く息を吹きかける。

 熱くしすぎたかな?

 二人はココアミルクを口に含むと、満足そうな笑みを浮かべてくれた。

 どうやら口にあったようだ。


「明人さんの入れてくれたココアミルクおいしかったです!」  

「うん。おいしかった」


 突然、愛ははっとして、背筋を伸ばして姿勢を正す。

 背筋を伸ばすと愛の大きな胸がもう一つ大きく見える。

 

「ところで、愛には今日色々な思惑がありまして」

「何、急に」

「おうちにお邪魔させてもらった上に、お勉強を見てもらってる身ではありますが」

「愛ちゃんどうしたの? 急にかしこまって」

「明人さんのお部屋にお邪魔させてもらえないでしょうか?」

「何だ、そんなことか。いいよ。変わったもんなんて何もないけどね」


 俺がそう返すと愛は嬉しそうに「やったー」っと両手を上げて喜んだ。

 そんなに嬉しいものなのか?

 目立つものといったら、ベッド脇にかけてる猫グローブくらいなんだけど。

 

 二人を2階の俺の部屋へと案内する。

 実際、美咲は昨日から何度か俺の部屋へ入っているのだが、ここは演技してもらうことにしよう。

   

「はい、どうぞ」


 扉を開けて、愛を導く。

 

「ここが明人さんのお部屋なんですね。何だかいい匂いがします」


 愛は軽く鼻をくんくんとさせる。

 部屋に置いてるのって、そこらへんで売ってる消臭効果入りの芳香剤なんだけど。


「これが明人さんの使ってる机ですか? しんぷるでかっこいいですね」

 

 俺の部屋にあるんだから、俺の机に決まってるでしょ?

 愛はくるりと反転すると、今度はベッドに視線が止まった。

  

「こ、これって明人さんのべっどですか?」

 

 だから、俺の部屋だって。

 もちろん高級ベッドじゃないし、値段もそこそこ安いシングルロングのベッドだ。

 何だかベッドを眺める愛の興奮レベルが急上昇してる気がしてきた。

   

「あ、あのとても変なお願いしていいですか?」


 ベッドに転がりたいとか、飛び込みたいとかだろうな。

 もう想像がついてるけど、一応聞いておこう。


「お願いって?」

「愛をここで飼うのはいかがでしょうか?」


 愛のお願いは、想像の枠を遥に超えていた。


      

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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