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帰路  作者: まるだまる
236/406

235 Take-Out5

「ここが明人君の家? 大きいね」

 手に大きなカバンを持ったまま、美咲は家を見上げる。


 俺が出した結論は、美咲自身を預かることだった。

 帰りに美咲のアパートに寄って、美咲に色々教えてみたのだけれど、いまいち理解していないというか、やることが不器用というか、教えるには時間が足りなさ過ぎた。そこで考えたのが、美咲を置いて帰るよりも、美咲を持って帰ろうということだった。目の届かないところで何かされるよりは、目の届くところで保護した方が楽だ。


「あの、……明人君。本当にいいの?」

「ああ、部屋なら空いてるし、客用の布団もあるから。足りないものはまた取りに行けばいいだろ?」


 家に入って美咲をリビングに案内した。


「とりあえず飯作るけど、美咲も食べる?」

「え、えと、夜は少しでいいから」


 今日のメインの予定はチンジャオロース。混ぜて炒めるだけの簡単メニューだ。

 下ごしらえを済ませ、次は風呂の用意。

 振り返ると美咲が荷物を持ったままちょこんと正座していた。


「何をかしこまって床で座ってんの? 荷物おいてソファーにでも座りなよ。俺、風呂の準備してくるから」

「う、うん。ありがと」


 美咲はソファーに座る。


 風呂場に行き、湯を張る用意をして風呂の自動ボタンを押す。

 これであとは終了のチャイムが鳴ればOKだ。

 ダイニングに戻ってくると、美咲が地蔵のように固まっている。

 どうやら緊張しているようだ。借りてきた猫とかいうのはこんな感じなのかな。


「何か飲む? コーヒーかココアならあるけど」

「だ、大丈夫」

「そっか。すぐに飯作るからちょっと待ってね」

 

 食事が作り終わったところで、風呂場のチャイムが鳴る。

 美咲用の食器を用意して食事の準備が出来上がる。

 配膳を済ませ、二人そろって「いただきます」と手を合わせて食事開始。

      

「明人君って、何でもするんだね」

「ほら、今この家俺だけだから」

「あ、そっか。そうだったよね。ごめんね」


 美咲は悪いことを聞いたと感じたのだろうけれど、謝る必要なんてないぞ。

 食事が終わった後、美咲が使う部屋へと案内。

 間取りは俺の部屋と同じだ。


「この部屋を使ってくれ。使ってないけど掃除はしてるから、俺の部屋は隣だから何かあったら何でも言ってきて」

「う、うん。ありがとう」

「じゃあ、先に風呂入ってくれるか? 美咲が入ってる間に布団とか用意するから」

「うん。分かった」


 美咲が入浴中に布団の用意とキッチンの片づけを済ませる。

 しばらくして、美咲が水色のパジャマ姿でリビングに姿を見せた。

 

「お風呂上がったよ」

 

 風呂から上がったばかりだからか、髪が濡れ頬が上気して艶っぽい。

 初めて見る美咲のパジャマ姿に思わず見惚れてしまった。

 

「明人君?」

「俺も入ってくる。テレビでも見てて」

 

 慌ててテレビを点けて、風呂場へと移動する。

 今の変な風に思われたかな。

 何を慌ててんだ俺は。


 自分の風呂を済ませ、リビングに向かうと美咲の声がする。

 誰かと話している感じ。電話か。


「――うん。まさか、こういうことになるなんて思わなかった。――えっ!? いやいやいや、そういうことじゃないって。――うん。えっ!? そ、そりゃあ、明人君も男の子だからそういうのあるかもしれないけど。――春ちゃんはどう思う?」


 誰かと思えば春那さんと電話してるのか。

 状況報告といったところかな。

 あまり聞かないようにしよう。


「――うん。迷惑かけないようにする。お仕事頑張ってね。じゃあ」


 電話が終わったか。見計らってリビングへ入る。

 美咲は携帯を持ったまま振り向く。


「風呂出たよ」

「おかえり明人君」 


 美咲はまだ緊張しているようなので、寝る前に少しばかり雑談。

 何だかモジモジしている美咲だった。

 

「そんなに緊張しなくていいって、寝泊まりするだけなんだから」

「うん。でもさ、明日愛ちゃん来るんでしょ? この状況どう説明するの?」


 完全に忘れてた。

 そうだよ。明日9時くらいに愛が家に来るんだった。

 なんて説明すればいいんだ?

 ありのままを言って信じてもらえるか?


「実は明人君に謝ることがもう一つあるの」

「何? 何かあったっけ?」

「いや、実は愛ちゃんがこの家に来るって聞いてから、私も混ざろうかなーって考えてて。も、もちろん明人君たちの勉強を見るためだよ。どのタイミングで明人君に住所を吐かせようかって狙ってたら贈呈式始まっちゃって。春ちゃんがいなくなるのが分かって、ああ、これもう計画無理だーって諦めてたのね。悪いこと考えたから神様が私に罰を与えたんだって。でも、その罰も明人君が消してくれた。ごめんね。変なこと考えてた」


 ああ、そういうこと。アリカが言っていたのはこれか。

 勘のいいアリカは美咲が何かを狙っていることに気づいたってことか。

 ホントに勘の鋭い奴だな、あいつは。

 

「謝ることじゃないよ。仮にその計画通りにしてたとしても、愛ちゃんは残念がるかもしれないけど、俺は教わるメリットがある。美咲らしいと言えば美咲らしいけど」

 

 とはいえ、美咲を預かる期間は10日間。

 平日の日中はそれぞれ学校へ行くし、バイトが終われば一緒に帰ってくればいいだけだ。

 日曜のバイトも一緒に行って帰ってくるパターンになるから、面倒を見るには良策だと思ったんだが。

 周りに知られるとお互いまずいか。


「とりあえず、明日はこうしようか?」


 うまく誤魔化せたらいいけれど。

   

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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