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帰路  作者: まるだまる
235/406

234 Take-Out4

 みんなに話を聞くと、初代店長の高槻さん以外やられたらしい。

 店長は封筒の中に子供銀行の札が入っていたという。

 前島さんは受け取ろうとしたときに静電気をくらい、立花さんは開けた瞬間、封筒が燃えたらしい。 

 春那さんの時は中身に「スカ」と書かれた紙が入っていて、美咲の時は開けたときに煙を噴いたそうだ。

 

「んで、お前の時は?」

 見れなかったことを悔しそうにしているアリカに聞いてみる。

「笑い袋だったわよ」


 その時アリカは思わず封筒をぶん投げたらしい。

 容易にその姿の想像がつくな。


 オーナーの子供じみた悪戯は、この店ならではのセレモニーなのだろう。

 

 店長は人数を確認すると、オーナーから話があるとみんなに告げた。

   

「……10日ほど留守にする」

「何でも本社に行かれるそうなんだよ~」

「……今から向かう」

「また急な話ですね~」

「……あいつがお怒りだ」

「お前さんが逃げまくるからじゃねえか」

 

 オーナーと店長、高槻さんの会話に色々と疑問が浮かぶ。

 本社とか、あいつとか、逃げてるとかって何なんだ。

 ちょっと春那さんに聞いてみよう。

 

「春那さん、今の店長らの話って何ですか?」

「うん? ああ、うちの本社は東京にあってね。そこにいる御剣みつるぎさんから呼び出しがあってね。何時になってもいいからちょっと来いだってさ」


 本社は東京だったのか。

 オーナーはIT企業の社長だか会長だとかって聞いてるけれど、何で清和市にいるんだろう。

 てか、春那さんも少し表情が暗い気がする。

 御剣さんって誰だろう。



「……春那行くぞ」

「――はい。じゃあ、またね。私も同行で留守にするから美咲を襲ってていいよ」

「しませんって」

「冗談だ。でも、美咲のことを頼むよ」

 春那さんは何だか妙に念を押したような言い方をした。


「じゃあ」


 春那さんは俺に軽く会釈するとオーナーのところへ移動した。

 オーナーは言葉少なく、春那さんを引き連れて裏屋へと向かっていく。


「オーナーも大変ですね~。御剣さんに殺されなければいいですけど」

「あいつの場合は自業自得だ。ここんとこずっとこっちにいたからな。御剣も苦労してんだろ。いいかげん頭にきたんだろうな」


 店長と高槻さんの会話に出てくる御剣という人。

 店長はさん付け、高槻さんは呼び捨てしてる。

 一体どういう関係なんだろう。

 美咲とアリカに聞いてみたけれど、名前は聞いたことあるが顔や関係は知らないという。


「あの~、さっきから名前が出てる御剣さんって?」

「鬼だよ~」

「それか悪魔だな」

 

 そんなんで分かるか!

 二人からそんな風に言われるってどんな人なんだよ。


「まあ、正確に言えばオーナーの第一秘書さんなんだよ~」

「御剣が実質のオーナーだっていってもおかしくねえな」

「優秀な方ですからね~」


 第一秘書……そういえば前に美咲から春那さんの話で聞いた気がする。

 オーナーには既に3人の秘書がいて、その中でも第一秘書には勝てる気がしないだったっけな。

 それで春那さんも少し暗い表情をしてたのか。苦手なんだろうな。


 ☆


 仕事を終えて美咲と二人の帰り道。

 結局、俺の時給は850円と分かり、思った以上に入っていた初給料に懐が温かい。

 早目に貯金しとこう。家を出るための貯金だったけれど、バイクの資金に充てるのもいいだろう。

 

 それよか、横を歩く美咲の様子がおかしい。

 春那さんが店を去ってから、ずっとしょげてるというか元気がない。

 何かを言いたそうにしているんだけれど、俺の顔を見るたびに躊躇しているような。

 美咲の悪い癖がまた出てきてる気がする。


「さっきからどうしたんです?」

「な、何もないよ」

 

 嘘つけ。100mも進まない間に逡巡しまくってたろ。

 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい。

 ちょっと話題を振ってみるか。


「美咲、春那さん東京に行ってる間の飯はどうすんの?」

「んー、今日は大丈夫だけど……この土日をどうしようかな。元々、バイト終わった後は家に帰っても少ししか口にしないからなくてもいいけど」

 

 美咲は朝と昼をしっかり食べて、その分夕食を少なくしてるようだ。

 遅い時間に食べて太るのが嫌らしい。太ってるように全然見えないけどな。

 まあ、そこは年頃の女の子だから、そういうところに気を遣うのはいいことだ。

 

「せめて、ご飯の炊き方くらい教えて貰っとけばよかった……」

「美咲、ご飯の炊き方知らないの?」

「う……知らない」


 俺の一言でみるみる美咲が落ち込んでいく。

 

「ふふ。私はご飯も炊けない女。春ちゃんがいなかったら生活もできない社会不適合者なんだ。未来は暗いわ」


 ああ、やばい。自分で自分を落とし始めた。

  

「春ちゃんが帰ってくる頃には、部屋もごみ屋敷と化してるんだわ。だってごみの日とか知らないもん。間違って捨てちゃいけない日に捨てて、知らないご近所のおばさんに怒られちゃうんだ。それでそのうちきっと追い出されるんだ。あれ? そもそもゴミってどこに捨てればいいの?」


 おい、たかだか10日くらいのことだろう。そこまで自分を追い詰めるな。

 ネガティブの塊になってるぞ。


「今まで春那さんが家を空けたときだってあるでしょ?」

「……最大3日。それ以上春ちゃんが空けたことないもん」


 美咲って、どんだけ春那さんに依存してんだ。

 春那さんもちょっと美咲を甘やかしすぎだろ。


「えーと、一応確認しとくけど、美咲って家事はどのくらいできるの?」


 俺の言葉にぴたっと美咲の歩みが止まった。

 よく見ると体が小さく震えてるような。

 

「か、家事? ……ちょ、ちょこっとくらいなら」

 

 美咲は親指と人差し指でこれくらいと示したけれど、それほぼくっついてるな。

 目をそらすな。俺の目を見て言え。明らかに目が泳いでるぞ。

 この様子じゃあ、何もできない感じだな。

  

「はい。ここでクイズ。家事のさしすせそ」

「えとえと、裁縫、躾、炊事、洗濯、掃除!」

 お、ちゃんと言えた。

「はい、正解。で、どれができない?」

「……まともにできるのがない。掃除機はかけれるけど、……どうやって中のゴミ捨てるか分かんない。洗濯もお気に入りの服を駄目にしたことがあってから、……春ちゃんにお願いしてた」


 あ、いかん。美咲の目に涙が溜まってきてる。

 

「ちょっ、泣くな!」

「明人君どうしよ~。1日や2日なら何とかなるけど……10日は困る」

 

 この人、本当に社会不適合者な気がしてきた。

 道理で春那さんが念を押したような言い方したはずだ。

 春那さんも不安だろうな。こんなのを置いていかないといけないんだから。


 さて、どうやって美咲の面倒をみようか?


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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