228 澤工王女2
どちらかというと大熊が響を敵視している?
二人の間に何かあったのだろうか。
「響、響。お前、あいつと何かあったの?」
太一がちょいちょいと手を振って呼びかける。
「本人に聞けば?」
うわ、なんだか急に響も機嫌が悪くなってる気がする。
ここ最近、優しい響しか見ていなかったから、ちょっと怖い。
太一が大熊の方に顔を向けてみると、大熊自身は「別に……」と顔を背けた。
訳が分かんねえな。
太一の知る大熊の情報を少し教えてもらうことにしよう。
「大熊は……学年2位の成績で運動能力も高い。家は結構有名な生け花の先生で金持ちらしい。あと、護身術で合気道だかなんかやってるはず……」
あれ? なんか響と似てるとこ多くない?
そういえば、今の大熊って、顔とかも響に似てるような……。
「ああっ!? 今、気が付きました。大熊先輩って響さんにお顔が似てるんですね」
愛が急に大きな声で言った。
その声にぴくっと反応したのが響と大熊。
「愛さん。目までおかしくなったの?」
「誰が誰に似てるですって?」
ぎろりと愛を睨むほど過剰な反応をする二人だった。
さすがに怖いと感じたのか、愛は俺の後ろに隠れた。
こらこら、下級生を虐めるな。大人げないぞ。
「勘違いしないでね。私は大熊さんのことは何とも思っていないから。向こうはどうだが知らないけれど」
響はちらりと俺を見た後、大熊に視線を移して言った。
ふむ、愛が言ったことも納得できる。
よく見ると容姿の特徴がよく似ている。
凛とした顔つきで、二人とも和装がとても似合いそうだ。
しかし、どちらが奇麗だと言われれば響に軍配が上がる。
やはり二人が並んだら響の方が奇麗さが上だ。
全身から出るオーラが違うのか、優劣をつけるとなれば、響の方を優と選択するのが普通だろう。
言うなれば劣化した響が大熊だ。
下に見られる大熊からしたら面白いものではないだろう。
「……こっちも別に何とも思ってないわよ」
「こらこら。せっかくの昼飯時につまんない争い起こすな」
北野さんが二人の態度を見て注意する。
「うふふ。ゆかりさんたら、いつもみたいに東条さんに負けるのが悔しいって、ちゃんと仰ればいいのに」
南さんがニコニコとしながら言う。
大丈夫なんですか? 大熊が怖い目つきで睨んでますよ?
「それって、どういうことでしょうか?」
愛が南さんの言葉に食いついた。
「なんでも、そもそもは東条さんがゆかりさんの家に習い事に来られてて、あまり褒めないことで有名なゆかりさんのお母さまが東条さんをべた褒めしたのがそもそもだとか。その後もお二人とも茶道に合気道と同じ習い事で顔を合わせていたそうです。そして、幾度となくゆかりさんは東条さんに勝負を挑むのですが、いつも負け――」
「まだ勝負は決まってませんから!」
負けという言葉に反応して大熊が叫ぶ。
どうやら大熊は負けず嫌いらしい。
響も勝負事には熱くなるが、負けず嫌いなところまで似ているようだ。
でも、これで整理がついた。
大熊の家が生け花の先生をしていて、響がそこに通っている。
自分の親が響を褒めたことで、ある種の嫉妬でも浮かべたのだろうか。
この件で大熊が響をライバル認定したのだと推察できる。
多分、茶道や合気道でも、大熊が響に勝負を仕掛け続けているのだろう。
勝負事に熱くなる響は手加減無用で大熊の相手をしたに違いない。
俺の記憶の中で単独勝負で響に勝てたのは誰一人としていない。
そう考えると、響ってやっぱりスペック高すぎるよな。
「生け花とか、特に茶道って勝負のしようがあるのか?」
「茶道は奥が深いものなのでぇ、少しの乱れでも目立つのですぅ。東条さんは常に安定されてるんですがぁ、大熊さんは心が乱れてることが多いんですぅ。うちの母が言ってましたぁ」
太一の質問に、何故か佐渡島がニコニコしながら答えた。
「佐渡島さんの家は茶道の先生をしていて、私と大熊さんが通っているの。当の佐渡島さんはしていないようだけれど」
「私、ああいうの苦手でぇ。うちの親も私には無理だからやめとけって言ってくれてるのでぇ」
それ、親から見切られてない?
「でもぉ。最低限のマナーは心得てますよぉ。親が恥じかかない程度にぃ。ねー、にしもっちぃ」
急に西本に振る佐渡島。
西本は周りの騒動などお構いなしに、一人平和に弁当へ箸を進めていた。
「うん? ああ、そうだねぇ」
西本。お前弁当に夢中で今までの話を聞いてなかっただろ?
しかし、癒し系の西本が言葉を出したからか、その後は険悪な雰囲気も急速になくなり、諍いもなく昼食を終えた。
西本の出す癒し空気すげえな。
☆
「では、さっそく話をしようか。ちょっと聞いてくれ」
弁当を片付けた後、北野さんが急にみんなに呼びかけた。
何事かとみんなの視線が北野さんに集まる。
その様子を見て満足そうな北野さん。その笑顔の裏に何があるのだろう。
豹変した姿を知っているだけにちょっと怖い。
何か知っているかと、響に視線を送る。
俺の視線に気づいた響は小さく顔を横に振って答えた。
響も知らないようだ。
「ちょっと君たちにお願いがあるんだ。実はさ、今度澤工の生徒会と初の交流会をやるんだけどさ。そのスタッフになってくれない? これ生徒会企画で他の生徒はあまり関係ないから、生徒会だけでやるべきなんだけど。今回は両校の試験がずれた関係で結構強行スケジュールな訳。これやばい。間に合わないってことで、せっかく知り合った君たちにお願いしようかなーなんて思ったりして。手短に言うと準備の人手が足りなくて手伝いを募集したい。駄目?」
言ってることは分かったけれど、実際なところ何をするんだ?
俺はバイトがあるから、あまり時間を取れない。
他のみんなも周りの様子を窺っているように見える。
「いやいや、準備と言っても大したことじゃないんだ。みんなは私たちが校内を案内している間に生徒会室を設定してくれればいいだけだ。一、二時間は拘束することになるかな。千葉君と木崎君、愛里さんは別命があるけどね」
「へ?」
俺らには別命がある?
何だか意味が分からない。
「実はさー。澤工王女の愛里香さんにコンタクトを取りたいんだ」
愛里香って、アリカ?
それと今、王女って言いました?
北野さんから出た王女と言う言葉に対して愛が聞き返す。
「今、王女とか聞こえたんですけど、幼女の間違いじゃないでしょうか?」
おい、愛。君は一応アリカの妹だろ。
そのボケは外でしてはいけないぞ。
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