表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
224/406

223 水族館編4

 美咲と腕を組んで歩いているけれど、美咲は愛のように両腕でぎゅっとしがみつくわけでなく、腕の間接部分に軽く手を添えている。考えてみれば、美咲はそういったところ、つまり――男女の間柄ということに関係なく、俺にボディタッチをしてくることは多い。好意を持ってくれている親愛の証なのだろうけれど。それでも俺としては、いつもよりも距離が近い分、ちょっとしたことでドキっとすることが多い。


 美咲は変わらないようだけれど。


 水棲生物のエリアを見ながら進んでいくと、薄暗いエリアへと様変わりしていく。

 水槽内に直接明かりを落としておらず、遠めに見れば水の中がぼんやりとしたように見える。

 近付くと水の透明度は高い。遠目で見ると分かりにくかったが中の生き物はよく見える。


 水の中を漂っていたのはクラゲだった。

 丸い傘型の頭に、足を思わせる大小の触手。

 傘を閉じたり開いたりしてゆっくりと移動している。


 クラゲはゼラチン状の身体を持っていて、成分の95%以上が水分でできている。

 目の前にいる種類は水クラゲという奴で、一般的に見かけるクラゲといってもいいメジャーなクラゲの種類。英名はウォータージェリーとか言われていて、観賞用に飼われたりもする。

 俺も欲しかったけれど、クラゲは飼育方法が難しく専用の器材も必要で、俺の環境では無理だと諦めたことがあった。


 他のクラゲの水槽を見ていくと、やたらと触手の長いクラゲ、傘が細長いクラゲ、赤い触手のいかにも毒を持ってそうなクラゲ、クラゲの癖に地面をはいずるように生息するクラゲと、クラゲも多種多様だ。地域特有の固有種も存在する。


 クラゲといえば、意外と迷惑な存在になることもある。一匹では問題ないのだが、群れると厄介らしい。

水クラゲなんかも群れを作りやすいタイプのクラゲだ。

 クラゲが迷惑をかける場所というのが発電所。日本の発電所というのは海に面している所が多い。冷却用に海水を使っているらしい。その冷却用の施設の不具合を起こす要因のひとつとしてクラゲがある。海水引き込みパイプに入り込み、パイプを詰まらせることがあるらしいのだ。

 その他にも、日本海ではエチゼンクラゲという大きなクラゲがいるが、こいつの身体の大きさが厄介なもので、成体で傘の大きさは2メートル、体重150キログラムにもなるらしい。一時期、日本海側に大量発生して漁師が困っていたと聞いたことがあるけれど、そんなものが大量襲来したら、確かに漁の邪魔だろうと思う。


 毒を持つ種類もいるし、気持ち悪いとか、触れたくないって人の方が多いかもしれない。

 海とかでクラゲに刺されるっていうけど、あれもクラゲが泳いでいるところに人間が突っ込んでいることの方が多いんだよな。クラゲがたくさんいたら、そのエリアには近寄らないのが一番だ。


 俺がじっくりクラゲを眺めていると、美咲が俺の手をくいくいと引っ張る。

 質問だろうか。よし、今度は俺がクラゲについて語ってやろう。


「明人君、あそこなんだろう?」

 俺の期待を裏切る美咲が何かを指差して聞いてきた。  


 美咲が指差す方向を見てみると、暗幕に囲まれたエリアだった。

 近くに行って暗幕の中に顔を突っ込んで中を覗いてみたが、ブラックライトで足元がかすかに照らされているだけで、水槽にも照明がなく真っ暗で何がいるか分からない。

 

「ここ、なんだろうね?」

 俺の腕を持つ美咲の手に力が入ったのが分かった。

 少しばかりこの暗闇に警戒しているのかもしれない。

「何かいるだろうけど、見えないな」


 そのまま一歩中へと進み、水槽の前に立つと、突然水槽の中を複数の色の光が灯った。


「うわあ、綺麗だねー」

 美咲がその光景を見て、感嘆の声を上げる。

 確かに綺麗だった。


 赤、緑、青の光が水槽内を照らし、その中にはたくさんのクラゲ達が泳いでいた。

 クラゲ達がその光を身体に吸収・反射して踊っているよう見えて、幻想的な空間が出来上がっていた。

 どうやらこの水槽はセンサーが付いた水槽らしく、水槽前に立つと作動する仕掛けだったようだ。  


 しばらく魅入った後、俺達は次の場所へ行こうと振り返った。

 入った時には気付かなかったけれど、俺達以外に人がいた。


「「!?」」


 俺と美咲の足が同時に止まる。

 おそらく美咲も見てしまったのだろう。 


 そこにいたのは、俺達と一緒に入ってきたカップル達の一組だ。

 その人たちが暗いのを利用してキスしていた。こっちが赤面しそうなくらいくっついて。

 するのは構わないがこんなところでするな。

 てか、俺達がいるの知ってたはずだろ。目撃した方がどうしていいか分からなくて困るだろう。 

 俺は美咲の手を引っ張るようにして、急いでその場を後にした。


「今の人達、き、キスしてたよね。だ、大胆だね」

「場所をわきまえろってやつだよ」

「す、スイッチはいったのかな? 本当にいるんだね。場所時間を問わない人って」

 美咲は少しばかり興奮気味だ。


「あ、明人君はああいうのどう思った? 興奮した?」

「迷惑」

 美咲の問いに即答で返す。

 基本的に恋人同士だからって、そういうのは周りが不快と感じたら駄目だと思う。

 二人の世界に没頭してしまって周りが見えなくなるという話もあるだろうけど。

 そこは理性をもって行動してほしい。



「そうなんだ? ふーん、そうなんだ?」

 その答えに美咲は向こうをむいて、なにやらブツブツと呟くと鞄から見覚えのあるメモ帳を取り出す。

 ちょっと待ってね。と、美咲がメモ帳に何かを書きはじめた。

 それ、もしかして例の乙女のメモ帳じゃない?

 いつぞやのように、美咲の顔はニヤニヤしている。

 なにやら不安を感じた俺はそっと美咲が書いている内容を覗き見た。


『明人君は露出プレイはお好みではないらしい』 


「おいっ、何を書いてる?」

「うおっ!? また、乙女のメモ帳を盗み見したね?」

 大げさに驚く真似をする美咲。

「いかにも見てください風に書いてたじゃねえか」

「えー、だってー。突っ込みが欲しいところでもあるし、でも、明人君は期待通りの反応してくれたね。グッジョブ」

 親指を立てて嬉しそうに俺に向ける美咲。

「グッジョブじゃねえ。露出プレイって何だ、露出プレイって。具体的にわかってんの?」

 世の中にはいるだろうけど、普通の人はしないぞ。

「人前で裸になったりしちゃうやつでしょ。春ちゃんに教えてもらった」

 あの人は美咲に何を教えてるんだ?

 いや、でも確かに美咲はそういうところはけがれていないというか、純情というかというか、無知だ。

 これはある意味春那さんのような人が必要かもしれない。

 ここは間違いは訂正しておこう。

「露出プレイとさっきのは違うぞ?」

「え、違うの? さっきの場合はなんていうの?」

 言っておきながらなんだが、露出の場合は自分の性器を見せて快感をえるというタイプだ。では、人前でキスした場合は何になるのか。――あれ? 何になるんだ? これも公然わいせつだろうけれど。そうなると、結婚式での新郎新婦のキスも駄目ということになるんじゃないだろうか。

 考えた結果――「公然わいせつだ」 

「違いが分からない……」

 すまん。俺もわからなくなった。



 展示エリアをさらに進めて行くと、今度は緩やかに上っていく通路に出た。

 最初に通ったようなドーム型の通路。

 どうやら、この通路はぐるっと回廊になっているようだ。

 少し違うのは日光の入り方がこちらの方が強いといったところか。

 青の深さが少しばかり緩く感じた。

 時間を確認すると、あと15分ほどで美咲が楽しみにしているイルカショーの時間だ。

 少しばかり早足に移動して、イルカショー会場を目指した。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ