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帰路  作者: まるだまる
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215 校外学習その10

 何故、響が知っている?


 ――ああ、そうか。


 俺が美咲にお仕置きされてるときか。

 あの時の美咲とのやり取りを聞いてしまっていたんだ。

 響はじっと俺の目を見詰めている。俺の真意を測っているようだ。


 こういう時に目を泳がせては駄目だ。落ち着け。慌てるな。

 俺はしっかりと響の目を見詰めて問いに答えようとするが言葉が出てこない。


 正直に人懐っこい美咲からせがまれたと言って、響は納得してくれるだろうか?

 皆の前では隠していたことが、後ろめたさを助長する。


 俺が返答に困っていると、

「ーーいくら仲が良いからって、分別は必要よ? 相手は年上なんだから」

「え?」

「それだけよ」


 てっきり問い詰められるかと思っていたのに、響はあっさりしていた。

 響はくるりと振り返り「また後でね」とバスへ向かおうとする。


「おい、響!」


響は顔だけをこっちに振り返る。


「何? 言いたいことあるの?」

「……お前のバスは後ろじゃない。前の車両だ」

ちらりと自分の向かおうとしたバスに視線を投げ、悪びれもせず、

「あらそう。目的地は同じだから、どれに乗ってもいいような気がするわ」


お前、自分の間違いを自分の都合のいいように持っていってないか?

違うクラスの奴が乗ってきたら「何やってんだ、こいつ」と思われるだろう。 お前のキャラで「間違えちゃった、テヘ」は似合わないぞ。

それとも欲求不満の解消に他のクラスの男子でも無差別に固めにいく気か? 


響は自分のクラスが乗るバス前に移動すると、俺に視線を投げ掛けてバスを指差す。

どうやら、これであっているかの確認のようだ。

 俺は頷いて響のバスを指差した。

響はコクコクと頷いてバスに乗り込んでいった。


あいつ、よく俺と美咲がいる教室にたどり着けたな。



 点呼の終わったバスは学校へと出発。

 俺は行きと同じで補助席を使用している。

窓際の長谷川が隣に座る太一に走り書きの紙を見せている。

 大学から出された課題について、俺たちの班が各個人ごとに好き放題に意見を言ったものだ。

 それを長谷川が取り急ぎメモしてくれたものらしい。


「千葉ちゃん、急いで書いたから字がすごいことになってるんだけど」

「俺に振るなよ。それよかバスの中で字見るの止めとけ?」

「うん。でも、もう遅いかも……気持ち悪い」


 軽く青ざめた表情でいう長谷川だった。

 まだ5分も走ってないぞ?


「ちょっ、外見ろ、外! 何なら窓開けろ!」


太一は窓を開けたり、下敷きで長谷川を扇いだりとちょっと大変そうだった。

相変わらず面倒見のいい奴だ。長谷川のことは太一に任せて反対側の席に視線を移す。


俺の左側に座る川上と柳瀬は響のことについて話合っていた。

 どうやら、せっかく仲良くなったのだからもう少し攻めこみたいようだ。

 無茶ぶりさえしなければいいだろうけれど、少しばかり心配になる。

 春那さんの例のような無茶はないだろうけれど、相手にも感情はあるのだ。


 時折、俺に響のことを聞いてくる。

 内容は嗜好調査みたいな感じだった。


 とはいえ、改めてそう言われると俺も響のことをまだよくわかってないことを実感する。

 響が好きなものや苦手なこと。

 多分、その辺は俺よりも川上たちの方が詳しいのではないだろうか。


 皆が知らなさそうなことで知ってると言えば、極度の方向音痴。それと勝負事となると熱くなるくらい。

 あとは時折見せるドSなところ。

 家庭の事情は個人のプライバシーだから了解なしに触れるわけにはいかないし、教えるものでもないだろう。

 結局は、川上らに「役に立たないな、こいつ」と小声でこぼされる始末だった。

 


バスが学校にたどり着き、各自教室へと移動。

 このあとはHRをして終わりだ。

教室へと移動する前に下駄箱で上履きに履き替え中に、体操服に身を包んだ愛たちを見つけた。

 下駄箱の隅でこちらの様子を伺っている。

 俺の周りにもクラスの奴がいるからか、さすがに気後れしているようだ。

 一緒にいるのは、確か花音って子と、愛に「るみるみ」と呼ばれてた瑠美って子だ。

 愛にお付き合いしてくれたのだろう。

 これは偶然ではなく、体育の授業を終えた愛たちがバスを見かけ、下駄箱で待ち伏せしたのが正解か。

最初はこそこそしていたが、瑠美に背中を押され愛が隠れたところから飛び出てくる。

「るみるみひどい!」

 愛は瑠美を睨み付けて文句をこぼす。

 俺に視線を移すと、動揺を抑えつつもにっこりと笑って告げた。

「ーーあ、えと。あの、明人さん。おかえりなさい」

思わず、まじまじと愛の体操服姿を見つめてしまう。

ーーうん。でかいでかいと思っていたけれど、体操服だと胸のでかさがより明確にわかる。

っていうか、愛のボディって一年生なのに完成され過ぎじゃない?

まさにぼん、きゅっ、ぼんが目の前にいる。

「あ、あの明人さん?」

愛が俺を不思議そうに見て聞いてきた。

「あ、ごめん。見慣れない格好だったからまじまじと見ちゃった」

そう言うと、愛は目をキラキラさせてモジモジしながら、

「そ、それは愛に欲情したと受け止めてもよろしいのでしょうか!?」

そこまでないから。スタイルいいなーって思ったけど、欲情までしてないから。

てか声がでかいんだけど。

 周りにいる女子から刺々しい視線がいっぱいなんだけど。


「……明人さんが望むなら、愛はいつでもいいんですよ?」

「お願いだからやめてもらっていい?」


それはともかく、わざわざ出迎えに来てくれたのだ。お礼は言っておこう。


「お出迎えありがとう。今さらだけど、ただいま」

「それもなんですが、実は確認もなんです」

「確認?」

「お勉強、今日からでもよいのでしょうか? 愛的にも今日は別によかったんですけど……」


愛はそう言うと、少し離れたところにいる花音と瑠美に視線を飛ばす。

二人はまるで「行け、押せ。押しまくれ」と言わんばかりの迫力で視線を送っている。

愛にしては消極的な態度であるが、校外学習を終えた俺を気遣ってくれているからだろう。

ところが友達に話したら焚き付けられたといったところか。


「ーー一体、何の話かしら?」


突然、俺の真後ろから冷気を含んだ声がする。

 この声、この殺気。間違いない。響だ。

 うん。この殺気は尋常じゃない状態だな。

 とても心当たりのある殺気だ。

 もうすでに嫌な予感しかしない。


「響さん。今日はお疲れさまでした」


臆することなく、現れた響に普通に会話する愛。この状態の響によく言えるよね。

俺なら無理だ。てか、今すぐ逃げたい。


「ありがとう、愛さん。ーーで、今の話は一体何の話なのかしら?」

「それはですねーー」


愛は聞かれたまま、響の質問に答える。


「明人さんが愛のために二人きりで勉強を教えてくれるんです。その打ち合わせです」

 

 内容はあってるけど説明が足りないよね?

気のせいだろうか。響の全身から更なる殺気が溢れてきているんだけど。

左手なんて何故か手刀の形になってるし。


……さっさとこの場を逃げ出そう。

そう思って一歩進んだ瞬間、襟首を掴まれ、喉仏には手刀が突きつけられた。


「聞いてないけど?」


だって、言ってないし。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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