表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
214/406

213 校外学習その8

 カニタ食堂。

 

 大学設立からある食堂らしく、和洋中とメニューが豊富で、値段も安い。

 在校生にも人気の高い食堂だそうだ。

 駅前にあった本店が、大学からの要請を受けて出店したのが、そもそもの話らしい。


 俺達の班以外も、カニタ食堂を選んだところがあったようだ。

 すでにテーブルに着いて、食事をしている班もあった。

 値段を見るとかなり安い。

 一番高い満腹大盛り定食でも五〇〇円だった。 

 

「ここはコスト度外視で、学生に古くから安く提供してくれてるの」

 美咲が簡単に説明してくれた。


 それぞれ食券を購入。


 券売機だけでも、和洋中の三種類が三台ずつ並んでいて、混雑に対応できるようにしているようだ。

 食券を食堂のおばちゃんに渡すと、手早く準備してくれた。

 俺が買ったのは、エビフライ定食。四〇〇円と安値だった。

 ご飯に味噌汁、エビフライ二匹、一口大のナポリタンスパゲッティ、フライポテト、サラダにキャベツの千切り、それと漬物が付いていた。

 ご飯もおばちゃんの気分次第な感じで、俺が男だからか、多めに入れてくれたようだった。

 これで四〇〇円は安い。


 美咲は、ホイコーローとチャーハンの小をそれぞれ単品で頼んでいた。

 長谷川は鮭の塩焼き定食、太一は、豚カツ定食を頼んだようだ。

 川上と柳瀬が券売機の前でギャーギャーとうるさいが、どうやらどれにしようか迷っている様子。

 いいから早く選べ。


 結局、柳瀬はオムライス、川上はテリヤキ定食を注文したようだ。 

 食堂の奥にある大きめなテーブル席へと移動した。

 響達もそれぞれ注文したものを手に俺達の後に続く。

   

 響はパスタを選んだようだ。

 ホワイトソースのかかったパスタに見えるけど何だろう。

 

 大きなテーブル席の一番奥に太一が座る。

 俺は太一の横に座り、俺に続いて座ったのは響だった。

 反対側には、長谷川、川上、柳瀬が続き、その後に美咲が座った。

 遅れて響たちの班も空いた席へと男女に分かれて座る。

 響の正面が固まらない三人だったのはちょうど良かった。


 いただきます、とそれぞれが食事を口にしていく。


「あ、うまい」

「これ、お母さんのよりいいかも」

 柳瀬がぽつりと言った。

 比べる基準が違うような気がするけど、まあ、よしとしよう。

 俺が頼んだエビフライも身がしっかりと入っていて、値段以上のものに感じた。


 フォークとスプーンを使い、くるくるとパスタを巻き取る響。

 ぱくっと小さな口を開けて放り込む。

 もぐもぐ、としばらく噛み、こくんと喉を鳴らす。


「……」


 響、お前無表情なんだから何か言えよ。

 美味いかどうかわからないだろ。

 とりあえず聞いてみた。


「美味いか?」

「ええ、とてもいい感じよ」


 だから、無表情で言われても、そう思えないって。


「……そうか」

「一口食べてみる?」


 響はくるくるとフォークにパスタを巻き付けて、手を添えて俺に差し出す。


「はい、あーん」


 いや、それ無理だから。

 てか、なんでほかの奴の目の前でできるの?

 恥ずかしくないの?

 川上と柳瀬を見ろ。ジト目でこっち見てるじゃねえか。

 他の奴は見て見ぬ振りをしてくれてるけどさ。


「恥ずかしいって!」

「あら、愛さんはよくて私は駄目なの?」


 おうふっ。痛いところを突きやがる。

 愛とのデートで見ていたからな。

 これは腹をくくった方がいいか?



 口を開けようとした途端、冷気に襲われる。

 この感じよく知ってる。俺に危険が近付いてる証拠だ。

 周りを見ると視界にいる美咲が、目だけ笑いながらこっちを見ている。

 あれは笑ってねえ。絶対、笑ってねえ。

 

「ほら、早く」


 口元にパスタを持ってくる響。 

 どっちがましだ? 

 これを食べなかったら、響は怒るかもしれない。

 食べたら食べたで、美咲からまたお仕置きされるかもしれない。

 これ、どっちも引けねえじゃねえか。何、この罰ゲーム。


 腹をくくり、美咲からのお仕置きを選択した。

 間違ってるかもしれないけれど、美咲からは逃げれば何とかなると思うことにしよう。

 ぱくっと響の差し出したパスタを口にする。


 ホワイトクリームの中に入ったチーズの濃厚な匂いが鼻腔に充満する。


「あ、これ。美味い。チーズがすっげえ美味い」

 マジで美味かったので、思わず口に出た。


「でしょ。好みがあって良かったわ」


 響の口角が少しばかり上がったのが見えた。

 もっと素直に笑えよ。可愛いのにもったいないと思う。


 それより、急に美咲が手帳を取り出して何やら書きだしたのが気になる。

 あれかな。乙女のメモ帳とか言うやつかな。

 あれの中身って、ろくな事書いてないから怖いんだよな。

 この間は俺を道連れにして死のうとかって書いてたし。

 書き終わった美咲の笑顔が超怖い。

 美咲の目が『分かってるよね?』と訴えてるように見えるのは何故だろう?

 気のせいだと思いたい。


 食事が終わり、ちょっとした雑談タイム。

 川上と柳瀬が響に一生懸命話しかけている。


「東条さんて、普段何してるんですか?」

「習い事くらいかしら。あなたたちと変わらないと思うけど」

「好きな芸能人っています?」

「ごめんなさい。テレビはあまり見ないから、芸能には疎いの」

「習い事って何してるんですか?」

「書道と茶道、生花、後は、合気道を少々」

 

 何か、見合いっぽい会話だな。


「逆に聞いていいかしら? 川上さんは普段どういうことしてるの?」

「私? んーと、ブログ作ったり、芸能ニュース追いかけたりしてます。私、新聞部なんで勉強がてらなんですけどね。特にゴシップですけど……」


 意外と真面目な回答だった。


「芸能ニュース……将来は記者にでもなりたいの?」

「できればですけどね。成績よくないと記者になれないとかよく言われますし」

「そこは自分のがんばり次第ね。柳瀬さんは?」

「私? ゲームしたり、動画見たり、基本ゴロゴロしてますよー」

「ゲームはどんなのが好きなの?」

「今は乙女ゲームかな。前は狩るやつしてたんですけど、飽きちゃって」

「私の母も、乙女ゲームとかいうのをよくしてるわ」

「えー、お母さんとかゲームするんですか? 東条さんは?」

「私はしないんだけど、母がね。しょっちゅう悲鳴を上げてるわ」

「悲鳴? どういうのかタイトル知ってます?」

「えっと、最近のだと、ヒロインがカキツバタアヤメとか言ってたような……」

「あー、それ知ってます。鬼ゲーですよ」

「ところで、私と話すのは敬語じゃなくていいわよ?」

「あ、ごめんなさい。逆におかしいよね。了解、了解!」


 意外と盛り上がる三人の会話を目にして、感心した。

 響って、話を引き出すのがうまい。これも頭がいいからなのか。

 思わず感心して見物していると、響が俺に視線を送ってきた。

 どうやら眺めている俺が気になったようだ。 

 

「……何? どうしたの?」

「マジで川上らと気が合うかもな。お前のクラスのやつとも、こんな風にできるんじゃないのか?」

 

 俺がそう言うと対面に座る川上らは喜んだ顔を見せた。


「ちょっ! 柳瀬、これチャンス」

「任せろ川上。敵の牙城に突っ込むわよ」


 お前ら、声がでかい。

 ところで、敵の牙城って使い方間違ってないか?


「クラスだと、用事以外は誰も話しかけてこないのよ」

「え、何それ。どういうこと?」


 川上が食いついた。そして、響の班員にも目を向ける。

 こいつらに詳しい話を聞きたいのだろうか。


 武藤、佐々木の男子二人は、共通の話題がないからと言葉を濁す。

 小早川、佐伯の女子二人は、他の子の目もあるからと顔を伏せた。


「えー、そうなんだ? 東条さん、こんなに話しやすいのにもったいない。そんなの東条さんが寂しいじゃない。私らは抜け駆け禁止があったからだけど、クラスメイトだったら言い訳できるじゃん」


 川上が、そう言うと、響は小さく俯いた。


「……私の態度も問題があるみたいだから……」

「え? どんな?」

「……冷たいとか、言葉が厳しいって、言われたこともあるわ」


「えー、今日そういうの感じなかったけど? ねえ、柳瀬?」

「同意。どちらかというと、そっちの方がツンデレみたいで攻略し甲斐があるってのに」


 こういう言葉を出すやつが、響のクラスにもいたなら響は孤立しなくてすんだだろう。

 歯痒い思いがした。

 響なら友達がたくさんできてもおかしくないと俺は思うからだ。

 

「じゃあ、友達は?」

 その言葉を言われて、響がビクッと身体を揺すった。


「……クラスにはいないわ」

「えーと、木崎君はあれか。東条さんの好きな人だから、千葉君?」

「ええ、そうね。あとは同じ学校だと一年の愛里さんくらいかしら」


 片手にも及ばない数に川上と柳瀬は、お互いにアイコンタクトを一つ取る。


「じゃあ、私達とも友達になろ?」 


 響に握手を求めるように手を伸ばしてそう言った。


「え?」


 二人から差し出された手を見て、響は呆然とした。


「私らは、確かに東条さんに憧れてる。だけど、どっちかっていうと友達になりたい。だって、今日話してみて楽しかったんだもん」

「同意。柳瀬的にも近くで東条さんのデレが見たいと思った」


 川上と柳瀬は本音で言ってるって気がした。


 響は差し出された手を見てから、俺の顔をチラリと見た。

 響に言ってやる答えは決まってる。


「さっさと握り返してやれよ。二人の手がプルプルし始めてるぞ?」


 響はそっと手を伸ばして、川上と柳瀬の手を取った。


「――こちらこそ、よろしく」


 照れ笑いを浮かべる響。

 ほら見ろ。笑ったらお前超可愛いから。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ