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帰路  作者: まるだまる
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208 校外学習その3

 美咲は俺に気づいた。俺のほうへと視線をちらちらと向けている。

 何度か視線が合うけれど、そんなにニヤニヤすんなよ。

 俺が怒られたのが面白かったのか?

 今の美咲は俺の知っているてんやわん屋でいるときの顔だ。

 さっきまでの陰鬱そうにびくびくしてた顔がなくなっている。

 

 五十嵐教授から今後の流れの説明を受け、順番に受講するところへ移動するようだ。

 最初にA組の一班からD組の一斑が移動を始めた。

 引率する大学生が案内してくれるようだ。

 手前の学生から順番に紹介と引率開始。

 一番後ろにいるのは美咲。あー、これ美咲になるな。

 もうそんな予感というか。確定だろ、これ。

 

 生徒が段々と移動していき、最後である俺達の順番になった。

 B組の八班からE組の八班までが俺らのグループだ。

 グループを見ると知った顔がいる。

 C組に西本、E組に響。うーん、これできすぎだろ。


「それって、青くて丸い奴に出てくる?」

「じゃねえよ、って美咲――さん?」


 俺の横から俺の心に突っ込む美咲がいる。

 あぶねえ。またみんなの前で名前を呼び捨てしかけた。

 いつの間に移動してきたのか。

 

「明人君おはよ。私がここのグループ担当だよ。さっき怒られてたね。やーい」


 にっこりと笑って、いつもの感じで言う美咲。

 二人のやり取りを見て、周りの奴らが、

「うわ、すっげー美人」

「エロザキと知り合いなの?」 

「あいつここにも女いんの?」

 と、遠巻きに俺らを噂する。

 エロザキって何だ? 俺そんな風に言われてんの?


 そんな中、太一と響がすたすたと美咲に近づいてきて挨拶する。


「美咲さんおはようございます。今日はよろしくお願いしします」

「美咲さんおはようございます。今日も綺麗っすね」

「おはよう。響ちゃんも太一君も一緒なんだ。よかった。緊張が和らぐわ」


 その姿を見て、他の生徒たちが驚いた反応をする。


「あれ? 東条も知り合いみたいだぞ」

「千葉君まで。どういうこと?」


 他の生徒たちからも声が聞こえた。


 美咲は咳払いして、他の生徒たちにぺこっと頭を下げる。

「おはようございます。今日皆さんを引率する藤原美咲です。質問があったら聞いてくださいね」


 美咲は声を高らかに言った。

 生徒の一部が反射的に「おはようございます」とか「お願いします」と返す。


 おいこら、そこの名前知らない男子。

 見惚れてんじゃねえ。

 目がいやらしい感じがする。

 何かむかつくからその目は止めろ。


「はい。それでは、最初は構内の見学です。そのあと教室に移動して受講して貰います。みんな私についてきてくれるかな。今から移動します」


 美咲が手を上げながら言った。


 美咲に引率されながら講堂を後にする。

 移動中、くいくいっと川上に袖を引っ張られる。


「あの人、木崎君の彼女さんだよね?」

「彼女じゃねえよ。バイトが一緒なだけだよ」

「あの人を抱きしめてたじゃない」


 川上の横にいる柳瀬がさらに質問をしてくる。

 ああ、そうか。こいつ知ってるんだった。


「あれは罰ゲームだったんだって」

「明人、ちゃんと答えてやれよ」


 横を歩く太一がにやにやとしながら言う。

 くそ、面白がってるなこいつ。


「あの人が木崎君の彼女なんだ? とても綺麗な人だねぇ、千葉ちゃん」

「千葉ちゃん言うな。まあ、綺麗は綺麗だよな」


 太一にしては珍しく、そっけなく答えるだけだった。


 美咲に引率されて、俺たちのグループは大きな教室に移動した。

 俺達の学校の教室と違って平坦ではなく、後段に行くたびに段々と上がっている。

 これだと最後尾に座っても前のパネルが見えるだろう。


「ここは受講生が多い場合、使用される教室です。約二〇〇名ほど入れます」

 美咲が中の説明を簡単に行う。

 二〇〇名ってうちの学年全員が入る。大学生ってそんなに多いのか。

 

「ここでは大きなスクリーンを使って、講義が進められることが多いです」


 美咲が身振り手振りを加えて説明していく。

 しかし、美咲は案内や説明をちゃんとやれてるじゃないか。

 なんだか年上の女性らしくて格好いいぞ。

 そういや、初対面の時には頼りになりそうって、俺も思ったもんな。


「広いな」

「そうね」


 俺と横できょろきょろと教室を眺める響。


「出席とか大変だろうな」

「入り口にカードリーダーがあったわ。あれで出席取るんじゃないかしら」

 と、響は入り口を指差した。


「ああ、そうか。響、なんで俺の横で陣取ってるの?」

「好きな人と一緒にいたいと思って何が悪いの? 本音で言ったら腕も組みたいわ」


 自然と俺の横に並ぶ響からストレートな物言い。

 それはいいから班に帰れ。

 ただでさえ、クラスで浮いてるのに孤立しようとしてどうする。

 さらにその響の横で、響の突然の登場に川上と柳瀬がはわはわとぱにくっていた。


 響は泡食ってる二人に視線向けると、

「ご一緒したらお邪魔かしら?」

 と、首を傾げて尋ねる。


「滅相も無いです!」


 川上は首をぶんぶんと横に振る。  


「お前、自分の班員はいいのかよ?」

「今回の班は最悪なのよ。全員固まる子なの」

 響が珍しく溜息をついて言った。


「目を逸らして話さないといけないから、余計に気まずいわ」

「相手もそれは分かってるのか?」

「……多分。だから、私とは話さないのだと思う……」 


 ほんの少しだけ、響の唇が動いた。

 響自身も歯痒いのだろうか。


 俺は横にいる太一に目を向けた。どうしたらいいか相談したいからだ。

 太一も横で聞いていて俺が意図したものを汲み取ってくれたのか、自分の胸を親指でとんとんと叩くと俺達から離れていく。


 すぐに太一は響と同じ班員の奴らを連れて。戻ってきた。


「明人いいぞ。話ついた」

 

 響と同じ班員は、武藤、佐々木の男子二名と小早川、佐伯の女子二名。

 男子女子それぞれに友達同士らしい。

 見た感じ四人とも大人しい感じだった。


「向こうさんも響を気にはしてたぞ」


 太一が連れて来た面々を親指でくいくいっと指して言う。


「響の特異体質も話した。そこは言っといた方がいいと俺が判断した。ついでに俺も固まること言っといたけど」


 そう笑って、太一は響に伝えた。 

 太一の後ろで、響に申し訳無さそうに立つ四人。

 響きの唇がむにゅむにゅと動いたのを俺は見逃さなかった。


「……本当にあなた達はお節介ね」


 多分、響は嬉しかったんだろうと思いたい。


「はーい。では皆さん。席に座ってみてください」


 教壇に立つ美咲が大きな声で言った。


 俺達も移動して席についていく。

 俺達が座ったのは二人掛けの座席。


 一列目に小早川、佐伯。

 二列目に武藤、佐々木

 三列目に長谷川、響が相席。

 四列目に川上、柳瀬。

 五番目に俺と太一が座った。


 C組とD組の班も、隣の二人掛けに同じようにして座る。

 C組の西本は、ぽやーっと幸せそうな顔を浮かべてる。

 相変わらずの癒し系だな、あいつ。


 教壇に立った美咲がみんなの顔を見回す。


「高校の教室と視界が違うでしょ? 何か質問ありますか?」

「はいっ!」


 隣の列に座る男子が手を上げた。

 さっき、美咲に見惚れてた奴だ。


「はい、何でしょう?」


 軽やかに答える美咲。

 なんだよ、結構上手くやれてるじゃないか。

 教師役でも演じてるのか?


「藤原さんは彼氏いるんですか?」

「へ?」


 一瞬で固まる美咲。

 あ、素に戻ったな、あれは。


「馬鹿ね、三上。何、お約束聞いてんのよ」


 その男子の後ろにいる女子が言った。

 そうか、三上というのか覚えとく。


「どうなんですか?」


 追い討ちをかける三上。


「えとえと、えと――」


 慌てた素振りで目線が泳ぐ美咲だったが、ちらりと俺を見た気がした。

 いないって言えばいいじゃねえか。何やってんだ?

 川上と柳瀬は振り返って、俺を見てにやにやしてくるし何なんだ?



「今はいません!」


 美咲が声を振り絞って言った。


「俺、立候補していいですか?」


 即座に返す三上、悪乗りしてるようだ。

 何かイラついてきたぞ。


「ええっ!?」


 美咲、高校生の冗談を真に受けて慌てるな。


 俺が三上を止めようと、立ち上がろうとした時、

「そこの君、学校の品を落とすの止めてもらえるかしら?」

 すくっと響が立ち上がり、眼力を強めて三上を睨む。


 あ、馬鹿、睨んだら――――


「あ……」


 三上も響の目を直視したようで、その姿勢のまま固まった。

 自業自得とはいえ、哀れ三上はその場で固まったままだ。

 ざまあみろ。少しすっきりした。


 しかし、怖いな。もろゴーゴンみたいだったぞ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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