203 Let's Study1
日曜日。
午前中、バイトに行く前に今月の時間割を貰いに教習所へ寄った。
入校手続きは父親と一緒に来て終わっているので、後は開始日を決めるだけである。
さすがに試験前に通い始めるのは良くないと思い、試験後から教習所へ通うつもりだ。
中間試験後から、教習所へと通うスケジュールを決めておきたかった。
夏休みに入ったら、すぐにでも免許の試験を受けれるように予定を立てていこう。
教習所で用事を済ませ、そのままてんやわん屋へと向かう。
もしかしたら、今日は表屋じゃなくて、裏屋の方で仕事になるかもしれない。
今日から、アリカが中間試験のために休みに入って不在になるからだ。
一位を取りたい。
そんな大それた願いを口にしたアリカは、実現するために努力することだろう。
例え今回それが叶わなかったとしても、いつかやってのけそうな気がする。
昨日は、愛を寝かしつけた後、アリカと響はアリカの家で勉強会をしたらしい。
昨夜、愛の様子をアリカに電話で尋ねたときにそう言っていた。
愛とのデートは、愛の体調不良により中途半端になった。
気になったので、電話してみたのだが。
電話した時には、愛の熱は下がっていたようで、大事を取って寝ていると聞いて安心した。
月曜日には、俺のために学校に行くと断言しているらしいので、どうやら大丈夫のようだ。
アリカに電話したついでに、試験勉強が捗っているか聞いてみた。
まあまあかな、というのがアリカの返答だった。
アリカは響から長所は残し、短所は直すよう言われたらしい。
アリカの勉強方法は響と変わらないようだが、弱点を響に教わったらしい。
弱点って何だよと聞くと、
「あたし、国語とか英語の曖昧な答えって駄目なの。どうとでも取れる答えとか、微妙なニュアンスって言うの? それ苦手なのよ」
「何となく、わかるけど……。曖昧な答えが弱点って、それ以外無いのかよ?」
「他のはいけるもん」
アリカは暗記物は得意らしく、故に公式を使う数学や物理は平気らしい。
問題は現代国語と英語のようだ。
「減点されることが多いのよね。まあ、それでも90点は固いんだけど」
「嫌味か」
「ふふん。くやしかったら勝ってみなさいよ」
「そもそも問題が違うだろ。ああ、勉強中だろ。悪かったな」
「いいわよ。ちょうど休憩中だったし。響と7時頃まで勉強してたし。あの子は相変わらず隙が無いって感じね、勝てる気がしないわ」
「お前がそういうのって珍しい気がする」
「そう? でも、響の勉強方法教わったから、今回それを取り入れてみるの。上手くいったら自分のものにしちゃう」
「貪欲だな」
「あたしはできることは自分のものにしたいのよ」
「まあ、頑張れ。応援してる」
「う、うん。ありがとう」
「何だよ。今日は素直だな? 俺をボコボコにした反省か?」
「そんなもんするわけないでしょう。膝枕でにやついた奴には当然の報いよ」
いや、にやついた覚えはないんですけど?
――と、まあ、こんな感じの電話をしてたのだ。
あと少しで郵便局が見えてくる。てんやわん屋までもうすぐだ。
今日は荷物の中に参考書を入れてきている。
暇な時間を少しでも有効に使わせてもらおう。
こう考えるといいバイトだよな。暇すぎるけど。
☆
「さて、言い訳でも聞こうかな?」
何のでしょう?
俺と美咲は、てんやわん屋の更衣室内でお互いじりじりと距離を取りあっている。
背中を見せたらやられる。
出勤してきたばかりのエプロンすら身につけていない俺を美咲が襲ってきた。
思い浮かぶのは金曜日の夜に起きた春那さんとの事。まだ根に持っていたか。
「終わった話じゃないのか?」
「うん? 明人君は何の話をしてるのかな?」
「春那さんの事じゃなくて?」
「ああ、あれ。あれも明人君にお仕置きが必要だよね」
藪蛇だった!
次に思い浮かぶのは愛とのデート。
響とアリカが尾行していたので、もしかしたら情報を貰っていて知っているのかもしれない。
また藪蛇になったら困る。
だが、その前に美咲から説明がなされた。
「昨日ね。春ちゃんと一緒にオーナーと釣りに行ったんだ」
「へえ、って、いたの? いなかったじゃん」
妙に笑顔で言う美咲を見ていると、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「私、お昼の買出しに行ってたの。随分と愛ちゃんと仲良くしてたねえ?」
にこにことした顔で告げる美咲。
逆に怖い。
確かに美咲のことを春那さん達に聞かなかった。
オーナーと春那さんだけだと思い込んでた。
つまり、美咲もあの公園にいて、俺と愛との事を見られていたと判断していいだろう。
道理で複数の場所から怪しい気配があったはずだ。
その一つが美咲だったに違いない。
公園内ではほとんど愛が俺にくっついていた。
その様子も見られていたのだろう。
「見間違いかなあ? 明人君が愛ちゃんに膝枕されてたんだけど?」
そこも見てたのか?
「言い訳はしない。確かにしてもらった」
「ほほう、今日は素直に認めるんだね?」
美咲は感心したような顔で俺を見つめる。
「でも、その後、大変だったんだ。愛ちゃん熱あってさ。デートも中止」
「え? 中止になったの?」
目を見開いて驚く美咲。
公園での事しか見ていない美咲は、この後の騒動は知らないはず。
これはチャンス。これで誤魔化そう。
「熱あるのにデートも何も無いだろ。家にすぐ帰したよ」
これも嘘偽り無い事実だ。
響とアリカにボコボコにされた事は言わないでおこう。
「そうか。中止になったんだ。残念だったね。じゃあ、お仕置きしよっか?」
「何でそこは残るんだよ?」
俺の期待を華麗にスルーしてくれた。
「お仕置きは別腹って言うじゃない!」
「言わねえよ! デザートみたいに言うなよ!」
「私が見ていないところで、いつもあんなことしてるの?」
「してないって! たまたまだって」
「明人君それはセクハラっぽいよ?」
「だから、誰もそんなこと言ってねえよ!」
手をわきわきとさせながらにじり寄ってくる美咲。
「お仕置き、や・ら・せ・ろ!」
「そっちの方がセクハラぽいわっ!」
「問答無用!」
まあ、結局やられたんだけどね。
店長が来なかったら落ちてたよ。
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