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帰路  作者: まるだまる
203/406

202 愛とデート編5

 新たな約束をさせられ、途方にくれる俺と無邪気に喜ぶ愛。

 これからどうしようかと相談したところ、少しばかり早いが、戻って繁華街をぶらぶらしてから送っていくことで話がついた。


 愛的に、試験勉強の面倒をみる約束を確保したので、今日は満足しているようだ。

 清浜駅へてくてくと向かう、愛は俺の腕にしっかりとくっついている。


「それにしても、本当に多いですね」

「何が?」

「アレです」


 愛が上に向かって指差した。

『2H休憩2900円~』と垂れ幕を降ろした洋風ホテル。

 あまり気にしていなかったが、周りを見回すと、そんなラブホテルが乱立していた。


 愛はぽっと頬を染める。


「明人さんが望まれるのでしたら、愛はいつでもお誘いに……」


 空いた片手を頬に付けて恥らう。


「もっと自分を大事にしようね!」


 俺は愛にそう言うと、さっさとホテル街を抜けようと、足早に進めていこうとした。


「あ、あれ?」


 愛の足がもつれて、躓きそうになる。


「ごめん。急にペース上げちゃったね」

「い、いえ。大丈夫です」


 周りのホテルを見ないように前へと進んでいくと、愛の息遣いが荒くなっているのを気付いた。

 もしかして、春那さんと同じように肉食獣と化したのか?

 そんな雰囲気が愛から感じる。

 俺の腕を持つ愛の手が熱い。


 ――熱い?


「ちょっと愛ちゃん? 何でそんなに手が熱いの? 服越しでも分かるぞ」

「え、きっと明人さんにくっついているからですよ。さっきから、とてもどきどきしてますし」

「いや、手だけじゃない。身体もだ。熱あるんじゃないの?」

「大丈夫です。熱があるのは生きてる証拠です」

「いやいや、そういう事じゃなくてさ。ちょっとごめん」


 愛の額を手で触ってみると、確かに熱い。


「これどうみたって、熱あるじゃないか。いつから?」  

「ご、ごめんなさい」

「謝らなくてもいい。いつから?」

「朝からです。お薬飲んで来たので、さっきまで平気だったんですけど、効果が切れちゃったみたいですね。なんでしたら、そこに入って休憩したら治るかもです」

「馬鹿なこと言ってないで」


 ふらふらとふらつく愛を支えて、駅へと急いだ。

 駅の近くのコンビニで、スポーツドリンクと冷却シートを購入し、冷却シートを愛の額にくっつける。


「すいません。せっかくのデートが台無しに」

「いや、いいよ。とりあえず、この後すぐに家まで送るから。大人しくしてて」

「すいません……」


 愛は目に涙を溜めている。


「いいかい愛ちゃん。身体の調子が悪いときはちゃんと言ってくれ。俺とのデートだからって無理しないで欲しい。デートくらい、いくらでもするからさ」

「本当ですか?」


 愛がうるうるした目で問いかける。


「ああ」

「もう一回、言って下さい」

「ああ、何度でも言うよ。デートくらい、いくらでもする」

「嬉しいです」


 愛はゴソゴソとポケットから携帯を取り出す。


『ああ、何度でも言うよ。デートくらい、いくらでもする』


 俺の声が愛の携帯から流れ出る。


「この声を励みに頑張ります。約束していただけて嬉しいです」

「……いつの間に録音を」


 熱があってもタダでは転ばない、

 用意周到で得るものは得る性格の愛だった。


 清和駅へと戻ったところで、アリカの携帯に電話した。

 電話の呼び出し音が4回鳴って、アリカが出た。


『はい。愛里です』

「アリカか。明人だけど」

『何、どしたの?』

「愛ちゃん、熱があってさ。今日はもう帰すからさ」

『えーっ?』

『どうしたの?』


 小さな声で、響の声が聞こえてくる。


「お前どこにいんの?」

『えっ? と、図書館よ』

「んじゃあ、ここから近いな。悪いけど合流してくれないか? 響もいるんだろ?」

『うん。いるけど。まあいいわ、すぐにそっちに行くね』


 バスのターミナルで合流することにして、愛をベンチに座らせて待っていた。

 時間が経つにつれて、愛はぐたっとなり、座っているのも辛そうだ。


 アリカ達の合流を待っていると、総合会場からターミナルへの往復便が到着し、降りてくる客の中に太一と委員長の長谷川深雪を見つけた。

 太一も俺達に気付き、二人とも近付いてくる。


「なんだよ明人。愛ちゃんどうかしたのか?」

 冷却シートを額に貼って、ぐたっとしている愛を見るなり、太一が心配そうに問いかけてくる。


「熱があるんだ。アリカも図書館にいるから、合流したらすぐ家につれて帰る」

「愛ちゃん、無理しちゃったのか?」

「みたいだ」

「……ごめんなさい」


 ボーっとした表情の愛は呟いた。


 委員長の長谷川は愛に寄り添い、「大丈夫?」と心配げに見守ってくれている。

 太一達が来てから五分ほどでアリカと響が現れた。

 何故か二人は響がいつも送迎してもらっている車で現れた。


「明人、愛を乗せて。こっちの方が早いから」

「太一、長谷川サンキュー。俺ちょっと送っていく」

「ああ、お大事に」

「ゆっくり家で寝るのよ?」


 長谷川は愛に声をかけると、愛は頷くだけだった。


 愛を車の中に運び入れると、車は静かに走り出す。

 太一と長谷川が心配そうに見送ってくれた。

 後で礼を言っておこう。


 車に乗ってアリカの顔を見た途端、愛はパタンと倒れこむ。

 はあはあと熱のせいで息遣いも荒い。


「悪い。全然気付かなかった」

 アリカに謝罪を口にすると、


「いいわよ。この馬鹿、熱あるのに潮風に――」

「アリカ!」

 助手席に座る響が、アリカの口をとめるような勢いで呼ぶ。


「はあっ?」

 アリカは両手をわたわたとさせて、「何でもない! 何でもない!」と、誤魔化した。

  

 ――やっぱり、ついて来てたのか。

 さっき、図書館にいると言ったけど、図書館は駅の近くで徒歩で五分もかからないから、おかしいと思ってたんだ。


「――ばれたみたいね」

 響がちらっと、後ろを見てくる。


「途中もいるって思ったぞ。そんな雰囲気が何度かあった」

「あらそう。だったら、この後どうなるかも分かってるのね?」

 ゴゴゴゴゴゴゴ、と聞こえそうなほどの殺気が膨れ上がる。


「え?」

「誰が膝枕してもらっていいと言ったかしら? ねえ、アリカ」

「随分と鼻の下伸ばしてたっけ?」

 愛に膝枕するアリカも、何故かゴゴゴゴゴゴ、と殺気を放ってる。


「愛を寝かしたら話があるから、ここで大人しく待ってなさいよ?」

「安心なさい。ちゃんと愛さんの処置を終えてからにするから」


 走行中の車から飛び降りるの有りですか?

 無事に愛を家へと返したものの、その後の響とアリカの仕打ちが待っていた。


「あー、すっきりしたねー」

「そうね。躾は大事だもの」


 十数発の手刀が両脇に打ち込まれ、愛里宅前の路上で横たわる俺がいた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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