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帰路  作者: まるだまる
201/406

200 愛とデート編3

 何だろう、この感覚。


 昼食後の心地よいまどろみ。愛に膝枕され頭を撫でられて心地よいはずなのに。

 実際、心地よいのに、俺の心は不安を帯びている。


 じわじわと圧迫するような気配のせいだ。


 ――――誰かに見られている。


 いや、それどころか、殺意を感じていると言っていいかもしれない。

 しかも、一つじゃない。複数の気配が入り混じっているような気がする。

 気配が同一方向から来るなら探りようがあるが、消えては現れ、まったく別方向からも感じる。


 この感覚には身に覚えがありすぎる。

 最近でいうなら学校やてんやわん屋で味わった。

 総合会場でも複数回味わった。

 さらにその前はバーベキューをした時か。


 俺の脳裏に背中に神を背負った三人の手刀使いが思い浮かぶ。

 いるのか?

 奴らのうち誰かがいるのか?

 

「明人さん。どうされました?」


 俺の髪を弄びながら、怪訝そうな顔で覗き込んでくる愛。


「い、いや。このまま寝ちゃったらどうしようかなって」

「別にいいんですよ?」


 ふふっと笑う愛。


 それと同時に、右手の方から急激に気が上昇するのを感じた。

 どこかにスーパー○イヤ人でもいるのか?

 視線だけで探ってみるが、目に映るのは家族連れが遊んでいる姿だけだった。

 くそ。もっと遠くにいるのか?


「愛ちゃん。もう一回聞くけどさ」

「何ですか?」

「アリカって今日、響の所に行ってるんだよね?」

「はい。二人でお勉強するって行きましたけど」


 ――怪しい。


 あいつも響も、俺が愛とデートする事を知っている。

 もしかして、俺が欲望に負けて愛に手出しするとか疑ってついてきてるのか?

 響に関しては、学校でも殺意を俺に向けてきていた。

 やばい。

 もし、この予想が当たっているなら、この状況は俺の命に関わる。 


「愛ちゃん。ちょっと色々耐えられないから、そろそろ行こうか?」

「ええっ?」


 急に慌てたように顔を赤らめる愛。


「あ、明人さんがそう仰られるのなら」


 立ち上がりシートをトートバッグの中に入れて片付ける。


「それじゃあ、行こうか」

「はい」


 愛は何だかもじもじと顔を真っ赤にして、俯いたまま答えた。

 俺は右方向に進み、愛は左方向に進んだ。


「「――あれ?」」


 二人揃って振り返り、お互いの顔を見つめる。


「どこ行くの?」

「明人さんこそ、どちらへ?」

「どこって、この先の散策路でも歩こうかなって」

「――え?」


 目が点になる愛だった。


「……そういう意味ですか。愛はてっきり――」

「てっきり?」

「ほてるに誘われたのかと」

「無いから!」

「いえ、耐えられないと仰るので、膝枕で欲情されたのかと」

「欲情してないから!」

「愛は覚悟を決めたのですが?」

「決めなくていいから!」


 どうして、いきなり飛躍するの? 


「残念です。いきなり、この連載も終わるのかと期待していたんですが」

「誰に言ってるの? てか、連載って何?」


 肩で息するほどの疲労感と突っ込みまくれた満足感があった。

 そんな俺を気にせず、愛がすすっと近寄ってきて、またぎゅっと抱きしめるように俺の腕を取る。


「では、お散歩いきましょうか?」

「……うん」


 切替の早い愛だった。


 

 海に近付いたからか、潮の香が一段と強くなった気がする。

 松の木の並ぶ散策路を進んでいくと、防波堤と小さな灯台が見えてきた。

 灯台の入り口付近までは、釣りが許可されているフィッシングエリアになっているらしい。

 公園から灯台まで続く防波堤には、釣りを楽しむ人達が釣り糸を垂らしていた。

 奥にある灯台には、近寄れないように柵が施されている。


「俺、釣りってしたこと無いんだよね」

「愛は、ここでパパと一緒にやったことがありますよ」 

「へえ、面白かった?」

「面白かったですよ。一番大きいので、これくらいの鯵が釣れました」


 愛が指で釣った鯵の大きさを示したが、お世辞にも大きいとはいえなかった。

  

「香ちゃんもやってたんですけど、その日は一匹も釣れなくて拗ねてました」


 なんとなく釣竿をへし折ってそうな映像が思い浮かぶ。

 あいつなら、やりかねないな。


 釣りをしている人たちの邪魔をしないように、見て回る。

 ふと、灯台に近いところに変なものが見えて、足が止まる。


 アロハシャツ姿に角刈り、グラサン。見た目がやくざな感じの男。

 その横に、スーツ姿の女性が、小さな椅子にそれぞれ腰をかけている。

 二人は並んで釣り糸を垂らし、お互い何も喋らずに、まるで精神修行のような光景だ。

 余りにもシュールな光景に、他の釣り人から距離を開けられている気がする。


「明人さん。どうされました? ――あれ? あの人……」

「……オーナーと……春那さんだ。……何やってんだ?」


 まあ、見たとおり釣りをしているんだが、春那さん、まだ休みじゃなかったっけ?

 見かけたのに声を掛けないのも、悪いような気がする。

 一応、声をかけてみることにした。


「オーナー、春那さん。こんにちは」

「……よう」

「やあ、明人君。昨日は眠れたかい? 私は身体が火照って眠れなかったよ」 

「明人さん、どういうことでしょうか?」


 俺の腕を持った愛の腕に力がこもる。

 愛の顔を見ると、目に黒い炎が宿っていた。ちょっと怖い。


「何にも無いから!」

「嫌だなあ、明人君。私のいやらしい姿を見ておいて」


 嘘じゃないだけに否定しづらい!


「明人さん。どういうことでしょうか?」

「春那さん! マジで勘弁してもらっていいですか?」


 二人に聞いてみると、春那さんはオーナーから釣りを誘われて、朝から同行してきたらしい。

 何故にスーツかと聞いてみたら、一応、秘書見習いなので、正装してきたとのことだった。

 TPO考えようよ。


「……デートか?」


 相変わらず声も怖いな、オーナー。


「ええ、まあ、そうですけど」

「……彼女か?」

「い、いえ。違います!」

「そこは否定しないで欲しいんですけど?」


 横で愛がぶつぶつと文句を言う。


「……楽しんで来い」

「私達に気にせず、二人で楽しんでおいでってさ。明人君、ホテルなら駅の西口にたくさんあるよ」

「そんな情報いらんわ!」


 春那さんの笑顔に見送られて、俺達はその場を後にした。

  

「綺麗な人ですねぇ。ねえ、明人さん?」


 言葉に棘があるような気がするのは、なんでだろう。

 なにやら横でぶつぶつと言い出した愛。


「……これは計画を早めた方がいいような……」

「計画?」

「いえいえ、何でもありませんよ」


 と、手を振って言うが、何だか誤魔化したように見えた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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