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帰路  作者: まるだまる
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198 愛とデート編1

 ――土曜日、午前10時50分。


 俺は、遊園地に行った時と同じ場所――バスターミナルで、愛を待っていた。

 今日は、愛との約束を果たす日。

 俺にとっても、異性と二人きりで行く初めてのデートだ。

 昼前に待ち合わせなのは、俺にとって幸いだった。

 昨夜は春那さんの件で、なかなか寝付けなかったからだ。

 待ち合わせの時間に余裕があったおかげで、起きる予定よりも少し寝過ごしたけれど、約束の時間に遅刻することなく到着できた。

 

 約束の時間は、午前11時。

 バスの時刻表からすると、次に到着するバスに愛が乗っているだろう。

 一台のバスが交差点から曲がって、ターミナルに入ってきた。

 バスが停車し、客が降りてくる。その中に、愛を見つけた。

 愛も俺を見つけたようで、嬉しそうに微笑んでいる。

 手には、ちょっと大き目のトートバックを持っていて、少し重たそうだ。

 お互いに近付いて挨拶を交わす。


「明人さん、おはようございます。待ちましたよね? すいません」

「おはよう。いやいや、全然待ってないよ。俺もバスで来たし」


 愛は白いワンピースに、薄生地のデニムのジャケット、今までに見た私服よりもちょっと大人っぽい。

 俺の視線を感じたのか、愛は自分の身体をチラチラと見て、

「どうですか? 愛の格好、変じゃないですか?」

「全然、変じゃないよ。可愛いよ」

 俺がそう言うと、愛はほっとしたような表情を浮かべた。


 さて、揃ったところで行き先だが、結局、ちゃんと決めていない。

 プランでは、映画かカラオケにでも行こうかと考えているが。

 

「明人さん。あのですね」

「ん?」

「実は、今日もお弁当作ってきてまして」

「ああ、それでそのトートバックか。ちなみに、オレンジとかグリーンの容器は入ってないよね?」

「え、普通に、いつものお弁当箱ですけど。色に何かあるんですか?」

「ああ、ごめん。こっちの話」

 ちょっとしたトラウマになってるだけだから。


 しかし、せっかくお弁当を作ってきてくれているのだから、どこかでゆっくりと食べた方がいい。

 どうせなら、景色の良い所がいいだろう。

 映画とかカラオケは、基本持ち込み禁止だ。

 

 総合会場まで足を伸ばせば、広い公園もあるので、のんびりはできるだろうけど、つい、この間行ったばかりだ。それを言ったらカラオケも行ったばかりか。

 それほど遠くなく、のんびりできそうな景色のいい所――――すぐに思い浮かばない。

 悩んでいると、愛が声をかけてきた。


「明人さん、希望出していいですか?」

「え、うん。いいよ。行きたい所あるなら、そこに行こう」

「海浜公園に行きたいです」

「海浜公園?」


 海浜公園は、今いる駅から二つばかり行った所にある小さな埠頭公園だ。

 確か、買った本にも、この近郊でのデートスポットとして紹介されていた。

 学校でも、愛がなんか言っていたような気がする。

 

「まあ、行く場所を決めてたわけじゃないから、そこにしようか。どうせなら、愛ちゃんの希望通りが望ましいからね」

「ありがとうございます。愛、嬉しいです」


 愛から手荷物を受け取り、代わりに俺が持つことにした。(遠慮されたが、押し切った)

 駅まで向かい、目的地の清浜駅行きの切符を購入。

 切符売り場の近くにあった時刻表で確認。約20分毎に出ているようだ。

 次の電車まで10分ほどある。


 清浜駅と浜の名前が入っているが、今の清浜には、海水浴ができるような浜はない。

 随分と昔には海水浴ができるような浜もあったらしいが、今の清浜の名残は、海浜公園くらいしかない。

 今、この近郊で海水浴ができるような場所は、この清和駅から一時間ほどかかる八島駅だ。 

 今度、美咲と一緒に行こうと約束した水族館も、その八島にある。


 改札口を抜けると、愛が俺の腕に腕を絡めてきた。

 もう、お約束になっているかのように、俺の腕に弾力のある柔らかいものが当たる。

 その拍子に昨日の夜の事が脳裏に浮かんでしまう。


「あ、あの、愛ちゃん。ちょっと恥ずかしいんだけど?」

「……駄目ですか?」

 そんなに目をうるうるされて言われたんじゃ、駄目って言えないじゃないか。

 

「駄目じゃないけど、その、なんていうか――――」

 突然、背中にぞくぞくぞくと悪寒が走る。

 俺は咄嗟に周りを見回した。

 ――――今の気配は……いつもの気配に似ていた。

 そう、俺が地獄を見る前にいつも感じる気配にそっくりだった。


「明人さん、急にどうしたんです?」

 愛もびっくりしたような顔で俺を見つめている。


 見回したけれど――――気になるようなものは何も無い。気のせいか?


「いや、気のせいだったみたい。何か嫌な予感がしただけ」

「愛と腕組むのが、そんなに嫌なんですか?」

 もう一つ目をうるうるさせて、まるで子犬のような眼差しで見つめてくる愛だった。


「――いや、嫌じゃないよ。照れくさいけど、愛ちゃんが喜ぶなら、今日は俺の腕くらい貸すよ」

「よかったー。――――ふふ。ぴりおどわん、こんぷりーと」

「今、なんか言った?」

「いいえ、別にー、何も無いですよー」


 駅のホームで電車を待っている間、雑談。


「そういえば、今日アリカは何してんの?」

「香ちゃんですか? 今日は響さんと一緒に勉強するとか言って、愛より先に家を出ましたね」

「ああ、試験前だもんな。今度こそ一番取るとか言ってたし」

「へー、珍しい。香ちゃんが人前でそういうこと言うなんて」

「へ? あいつ、そういうこと普段言わないの?」

「香ちゃんって、あまり自分の希望を口にしないんです。結果が出てから言うほうなんですよね。口に出したら叶わなくなるって思いがあるのかもしれないですね。まあ、それは他の事にも言えますが」 


 へー、そういえば、あいつの夢っていうか、目標にしてるロボット作りの話も、あいつ自身から聞いたわけじゃないな。


「まあ、姉である香ちゃんとはいえ、そこはこちらも容赦しませんが」

「何の話?」

「あ、いえいえ、こっちの話です。すいません。関係のない話を持ち出しました」


 少しすると、電車が到着した。

 電車の中はまばらに乗客がいるが、二人が並んで座る余裕は十分にあった。

 2両目の電車に乗り込み、ちょうど真ん中付近の席に並んで座る。


「空いていて良かったですね」

 そう言う割には、愛の表情が残念がっているように見えた。


「そうだね。でも、まあ二駅だから、空いてなくても大丈夫だったけどね」

「あー、そうですね。愛の予定だと、混雑してるはずだったんですが」

「え? 混雑してる方が良かったの?」

「だって……明人さんが愛を守ってくれるでしょ?」

「まあ、そりゃあ、潰されないように身体は張るけどさ」

「伝説の壁どんに近い状況になるじゃないですか。壁じゃなくて扉ですから……いうなれば扉どんですね」


 壁どんとか扉どんって何? カツ丼とか親子丼なら分かるけど。


「壁どんならぬ扉どんして、愛を守る明人さんが、愛を見つめて言うんです。『愛、大丈夫かい?』って。――ああっ! 明人さん超くーる! えーと、明人さん。愛、鼻血出てませんか?」


 うん。大丈夫だけど、大丈夫じゃないよね?

 妄想活劇は、公衆の面前では控えていただきたい。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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