197 ドタバタらぷそでぃ7
俺と春那さんの状況を見た美咲が、真っ先に取った行動。
俺達をじっと見つめたあと、すたすたと台所に行き、アイスピックを持ってきた。
そして、笑顔でただ一言。
「どこから刺されたい?」
マジで怖かった。マジで刺されるかと思った。
☆
そのアイスピックは、未だテーブルの上に置かれている。
頼むから、元の場所に直してきて欲しい。
俺はというと、二人の話を正座して聞いている状態だ。これは自発的にした行為。美咲に言われたからじゃない。何となく、こうした方が身の安全を感じたからだ。
春那さんが俺を襲ったと、自分から白状してくれたのだが、美咲の視線が痛かった。
「いつまでも、不貞腐れるなよ」
春那さんが美咲に向かって言うと、美咲はギロリと春那さんを睨みつける。
「どう考えてもおかしいでしょ? 普通、逆でしょ。なんで春ちゃんが明人君を襲ってんのよ」
逆っていうか、俺が春那さんを襲うこともないよ。
「しょうがないだろ。つい、その気になっちゃったんだから」
いや、春那さんはマジで反省して下さい。
「とりあえず、私が全面的に悪い。それは認めるし、美咲も明人君を責めないでやって欲しい。明人君は、ちゃんと抵抗してたからね」
加害者がいう台詞じゃないだろう。
「はあ、残念だ。久しぶりにいろんなところが熱くなったのに。今日は身体が火照って眠れないかもしれない。明人君どうしてくれる?」
俺に聞くな。
「春ちゃん? なんなら、私が眠らせてあげてもいいよ? 永遠にだけど」
美咲、怖いからやめて。
「美咲はケチだな。少しくらい明人君で妄想したっていいじゃないか」
「そういうのは、自分の中だけでしまっておきなさいよ。春ちゃんが私に言った台詞だよ?」
美咲、後半の台詞は言う必要なかっただろ。
「ああ、明人君にこの胸を乱暴に揉まれたり、私の敏感な所を触られた挙句、いやらしい言葉を言わされるんだと思うとゾクゾクする。ああ、いけない。妄想が口に出てしまった」
「春ちゃん、わざとやってるでしょ? 明人君がおろおろし始めてるじゃない」
うん、正解。
ちょっと色々な意味で、今はこの場から立つことを断固拒否する。てか、今の春那さんの台詞聞いてると、Mにしか聞こえないんだけど。ああ、余計に余計なことを考えてしまう自分が悲しい。
「明人君は、明日、愛ちゃんとデートなんだから、刺激的なこと言ったら駄目だよ」
「え? 愛ちゃんっていうと、あの胸の大きい子かい?」
「そうそう」
「へえ。明人君が愛ちゃんとデートか……。よし、明人君! いまから練習しに二人で出かけようか?」
何を練習だよ? ナニをか?
「春ちゃあああああああああああああああん!」
美咲が春那さんの肩を掴んで、ガクガクと揺らす。春那さんの残像が見える。豊かな胸も暴れまくってる。春那さんもこのスピードで揺らされてるのに、よく笑顔でいられるな。
美咲が先にばてて、笑顔の春那さんの横で、はあはあと肩で息をしていた。春那さん強いな。
「まあ、冗談はともかくとして――」
春那さんがチラリと、美咲に視線を送った。
「明人君が他の子とデートか……その割には、美咲が普通なのが気になるな。私の件で思った以上に怒らなかったし、いつもだったら、そんな事を口にもしないのに――――美咲、明人君がデートしても構わないほど、良い事でもあったのかい?」
春那さんに言われて、美咲を水族館に誘ったことが思い浮かんだ。美咲は、ちらっと俺に視線を飛ばしてから、春那さんに答えた。
「べ、別にないよ。明人君が誰とデートしたって、別にいいじゃない。止める権利は私にないよ」
そう返した美咲に、春那さんは「ふうん」と意味ありげな笑みを浮かべた。
「まあ、いいか。明人君、明日の予定があるのに、色々と引き止めて悪かったね」
「いえ、大丈夫です」
「家に帰ったら、私の胸の触り心地でも思い出してくれたまえ」
「春ちゃあああああああああああああん!」
また美咲が春那さんの肩を掴んで、ガクガクと揺らす。また残像が見えるほど速い。春那さんも、相変わらずの笑顔だし。
二人のドタバタが終わったところで、俺は家に帰ることを告げた。家の前まで見送るという美咲に、玄関まででいいよと断りを入れる。
玄関の扉のところで、二人に挨拶を送る。
「それじゃあ二人とも、おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
「またいつでも来たまえ。できれば美咲がいないときに――――」
「春ちゃん、いいかげんに冗談やめないと本気で怒るよ?」
「冗談で言ってるように見えたのか?」
わなわなと震える美咲におどけて言う春那さん。やっぱり春那さんの方が一枚上手らしい。
「じゃあ、おやすみなさい」
玄関から一歩踏み出る。扉が閉まるのを聞いてふうと一息。閉めた扉から、なにやら声が漏れ聞こえてくる。
「待て、美咲! 落ち着け!」
「大丈夫だよ? 痛いのは最初だけだから」
失礼だとは思ったが、すぐさま扉を開けて中を確認した。
そこには、両手で春那さんのおっぱいを鷲掴みした美咲の姿があった。
「……えーと、なにをしてるんだろうか?」
「……えーと、春ちゃんにお仕置きを」
「ああ……明人君にはしたない姿を見られたから、またゾクゾクしてしまった」
「じゃあ」
俺はゆっくりと後ずさり、扉を再度閉めて、自転車のところまで移動した。
いつものように美咲の部屋の窓を見上げると、手を振る美咲がいた。傍らには、美咲にほっぺたを引っ張られながら、手を振る春那さんがいる。ほっぺたを引っ張られてるのに、何であんなにいい笑顔なんだろう。
二人に手を振って、俺は帰路へとついた。
ちなみに家に帰ってから、寝る時に春那さんとのことを思い出し、悶々としてなかなか寝付けなかったのはいうまでもない。
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