196 ドタバタらぷそでぃ6
「どうしようか?」
気絶した美咲を見下ろして、腕を抱えて悩む春那さん。
とりあえずそのままだと可哀想なので美咲を運ぶことにした。
身体と足を抱え、いわゆるお姫様抱っこで美咲を運ぶ。
美咲は思ったよりも軽くて、まだ余裕の範囲だった。
春那さんに案内され、前回に来たときには閉じられていた部屋へと導かれた。
その部屋は俺の部屋より少し広い感じだ。
窓際の壁にベッドが一つ、ベッドの手前の床には布団が一組すでに敷いてある。
ベッド脇には小さな机と本棚があり、机の上には女の子の小さなフィギュアが並んでいる。太一がゲームセンターのUFOキャッチャーで取ってくれた人形も一緒に並んでいた。
「私は布団派なんだ。ベッドが美咲のだから、そこに寝かせてくれ」
ベッドに美咲を寝かせ、表情をみると青白さはなくなっていた。
呼吸も安定しているし、この状態なら大丈夫だろう。
「どうだい? このまま襲っちゃう?」
にやにやしながら、不謹慎なことを言う春那さんだった。
「そんなことしませんよ。何を言ってるんですか」
「ふふ、君は真面目だねえ。まあ、座りたまえ」
と、春那さんに促され、以前来た時と同じように向かい側に座る。
何故、部屋の電気が消えていたのか尋ねたところ、スイッチを入れたままドライヤーをコンセントにいれてしまい、接触させた途端ショートし弾みでブレーカーが落ちたらしい。
「いやいや、まさかショートするとは思ってなくて」
「それは災難でしたね。怖くなかったんですか?」
「まあ、真っ暗だったけれど、私は暗いのは平気だからね。ところで……今日、私がいたのはお邪魔だったのかな?」
「そうじゃないです。もしかしたら泥棒かと思って調べに来ただけですから。来るなって言ったのに……着いてきちゃったけど」
「ふふ、相変わらずの紳士ぶりだねえ」
やけに嬉しそうに言う春那さんだった。
しかしながら、美咲が気絶しているとはいえ、春那さんと二人きりだと妙に緊張する。
春那さんは以前と同じようにパジャマ姿でいて、春那さんが胸が話す度に揺れて目のやり場に困ってしまう。明らかにノーブラだとわかる突起がさらに視線を向けることを邪魔する。
俺が視線を逸らしているからか、春那さんは余計にニヤニヤし始めていた。
これ絶対、分かってるよな。
「ふふ、明人君は可愛いねえ。もし弟がいたらこんな感じなのかな」
「さあ? 俺は一人っ子なんでちょっとわからないですけど」
気のせいか、俺を見る目が段々と変わってきてるような気がする。まるで獲物を見つけた肉食獣のような目なのは気のせいだろうか。
何故か、春那さんはまるで猫のように四つん這いのまま、俺の近くまで寄ってきた。胸の谷間がすっごい見えてまともに視線を向けられない。
「おやおや、明人君は照れ屋さんだねえ。余計に構いたくなるじゃないか」
俺の横に座りなおした春那さんが、俺の顔を覗き込みながら妖艶な微笑みを浮かべる。その微笑みが何だかとても怖くて目を直視できない。
「……ふむ。美咲も気絶していることだし、多分しばらくは起きないだろうから、私としてみるかい?」
「な、何をですか?」
「君がしたいと思っていることだよ」
そう言って、春那さんは俺の耳に息をふっと吹きかけた。
ぞくぞくっと頭の天辺から背筋にかけて寒気が走る。
「うん。我慢は身体によくないな。前の男と別れてから随分としてないし。よし、明人君覚悟してくれ」
そう言って、俺を押し倒し乗っかってこようとする春那さん。
「え? ちょ、春那さん落ち着け」
「いや、もう火がついたから駄目だ」
抵抗を試みるもあっさりと押し倒され、いわゆるマウントポジションを取られた。見下ろす春那さんの瞳がさらに怪しくなっているように見えた。
「では、いただきます」
「ちょっと待った!」
春那さんの肩を抑えようとした筈なのに、慌てたせいで目測を誤り春那さんの胸を鷲掴みにしてしまった。ぐにゅと柔らかさと弾力が手に伝わる。
うわ、なに、この気持ちのいい感触。
「あんっ」
春那さんの口から聞いたことがない可愛らしい声が漏れる。
今の声、どっから出した?
「……何だ。明人君もその気になってくれたのかい?」
「ち、違う! わざとじゃない!」
「その割には、まだ私の胸に手を当ててるじゃないか?」
何で、俺の手はしっかりと春那さんのおっぱいを鷲掴みしてんだよ?
いや、違う。違うことないけど、これ、春那さんが乗っかってきてるから手が動かせねえだけだ。てか、この手どけたら春那さんに完全に覆いかぶさられる。
それこそピンチだ!
「何だかゾクゾクしちゃうね。こういうのもたまにはいいかも」
はあはあと息を乱しながら言う春那さん。
やべえ、目が逝っちゃってる!
「よくねえよ!」
「明人君も知っておいた方がいい。女だって性欲はあるんだよ。私の場合は男を知ってしまっているから特にだ」
「そんなの知らないでいいし! いらない情報だし!」
「私は肉食系女子だしな。さあ、優しく食べてあげるから観念するんだ」
普通、その台詞は逆だろ!?
俺が必死の抵抗を試みていると、がしっと顔を両手で掴まれた。
俺の目をじっと見つめて春那さんは呟いた。
「こんないい女が君を求めてるんだぞ?」
その一言に負けた気がした。
確かに春那さんはとてもいい女だと思う。
こんな綺麗な女性が俺を求めるなんて贅沢極まりない話。
もう抵抗する気も失せて脱力してしまった。
それを感じ取ったのか、春那さんは一度起き上がると俺の頭を撫でた。
「ふふ。それじゃあ、いただきます」
ああ、好きにいただいてくれ。
ゆっくりと俺の顔に近付いてくる春那さん。
よくよく考えてみたら俺のファーストキスだ。
春那さんみたいな綺麗な女が相手で良かったよ。
ただ、一緒に遊びに行ったみんなの顔が頭に浮かぶのは何でだろうな。
春那さんの吐息が分かる距離になったとき、俺は目を瞑った。
それと同時に、がらっと音がした。
「も~、さっきからうるさいなあ~。春ちゃん何やってんの?」
その声に目を開けると、目覚めた美咲が目を擦りながら現れたのだった。
俺は、この時見せた春那さんの顔を一生忘れないだろう。
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