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帰路  作者: まるだまる
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195 ドタバタらぷそでぃ5

 ――おかしい。

 何故か状況が変わってしまっている。


 後ろから抱きついた美咲が、俺の首を絞めようと背中に絡み付いているからだ。

 すぐに離れたと思ったら、間髪入れずにすぐさま首に腕を絡めてきやがった。


 不意に殺気を感じてブロックしなかったら、やられているところだった。

 今は、何とかブロックしているものの、防げなくなるのも時間の問題な気がする。

 相変わらず、ぷにぷにとした柔らかいものが背中に当たり、俺の意識を奪う。


 美咲を水族館に誘って承諾貰って、いい雰囲気になったはずなのに。

 何故に首を絞められそうになるんだ?

 

「ちょ、ちょっと待て。これおかしくない?」

「おかしくない!」

「水族館の話はどうなったんだ?」

「それとこれとは別! お仕置きはお仕置きなの!」


 くそ、自転車が邪魔だ。放り出してしまいたいが傷がつくのも嫌だ。

 さすがに道端で落ちるわけにはいかん。

 肩を左右に振って、美咲をずり落とす作戦を試みる。

 心なしか、美咲がずり落ちていく感じがする。あと一歩か?


「往生際が悪いなー。おりゃあ!」


 ずり落ちそうになったところを踏ん張ったのか、背中にまたのしかかってくる美咲。

 くそ、手強い。これは降参を選ぼう。 


「ギブ、ギブアップ!」

「もう二度と内緒にしない?」

「しない。誓う。誓うから!」

「よーし、その言葉に嘘は無いね? それじゃあ許してあげましょう」


 するっと腕を解き美咲が背中から離れた。……助かった。

 やっと離れた美咲が俺の背中の服をぎゅっと掴むと、俺の顔を覗き込む。


「もう内緒にしないでね?」


 その瞳は不安と期待が入り混じっているように見えた。


「う、うん」


 そんな子犬みたいな顔されたんじゃ、こっちだって頷くくらいしかできないじゃないか。


 


 再び帰路へと足を進め始めたが、しばらくは美咲からの質問攻めだった。

 まあ、答えようにも愛とのデートは待ち合わせくらいしか決まってないのだが。

 聞くのはいいけれど、答えるたびに何故か睨むのやめて欲しい。


 ここは違う話を振るのも手かもしれない。 

 バイト中に話していた大学見学の話を振ってみる。

 言った途端、美咲の表情が暗くなったが、それほど嫌なのだろうか。

 そんなに嫌だったら、手伝いの希望出さなかったら良かったのに。

 何故、募集に応じたのか聞いてみる。


「だって……私だけ出さないってのもおかしかったし、本当に評価欲しいし、当たるなんて思わなかったし、明人君たちが来るって知らなかったし……」


 美咲は面倒臭い方向にシフトし始めた。

 大学での姿を俺達に見られたくないようで、美咲は「はぁ」と小さくため息をついた。

  

「美咲、もし俺と大学で顔を合わせたら自分ではどうなると思う?」

「え?」

「俺、今の美咲しか分からないから、ちょっと興味あるんだけど?」

 

 俺が言うと、美咲は指を顎に当てて考え始める。

 しばらく考えて、戸惑った表情で俺を見る美咲。


「あ、あれ? 何でだろ。こっち(・・・)の私しか思い浮かばないよ?」

 

 こっち(・・・)といってるのは、今の美咲なのだろうけど、いまいちよく分からない。

 みんなと一緒に出かけたときも、今と変わらない美咲だった。

 そうだとしたら、俺と大学で鉢合わせした時には、今の美咲になるんじゃないだろうか。

 

「美咲は、もし俺と鉢合わせしたら声かけた方がいい? 俺も班行動だから、他の子もいるけど」

「うん。そっちの方がいいかなー。知らない振りするのって何だか嫌だもん」

「分かった。もし、そうなったら声かけるし、一緒にいる奴にも紹介するよ」

「うん。そうしてくれると助かるかな」

  

 しばらく、校外学習での話が続き、気が付けばもう美咲の家の近くだった。

 部屋の明かりは消えていて、春那さんはまだ不在なのだろうか。


「美咲、春那さんまだ帰ってないの?」

「あれ? もう帰ってきてるはずなのに。昨日電話で……」

 そう言いながら、またずーんと暗い表情になっていく美咲。


「ふふ。そうよね。私は社会不適格者だったわ」


 ああ、また最初の状態に戻ってる。


「こらこら、また何を引き摺ってんだって、――――あれ?」


 美咲の部屋から一瞬だけ小さなライトのような明かりが見えた。


「美咲、誰か部屋にいるぞ」

「え?」

 

 もう一度見てみると、確かに懐中電灯のような光が美咲の部屋の中を泳いでいた。

 泥棒か?

 それとも変質者が女だらけなのを知っていて部屋に侵入した?


「どどどど、どうしよう?」

「俺が様子を見に行く。美咲はここにいて。もし何かあったらすぐに警察に」

 美咲から部屋の鍵を借りて、そっと階段を昇っていく。


 静かに鍵を差込み、ゆっくりと廻す。

 カチャンと音がして鍵が開いた。

 鍵で掛かっていたということは、ここから進入したわけじゃないようだ。


 静かに扉を開けて中を覗き込むが、中は真っ暗でよくわからない。


 突然、俺の服を誰かが掴む。

 驚いて思わず声が出そうになった。

 慌てて口を塞いで後ろを振り向くと美咲がいた。


「馬鹿、何やってんの? 下で待ってろって」


 俺はひそひそと美咲に告げると。美咲もひそひそと言い返す。


「明人君一人じゃ危ないよ!」


 ここで言い争っていても仕方ない。

 仕方なく美咲を連れて中へと進入を試みる。

 そっと玄関で靴を脱いだ。

 俺の服をぎゅっと握ったまま美咲もついてくる。


 部屋の中では誰かが移動しているような気配がする。

 まるで何かを探しているかのようだ。

 そっと扉を開けて、様子を窺おうと姿勢を低くして進入を試みる。


 突然部屋の明かりがパッとついた。


「「え?」」


 目の前に人影が立っていて、俺達を見下ろしていた。


「うわ⁉」

「ひぃっ⁉」


 俺の驚きの声と美咲も驚いて悲鳴を上げる。

 そこにはマスクを被った女が立っていた。

  

「二人して何やってるんだ?」  

「あ、あれ? 春那さん?」


 そこに立っていたのはスキンケア用のマスクを被った春那さんだった。

 マジでびびった。

 てか、この展開ベタすぎだろ。

 

「ああ、もう美咲の帰ってくる時間だったか。何で明人君がうちに……。そうか、これは失礼した。なんだ美咲、さっそく実行に移したのか。そうならそうと、言ってくれれば今日も帰ってこなかったのに、あれ、美咲?」


 後ろを見ると、青白い顔して気絶した美咲が転がっていた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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