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帰路  作者: まるだまる
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191 ドタバタらぷそでぃ1

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。


 

 店に着いたあと、いつものように従業員用の扉からくぐると、店長がカウンターで椅子に座っていた。

 相変わらずの閑古鳥。暇そうに雑誌を読んでいる店長。

 普段なら俺より先にいる美咲の姿が見えない。

 トイレでも行ってるのだろうか。


 店長が俺の姿を見て、片腕を上げる。


「店長こんちはー。すぐに入ります」

「はいは~い。気をつけてね~」


 何を気をつけるんだろうかと、更衣室に入った途端、何となく理由が分かった。


 更衣室の置いてあるテーブルと椅子。

 そこに闇と同化した物体がいた。暗く沈んだ美咲。

 テーブルに突っ伏して、腕はだらーんと垂れ下がっている。 

 何? 脱力系? いや沈み系?

 この間ヤンデレがどうとか言ってたけどその影響?


「あ~。明人君来たの~。あはははは…………」

「み、美咲何やってんの?」

「みみさきなんていないわよ?」


 テーブルにうな垂れたまま、ギロリと睨む美咲。

 そこはしっかり反応するのかよ。


「ごめんごめん。えーと、何があったか教えてくれないか?」

「春ちゃんに……駄目出しされた……」

 

 春那さんといえば、晃を送って実家に帰ってるんじゃなかったっけ?

 もう帰って来たのだろうか。


「昨日ね、家に帰ってから電話が来たの」

「うん。それで?」

「いつもみたいに明人君に送ってもらったよって言ったら」

「うん」

「お前馬鹿か? って言われた」

「ごめん。俺、意味がわかんない」


 ぐた~っとしたまま、美咲は話を続けた。


「春ちゃんが言うにはね~。『今日、誰も帰ってこないの』くらい言えとか言ってたんだけど。意味が全然わからなくてさ~。明人君にそんなこと言ってどうするのよ。ねえ?」


 俺が春那さんに聞きたいです。春那さんは俺にどうしろと言うんだ?

 今の内容だと家に美咲一人だから、俺を誘い込めと言ってるように聞こえるぞ。

 この間の避妊具の事といい、春那さんは無茶振りが多いな。

 俺だって、男なんだぞ。何かあったらどうするんだ。


「それに『せっかくの宅配サービスの機会を失ってどうすんだ』とか意味わかんないこと言って怒ってたし、『女子力以前の問題だ』とか言われたし、……どうせ私は女子力ないし、常識ないし、社会不適合一歩手前ですけど、……いや違うか。すでに社会不適合者なんだ。……そうなんだ。……うふふふふ……。未来は無いわね……」

 

 うわあ、言いながらどんどん深みにはまっていってる。これ振られたくないな。


「ねえ、明人君。どう思う?」


 やっぱ来た?

 どの件ででしょうか? 後半のことなら特にスルーさせてもらいたい。


「え、えーと。何が?」

「春ちゃんは私に何が言いたかったんだろう?」

「え、えーと。話を聞いた限りだと。誰も帰ってこない時に……俺を家に誘い込まないのは駄目だと言ってるように聞こえるんだけど」

「何で明人君を家に誘い込むの? 明人君だって帰らないといけないし、私だってお風呂入るし」


 ああ、わかってない。まったくもってわかってない。


「えと、そのですね……。春那さんは……、その……、俺達に男女の仲になれというか。いい仲になるのを期待してるんじゃないかというか……」

「男女の仲? 別に仲悪くないじゃない」

「い、いや、そのままの意味じゃなくて……その……」

「はっきり言ってくれないとわからないんだけど? 春ちゃんと一緒だ」

 

 ああ、すごい面倒臭い。


「春那さんは、美咲と俺が恋人同士になるとか、付き合うとかを期待してるってことだよ。昨日は美咲の家には美咲だけだったから、そのチャンスがあっただろうって春那さんは言ってるんだよ」

「へ?」


 起き上がり目をぱちくりとさせる美咲。


「…………え? あ、ああ~。春ちゃんが言いたいことはそういうことか。え? 何? つまりはその……」


 さっきまで覆っていた暗い気を吹き飛ばす勢いで美咲の顔が真っ赤になる。

 まるで蒸気でも噴出したかのようだ。  


「わかった?」


 俺が聞くとぶんぶんと大きく首を縦に振って俯いた。

 今度は頭を抱えもがき始めた。色々と忙しい人だな。


「うああああ、最低だあああ。私、明人君になに変な事聞いてんだろ。忘れて。一生のお願いだから。今聞いたこと全部忘れてえええええ!」

「はいはい。わかりました、わかりました。俺は何も聞かなかった」


 また別の意味でへこんだ美咲だった。


「ところで美咲。俺、着替えたいんだけど?」

「うっ、うぅっ。ぐすっ。え、何?」


 何だ? またぐずってたのか。最近多いなあ。


「着替えたいんだけど」

「どうぞ」


 そう手を差し出して言われても着替えにくいじゃん。


「後ろ向いとくから着替えていいよ」


 そういうと美咲はくるりと背を向けて、「はあ」とため息をついた。

 さっさと着替えちゃおう。


 Yシャツを脱いで、ハンガーにかけて吊るす。

 かばんの中からポロシャツを取り出して着ようとした時、背後に視線を感じた。


 ちらりと見ると、美咲がメモ帳とペンを手に俺の着替えをじーっと見ていた。

 

「何してんの?」

「メモです」


「何のために?」

「材料です」


「何に使うの?」

「妄想です」


「病院いく?」

「来年の春なら」


「出てけ」

「おねげえだあ。おらをここにおいておくんなせえ。いくとこねえだよ」


「出てけ」

「…………ごめんなさい。もうしません」


 これさえなかったら、本当に綺麗で優しい人なんだけどなー。

 まあ、楽しいからいいけど。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。  

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