188 清高生徒会5
南さんが姫愛会の会長?
まさかのボス登場じゃないか。
一応、響の了解を取ってから今までの経緯を話してみた。
「あらまあ。そんな事は私ぜんぜん言ってませんけど? 困らせるようなことはしては駄目よとは言ったけれど」
「言ってる本人が一番困ったことしてくれてますよね?」
「ひどいわ東条さん。それは誤解というものよ。スキンシップを取りたいだけなの」
「胸を揉もうとしたり、下着の中に手を入れようとするのがですか?」
響、お前生徒会で何されてるの? 見学行ってもいい?
南さんは俺達に姫愛会の立ち上がりについて教えてくれた。
「私、去年も生徒会してまして。あなたたちが入学式の時、私もいたのよ。入学式って、いの一番に見れるでしょ。えも……可愛い子がいないかなって見ていたの」
今、獲物って言いかけませんでしたか?
「その時いた東条さんに一目惚れしまして。これはぜひ私のハーレ……お茶会に誘わねばと」
今、ハーレムって言いかけませんでしたか?
「お誘いしたのに東条さんたら無下に断るんだもの。寂しかったわ」
よよよと響の肩に倒れこむ南さん。
響が南さんの腕をがちっと掴んで、
「……あの、副会長……さりげなく私の胸を触ろうとするのやめてもらえます?」
「……ちっ。 まあ、ともかく狩りは……お誘いは失敗したのですけど」
今、舌打ちしたよね?
しかも今、狩りって言ったよね。確実に言ったよね。
「私の辞書に諦めと言う文字はございませんの」
やばい。この人、変態だ。
一番常識人に見えたのに一番変態だ。
「まあ、それはともかく。実は姫愛会というのは、元々、東条さんのファンクラブでもなんでもないのです。私、お茶会でのあだ名が『華姫』でして、元々は私を愛でる会だったのよ。まあ、秘め愛会っていう語呂合わせもあったんで、その名前になったのですけど」
ぽっと顔を赤らめて言う南さん。
「そこには私の愛する恋人達がいまして……」
「……複数形でしたよね?」
横から愛がぼそっと聞いてくる。
流すんだ。ここは全力で流した方がいい。
「もしかしたら、うちの娘達が私に気を遣って、東条さんから人を遠ざけているのかもしれないわね。私からも言っておくわ。余計なことはしたら駄目って」
「……あの、サイトとかはご存知ですか?」
「ああ、掲示板ね。たまに発信はするけど、書き込みはあまり見ないのよ。この間ボウリング場で東条さんに会った時は発信したけど」
情報流したの、あんたか……。
「今の話を聞いてて思ったんだが……」
ぽりぽりと頭を掻いて、北野さんが立ち上がる。
「やっぱ、お茶会同好会は全力で潰した方がいいよね?」
「いやああああああ! 舞、それだけはやめて! 私のハーレムを壊さないで!」
北野さんの一言に南さんが涙ぐみながら絶叫した。
表向きは同好会だったんだ? しかも今ハーレムとか言ってるし。
そこは潰していいと思います。
「活動実績をちゃんと上げないと部への昇格もできないよ?」
「分かってるわよ。だから東条さんを諦めずにお誘いしているんじゃない。茶道習ってるって聞いたし。もし、うちの会に入ってくれたら部へも昇格できるんだもの。それに私にとっても一石二鳥……」
「動機が不純! やっぱ潰す!」
「いやあああああああああああああ!」
早めに実行した方がいいと思います。
会長の英断に期待しよう。
「部活って同好会もあるんですか? 愛、はじめて知りました」
「うん。あるよ。人数が六人以上と顧問がいれば部として昇格できる。毎年出来ては消える同好会もあるけどね。華のところは募集すらしてないからね。華が気に入った子しか誘わないから」
会長が説明してくれていると、突然、生徒会室の扉が乱暴に開いた。
「華姫! 悲鳴が聞こえましたけど何かあったんですか?」
何だか中性的な顔つきをした女子が突然入ってきて、南先輩を抱きかかえる。
「ああん、雪ちゃん。大丈夫よ。ちょっと舞に意地悪されただけ」
雪と呼んだ女子の胸に顔を埋める南さん。
手がその人のお尻触ってるのは気のせいか?
「またですか? ちょっと北野。華姫をいじめるなって何度言えばわかるの?」
「柏木、そっちこそ隣だからって、生徒会室に乱入してくるなっていつも言ってるだろ。それに私は悪くない。そっちの素行が悪い」
会長のおっしゃるとおりだと思います。
隣のクラスということは北野さんと同じクラスのA組、つまりは三年ってことだな。
柏木雪って人。男装したらきりっとした格好良さそうな感じに見える。
「大丈夫ですか。後で私がたっぷりと慰めてあげますからね?」
「ああん。雪ちゃん。相変わらず頼りになるわ。私もお返ししますね」
「やっぱ潰そう」
「同意します」
追い討ちを掛けるように響が同意する。
「いやああああああああああああああ!」
「ああっ、華姫様お気を確かに!」
「西本、お前よくこんなところでいられるなあ」
太一が呆れたように西本に言う。
「まあ、ちょっと変ですけど。仕事となると有能な方ばかりですので」
ちょっとどころじゃないと思うけど?
北野さんが喚きたてる柏木さんを追い出して、ようやく生徒会室が落ち着いた。
「まあ、ともかく華。同好会を潰すうんぬんはともかく、あんたのところが暴走してるのは事実なんだから、ちゃんと責任取りなさい。知らなかったじゃ済まされないわよ」
「……はい。わかりました。いろいろ手を回してみます」
しゅんとしてうな垂れる南さんだった。
いや、いるんだな。知れば知るほど尊敬できなくなる人。
最初の印象は気品ある常識人の副会長だったけれど、もう、そうは見えない。
「会長さんって、芯がしっかりしてますね」
横から愛がぼそっと呟いてくる。
「響も一目置いてるみたいだしね」
「……さて。見たいもの見れたし。変な問題もかたついたし。ちょ~っと仕事しようか?」
北野さんの一言に南さん、響、西本が固まる。
「あの、会長。今はお昼休みですし、木崎君達もいるので……」
「そうそう。駄目よ、舞。お客さんがいるときは。ね?」
「明人君、太一君、愛さん。先に謝っておくわ。ごめんなさい」
そう言って響は俺達に頭を下げた。
「てめえら、何ふざけてんだ?」
「「「へ?」」」
突然の怒声に俺達はびっくりした。
「スケジュールとっくに過ぎてんだ! 出来てないのはお前らのせいだろが!」
北野さんが豹変した。
「華、来月の澤工とのやつどうなった?」
「はい! 目下調整中です」
「遅い! GWまでに終わらせろって言っただろ?」
「はい、すいません。今日夕方までに相手方と再度調整します!」
「西本、四月分部活動費計上終わったのか?」
「はい。しました! これです」
受け取ったノートをパラパラとめくり、蛍光ペンで素早くマーキング。
「馬鹿野郎! 間違いだらけじゃねえか。マーキングした所全部やり直し!」
「はいぃ!」
「東条、4月の議事録見させてもらった。もう少し短くまとめられないか?、その分、字が大きく出来るだろう。読めなかったら議事録にならん」
「はい。挑戦します」
鬼と化した北野さんは三人にどんどんと指示を言い渡す。
北野さん自身はその合間にスケジュールに基づいての新たな企画書作り。
俺と太一、そして愛はあまりの慌しさにポカンとするばかりだった。
そんな俺達を北野さんはチラリと見て、
「お前ら暇そうだな?」
「「「へ?」」」
「ちょ~っと手伝ってもらえるか?」
嫌をも言わせぬ迫力で、北野さんからプリントの束を渡されソートするよう頼まれた。
三人で手分けしながらソート作業を進めていく。
「か、会長さん、怖いです」
「うん。怖い」
「これがうちの生徒会か。濃いな」
なんだかんだと働いて昼休みは過ぎていった。
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