187 清高生徒会4
なにやら不穏な空気を漂わせつつも、それぞれ昼食を終えた。
昼食後に雑談タイム。
目の前にいるのが上級生ということもあって、やや緊張する。
少しばかりの沈黙の後、響が口を開く。
「……それで、会長の目的は何なんですか?」
「そりゃあ当然、東条の相手が見たいからに決まってるじゃん。さっきも言ったでしょ?」
「舞だけでなく、私も気になってはいたのよ」
「私達はお付き合いしている人がいるんですけど……東条さんは――ひっ?」
響が西本を睨みつけたせいで声が詰まる。怖いよお前。
しかし、三人とも俺をまじまじと見つめるのやめて欲しい。
気恥ずかしいじゃないか。
「東条さんの片思いってことは、木崎君にその気がないってことよね?」
「はい、そのとおりです!」
南さんの質問に何故か俺の代わりに答える愛。
響が睨んでるぞ。
「そしてあなたも……東条さんと同じように木崎君に片思いなのね?」
返事をした愛を見つめると、南さんはうっとりとした表情になった。
「……ああ。……なんて、……なんて素敵で、何てドラマチックなの! 一人の男を巡って女同士の熱い戦い。……恋焦がれるけれど、男は決して振り向かない。一人は愛妻弁当を作って身を尽くし、一人は嫉妬の炎を燃やす! ああ……。何てドラマな世界。ああ……、私もそんな世界に身を投じてみたい。神様は不公平だわ。どうして私に試練を与えてくれないの」
南さんの突然の豹変に俺と太一、愛は唖然とした。
「ごめんなさい。副会長は病気なの。気にしないで」
響が無表情に副会長を見つめて俺達に告げてくる。
いや、気にしないでも何も。
あの人(南さん)壁に向かって、「ああん……愛って素敵」って囁いてますけど?
どうしよう。南さんは常識人だと思ってたのに、ちょっとショックだ。
俺が南さんをチラチラ見ていると、西本が手をプラプラさせる。
「副会長はああなるとしばらく現実に帰ってこないんですよー」
西本。そのほんわか話すのやめてもらえないか。
なんでか知らんが縁側で日向ぼっこしている気分になるんだ。
「そういえば二年生って来週、大学見学だよね。いいなー。私も行きたい」
「会長は去年行ったでしょ?」
太一が聞きかえす。
「会長の彼がですねー。清和大学に通ってるんですー」
にんまりと笑って西本が答えた。
「なんだかんだと、またのろけたいんですか?」
「いいじゃん。私だって自慢したいんだよ。だって初めての彼氏だし……好き過ぎてやばいし」
ぽっと顔を赤らめる北野さん。
ああ、なるほどのろけてるわ。
ところで、南さんがまだ、ブツブツと壁を相手に囁いてますけど、止めなくていいんですか?
「西本の彼は? 学校の人?」
太一がいまだに座布団に正座している西本に聞いた。
「えー……まあ、そうです」
「同じ学年ですか? それとも先輩ですか?」
愛がずずいっと身を乗り出して西本に尋ねた。
「えー……後輩です……今、一年です」
「どうやってお知り合いになったんですか? 非常に気になるんですが」
気のせいか。今、愛の頭に犬耳が見えた気がした。
ぴくぴくって動いていたような。
「いわゆる幼馴染と言うやつでして……」
「ど、どっちから告白したんですか?」
愛よ。何故、興奮している?
「えー…………向こうです。中学の卒業式の時に告白されてOKしちゃいました」
「おおー。なんてロマンチック!」
「でもですねー。幼馴染だと恋愛している気にならないんですよね。これでいいのかと思うときがあります」
「何、言ってるんだ。なんだかんだと言いながら、やれ喧嘩しただの、やれ仲直りしただの。お前が一番のろけ話多いくせに」
「ああっ、会長それ言っちゃあ駄目です。……ただ、ちょっと考え方おかしい子なので心配に……」
「どんな風におかしいんですか?」
「……主夫になりたいって。部活まで調理部に入るし」
「調理部? 愛も調理部ですよ?」
「え?」
「一年の男子というと羽柴君だけですけど、彼が先輩の彼氏さんですか」
愛の言葉を聞いてさーっと顔が青ざめる西本。
「…………今、私が言ってたの絶対言わないで下さいね! 聞いたらすっごい意地悪してくるんで」
「いい人に見えましたけど?」
「外面がいいだけです。…………顔は、まあ、ちょっといいけど」
青ざめたり、赤らめたりと西本も忙しいやつだ。
「ほら出た。何が恋愛している気にならないだ。好き好き光線出しまくってるじゃないか」
会長が西本をびしっと指差し呆れたように言う。
「……響。お前こういうところにいて、よくストレスたまらねえな?」
「慣れたわ。……と言うより、それはどういう意味かしら?」
太一の問いに響が睨みつけるが、太一は素早くそっぽを向く。
「危ねえ! お前、俺を固まらせる気だったろ?」
「惜しいわね。今日はちゃんとペンを持っているのに……」
太一も身を守る術を覚えたか。あれはあれで面白いのだが。
それよかさ。さっきから視界の隅で南さんが演劇っぽいの始めているんだけど。
誰か止めてくれないか。気になってしょうがないんだ。
北野さんが俺の態度に気付いたのか、不審そうに尋ねてくる
「木崎君どうしたんだい? ……ああ、あれか?」
後ろを振り返り、片手を胸にし、もう片方の手を高らかと上げて「ああん……」と、恍惚の表情を浮かべている南さんを指差す。
「ちょっとまってね」
そう言うと北野さんはどこからか取り出したスリッパで、南さんの頭を『スパーン』と叩いた。
「いいかげん戻って来い。木崎君が怯えてるだろ」
怯えてないです。
「あら、私としたことが……」
我に返った南さんは自分の席に戻る。
「南先輩の彼氏さんはどんな人なんですか?」
愛が南さんにも聞いた。
だが、その途端、響を含む生徒会の面々の空気が変わる。
北野さんはあちゃーって顔になり、西本は顔を青ざめ、響は身にまとう空気が変わった。
何だ?
「彼氏なんていないわよ?」
「え? お付き合いしていないのって、響さんだけじゃ?」
「お付き合いはしてるわよ?」
「え?」
「私の恋人は女の人なので……」
「………………ええっ?」
じっくり考えてから驚く愛。
「いやいや、南先輩、冗談は止めてくださいよ」
「本当だけど?」
真顔で答える南さん。
「華が言ってるのは本当だよ。……こいつマジ百合で、カミングアウトしてるから……」
北野さんが苦笑いを浮かべて言った。
「失礼な言い方ね。男が嫌いって訳じゃないわ。好きになった人が全員女の子ってだけじゃない。愛里さん、それやめてもらえる? 地味に傷つくわ」
マジ百合と聞いて、椅子の後ろに隠れた愛に向かって言う南さん。
「女の子なら誰でもいいってわけじゃないの。舞とか西本さんは好みじゃないし、東条さんは好みだけど取り付く島もないし」
「……副会長は隙あらば襲ってくるわ」
相変わらず無表情な響だった。
言ってる内容は凄いと思うんだけど?
「姫愛会といい、響は女に好かれやすいのか?」
「私に聞かないで」
「あら、木崎君。姫愛会知ってるの?」
南さんが意外そうな顔で聞いてくる。
「ああ、ちょっと耳にした程度です」
「そうなの? 実は私、その会長なのよ」
「ああ、そうなんですか――って」
「「――えええええっ?」」
俺と愛の声がはもって生徒会室にこだました。
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