186 清高生徒会3
生徒会室にいたのは、生徒会長の北野さんと副会長の南さん。
北野さんはボウリング場で見たときと同じく、ボーイッシュな感じで中性的な印象を受ける。
頭にカチューシャをつけているのが南さん。
響に近い凛とした空気をまとっている。
南さんを見ていると何故か直立不動したくなる気分になった。
女王様系というか、優雅さ気高さ、気品が満ち溢れていて、こっちが一歩身構えてしまう。
ボウリング場で北野さんと一緒にいたらしいが、俺の記憶に残っていなかった。
二人の姿を見て、響が緊張した面持ちで何故か冷や汗を流している。
いつもは動じない響がこうなるのも珍しい。
「いつまでも突っ立てないで、入りなよ」
北野さんに手招きされて、言うがまま俺達は生徒会室へと入った。
長テーブルが2つくっついた状態で置いてあり。テーブルには椅子が3つずつ置いてある。
まるで俺達のために設定しているようにも見えた。
「君たちはそっちを使って」
響に視線を送ると、こくっと頷いて会長の言うことに従うよう俺達に促した。
太一と響の視線がかち合うとまずいので、太一は北野さんの正面、愛は南さんの正面で、俺は響の正面に座った。
「さてそれじゃあ、ご飯にしよう」
北野さんは皆がテーブルについたのを確認すると、自分の鞄から弁当箱を取り出した。
南さんもその声に応じて、自分の鞄から弁当箱を取り出す。
鼻歌交じりに弁当箱を広げる北野さん。
俺も愛も太一も戸惑いながらも北野さんたちにならった。
「……会長、ちょっとよろしいですか?」
「何よ、東条?」
「……何故、こうなっているんでしょうか?」
「私がそうしたいからに決まってるでしょ?」
「……副会長まで……」
「舞が決めたのよ?」
冷静な口調で逆に「分かってるでしょ」と言わんばかりに答える南さん。
北野さんが決めたのだから、逆らっても無駄と諦めた口調だ。
今の生徒会の関係が見えてきた気がする。
「では、いっただきまーす」
「舞。その前に自己紹介くらいしなさいよ」
北野さんが箸を走らせようとしたところで、南さんが手で制した。
「あっ。そうだね。では私から、三年A組の生徒会長やってる北野舞。よろしく」
「三年D組の副会長の南華よ。急に同伴させてもらってごめんなさいね」
「二年B組の千葉太一です」
「この間お会いしましたけど、一年C組の愛里愛です」
「二年B組の木崎明人です」
俺が名前を告げた途端、二人の視線が俺に集中した。
「な、何でしょう?」
「君か。東条の想い人ってのは」
「……そう。あなたなのね?」
好奇心に満ちた目で見てくる二人。
何、この値踏みするような視線。
晃にもされたけどいい気分じゃない。
「よし紹介も終わり。食べよ~」
「……あの、会長」
「何? えーと愛里さん」
「そこのダンボールは何でしょうか?」
愛が指差した先。会長の横にはミカン箱くらいのダンボールと座布団が敷いてある。
「ああ、これ? 特等席。もうすぐ分かるよ」
北野さんの言っている意味が分からなくて、俺達が首を傾げていると生徒会室の扉が「バンッ!」と音を立てて開いた。現れた女子、その顔はどこかで見たような気がする。
「す、すいません。遅れました!」
「遅い西本! 何やってるんだ。もうみんな揃ってるぞ!」
北野さんが西本と呼んで一喝する。だが、北野さんの顔は笑っていた。
西本……ああ、生徒会の最後の一人か。
俺達の隣、C組にいるって話だったけど。
それで見覚えがあったのかもしれない。
焦った表情で、はあはあと息を荒げている。
相当慌てて来たに違いない。
「す、すいません、会長。で、でも会長からメール来たのついさっきじゃないですか」
「言い訳無用! お前の席はここだ!」
そう言ってダンボールを指差す北野さん。
「ええっ? ……はい。わかりました」
従っちゃうの?
しょぼんとして、ダンボールに向かう西本。
二、三歩歩いた所で突然べちっとこけた。
そこ何も無いよね? 今なんでこけたの?
「うぅ……痛い」
何だこのドジっ子は。手に持っていた鞄を守ったせいか、顔をぶつけたらしい。
起き上がり座布団の上に座ると、弁当箱をダンボール上に置いた。
「西本、自己紹介しなよ」
北野さんに言われ、俺達の顔を見る西本。
まだダメージが残っているのか、目がうるうるしていた。
「二年C組の西本音羽です。会計やってます」
深々と頭を下げる西本。
思わず俺達も深々と頭を下げてしまった。
俺達も簡単に自己紹介を返した。
この西本、前に響が会長に愛されていると言った。
この扱いが愛されているのだろうか。
見た感じ、西本はぽやーっとした感じで、いわゆる癒し系、和み系というやつか。
「さて西本も来たことだし、食べよう。もう私おなかぺっこぺこだ」
会長の一声で食事が始まった。
生徒会の面々が並ぶ食事会。なんだこれ。
豪快な感じでボーイッシュさ満点の北野舞。
気品が全身から溢れているといった感じの南華。
凛とした空気をまとい、無表情ながらも綺麗な顔した東条響。
ぽやっとしているが、見るものの心を癒す西本音羽。
この四人が我が清和台高校の生徒会。キャラが濃いな。
北野さんは女の子にしては豪快な食べっぷり。ガツガツといった感じだ。
ときおり「うまー」とか「おかあさん。ありがとー」とか感謝の言葉を口にしている。
響と南さんは、黙々と丁寧な箸使いで少しずつ口に入れている。
西本はというと、おかずに入っていた豆を何度も掴み損ねて「ああっ!」と声を上げて騒がしかった。
太一も愛も、そして俺も黙々と食べている。
正直、この空気にのまれていた。
ふと、北野さんが俺と愛の弁当に視線を伸ばして来た。
「あれ、一緒のお弁当?」
「はい。愛が作ったんです」
「……ってことは愛妻弁当なの?」
「はい。そうです!」
いや、そこ強調しなくていいから。
確かに作ってくれたのは愛だけど。
「あの、誤解が無いように言っておきますけど、俺まだ誰とも付き合ってませんから」
俺がそう言うと横で愛が頬を膨らましていた。
ほっぺた押していい?
「東条……これはどうなってるの?」
「言ったじゃないですか。まだ片思いだと」
「……つまり二人はライバルってこと?」
交互に響と愛を箸で差して言う北野さん。
「舞。箸で人を指すのはお止めなさい」
北野さんをたしなめる南さん。
良かった、この人常識人だ。
「響も会長らにそういう話してるんだな」
太一が意外そうな顔で響に尋ねた。
まあ、俺もそう思ってたんだけど。
「……昨日のことが会長の耳に入ってしまったのよ」
昨日というと……両手に花の状態かな?
いや、あれは今朝の話だ。
昨日のというと……響が電話してきた時か。怖かったもんな……。
「おかげで昨日は質問攻めよ。迂闊だったわ」
「木崎君は東条さんとお付き合いしてるんですか?」
西本がぽやっとした表情で聞いてくる。
「西本、お前今の話聞いてなかったな?」
「お豆に夢中で……」
会長にはにかみながら答える西本。
うわー。この人天然系だ。見てて和む。
「明人君駄目よ? 西本さんには彼氏がいるわ」
「おい響。それは俺に失礼じゃないか?」
「……だって今、西本さんの事を愛でた目で見てたんですもの」
拗ねた口調で響がそう言うと、愛が反応して西本を凝視していた。
「西本先輩、毒と鈍器どちらに興味がありますか?」
愛よ。何故その質問を西本にぶつけた?
「私は鈍器ですねー」
答えるな西本。しかも何で笑顔で答える?
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