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帰路  作者: まるだまる
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184 清高生徒会1

 店を閉めた後、美咲をいつものように送っていった。

 今日は晃が迎えに来ることもなく、前と同じように美咲と二人だ。


 美咲の話だと晃が迎えに来た日の件で春那さんが激怒し、日中に実家へ連れて帰ったらしい。

 あそこまで怒った春那さんを見たのは美咲は初めてだと言っていた。


 怒られたのはざまあみろとも思うが、少しばかり可哀想な気もする。

 俺への敵意はともかくとして、美咲に会いたい一心だったろうに。

 それを考えると可哀想だ。美咲は気にしていない様子だけれど。


 横に並ぶ美咲をちらっと見ると、なめこばりに「んふんふ♪」と、かなり上機嫌である。

 愛と同じ感じだけど美咲にも感染したのだろうか。

 俺、もしかして感染保菌者なのだろうか?

 もしかしたら、今日接触したアリカも店長も今頃「んふんふ」言っているかもしれない。


「明人君、さすがに店長は無いんじゃないかな?」

「だよねー。――――って、何で分かった?」


 何でそこで固有名が出てくるの?

 やっぱり美咲って超能力あるだろ!


「今、口に出てたよ?」

「え、マジで?」

 こくこくと頷く美咲。


 これを皮切りに他愛も無い話が続いたが、美咲の機嫌はずっといいままだった。


 美咲の住むハイツにたどり着くと部屋の明かりが消えている。

 春那さんが晃を実家に送ったついでにそのまま泊ってくるらしい。 


「明日には帰ってくるって春ちゃん言ってた」

「そっか。ちゃんと戸締りとか火の元とか気をつけろよ?」

「分かってるよ。何か明人君お父さんみたいだよ」 


 美咲はそう言ってクスクスと笑った。


「それじゃあ、俺も帰りますね。おやすみなさい」

「うん。おやすみない」


 美咲はそのまま自分の部屋へと向かっていく。

 しばらく待って、いつものように美咲の部屋を見上げると、窓のカーテンが開き美咲が姿を見せる。

 美咲が小さく手を振って来るのを見届けると、俺も小さく手を振って帰路へと足を向けた。



 帰路へと進む中、自転車を押して帰っていると交差点で信号に捕まった。

 ふと空を見上げる。

 月明かりは雲がかぶっていて淡い光を放っている。

 少しばかり風が強くなってきていた。

 空に浮かぶ雲の流れるのも速い。

 もしかしたら、明日は雨が降るかもしれない。

 月に覆いかぶさっていた雲は信号待ちをしている間に月から離れて行った。

 

 一人の時間はやっぱり好きになれない。


 母親のことをつい考えてしまう自分がいる。

 どうして親権を捨てるのだろう。

 どうして俺は嫌われたのだろう。

 どうして俺には何も言ってくれなかったのだろう。

 俺の想像する答えは、俺の存在を拒否してしまう。


 そして気付く。


 自分がまだ希望を持っていることを。

 母親には母親の事情があって、俺との距離を取るつもりなのだと。

 母親に捨てられるのには理由があったと、自分で理由を欲している。

 そうであって欲しいという希望を。

 

 信号が青になった時、俺は自転車に跨った。

 さっさと家に帰ろう。


 嫌な事を考えるくらいなら、早く家に帰ってしまってやらなくちゃいけないことをやろう。

 家に帰るのに自転車に乗ったのは随分と久々な気がする。

 これでいいんだと、自転車のペダルを力強く漕ぎながら帰路へと進んだ。


 自分の家に着いた時、駐車場に母親の車が無い。

 やはり、もう帰ってこないのだろう。

 父親も単身赴任先に帰ったので、誰の迎えも無くなってしまった。

 玄関で放つ「ただいま」の言葉に誰も返してくれない。

 いつか父親が帰ってくるまで、お預けだ。


 遅い晩飯を作っていると、電話が鳴った。 


「はい。木崎ですけど」

『明人か。私だ。父さんだ』

「どうしたの? こんな時間に」

『いや、もう帰ってる頃だと思ってね。お疲れさん』

「なんだよ。さっそく心配かよ」

『いやいや、そういうわけじゃないけどね。ところで――――』


 父親からの内容は、今後俺が困った時の相談先だった。

 日中に父親なりに気を遣って、調整したらしい。

 学校関係は菅原先生と坂本先生がバックアップしてくれることになった。

 坂本先生は俺が一年の時の担任だからかな?

 普段の生活に関しては、毎日バイトしているということもあるので、てんやわん屋の店長。

 まあ、これは店長からも聞いていたので問題は無い。


『――――ちゃんと頼んでおいたから、困ったときは一人で考えずに相談するんだぞ』

「うん。分かってるって」

『仕事が始まると私から連絡するのは難しいけど、できるときはするよ』

「うん。忙しいのは分かってるって。土日とかで俺も連絡入れるから」 

『ああ、そうしてくれると助かるよ。それじゃあおやすみ』

「うん。おやすみ」


 父親との電話の後、食事と家事をさっさと終わらせて、まず愛とのデートプランを考える。


 ガイドブック、ネットを活用し、天候のことも考えて選んだ候補は結局二つ。

 一つは今、公開されている映画。好みがあるだろうから愛に聞いてみよう。

 もう一つはカラオケ。この間行ったばかりだが、愛が好きそうなので候補にした。

 このどちらかを選んでもらって。後はぶらぶらと散策して送っていく。

 デートで遅いと愛の親も心配するだろう。なるべく早めに戻すようにしよう。


「これでいいのかな?」


 何かぴんとこないがデート自体が初めてだから、これでいいのかどうかも分からない。

 大まかにプランを決めた後、いつもよりしっかりと勉強開始。

 二年の進学時に買っておいた問題集から手を付けていく。

 切りの良いところで時計をみると、まもなく午前二時になる。

 あまり無理しないようにしよう。今日はここまでだ。 

 睡眠不足で授業中に寝たら本末転倒だ。

 さっと片付けてベッドへダイブした。

 

 ☆


 金曜日の朝。鳴り響く目覚まし時計を止めようと、ベッドから手を伸ばす。

 ごそごそと手を伸ばすと、『にゃっ』と音がした。

 ……お前じゃねえよ。また、猫グローブに触ったようだ。

 仕方なく起き上がり、鳴り響く目覚まし時計を止めた。

 何か夢を見たような気もするが、もう記憶から飛んでいる。

 ただ、嫌な夢じゃなかったような気はする。


 これからも父親が帰ってくるまで一人の生活。

 心配はかけたくもない。しっかりとやろう。


 朝食を作っているときにテレビで気象情報を流していると、今日は昼頃から夕方にかけて雨の予報となっていた。

 今日の昼飯は、週末なので愛も一緒に食べる日だ。弁当代の清算もある。

 響は、前に雨の日は生徒会室で食べればいいと言っていたけれど、俺らが入っても大丈夫なのだろうか?

  

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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