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帰路  作者: まるだまる
183/406

182 お仕置き頻度上昇中2

 美咲がじりじりと距離を詰めてくる。

 俺はさせじと椅子を盾に距離を取る。

 背中を向けたら駄目だ。確実にやられる。


 俺と美咲は狭いカウンターの中で、右へ左へと攻防しつつ移動していた。


「お仕置きされる理由がわからん。せめて理由を聞かせろ」

「ほお? しらばっくれる気?」


 昨日の夜に美咲の家の前で分かれてから美咲とは接触していない。

 今日はいつもより少しだけ遅れてきたが、五分も遅れていない。

 美咲にお仕置きされる理由が俺には分からない。


「じゃあ、これは何?」


 美咲はエプロンから携帯を取り出すと俺に画面を見せた。


「――それ?」


 そこには俺と愛が腕を組んで歩いている姿が写っている。

 ついさっき学校での状態だ。この状況を撮れるのは……。

 撮ったのは響か? いや違う。あいつは自分の教室にいた。

 あいつが撮ったなら上からのアングルのはずだ。

 この映像なら同じ高さの場所で撮らないと撮れない構図だ。


「随分と仲良く腕なんか組んじゃってるよね?」

「ちょ、弁解させてくれ。いつものパターンで強引にだな」

「その割には楽しそうな顔してるけど?」


 痛いところを突いてくる。

 確かに写真の俺の顔はちょっとにやついてますけど。


 駄目だ。美咲は狩る気満々だ。


 美咲と対峙していると裏屋への扉が開いてアリカが現れた。

 無言でこちらに近付いてくる。とても嫌な予感がする。

 もしかして、あいつもこの写真を見てお仕置きしに来たのか?

 そうだとしたらまずい。

 二人同時に来られたらさすがに防げない。

 その焦りが俺の隙を作ってしまい、死角から美咲に襲われた。


「隙あり!」


 美咲が素早い動きで俺の背後に回りこむ。

 そうは問屋が卸すか。

 俺も素早く反転して防衛を試みる。

 だが、思ったよりも素早い美咲はすでに俺の首に腕を伸ばしつつあった。



「「え?」」



 二人の声が近距離で重なる。

 美咲の出された腕を俺は正面・・から捕らえた。

 慣性の法則を打ち消すことができず俺の身体に美咲の身体がぶつかる。

 俺も思わず美咲を支えてしまった。


 ――結果、俺と美咲は正面から抱き合う形に。


「あれ?」

「へ?」


 近距離に見える美咲の顔。

 鼻と鼻が触れ合いそうな距離。

 まるで映画のワンシーンみたいに時間がゆっくりと流れていく。

 相変わらず綺麗な顔してるなと思ったとき美咲と目が合った。

 美咲も俺の目をじっと見つめている。

 不意に美咲とのキス未遂の事を思い出した。

 これは俺の心臓か、美咲の心臓か。

 ドクドクと激しい心音が聞こえる。



「何やってんのよ!?」



 俺と美咲の間に強引に腕をねじ込み、俺と美咲を引き剥がすアリカ。

 危なかった。今のちょっとやばかった。

 

 顔が熱い。


 俺、顔が真っ赤になってんじゃないか?

 美咲を見ると美咲も俯いて頬を赤らめている。


 余韻に浸る暇も無く、突然、がしっとこめかみを押さえられた。

 この感触はアリカの手だ。

 これって間違いなくアイアンクローですよね?


「とりあえず、くらいなさい」

「ぐああああああああああああああ!」


 二日続けてのアイアンクローは避けたかった。


「ふう。気が済んだ」


 アリカのアイアンクローに沈んだ俺はカウンターの中でピクピクしていた。


「美咲さんもすぐに明人の首絞めちゃ駄目ですよ? ……美咲さん?」

「ふえ? へ、ひゃい!」

 まだ顔が真っ赤のままの美咲は、アリカの話を聞いていなかったようで慌てて返事した。


「もう、美咲さん聞いてました?」

「ご、ごめん。うん。気をつけます」

 何だか様子がおかしい美咲だった。


「あんたもいいかげんに起きなさいよ」


 アリカが床に横たわる俺をギロリと睨む。

 くそ。死んだ振りして様子を窺っていたのがばれた。


「あんたさー、どうせ愛に強引にくっつかれたんだろうけど。写真撮られてるのくらい気付きなさいよ」

「え?」

「あたしも写真見たのよ。それで愛に聞いてみたら友達に頼んだって」


 ……あれ、愛がアップしたんだ?

 なるほど友達が撮ったのか。全く気付かなかった。  

 

 俺は立ち上がり、頭を一振りすると、

「それでアリカは何の用なんだ?」

「あんたにアイアンクローしようと思って来たんだけど?」


 それこそ駄目じゃないか? 仕事しろ仕事。


「冗談よ。それだけの理由で来るわけ無いじゃない。ついでよついで」

 いや、ついでにアイアンクローっておかしいよね?


「それじゃあ何の用なんだ?」

「店長に明人を呼んで来てって言われたの」

「何でアリカに?」

 インターフォンで呼べばいいのに。

 二人で裏屋に向かう途中話を聞いた。


「店長のところに再来週中間試験だから一週間前から試験終わる日までバイト休むって言いに行ったのよ。そしたら戻る時に明人呼んできてって言われたの。そういえばあんたも試験近いでしょ?」

「俺のところは月末の週だ。バイトは休むつもり無いけど」

 そう答えるとアリカが驚いた。


「あんた試験どうでもいいの?」

「いや、そういうわけじゃないけど。勉強はちゃんとしてるし」

「それで一位取れるの?」

「え? 一位なんか無理に決まってるだろ。……お前一位狙ってんの?」

「うん。一年の時、最高二位だったの。だから……今度こそ取りたいの」


 アリカの目は真剣だった。

 アリカと最初に会った時を思い出す。


 そうだった。こいつは目標をしっかり持っている奴だった。

 前に響が会社を興すことが夢だと語ったとき、アリカの夢はロボットを作ることと愛が言っていた。

 その目標があるから澤工をあえて選んだのだろう。

 いつかアリカが言った『技術を身につけたい』その一心で。

 ちゃんと自分で考えて自分の未来へと一歩一歩進んでいる。

 自分に試練を与えながらも妥協せず高みを目指して。

 その姿勢にはつくづく感心させられる。


「お前、すげえな。試験頑張れよ」


 アリカの頭をぽんぽんと思わず撫でた。

 撫でて気付く。

 また子供扱いしたって怒ったらどうしよう。 

 でも、その時のアリカは俺を睨むわけでもなく、ただ、


「う、うん。……頑張る」


 と、素直に笑って頷くアリカだった。


 何だよ。

 普段からこれくらい大人しかったら可愛いのに。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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