181 お仕置き頻度上昇中1
提出を終えて川上らは部活へ、俺はバイトへと向かう。
長谷川と太一は少し話をしてから帰るようだ。
自分の下駄箱まで来るとそこに愛がいた。
「お待ちしておりました。明人さん♪」
愛の目は何故か既にめらめらと燃えていてやばい感じだ。
まるで、てんやわん屋で再会した時のような目だ。
上履きを履き替えて駐輪場に行こうとすると、愛が俺の腕を取ってぎゅっと抱きかかえた。
もう定番となりつつあるが、むにょむにょと柔らかいものが腕に当たっている。
本人も分かっていると思うのだけれど、恥ずかしくないのか?
「あ、愛ちゃん。ちょっと離れてくれる?」
「駄目です。愛は悲しい思いをしました。それを癒すためには明人さんとの密着が必要なんです」
「悲しい思い?」
「お忘れですか? お昼休みあんなに響さんといちゃついて……」
その事で愛の様子がおかしいのか。
ずーんと沈んだ表情で俺の胸に愛がもたれかかってくる。
急にもたれかかってきたのでどきっとした。
愛の髪からふわっと甘い香りがする。
「……正直しょっくです。また愛がいない時ああいうことになると思うと……」
か細い声で呟く愛。
それほど昼の事を引き摺っているのだろうか。
もたれかかった愛から小さい声が聞こえてくる。
「……愛がいないことをいいことに……あの女狐……次やったら骨砕く……」
どうしよう。俺の知らない愛がいる。怖い。
どす黒い炎が背中からも吹き出している。
「今日は駐輪場までは絶対離しません。いいですよね?」
ぐりんと俺に顔を向ける愛の目は黒い炎を宿していた。
その目に恐怖を抱いた俺はノーとは言えない日本人そのものだった。
「……はい」
☆
「んふ♪ んふ♪ んふふふふふ♪」
俺の腕をしっかりと抱いた愛は上機嫌だ。なめこばりに「んふんふ」と言っている。
困ったなと思いつつも、下駄箱から駐輪場へ向かう途中、俺の携帯が鳴った。
鞄から取り出して見てみると響からだった。
ちなみに愛はこの時も離れていない。
俺は身の危険を覚えつつ、恐る恐る受話ボタンを押した。
『ねえ明人君。随分とくっついているようだけれど、どういうことかしら?』
響の声は怒気をはらんでいた。
俺は慌てて周りをきょろきょろと見渡す。
『上よ』
言われて上を見上げると、教室の窓から見下ろしている響と目が合った。
何この殺気。こんなの近距離でくらったらひとたまりも無いぞ。
背中をぞわぞわぞわと悪寒が走る。
『言いたいことはあるかしら?』
「これには事情があってだな……」
『あら、明人君は事情があると女の子とくっつくのかしら?』
駄目だ。論戦では俺の方が不利だ。返す言葉が何も無い。
だって何言っても言い訳なのだから、響の言ってることが正しい。
こうなれば正攻法というか、陳情しかあるまい。
「……すまん響。今日だけは目をつぶってくれ」
『…………そう。わかったわ。今回は明人君のお願い聞いてあげる。今度は私のお願いも聞いてね』
ピっと音がして電話は切れた。
上にいる響は俺に向かって小さく手を振っている。
俺も小さく手を振り替えすと、愛も響を見つけて大きく手を振った。
気のせいか、響の周りが歪んで見えた。
何となくだけどゴゴゴゴゴゴという効果音が似合いそうな。
これはさっさと駐輪場まで行ってしまおう。
駐輪場に着くと、愛はようやく俺の腕を開放してくれた。
ご機嫌な様子の愛は、
「んふ。んふ。これで埋めれた♪」
と謎の言葉を発している。
何が埋めれたんだろう?
土曜日の件どうしようか。
まだ愛とも話を進めていない。
明日は週末。
昼飯は愛も参加する約束になっている。
であれば、その時までにある程度プランを固めてその時にプランを示した方がいいだろう。
バイトに行く前に本屋かコンビニでお出かけスポットが載っている本でも買うか。
「明人さん、お弁当箱貰いますね。愛は部活がありますので、今日はここでお別れです」
そう言えば今日は昼に取りに来なかった。
鞄の中から愛に弁当箱の入った巾着袋を取り出して渡す。
「今日もありがとう。美味しかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
ニコッと微笑む愛。
笑顔の愛はとても可愛いと思う。
女の子って色々表情持ってるよな。
さっきの黒い愛は怖かった。
普通の時の愛は可愛いだけに残念だ。
「ではバイト頑張ってください。お気をつけて」
愛に見送られて学校を後にした。
さあ、バイトだ。今日も美咲の相手になるだろう。
今日はどんなキャラで来るのか、怖いような楽しみなような。
美咲がトートバックを持って来ていないことを心から祈ろう。
……晃はまだいるのだろうか。
もしいるのなら昨日と同じように美咲を迎えに来るだろう。
大学生って休みがよくわからない。
俺達と同じなのか、それともまた違うのか。
大学見学の話も美咲にしてみよう。
ちょっとしたネタを教えてもらえるかもしれない。
途中、以前美咲がプリンを買ったことのあるコンビニに寄る。
確かここには無料のタウン情報誌も置いてあったはずだ。
それだと清和市を中心とした遊びスポットが掲載されている。
デートプランを作るのにいい助けになるだろう。
販売しているタウン情報誌だと清和市内は少しだけしか掲載されていない。
どちらかというと遠出する家族や大人向けの紹介といった感じが否めなかった。
映画情報などもあるので念のため購入しておこう。
高校生らしいデートって……悩む。
コンビニを出た後は、真っ直ぐにてんやわん屋へと向かった。
郵便局を抜けていつものように店前の駐車場に入ったとき、珍しく車が三台駐車されていた。
急いで店脇に自転車を止めて店内に入ると、レジで店長と美咲さんが客に対応している最中だった。
俺が来たときに客と対応中なんて珍しい光景だ。
すぐに更衣室に入って準備してレジカウンターに向かう。
向かった時にはちょうど客が商品を受け取って帰るところだった。
「ありがとうございました」
美咲が頭を下げて客を見送る。
「お疲れ様です。入りますね」
店長に挨拶をしてレジカウンターの中に入る。
「明人君も学校お疲れ様。それじゃあ明人君が来たから俺は裏屋に戻るね。よろしく~。あ、明人君お土産あるから後で美咲ちゃんと食べてね~」
店長は足元の袋を指差して言った。
袋には夜のお菓子うなぎぱいと書いてある。
深く追求するのはやめておこう。
店長が裏屋に戻り、店内に残っていたお客も商品を購入して帰っていった。
これでまたしばらく閑古鳥が鳴くだろう。
「さて、明人君も来た事だし」
美咲がキョロキョロと周りを見渡して腰に手を当てる。
一段落したので、店長からの土産をいただこうと言うのだろう。
振り返った美咲はぎろりと俺を睨んできた。
「さあ、今日もお仕置きといきますか」
「何でだよ?」
いい加減このパターンやめようよ。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。