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帰路  作者: まるだまる
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179 班を作りましょう3

「異存はないようね。はい、決まり」


 長谷川はポンと手を打つと笑顔で俺達に向かって言った。

 その笑顔と強引な押しに川上や柳瀬も逆らえないでいた。

 俺の横で川上と柳瀬がこそこそとを頭を寄せ合って話し合っている。


「どうすんのよ。私、木崎君に平手打ちしたってば」

「それは知らん。それよか、これを利用して姫様の事を色々と聞き出すのよ」

「おお! 柳瀬、頭いい。それいこう。上手くいけば一緒に……」


 なにやら俺を餌に響に近付く腹積りが見え隠れする。

 普通に聞こえてますけど。


 太一に目をやると長谷川がやたらと親しげに太一に話している。

 クラスの誰とでも話せる太一だが、太一の返し方の感じが何となく俺との接し方に近いような……。

 そう、まるで親友同士のように見えた。


「千葉ちゃん。これ貸しね」

「わかってるって。てか、その呼び方やめろ。さっきみたいに君付けにしてくれ」


 くいくいと太一の腕を引っ張って耳元で聞いてみる。


「お前、委員長と仲いいの?」

「中学一緒なんだよ。中二と中三同じクラスで、まあ……世話になった一人」


 ひそひそと返す太一。

 同じ中学出身……なるほどクラスまで一緒だったなら仲良さげなのもわかる話だ。


「ところで貸しって何だよ?」

「聞こえてたのか。今回の件、俺が長谷川に頼んだんだ」

「お前が?」

「そそ。川上と柳瀬は味方にした方がいいと思ってな。引き込んじまおうぜ」


 珍しく悪人顔でにやりとする太一。


「よく委員長が乗ってくれたな?」

「クラス委員長としてみんなと上手くやっていきたいの!」


 話が聞こえたのか俺と太一の間に、にゅっと割り込んでくる長谷川。


「本音は?」と太一が長谷川に手を向ける。

「木崎君がなんで疎まれてるのか私だけ知らないのって嫌だしー、なんか面白そうだし。って千葉ちゃん!」

「その呼び方やめろって」

「いいじゃん。私と千葉ちゃんの仲でしょ」


 つんつんと肘で太一を突きながら含み笑う長谷川に苦笑いする太一だった。

 こんな経緯で俺の校外学習の班が決まった。


 ☆

 

 午前の授業が終わって昼休み。

 天気が良いので体育館脇の木陰で昼食を取ることにした。

 向かう途中階段の踊り場で響が俺達を待っていた。


「どうした? 先に行ってても良かったのに」

「……それを私に言うの?」

「……そうか」


 響の方向音痴はこの短い距離ですら駄目なのか。

 移動教室の時とかどうしてるんだこいつ。

  

 なにがともあれ、太一と響と三人で前と同じように体育館脇の木陰で昼食。

 今日は、愛は友達と一緒に食べる日でいない。

 愛が作ってくれた弁当はメインが豚のしょうが焼きでご飯との相性は抜群だ。

 今日も美味しい弁当に作ってくれた愛には感謝だ。


 美味いし、腹も減っていたのでがつがつと食べていると、

「明人君、じっとして」

 俺はぴたっと箸を止める。

 響が顔に手を伸ばしてきた。


「頬にご飯粒がついてるわ。子供みたいよ」

 そう言って、響がナプキンを手に俺の顔についた米粒を取り除く。


「あ、ありがとう」


「何だよ。世話女房みたいになってるな」

 響の態度を見て太一が言うと、

「私は惚れた相手に尽くすのよ。あ、動かないで」

 事も無げに答えてナプキンで俺の顔を拭く響。

 ちょっと照れ臭い。


「明人、お前やっぱり爆発しろ。あ……明人、明人。……あれ」

 太一がぎょっとした顔で俺の後ろを指差した。


 振り返ってみてみると、一階の通路側の窓にベッタリと誰かが張り付いている。

 そのベッタリと張り付いた人物は、禍々しいオーラを撒き散らしながら俺達を見ていた。

 横にいる友達が必死に止めているようだ。

 引き摺られるようにその人物は友達に連れて行かれた。


「……愛さんたら何をしていたのかしら?」 


 響がそのやり取りを眺めて呟いた。

 あえて言うのはやめておこう。

 多分、愛は偶然さっきの響と俺を目撃してしまったのだろう。  

 火が点いていなければいいが……。


 食事が終わったあと、校外学習の話になった。


「――それでその委員長とこの間の二人と一緒に組むの?」

「まあ、そういうことだな」

「ふーん」


 じーっと見つめる響の視線が何故かきつく見えるのは気のせいか。

 右手の指を握ったり伸ばしたりするのやめてもらえる?

 その形って手刀ですよね?


「響、心配いらねえって。長谷川だと明人は完全に好みから外れてる」

 太一が響の表情を見て言うと、響の目つきが若干緩んだ気がする。


「……そう。それならいいわ。でも何で太一君にそんなこと分かるのかしら?」

 太一は響に長谷川とは中学からの付き合いだと説明する。


「あいつはショタコンだからな。子供っぽい顔したのが好きなんだよ」

「……子供っぽい顔が好き?」


 それって太一みたいな顔じゃないの?

 どうやら響も俺と同じことを考えたようで、視線を合わせないように太一の顔をちらりと窺う。


「……何だよ。あ、お前らもしかして勘ぐってるだろ? 長谷川は俺の事なんとも思ってねえよ。どっちかって言うと、昔からあいつにからかわれる方が多いんだぜ?」


 太一は俺達の視線を受けて、手をぶんぶんと振って否定した。 


「何だか面白そうね……。近くで見てみたい気もするわ」

「見たって何もねえよ」


 響の疑いの眼差しにそっぽ向いて答える太一だった。


「響は班決まったのか?」

「……まだよ」


 クラスで近寄りがたい存在だからか、誰も響に声を掛けてこないらしい。


「多分、このままだと人数が少ない所に勝手に入れられることになるわ」


 こういう時、同じクラスだったら良かったのにと思う。


「体育とかの時、ペアとかどうしてんの?」


 太一が訪ねると、響は溜息一つ吐く。


「ばらばらね。女子の中に数人固まる子がいるから、その子達以外でよ。男子は全滅」

「男子全滅か。それ厳しいな」

「言ったでしょ? 固まらなかったのは明人君だけだって」

「中学の時は?」

「……そういえば無かったわ。固まるようになったのは高校に入ってからですもの」

「ちょっと待てよ。何で高校に入ってから急になるんだよ?」

「私にもわからないわよ。意識したこと無かったし、気が付いたらそうだったんですもの」


 高校に入ってから……人が固まるようになった……。

 何かその辺に秘密があるのかもしれない。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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