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帰路  作者: まるだまる
179/406

178 班を作りましょう2

「まあ、頑張れ」


 と、太一は言葉少なく自分の席に戻っていく。

 何を頑張るんだよ。全然見えてこないんだよ。


 どうしていいものか自分では分からないままだ。

 愛に好きと言われ嬉しい。でも、それだけだ。

 響に恋に昇格したと言われた。これも嬉しい。だが、これもそれだけだ。

 二人とも嫌いじゃない。好意は持ってる。でも、そこまでなんだ。 


 考えても考えても、好意と恋愛感情の間に存在する谷が飛び越えられない。

 俺は馬鹿なのか? 感情が欠如してるのか?

 ときめくとか、胸が高鳴るとか、眠れないとか、そんなの起きないし。

 店長の言ってた恋愛論も分かったような分からないような感触だ。

 恋ってなんなんだよ。マジでわからん。みんなは理解してんのか? 

 うーんと考えてみても答えが出ない。

 そんなことしているうちに担任がクラスに入ってきた。


「はいはい。おはよう。ほら、席について」


 担任の菅原先生がすたすたと教室に入ってきて、立ち話している生徒に注意する。


 HRが始まり菅原先生は出席を取ったあと、五月の行事が書かれたプリントを配った。

 菅原先生はそれを片手に俺達に説明を始める。


 来週の頭に二年最初の校外学習で大学見学が予定されている。

 行き先は清和台大学。美咲の通う大学だ。

 大学での教育を体験受講させるのが目的らしい。

 実際に大学の教授から講義を受けるようだ。


 もしかしたら、美咲と会うかもしれないな。

 もし、顔を合わせたら美咲は何て言うだろう。

 ちょっと想像してみよう。


 今まで受けた美咲の行動パターンを踏まえて考えてみる。


『ああ、明人君だー。やほほ』


 確かにありそうだ。いや、美咲の場合はもうちょっと……。



『な、何で明人君がここに? はっ! 私に会いに来たんだね?』


 ……うん。近い感じがする。これはどちらかと言うと安全な部類か。

 ちょっと待てよ。あの美咲がそんなに生ぬるい対応するか?


 

『明人君! さあ、いつものように私の胸に飛び込んでらっしゃい!」


 うん。しっくり来た。

 こんなのクラスメイトの前で言われた日には終わりだ。

 もし見かけても、声をかけずに見つからないようにコソコソしよう。


『何で無視するの? 罰です。ハグしなさい!』

 うわ、これが残ってた。駄目だ。スルーしても後でえらい目にあいそうだ。

 これは見学の時に美咲と顔を合わせないことを祈るしかないな。 

 よし、頭の中で予防シミュレーション終わり。結局、神頼みだった。


 

 俺達の通う清和台高校は二年生になると行事が多い。

 校外学習だけでも、春、夏、秋、冬と四季にあわせてある。

 春は前述した大学の見学と体験受講。

 夏はいわゆる遠足。日帰りで海水浴場に行って清掃して帰ってくるボランティア的なものらしい。

 秋は修学旅行。うちの高校は毎年京都に四泊五日で行っている。 

 冬は複数の企業に分かれて職場体験学習と就職希望者への指標が目的のようだ。

 その他にも体育祭や文化祭もある。

 この合間を縫うように試験や実力テストもあり、なかなかのハードスケジュールだ。

 

「――ということで、男女で五人組みの班を作ってくれ」


 担任がそう言うと周りではどうするどうすると相談が始まる。

 うちのクラスの男女二十人ずつ。総数は四十人。つまり八組の班ができる。


「その班で調査資料とか、提出資料とか、課題発表とかして貰うからね」


 今、このタイミングで男女混合の班つくりは止めて欲しい。

 クラスの女子で顔と名前がはっきり分かるのは川上と柳瀬だけ。

 しかも朝にその川上に平手打ちされている。俺あぶれる自信があります。


「帰りのHRまでに各自相談して作るようにね。では次、月末の中間試験ね。赤点取ったら追試と補習だからね。二年のも補習きついよ?」


 ざわざわとざわめいた教室の中で表情が暗くなる奴が何人もいた。自信が無いのだろう。

 その中の一人で、太一も嫌そうな顔をしている。

 太一は去年、数学で追試と補習をくらっているだけに心配だ。

 俺も油断しないようにせねば。父親と約束した以上、大学に進学できるだけの成績は狙おう。

 

 HRが終わり、担任が引き上げて午前の授業へと移って行く。

 午前中の休み時間は班を決める交渉があちらこちらで起きていた。

 男女共に仲がいいグループは早々に班を決めたところもある。

 太一は俺と一緒に組むと言ってくれたが、あと三人確保しなければならない。


 しかも女子を混ぜて。


 川上と柳瀬も二人で組んだようだが、まだ班にはなっていないようだ。

 そんな二人に近付く女子がいた。


「川上さん。ちょっと」

「何、いんちょ?」


 いんちょと呼ばれたのは、うちのクラス委員長。確か長谷部だっけか。   


「木崎君、千葉君もいい?」


 俺らを手招きで呼び寄せる委員長。


「何があったか知らないけど、クラスで揉め事って、私嫌なのよ」


 私、困っているのみたいな顔で言われても、俺も揉めたくて揉めているわけじゃない。


「だってー。ねー?」


 川上の後ろでコクコクと頷く柳瀬。

 俺を見る目が敵意を抱いているように見える。

 晃といい、こいつらといいそんな目で見るのは止めてくれ。


「ところであなたたち班は決まったの?」

 委員長は俺らと川上さんらを交互に見て言った。

 嫌な予感がした。


「いや、まだだけど」

「私達もまだ……」

「あらそう。では、この長谷川深雪が委員長の権限でこの五人を班とします。当然、お目付け役はこの、わ・た・し。仲良くしましょ?」


 ちょんちょんと自分の頬をつついて微笑む長谷川さん。

 ところでごめんね。委員長の名前、長谷部だと憶え間違えてた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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